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7巻

7-3

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     ■その2 ファンクラブ結成します


「いつかこんな日がくると思っていたが……ついに動かねばならないようだ」

 夜がけ、周囲からは物音一つしない。普段であれば心穏やかに静寂を楽しむ事もできただろう。しかし、その竜にとって、それはさしずめ嵐の前の静けさにしか思えなかった。
 不意に、竜は月を見上げる。
 立ち上がらねばならぬ時は――近い。体の芯にしびれが走った。それが歓喜からくるものなのかむなしさからくるものなのか判断がつかなかったが、これだけはわかった。
 闘いの予兆。
 しかもいつもとは毛色の違う闘いが、すぐそこまで迫っている。
 竜は叫ばずにはいられない。翼を目いっぱいに広げ、あぎとを月に向かって大きく開いた。


 一方その頃、よろいの魔族もまた空を見上げていた。
 雲の形が目まぐるしく変化し、その切れ間から見える大きな月が怪しく美しい姿を覗かせる。
 魔王城の天気は荒れやすい。だからこそ、まれに見える月はより一層美しいのだろう。
 頭すら存在しない冷たい鎧の身体でさえ、その内に詰まった魂が震える時はある。

「……荒れるな、これは」

 今は月の美しさそのものが、これから始まる大事の予兆に思え、そう呟かざるを得なかった。
 キーボードを打つ指が、迷いと願望のはざまで揺れ動く。
 事が動こうとしていた。明確にしなければいけない問題は確かに目前に横たわっているのだから、それはただの直感ではなく対処すべき事実である。


     ◇◆◇◆◇


「ん? 何か来てる?」

 最近の俺の朝は、メールチェックから始まる。
 その日、メールが届いたのを確認したのも、まだ頭がぼんやりとしていた時だったと思う。
 俺宛てに届いていた二通のメールは、どちらも知り合いからのようだ。
 日付は同じ。特に何も考えないでメールを開くと、そこに書かれていた内容はだいたい同じようなものだったので不思議に思った。


 コーノタロー様
 お久しぶりです! スケさんです! この間のライブの動画、拝見しました! すごく楽しませていただいております! そこで折り入ってお願いしたいことがあるのです。
 実はこの歌っている少女について、いろいろとご確認したいと思っています。是非お話を聞かせてください!(笑)


「あー。スケさんか。相変わらず、スケさんはスケさんだなぁ」

 少女についてのご確認というのが判断の難しいところである。あの女好きがロリコンでないことを祈るばかりだ。
 いや待てよ、スケさんのストライクゾーンは広く、種族の壁すら存在しないんだった。
 警戒しておこう。
 続いて開いたメールの差出人名は、あまりなじみ深くない名前だった。


 タロイモ様
 どうもお久しぶりです。こうしてメールするのは初めてですが、私はネット上で「鎧」のハンドルネームで活動している者です。
 前に直接お会いした時には、魔王四天王として刃を交えたことが思い出されます。デュラハンという種族であると言えば、おわかりいただけるでしょうか? その節は大変失礼いたしました。
 実は先日、貴方様の投稿なされた動画を拝見いたしまして、大変感銘を受けております。仲間内でも評判で、いち早く詳細をお伺いしたいと思い、不躾ぶしつけながらご連絡させていただきました。
 今度仲間内での集まりがありますので、よろしければご出席願えませんか? 一度お話をさせていただければ幸いです。


