悪女令嬢に転生したので、ヒロインを破滅させてでも幸せになってみせる

りん

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序章

プロローグ

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 私、エイラ・フォーレンス。
 実は前世の記憶がある転生者です。

 まあ細かい事は端折って説明すると、前世は日本に住んでたんですが、事故にあって気付いたら赤ちゃんになってました。

 端折りすぎ?
 いやだってみんな私の前世とか興味ないでしょ。私もわざわざ話したくないし。

 ともかく、そんなわけで転生した私はすぐに気が付いた。
 ここは、私が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界だと。

 なんたって、自分の名前に聞き覚えがありすぎた。

 どこで聞いたんだったかな、なんて考えるまでもなく、私はエイラ・フォーレンスという存在を鮮烈に記憶していた。
 何故かと言えば、私がその乙女ゲームにドハマリしていたからだし、エイラとかいう女が目立ちすぎるからでもある。



 エイラはいわゆる、悪役令嬢と呼ばれるタイプのキャラクターである。
 作中における役回りはヒロインの邪魔……という名のヒーローとの関係のサポートだ。あいつらエイラがなんかやる度に仲良くなってんだもんな。

 しかし、結果はともかく邪魔をするための過程は控えめに言って犯罪であり、結構な実害も出している。
 例えば、ヒロインの服を破いたりとか、そういうのだ。ちなみにそのイベントを経由すると、ヒーローから代わりの服(RPGパートで高性能)が貰えるので、攻略的に必須だった。プレイしていた当時は早く破けとイライラしていたものだ。
 そんなプレイヤーの事情はさておき、咎められるようなことであるのは事実なわけで、そんな嫌がらせを積み重ねた結果、一線を超えて処刑されるわけである。

 さて、ここまでであればエイラは取り立てた特徴のない一般悪役令嬢であるが、彼女の本領はここからである。

 ことの起こりはそう、DLC……つまり追加ダウンロードコンテンツだった。
 普通、乙女ゲームのDLCで追加されるのは、追加の攻略対象だとかスチルだとかの、恋愛シミュレーション要素だと思う。

 だが、このゲームは一味違った。

 あろうことか、恋愛要素ではなく、ストーリーをダレさせないためのスパイスであるRPGパートを。
 より具体的に説明するのなら、レベルを上げて魔王を討伐するという、恋愛に至るまでの過程を描いたRPGパート方面を追加したのだ。
 当然ながら攻略対象は戦闘方面でしか追加されなかったし、新スチルは血に塗れていた。そんなもん求めてねえよ馬鹿。

 この信じ難い事態に、プレイヤー達は揃って首を傾げた。
 ネットで何故こうなってしまったのかを話し合い、運営はこのゲームを恋愛シミュレーションではなくRPGだと思い込んでいるという結論に至った。

 ……余談だが、このゲームは乙女ゲームとしての評判は微妙にも関わらず、RPGとしての評判は結構高い。
 私はあまりそちらのジャンルをプレイしないから分からないが、戦闘システムや敵の強さのバランスが絶妙らしい。その情報を鑑みるに、やっぱりこれは乙女ゲームじゃないかもしれない。

 話を戻そう。
 そのDLCにて新たなラスボスとして君臨したのがエイラ・フォーレンスなのだ。
 詳しく説明すると、処刑され、首を刎ねられた彼女は墓に埋められることもなく、唐突に登場した千尋の谷の底に捨てられた。
 しかし、彼女の運命は(何故か)尽きていなかった。
 死の間際、魔王の一派が使う闇魔法の才に開花し、死後アンデットとして復活したのだ。

 そうして復活した彼女は自分を陥れた(自業自得)ヒロインに復讐するため、闇魔法を鍛えながら谷を這い上がり、第二の魔王として地上に舞い戻った。

 DLCは、そんな彼女を討伐するまでの物語である。



 ―――――――――――
 ――――――
 ―――



 乙女ゲームの姿か? これが。お労しい……。

 いや実際、どう見ても乙女ゲームのシナリオではない。
 プレイした感想も、道中やラスボスであるエイラとの戦闘に関するものが多かったし、シナリオに触れるものでも、伏線回収が見事とか、恋愛要素に触れてるものは殆どなかった。
 まあ、肝心の恋愛を殆どやっていなかったから仕方ない部分はあるが。

 でもファンに恋愛シミュレーション要素無くした方が面白いとか言われちゃうの、本当にどうかと思うよ。
 真に受けたのかなんなのか、そこのレーベル次回作からRPGしか作らなくなっちゃったし。
 なんか悔しくてプレイしなかったが、評判はめっちゃ良かった記憶がある。

