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些細なことでも腹の立つことはある 2
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「で? 結局、とりもちを設置してきたと? ウンコごときで大げさじゃなぁ」
「いや、言ってもキングサイズだぞ? 制服に白いしみでもどうしようもないのに全身だよ?」
「やめてください・きたないです」
「ごめんなさい……」
とりあえず手を打って来た俺は、家でカワズさんに冷ややかな視線を向けられていた。
こんなにうちの食卓は大きかっただろうか?いや、たぶんこれは肩身が狭いからそう感じるのだろう。
黙々と揚げた食パンの耳を食べるエルエルが唯一の清涼剤だったのにそんな風に言われたらもはや謝るしかなかった。
「まぁちょっと追い払えばよかったかもしんないんだけど……どうにもあのふてぶてしさを見る限りちょっとやそっとじゃ難しい」
「かわいそう・です」
「う!!」
「だ、そうじゃが?」
大ダメージの俺と、にやにやするカワズさん。
俺は慌てて付け加えた。
「い、いや! 怪我させたりはしないから大丈夫だとも! 俺もさすがにそこまで縁起の悪い事はしてないよ? ただ飛んでる奴を捕獲する即席トラップを仕掛けただけで、エルエルもツリーハウスの周りで飛ぶのは気を付けてね?」
「わかり・ました」
エルエルは一度だけ無表情のままコクリと頷き、パンの耳を揚げた奴に再び夢中である。
結局俺は鳥よけのために鳥もち状のべたべたが対象を拘束するトラップを世界樹の頭上に設置した。
最終的に弾力に優れる団子がクッションになって、下に転がると言う仕組みである。
「多分しばらくすれば捕まえられるはずだ。すぐに捕まえてやりたかったけど奴らめ、俺が本気になったことを敏感に察知して逃げだしやがった。次帰ってきたら目にものみせてくれるわ」
「みみっちいのぅ」
俺が盛り上がっているのに対して、カワズさんはドライだったが、あの怒りはやられたやつでなければわかるまい。
「いや、実際あれやられた時のいたたまれない空気は半端じゃないからね? あの、言ってもどうしようもない行き場のない感じが最悪だから」
「そりゃあ鳥に文句を言っても仕方が無かろうな」
「そうなんだよ」
さっき怒られたので、汚い言葉はNGで。
とにかくもろもろの事情で気合が入っていることは間違いない。
ナイトさんが俺を呼ぶ声が聞こえた瞬間すぐさま反応してしまったのはそんな心の現われだった。
「タロー殿。ご報告したいことがあります!」
「お! ナイトさん! 来たか!」
俺は咄嗟に腰を浮かせた。
すぐさまどたどた玄関先に走っていくと、やはりそこにはナイトさんが跪いていた。
「またそんなにかしこまって」
「必要不可欠です。実はまた対処に困る事態が起きまして、ご指示をいただきたいのですが……」
「あ、捕まった? 籠とかならもう用意してるけど? 簡単に燃えそうにない奴」
そう言って俺ががま口から取り出したのは一見すると手の平サイズのおもちゃの籠だが、中は広い系のアイテムである。
しかしこちらが準備万端だと実際に見せても、なぜかナイトさんの顔色は優れず、戸惑いが見て取れた。
「いえ、しかしもっとすごいものが」
「すごいもの? アレ以上?」
「はい、おそらく……。しばしお持ちください」
神妙な顔で玄関に戻るナイトさんに俺はキョトンとしてしまうが、ずるずるとナイトさんが表から引きずって来た巨大団子を見て頭を抱えた。
でっかい団子からは羽が生えているのはともかく、人間の頭までくっついていたのだ。
想像だにしていなかった獲物を前にして俺は咄嗟に目を逸らしてしまった。
「あーもう……なんでこうなるかなぁ」
「どうしたんじゃ?」
「なにか・あったのですか?」
するとひょいっとカワズさんとエルエルが後ろから顔を出し、エルエルは言った。
「天使・です」
「……」
指を指すエルエルがあまりにも断言するので、俺は覚悟を決めて囚われたものに視線を戻した。
ひょっとしたら鳥と人間が別々に入ってるんじゃないかと思ったが、やっぱりそう言うわけではないらしい。
「まさかそんな……マジで?」
「マジです。スキャン・完了しました」
見間違いの期待をわずかに滲ませた質問をエルエルは一刀両断する。
そうかスキャンしたのか……それは仕方がない。
俺は腕を組んでとても長く唸っていたが、やってしまったことから目を逸らしてもいられない。
「罰当たり感が半端ないな」
「じゃな、お前もう死ぬんじゃないか?」
カワズさんが不安になる事を言う。だが俺も天使をとりもちで捕獲したら、一体どんなバチが当たるのか、ちょっと想像すらできなかった。
「そ、そんな事はないだろう。天使って言ったって本物とは限らないだろう?」
「ひょっとしてエルエルと同類では?」
ナイトさんはエルエルの方を見て言う。
ナイトさんの言う通り、真っ先に天使と聞いて思い浮かぶのは、このエルエルだろう。
羽こそ伸縮自在だが、見た目は完璧に天使であるエルエル。
分析ではホムンクルス、つまり人造人間の類であると確認しているが、エルエルは誰が見ても天使にしか見えない。
ではこのでっかい団子を観察してみよう。
エルエルとは造形の類は少々違うが、やはりとても美しい顔立ちをしている。
女性だろうか?