 随分丁寧なメールである。
 実はあまり覚えていないのだが、心当たりがないわけではない。メールにあるように、思い出されるのは、魔王四天王最弱の鎧さんだった。
 あの時は、首のないごっつい鎧姿で鉄球を振り回していたっけ。
 こうして俺が作ったパソコンを活用してくれているというのは実にうれしいし、わざわざ連絡までくれるとは几帳面な事だ。
 結局二人とも、例の動画の件で俺に話があるらしい。
 なんだか面白そうで、ついつい口元が緩んでしまった。
 そうかそうか、やはり話題になっているか例の動画は。プロデュースした甲斐があったというものだ。
 ちなみに例の動画とは、俺がある村で出会った歌好きの女の子を撮った動画のことである。
 ついこの間まで一人の村娘でしかなかった少女「少女B」の歌声は、我がネットワーク上を駆け巡り、今や異世界中でちょっとした話題になっているのだ。
 元々は少女Bの願いを叶え、「人に意見をもらった方が上手になるよ」と動画を配信させたのが始まりだった。しかし、ここまでプロデュースしたのは、何を隠そう俺なのだ。
 この世界において歌は多くの種族にとってなじみあるものなので、目を引くには工夫が必要だった。そこで俺が力を入れたのは演出面である。
 俺が動画で用いているのは、マイクとスピーカーはもちろん、様々な楽器を駆使した現代地球の音楽。音楽を伝えるという一点において魔法を練磨し、疑似的に現代音楽スタジオを再現することで、こちらの世界としては全く新しい歌声を届ける事が出来たのだ。
 ただでさえ少女が歌って踊る動画は可愛らしいのに、さらに画面から飛び出して、目の前に現れるという魔法ならではの工夫を付け加えた。だからこそ魅力も頭一つどころか、二つ三つ飛び抜けていると自負している。
 実際、今まで歌を楽しむ文化がなかった種族すら、コメントをしてくれていた。

「しかし目をつけるのが早い。そこそこ人気なのは知ってたけど、動画の数もまだ少ないのに直で連絡を取ってくるとはマメだなぁ。あー、感想聞きたい! せっかく頑張ったんだもんなー」

 俺は今までの苦労を反芻はんすうしながら、目頭を押さえた。心血を注いできただけに、その反応というのは気になる。
 メールの送り主はどちらも知り合いなので、会うとしても気楽と言えば気楽だ。この直接感想を聞ける機会を生かすべきなのか?

「そうだなぁ。行ってみようかなぁ」

 自分の部屋でにやつく俺。口では迷っているふうに言いながらも、すでに立ち上がって手はマントに伸びていた。
 でも、家の連中には秘密にしておきたい、という感情がジワリと湧く。趣味性が強すぎて、ちょっと気恥ずかしいのだ。

「そうだな……今回は一人で行こう」

 部屋の中で外履きに履き替えていると、行き先を確認していなかったことをふと思い出し、俺はもう一度メールを開いた。

「……竜族と魔族両方のところへ行くんじゃ、結構遠出になるかなぁ? 夕飯までに帰って来られればいいんだけど」

 今度はしっかり二通のメールをチェックする。そして添付された地図の画像を見て、俺は妙な事に気が付いた。

「あれ、これ同じ場所を指定してる? 間違えて同じメール開いたとかじゃ……ないか?」

 そうなのだ、二通のメールが指定した場所は全く同じだった。どうやらこの二人は、同じ用件で俺に連絡を寄越していたらしい。
 しかも、待ち合わせ場所の名前がまたすごい。怪しさのあまり俺は思わず半眼になってしまった。

「……終末の荒野? 何だこの無駄に不吉ふきつなネーミングは?」

 この時、一抹いちまつの不安を感じていた。
 気にしなければ全然気にならない程度だが、確かに自覚はあったのだ。
 その不安こそ重視すべきだったと――気が付いたのは現地に到着した後だった。


「な、何これ……?」

 俺の口から思わず戸惑いが漏れ出る。


 ドン! ドン! ドン! ドン!


