新・俺と蛙さんの異世界放浪記

くずもち

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旅立ち 1

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 私の名前は天宮 マガリ。最近はよくセーラー戦士と呼ばれている。

 出来れば勘弁して欲しいけれど、なじんでしまった感はいなめない。

 私は愛用していた魔剣の折れてしまった刀身をじっと眺め、頭を悩ませていた。

「……うーん」

 長い間自分の旅をサポートしてくれた武器は相棒である。

 半ばからボッキリ折れたそれらの相棒達を一本一本丁寧に太郎の畑にさし直して、私は一本の柄を撫でた。

「ごめんね。私がふがいないばっかりに……これからはせめてもう一つの役割の方でがんばってほしい」

 心なしか十本の魔剣達も不満そうにしている気がした。

 しかし回収してきたものの、太郎のいない今、魔剣の修復は困難だろう。

 その時、落ち込む私の背後の地面が割れ、巨大な白い薔薇が現れる。

 花びらの中から現れたピクシーの女王様は私に話しかけてきた。

「慣れしたしんだ相棒との別れはつらいか?」

「そうですね。火ーちゃんも氷―ちゃんも頑張ってくれました。でも、モチベーションに繋がらない感傷を引きずるつもりはないですから」

 だけど、女王様はきょとんとしていて思わぬところを指摘された。

「ちょっと待て……その火ーちゃんとか氷―ちゃんとかなんだそれは?」

「え!? えーっと……まぁ付き合いも長いので、そのー」

「名前を付けていたんだな?」

「はっ! いえ! まぁ、恥ずかしながら……」

 思わず顔が火照ってしまう。女王様はそんな私の顔を真顔で眺めてバッサリ言った。

「しかしネーミングセンスはタロー並みだな」

「えぇ! かわいくないですか!?」

 そんな馬鹿な。太郎と同レベルとまで。まさかの低評価である。

「かわいいのか? ……まぁそのあたりは好みだろうが。ところでエルエルはどうした?」

 その反応はかわいくないということか。地味にショックだ。

 傷心ながらも私は女王様の問いに答えた。

「……エルエルなら旅支度をしてくるって家に」

 だからエルエルの身支度の時間を利用して、魔剣達にお別れをしていたとわけだ。

 女王様は、なるほどと頷いた後、今度は私の格好をじっくりと見回していた。

「……なんですか?」

 まぁこの後どういう展開になるかだいたい想像はつくけれど、一応尋ねてみる。

 女王様も待っていましたとばかりに、悩ましげに首を振り、口元に手を当てて言った。

「ううん、やはり気になるなー。お前の装備は心もとない。ここだけの話、妾にも手助けできることがあるやもしれん。奴も……きっとそうしただろうからな」

 フッと後半はやけに悲しそうに目を伏せている女王様だった。

「いや、まだ死んだと決まったわけじゃないので。しんみりした空気を出さないでください」

「そうだな。ではちょっと見せてみよ。服装に関しては一家言あるぞ妾は」

 その言葉は事実である。私も女王様が色々と活動していることは知っていた。

 しかしそれは同時に私にある不安を抱かせた。

「ええっと……できれば実用性重視でお願いしてもいいですか?」

 先の展開を見越して、釘を刺しておこうとしたが、女王様は逆に大仰なしぐさで私の台詞を鼻で笑った。

「ハッ! 馬鹿を言うな! 妾に言わせれば、女子たるもの実用性と華やかさ、どちらも求めねば意味がないわ! 戦士と言えど、戦場に咲く花であれ! どんなに悲惨な状況でも、美しさには価値がある! 実用性のみ求めるなど、堕落もいい所だぞ?」

 私は女王様のあまりの圧にひるんだ。

 堂々とここまでいわれてしまうと、こっちが間違っている気がしてくる。

「で、でも、戦場で目を引いてはまずいのではないかなと……」

「なんだ? 戦場にいくつもりだったのか? どうしても行くというのなら止めはしないが?」

「そうでした……。別に行く予定はないです」

 唯一思いついた逃げ道を完全に封鎖されれば、後は女王様の独壇場だった。

「ふむ。とにかくだ、妾に言わせれば。どんな服でもオシャレのしようはあるということだ。戦装束が無骨なだけと誰が決めた? 真のオシャレとは、むしろそんな泥の中でこそ煌くのではないだろうか!」

「お……おお~」

 きっと彼女はもうすでに服の妖精になってしまったに違いないと私はそう思った。

 それに、私としてもそこまで言われると自分の格好が気にならないわけではない。

 ちなみに今の装備はこんな感じである。



布の服(セーラー服仕立て)
皮の鎧(軽鎧)
太郎の剣(謎)
フィールドオブソード(破損)