 ……思い返せば思い返すほど、RPGだったのか、このゲーム。

 いや、面白かったのは本当に事実なのだ。
 だからこそ覚えていたわけであるし。

「しかし、どうしたものかな」

 思い出したは良いものの、中々面倒なやつに生まれ変わってしまった。
 別にヒロインを虐める気なんてさっぱりないし、そうなれば処刑されることもないだろう。
 魔王の存在はネックだが、放っておけば勝手にヒロインが倒すだろうから気にする必要はない。
 一部攻略に有利なアイテムや装備を手に入れるためには、エイラの妨害は必要だが、そんなものが無くても攻略はできる。
 わざわざ処刑されるリスクを背負うほどのものではない。

 ……なんなら、ヒロインに関わること自体がリスクなのではなかろうか。
 うーん、若くして隠居なぞする気はないが、留学なんかは視野に入れても良いな。

「お嬢様」

 将来設計を組み立てていると、背後からメイドに声を掛けられた。

「なに?」
「もう、まもなくお客様がお見えになります。お召し替えを致しましょう」

 ややこしい言い方しかできんのかお前は。
 客が来るから着替えろ、とでも言ってくれれば分かりやすいというのに。
 まあ、使用人がそんな言い方したらクビにでもなりそうだから仕方がないか。

「はいはい、誰が来るんだっけ?」
「……王太子殿下です。ですので、口調にはお気をつけを」
「…………は?」



 ◆



 見えてるタイプの地雷が家に来るらしい。
 できるだけ遠くで発破解体したいところではあるが、その地雷は国で二番目に偉い素材で作られているので、残念ながら壊せそうにはなかった。
 つーか壊したら壊されちゃうよ。家ごと。

 叶うなら風邪にでもなりたいが、私の身体は元気そのものだ。
 事前に知っていたらもう少しやりようもあっただろうが……もうじき来るというなら抵抗は難しい。
 大変遺憾ではあるものの、大人しく受け入れて記憶に残らないように立ち振る舞うしかないだろう。

 うん、やたらとド派手な真っ赤なドレスさえ着ていなければ、そんな風に立ち回るつもりだったのだ。本当に。

 どこの世界でも、親というやつは子供を可愛がるものらしい。
 目に痛々しい衣装に身を包んだ私を囲み、可愛い可愛いと褒めちぎる両親を見て、私は頭痛を感じた。

「エイラは本当に可愛いなぁ!」
「えぇ、本当に! 明日絵師を呼びましょうか、この姿を後世に残さないと!」
「おぉ! それは名案だ!!」

 黒歴史が生産されそうな気配をひしひしと感じ、私は両親を窘めた。

「いえ、要りません」

 いや、窘めたというよりは拒否したと言った方が正しいか。

「そ、そんな……」
「ど、どうしてそんなことを言うの?」

 どうして、とは愉快なことを訊ねる母である。
 そんなもの、新しいドレスを着るたびに同じことを言っているからに決まっている。
 既に、彼らの部屋には収まりきらないほどの私の肖像画が家には存在するのだ。
 このペースで増やせば、いずれ家が溢れてパンクしてしまう。それも私の絵で。地獄か。

「要らないからです」

 そもそも、絵師を呼ぶのもタダではないのだ。
 貴族だけあって金には困っていないのだろうが、無駄に使うのは前世で培った金銭感覚が許さない。
 あと、描かれた絵を見ていると背中が痒くなる。

「御当主様、そろそろ」
「む、もうそんな時間か」

 そんなやり取りをしている間に、地雷が到着する時間になったようだ。
 地雷が到着は言葉として変な気がしてきた。ミサイルとでも呼んでおくか?
 思考が与太に逸れているのを自覚しつつも、私は現実逃避的にそんな思考を続けるしかなかった。



 自分よりも偉い方を迎えるのに、部屋の中で待っているわけにはいかないので、私たちは玄関で待機することになった。

 そうして待ち始めてすぐ、家の門の前に馬車が止まった。
 豪華絢爛とでも表現するのが適切であろう、今の私以上に目立つ馬車には、王家以外が刻むことは決して許されぬ紋章が刻まれている。

 つまるところ、あれに乗っているのだろう。

 そして馬車の扉が開き、中から私と同年代の少年が降りてきた。
 金髪碧眼の、絵に描いたような美少年。
 堅苦しい服など着慣れるような歳ではないだろうに、服に着られているような印象はなく、むしろ完璧に着こなしているようにすら見える。

 目が合った。

 さらりと流れた前髪。
 薄い微笑み。
 僅かに上がった口角に目を奪われた。

 見覚えがある。確かにある。あるはずだ。
 彼の未来の姿を、私は知っている。
 面影がある。彼がいずれ彼になるのだと言われれば、何の違和感も持たないほどに。
 知っている。彼がどんな人間か。どんな運命を辿るのか。
 誰と、添い遂げるのか。

 知った上で、私はリスクが勝ると勝手に判断していた。

 自身が惜しいなら、関わるべきではないと。

「はっ」

 思い出したように、息をした。
 息が切れる。動悸がする。運動なんかしていない。心臓病に罹るような歳じゃない。

 原因は、分かっている。

 ここまでのは初めてだが、経験がある。

 嗚呼、これは。



 恋、というやつだ。
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