 打ち鳴らされる太鼓の音が、赤茶けた大地に響き渡る。
 さらに、その打音にも負けないほど大きな足音の大合唱が俺の身体にまで伝わって来た。最前列に居並ぶはがねの鎧で武装した兵士は――人ではない。身の丈二メートル以上は楽にある、肌が緑色の方々だった。
 一段下がって、彼らの背後に待ち構えているまとまりは、背丈も見た目もばらばらだが、屈強なことだけは共通している。見たこともないその種族の群れは、武装に身を包んで猛々たけだけしくえていた。
 空には影のように、レイスという種族の魔族達が飛んでいる。
 さらに大きなつちを肩にかついだ鎧姿のゴーレムや、山のように大きく生き物なのかも怪しい種族の姿まであるとくれば、俺にだって彼らの素性は何となく理解できた。

「……ま、魔族の一団?」

 小高い丘の上から様子をうかがっていた俺は、ゴクリと喉を鳴らす。
 彼らは戦闘力の高い多種多様な種族が入り交じって構成された、魔王配下の魔族の群れである。
 その数、おそらく数百か、ひょっとしたらそれ以上。本気になれば小さな都市くらい押し潰してしまえそうな数だった。
 対して、向かい合っている一群は数でこそ劣るものの、覇気では負けてはいない。
 鋼の剣などものともしないであろう堅固な鱗と大きな翼を持った一団が、次々に空から大地に舞い降りる。
 たとえ一体だけであっても目の前に立たれれば、大抵の生き物は死の恐怖を感じるだろう。そんな存在が集まっている光景は、戦場という表現すらもはや生ぬるい。
 竜が群れを成しているのだ。
 誰もがその力を知っている、最強の空の覇者達である。

「あっちはどう見ても竜だし……何なんだ一体!」

 竜が群れることはあまりなく、孤高の存在であると聞いていた。そのはずなんだけど……まるで嘘のように数十体の規模で並んでいた。

「どうなってるんだこれは? おかしいだろ? おかしいよな……」

 はっきり言ってどちらの陣営も異常だった。そんな恐怖の軍団が互いに睨み合っている構図は、悪夢のようですらある。
 お気楽な気分でここまでやって来た俺は、そのギャップに戸惑う事しかできなかった。

「ちょっと待て? 落ち着こう落ち着こう、紅野太郎よ。俺は動画の詳細を聞きたいと言われて呼び出しに応じて来た。動画の内容はかわいい女の子が歌って踊る感じだったはず。決して戦争の火種になるようなやばいもんじゃなかった。そのはずだ……」

 異常な状況に緊張し、息が荒くなる俺。この場に俺を放り込んだ張本人達はどこにいるのか。岩陰に身を隠したまま必死に探していると、すぐに見つかった。
 待ち合わせ相手である肝心の二人は、両陣営の先頭で互いに剣呑けんのんな雰囲気を発していた。

「……何やってんのあいつらは」

 黒髪のたくましい人間の青年姿のスケさんは、両軍の中央まで進み出て腕を組む。
 鎧さんは相変わらず頭のない武骨な鎧姿で、こちらもまた腕を組んでいる。
 二人は威風堂々いふうどうどう、一瞬もひるむことなく、お互いの声が届く距離まで近づく。そして、腕をほどいて何事か話し始めた。

「よくぞ逃げずに来た。――待っていたぞ」
「私も――いつかこのような時が来るとは思っていたよ」

 スケさんは一時も鎧さんから目を離さずに言葉を投げ、鎧さんもまた同じように堂々と答える。

「さすがは魔王四天王と言ったところか……我らを前にしてその堂々たる態度は評価に値する。今日こそ、白黒はっきりつけようじゃないか」
「望むところよ。そのために我らはここにいるのだから」

 スケさんと鎧さんが腕を上げると、互いの背後にいる竜族と魔族の軍勢が睨み合いを始めた。
 そんな様子を見た俺は気が気じゃない。ビリビリと震えるほどの気迫を感じて、全身に鳥肌が立っている。
 もしかして、これって俺のせいだったりする? とにかくこのままではまずい。どうにかしてこの状況を収めなければならない。
 怖くはあったが使命感に駆られた俺は、タイミングを見計らうと一直線にがけを転がり降りて、彼らの前に飛び出した!

