悪女令嬢に転生したので、ヒロインを破滅させてでも幸せになってみせる

りん

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一章

4.エンカウント feat.サブヒーロー

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 ニーナの家にやって来た。
 私の家で会っても良かったのだが、魔法の話をするならこちらの方が都合が良い。
 お茶会を経て、彼女とは特に仲良くなったため、二人きりで勉強会をすることになった……という名目だ。

 まあ、嘘は吐いていない。
 魔法の話をする予定であるし、これも立派な勉強だ。
 闇魔法の練習はできないが、人前では水魔法しか使わないつもりなので、こちらの練習も重要である。

「え、エイラ様は魔法も上手なんですね」

 ニーナの言葉の通り、私の水魔法もかなり上達した。
 闇魔法を使えるようになった折、魔法で攻撃するイメージが理解できた。
 もう鞭が何の破壊力も生まずに千切れるようなことはないのだ。

 ……そこはかとなく寂しい気はするが、これも成長だ。

 生み出した水を動かすのも、今となっては簡単になった。
 影を動かす感覚を思い出せば、やはりこれも難しくはない。
 滑らかに動く……というより蠢く水は、無色透明でなければ最早グロテスクと表現しても差し支えない程だ。
 ……完全な下位互換ではあるが、影の魔法の真似事もできるだろう。

 さて、そんな私は置いておいて、ニーナの魔法もかなりのものだ。
 少し前の私は、ちょっと比較対象にするには弱すぎるが、それとは比べ物にならないくらいレベルが高い。

 彼女が使うのは土の魔法だ。
 特徴としては、パッと浮かんだイメージを大切にしてもらえれば大体間違えていない。
 その名の通り、地面、厳密には土を動かす魔法であり、遠距離攻撃なんかよりは建築だとかの生産系を得意としている。
 技量が現れるのは一度に動かせる土の量と、動かした土の成形。
 ニーナはそのどちらも高水準に熟す。

 ぼこぼこと庭の地面が蠢き、私と同じくらいの大きさをした土塊がせり上がって来た。
 そして土塊が更に蠢き、形が整っていく。
 これは……。

「……私?」
「そ、そうです。変じゃないですか?」

 当然色は茶色のままだが、造形だけで私だと判断できる程度にはクオリティが高い。
 うん、高いけれども。

「ど、どうですか?」

 怖いよ。
 目の前のモデルを使った方が作りやすいことは理解できるし、選んでもらえて悪い気分はしない。だが、それにしても怖い。
 いやだって、クオリティが高すぎるんだもの。

 クオリティの高い像を作るために必要なのは、技量はもちろん観察だと思っている。
 当たり前だろう。知らないものは作れないのだから、上手く作ろうと思えば知らなければ話にならない。
 このクオリティの高さは、ニーナの目が良いというのもあるだろう。
 あるだろうが、いつの間にそんな私のこと見てたの???
 そんな言葉をぐっと飲みこみ、私は笑顔を形作った。

「すごく上手ね」
「あ、ありがとうございます!」

 いや、考えすぎに違いない。
 だって、まだ出会ってからまだ数日しか経っていないし、会った時間だけを数えれば数時間だ。
 自意識過剰でなければおかしい。うん、きっとそうだ。
 いやー、よかったら殿下バージョンとかを作ってほしいな。と言いたいところだが、練習に使うのは不敬だからやめておくべきか。
 自分を納得させ、私は一つ頷いた。

 維持するのを止めたのか、ぼろぼろと崩れていく自分の姿に何とも言えぬものを感じ、すっと目を逸らすと、ニーナと目が合う。
 すると、彼女がおずおずと口を開いた。

「あ、あの、二人で何か作ってみませんか?」
「二人で?」

 魔法で、ということだろう。
 土と水で作れるもの。
 正直、何かを作るにしても水は必要ない気がするが。

「良いわね。何を作る?」

 友達に無粋なことを言う必要はないだろう。折角なら、というやつだ。

「えと、噴水を作りたいんです」

 噴水。
 なるほど、それなら確かに水も役立たずにはならない。
 主な作業はニーナになるから、どちらにしても私はおまけのようなものになる気もするが、そこら辺は良いだろう。

 あまり大きくし過ぎると地獄を見るので、サイズはほどほどにしておいた。
 私が何となくの造形を水で作り、デザインを話し合いながら土塊を成形していく。
 見た目はもちろん、中身にも多少こだわる。
 といっても、水が通る管を一本しっかり通し、水が無限にループできるようにしただけなのだけれど。
 動力は私なので、最悪穴さえ開いていればどうとでもなるので気楽なものである。

「こ、こんな感じでしょうか」
「おー、良い感じですね」

 もう少し語彙力が欲しいところだが、ないものねだりをしても仕方がない。
 形としてはあまり珍しいものでもない。
 T字を逆に置いて、中心の一文字から水を噴出し、横一文字が受け皿になる単純なものだ。
 相談も、形というよりは装飾の方が主だった。
 そちらに関してもそれほど凝ったわけではないが、短時間で作ったものとしては中々の出来だ。