 今の格好が完璧かと問われればそんなことはまったくない。

 むしろ向こうで着ていたら、何かしら特殊な趣味があるようにしか見られないだろう。

 だがしかし地球限定かと思われたそんな評価は異世界でも有効みたいだった。

「おぉ、勇者よ……この程度とは情けない」

 私はなんだか首を振って嘆く女王様の背後に太郎がダブって見えた気がした。

「なんですかそのセリフ。勇者じゃないですし」

「いや、むしろその格好で死地に飛び込むつもりなんだから勇者だろ? ……うーむ。制服というのは清潔感と力強さを感じさせるいい服装だと思う。だが妾としては、もう少しセクシーさを加えていきたいところだな」

「やめてくださいってば」

「ところで、異世界人的にスカート丈を短くするのはどの程度までありだと思う?」

「どの程度もなしでお願いします」

「ノリが悪い奴だな。いや、普通に旅支度として評価してもひどいぞ? というか、むしろ実用性の方がダメなのではないか?」

 しかし唐突に真顔で指摘されて私は固まった。

「えーっと……」

 当然の評価だった。

 今身に付けているもののほとんどは地球産か破損品。装備として優秀とはとても言えないだろう。

「……ですね」

 曖昧に頷いてみたが、しかし私としてもちゃんと言い分はある。

 私の本来の戦闘スタイルは、速さに重点を置いた一撃離脱が基本なのだ。

 そして剣で戦うよりも、むしろ魔法を使った奇襲が理想的である。

 だから防御力よりもむしろ隠密性や軽さの方が重要で、動きやすさがものをいう。

 今のままでも支障はないと思うけれども、今問われているのはそう言う事ではなく、装備としてどうかという話だ。

「パッと見た目からすれば、お前は旅をなめてるのかと言いたい。身の守りも適当なら、今は攻撃力も中の上と言ったところか? よくそれで今まで死ななかったな?」

「た、確かに、言われて見れば万全とは言いがたいかもしれませんが……」

「そこでだよ! まぁ妾もだな、提供できるものがないわけではないのだ……」

「!」

 ごそごそと何かを取り出そうとする女王様の表情は自身に満ち溢れていた。

「うむ、こんなこともあろうかと……妾もタローの服をちょろま――譲り受けて、その防御魔法をドワーフ達に移し替えてもらった逸品を用意している」

「は、本当ですか!」

 私は、正直期待に胸をふくらませてしまった。

 今迄のやり取りで、女王様が旅支度と言う物に一定の理解があることはわかった。

 その上で、かわいい服を用意してくれたというのだから、どんなものなのか気にならないわけはない。

 正直なところ、おしゃれとかちょっと苦手ではあるのだ。

 学校でそう言うのも教えてくれればいいのにと、制服に依存していた私などは思ってしまうくらいには困っている。

 どうせなら、かわいくて強い方がいいに決まっていた。

 私は否定的な態度を一時的に引っ込める。

「し、しょうがないですね。いただかないのも悪いですし、せっかくですので……」

 だがここぞとばかりに女王様が取り出した衣装を見て、私は固まってしまった。

「こ、これは……」

「うむ! お前の異世界の衣装を完全再現した一作だな! 先ほどのはフリというやつだ! 若干妾なりにデザインに工夫を凝らしているが、原型は残してあるとも! お前はこだわりがあるのだろう? このセーラー服に!」

「……ありがとう……ございます」

 どうやら私はまだこの呪縛から解き放たれないらしい。

 よりにもよってセーラー服!

 いやまぁ確かにこだわりはあったんだけれども。それはあくまで心理的なものであって。

 元に世界の帰った今、もうそんなにでもなかったりするのだけれど。

 もろもろ含めて顔に出てしまったらしい。

 女王様は不可解そうに手持ちのセーラー服を引っ込めた。

「む? 何か不満があるようだな?」

「いえ、不満というわけでは。ただ……その、今と似たデザインというのが意外だった物で」

 ぼんやりとしたことを言ってみると女王様自身、その考えはあったみたいだった。

「まぁな。だが妾もタローのやつと話していて、学んだことがある。キャラってわりと大事だなと」

「さっきの自分の言葉を思い出してください! 自分からおしゃれの幅を狭めてませんか!?」

「ふーむ、そういう言葉が出てくる余地があるのなら、もう少し考えたのだが。とは言ってもこれの代わりとなると、実用性まで考えた品はそうないぞ? ないことはないのだがお勧めはできない」

 女王様はそこまで言って、眉を寄せた。

「そうなんですか? そんな都合のいいものがあるなら使わせてもらいたいんですが」

 変わりがあるならそれにしたいと、ちょっとだけ抵抗してみると女王様は言った。

「うーん。ほら、アレだよ。タローの私服だ」

「あー……」

 私は太郎の服を思い出し、微妙な表情になった。

 でもそれは……。

「あー。うー。どうなんでしょうね? なんていうか……役に立つでしょうけど」

「ああ、やめておけ。男物のおさがりで満足するくらいなら今の格好の方がよほどマシだ! 奴の顔が頭をよぎるわ」

 それは確かによぎるだろう。私としてもなんというかとても複雑な気分だった。

 その二択なら――選択肢はない。

「そうですね……。服はではこれで」

「うむ! では存分に着こなしてくれ!」

「はぁ……」

 結局私は新デザイン、セーラー戦士で行くことにしたのである。
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