「ちょおおおっとまったぁぁぁぁ!!」

 勢いで叫んでみたものの、一斉に視線を集めてしまい慌てる俺。
 崖ダッシュから一転して動くこともできず、二つの軍勢の前で硬直したまま、大量の汗がブワッと噴き出す。
 うっ! ここからどうしよう!
 殺気立った視線にさらされながら、今さら引くこともできない。俺は震える手を掲げてニンと笑ってみた。

「あ、どうも……お邪魔します。スケさんと鎧さんイマスカ?」

 内心ちびりそうだ。しかし、笑顔を歪めて小鹿のように震える俺に向けられた第一声は、思いのほか好意的だった。

「皆の者! タロイモさんがいらっしゃったぞ!」
「おお! お越しくださいましたか魔法使い殿! さぁこちらに!」

 早速、気が付いて迎えてくれたのは当のスケさんと鎧さんである。
 俺に話しかける二人からは、剣呑さはすっかり消えていた。先ほどの緊張感あふれるやり取りはなんだったんだと言いたい。
 二人の口から俺の名前が出たことで、両陣営からちょっとだけ浮足立ったような声が聞こえてくる。

「ア、アレが噂のプロデューサーか……」
「あの箱を作っているって本当かな?」
「それどころじゃねぇって! 何でも願いを叶えてくれるって噂だぞ!」
「見た目はただの人間なんだな」

 そんなざわめきを、スケさんと鎧さんがさらに盛り上げる。

「どうした! 皆の者! さぁ、今こそうたげは始まったのだ!」
「その通り! 歓迎しようではないか!」

 彼らの一言で、先ほどとは気合いの入り方が全く違う歓声が爆発する。

「ひ、ひひひ」

 雰囲気に呑まれ、完全に委縮してしまった俺は硬直したままだ。

「さぁ、こちらにいらしてください」

 スケさんに手を引かれ、鎧さんが並び歩くような形で案内された場所は、渦中のど真ん中だったものだから、目が泳いで仕方がない。
 さらに鎧さんが「さぁ」と導く先には、一段高くなった土台があり、その上にはテーブルとイスが準備されていた。何故か俺は、向かい合う両軍勢の間で座らされることになった。

「な、何なんだこれは」

 この状況はさすがに想定していない。もっと和気藹々わきあいあいとした楽しい催しを想像していたのに……。
 落ち着かない俺はきょろきょろと周囲を見回すが、鎧さんとスケさんは余裕に満ちあふれていた。
 そして、二人が今回の趣旨を説明し始める。

「今日の議題は実に重要なところでして、我々だけでは話がまとまりそうにないのです。それゆえ、是非魔法使い殿にもご出席いただきたいと」
「そうなんですよ、タロー殿。本日、あなたにお頼みしたいのは、ぶっちゃけてしまうと、立ち会い役なのです」
「は、はぁ」

 曖昧に頷いてはみたものの、二人の台詞の意味がわからない。兵隊を引き連れて話し合うような席で、俺に一体何をさせようと言うのか?
 俺の困惑はすでに最高潮に達していた。

「では、役者がそろったところで始めよう」
「そうだな……では」

 スケさんが不敵に笑いかけると、鎧さんはゆっくりと手を組んだ。
 二人の意識は、すでに俺の方には向いていない。
 一気に高まる緊張感に、俺もゴクリと喉を鳴らした。
 俺が感じていた数々の疑問に対する答えは、この後すぐにスケさんから語られることになった。

「では、『ファンクラブ結成』について、意見を述べてもらおうか!」
「……え?」

 ドンドンドンドン!
 グオオオオオオ!


 両陣営から湧き上がる太鼓の音も雄叫びも、先ほどと変わらず随分と大音量なのに、どうも一段迫力が落ちた気がした。
 今、ファンクラブって言った? 聞き間違いとかではなく?
 俺はプルプルと震えて、思わず立ち上がった。

「ちょっと待とう! こんなきな臭い雰囲気で話し合うことが『ファンクラブ結成』について!? 何やってんですか!?」

 声をあららげるも、二人はキョトンとしている。

「え? 内容はメールでお話ししていませんでした?」
「あ、貴殿も送ったのか。私の方もお知らせをお送りしてしまった。もしや被ってしまいましたか?」
「ああ、二度手間になってしまいましたね。すいません」
「そこは正直どうでもいい!」