「え、エイラ様」

 どうやら土の固定が完了したようなので、実際に水を通してみた。
 しかし、これが意外と難しい。
 水を動かすのは難しくないが、噴水らしい自然な動きにならない。
 なんというか、手動で動かしているせいで飛沫もなくのっぺりしている。

「んむ」

 全部手動にするのは駄目だ。
 噴出してすぐに制御を手放せばそれらしくなりそうだが、そうすると受け皿に乗った時にもう一度制御下に置かなければならない。その切り替えが鬼門だ。
 私は水を動かす時、水を一つの塊として認識している。
 具体的に言うなら、それこそスライムで遊んでいるような感覚だ。
 ぐちゃぐちゃと形を変えることはもちろん、千切ることもできる。
 だが、この噴水では千切ったスライムを真上に放り投げながら、落ちてきたスライムを回収し、再びくっつけてからまた千切って放り投げるというジャグリング的複雑な操作が求められる。
 制御を手放すのを一部だけに絞るのは難しいし、受け皿で制御を取り戻すのも、間違えれば噴出したばかりの水も一緒になってしまう。
 ちょっと、急にやれと言われてできるものではなさそうだ。

「ごめんなさい……少し難しいわ」
「い、いえ! 綺麗にできていたと思います!」

 フォローはありがたいが、これに関しては力不足という他ない。
 もう少しやりようがあるような気はするが、動かす時のイメージを変えなければ難しいような気がする。
 しかし、そうすると闇魔法のイメージにも問題が出そうなのが問題だ。
 人間、そんな急に頭の中を切り替えられるようにはできてはいない。
 どちらを優先するかと聞かれれば当然闇魔法なので、ここは妥協するべきだろうか。

 実際、気持ちの問題を置いておけば、水魔法はそれほど重要でもない。
 学院で恥をかかない程度の技量さえあればそれで構わないのだ。
 そもそも、噴水の水の操作が上手くできないからといって、困ることなど何もないのだから。

 そう自分を納得させ、水の操作を終了させた。
 瞬間。

「ニーナ、何をしている?」

 屋敷の方向から、人の声がした。
 振り返ってみれば、顔をした少年がそこにいた。

「あ、お兄様」

 どうやら、ニーナの兄らしい。
 そういえば、妹がいると言っていたことを思い出した。

「そちらの方は……」
「お初にお目にかかりますわ。エイラ・フォーレンスと申します」

 軽く礼をすれば、少年は慌てて跪いた。

「失礼しました。フォーレンス家の方とは知らず……」
「構いませんよ、こちらに来ることが決まったのは急でしたから、知らされていなくとも無理はありません。それより、早く立ってください。膝が汚れてしまいます」

 まあ、膝に関してはもう手遅れだと思うが。
 そして、立ち上がった少年が名を名乗った。

「ウォルトと申します」
「はい、どうぞよろしくお願いします。妹さんとは仲良くさせていただいていますよ」

 にこりと微笑んで見せれば、ウォルトは安心したように笑った。

「光栄です。よければ今後とも、妹のことをお願いします」
「ふふっ。えぇ、こちらこそ」

 軽く握手を交わしていると、ニーナが少々むくれてしまった。
 兄と友達が自分を放っておいて仲良くしていれば、良い気はしないのは仕方ないか。
 ケアはウォルトに任せたいところだが、友達を名乗るのなら、いくら何でもそれは不義理というものだろう。
 私たちはニーナを宥めるため、言葉を絞りつくした。



 二人掛かりでニーナを宥め、ようやくご機嫌を取り戻してもらった。
 それから、話題は元々何をしていたのかに移った。

「へえ、魔法で噴水ですか?」
「えぇ、ニーナは上手く作ってくれたのですが、肝心の私が上手くやれなくて」
「そ、そんなことはなかったです、よ?」

 ニーナは変わらずフォローしてくれているが、失敗したのは事実である。
 もう少し綺麗な仕上がりになる筈だったというのに。
 そう溜息を吐くと、ウォルトはくすりと笑った。

 そして、彼がすっと噴水に向けて手を伸ばすと、私が操作を止めた水が動き始めた。
 彼の魔法で動かされていることがすぐに理解できた。
 魔法で動かされている筈のそれは、私が操作している時とは比べ物にならない程自然に噴水の中を循環していく。
 動きがのっぺりするようなことはなく、しかし自然な動き一辺倒というわけでもなく、明らかにそれから逸脱した派手に誇張するような動きも存在している。
 それはつまり、彼が水の動きを完璧にコントロールしているということなのだろう。

「すごい……」

 ぽつりと呟けば、耳聡い少年は照れるように顔を背けた。
 いや、これはすごいではなく、流石とでも表現した方が適切だったかもしれない。
 この技量に納得できる理由を、私は持っているのだから。

「改めて、ウォルト・セーレンと申します。水魔法なら、ほんの少しだけお教えできますよ?」

 少年は、いずれ魔王を下すその一員は、そう言って微笑んだ。
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