 頭を下げるスケさんに俺がツッコミを入れる。しかし何が問題なのか本気でわかっていないようだ。慌てて俺は指摘する。

「まず、何でこんな場所で集まる必要があるんだ! そして何で武装してこんな人数で睨み合うんだと言いたい!」

 困った顔で、俺の主張は見当はずれだとでも言いたげなスケさんが、弁解するように言う。

「いや、まぁ、少し数が集まってしまったというのはありますが」
「す、少し?」
「こっちも似たようなものですな。声を掛けたら集まってしまいました。ただ対面する相手が相手です。建物の中より外の方がいいでしょう?」

 改めて周囲を見回すが、確かにこれだけの数を収容する施設は思い浮かばない。自然な流れで野外になったというわけらしいが。
 俺は冷静になって椅子に座り直す。
 いや、それはそうなんだけど……どうにも釈然としない!

「……確かに、うっかりで大惨事になりそうな雰囲気はすごく感じる」
「でしょう。そういうわけで野外なのです。暴れても壊れる物がありませんしね」
「そうならないことを祈るばかりですな」
「……」

 その部分だけは双方意見が合っているらしい。両陣営に並ぶ顔ぶれを見れば、会うだけでも相当の覚悟がいるというのはわからなくもない。できれば俺もここに来る前に覚悟しておきたかった。
 ともかく、これは確かにファンの集いである。
 ネット上の知り合いとリアルで会うとき、多少のリスクはあるものだが、そのリスクがものすごく極端な形で表れてしまったようだった。
 何が起こってもおかしくはない緊迫した状況の中、今まさに話し合いが始まろうとしたそのとき、さっそく魔族側から声が上がった。

「そんな奴らと話す事なんてねぇ! 全部叩き潰しちまえばいいんだ!」

 大きな棍棒を構えて飛び出したのは巨人族の男。何故か彼は目に涙をため、憎々しげに竜達を睨みつけている。

「こいつらに何度してやられたと……! ピクシーの限定版写真集、俺だって欲しかったのに!」

 巨人が地団太を踏んで地面を揺らす。竜側からは反論の声が上がった。

「ふざけるな! 独り占めする勢いでグッズを買い漁ったのはそっちが最初だろうが! スケさん! 構う事はない! こんな奴ら一人残らず叩き潰してやりましょう!」

 それを聞いた先ほどの巨人が、両手で棍棒を振りかぶり竜巻を起こすと、緑色の竜が雷鳴のような咆哮を叩きつける。
 ……なにやらファンクラブ以前にも、因縁があったようだ。
 俺は、その写真集に心当たりがあった。写真にはまった女王様が、ピクシーをモデルにしてサイトで公開していたのだが、それを纏めて写真集を作ったのだ。本なんてほとんど流通しないこっちの世界で純粋な娯楽の書物は珍しい。しかしこれを取り合って、魔族と竜族の間でトラブルになっていたとは。
 少女Bの動画が出始めてそんなに時間も経っていないにもかかわらず、コレだけの数が集まったのも、それなりの下地があったということかもしれない。
 混沌とした場を収めるべく、鎧さんが立ち上がって右手を軽く振り上げ、地面を揺らす。すると興奮して真っ赤な顔になっている巨人の顎に、地面から突き出した巨大な岩の塊が激突した。
 スケさんも立ち上がって吠えた竜に歩み寄ると、ぴょんと飛び上がって人間の姿のままデコピンをする。
 二人のタイミングはほぼ同時で、周囲には爆弾でも爆発したような音が響き渡った。
 トラブルの当事者である巨人と竜は空高く吹き飛ばされ、赤茶けた荒野に同時に沈んだ。
 仲間が叩き伏せられたというのにどよめき一つ起こらない両軍。何らリアクションがないのが、何だか逆に恐ろしい。
 おしおきから戻ってきて椅子に座り直す鎧さんとスケさんの二人は嘆息していた。
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