年齢は幼く中学生かもう少し上ほどに見える。
髪は長い金髪を団子にして纏めていて、うっすらと発光しているみたいだ。
これならば、エルエルと同類だとしても何ら不思議は……。
「型式番号の一致を・確認できません。おそらく・関係ないかと思われます」
……ある様だ。先回りされてしまった。
「……エルエルちゃん? どこのデータベースからその情報出てきた?」
「……なんとなく・です」
「そ、そうか。なんとなくか」
となると後は本人に確かめる他ない。
俺は慎重にその天使みたいな団子を揺すってみた。
やはり起きない。
これはひとまず、別にやるべきことをやっておくことにした。
「ひとまず彼女のあだ名、ダンゴちゃんにしよう」
「……そうか、さてはお前バチ云々はもはやあきらめたな?」
「……ダンゴw(ダンゴウイング)ってのも考えたんだけど」
「やめとけ。ダンゴを煽っているようにしか聞こえん」
「そうかー……怖い人だったらやだなぁ」
「羽の生えている人に・悪い人はいません」
「そうだといいんだけどなぁ」
エルエルのお墨付きだし、もう少し頑張ろう。
しかし随分ガッツリ気絶しているようで簡単に起きそうにない。
そこでカワズさんが進み出た。
「ふむ……わしにまかせろ」
「カワズさん? どうする気だよ?」
「だから……起こすんじゃろう? ちょいと気合いを入れてやればすぐじゃて」
そう言うとカワズさんはなにやら羽根つき団子の背後に回る。そして肩と思われる部分に両手を置いた。
俺はカワズさんが何をしようとしているのかに気が付いて、クワッと目を見開いた。
「……まさか、伝説のあれか!? 定番だけどマジ物は初めて見る……」
「いや知らんがのぅ……フン!」
「はぅ! いったい何が!」
効果あった!
かはっと呼吸を取り戻したダンゴちゃんはきょろきょろと周囲を見回していた。
いいもの見たと存分に驚きたかったが、最初にこのダンゴちゃんの正体をはっきりさせておく必要があった。
「あーあなたはどちら様?」
俺はぼんやりしているダンゴちゃんに話しかけてみる。
すると思いのほか早い段階で、ダンゴちゃんは正気を取り戻したみたいだった。
「これは! 私をすぐに開放しなさい!」
俺の顔を見るなりボヨンボヨンと跳ねまわり始めたダンゴちゃん。
考えて見れば、拘束している理由はあまりない。
「いいよ? ナイトさん、あの薬で解いてあげてよ」
「はい。わかりました」
「へ? キャン!」
すぐにナイトさんが鳥用に用意していた魔法薬を一滴団子に垂らすと、団子は光になって消えてしまった。
勢いよく跳ねていたダンゴちゃんは勢い余って尻もちをついてしまっていたが。
ダンゴちゃんはしばらく痛みに苦しんでいたが、すぐに立ち上がってお尻を払う。
そして改めて背中から生えている純白の羽を広げて、俺達に向かって言い放った。
「控えなさい。私は天よりの使い。ここには神託を授けに来ました!」
「い、今更だよな」
「シッ! 物事には体裁と言うものがあるんじゃから」
つい零してしまった俺をカワズさんが慌てて黙らせるがちょっと遅かったらしい。
「……」
若干ダンゴちゃんは顔が赤い。
だがそんな些細なことは問題にもせず、すぐさまナイトさんがダンゴちゃんに剣を突きつけ、低い声で問いただした。
「では大人しくしてもらおうか? ……お前はなんだ? なぜここに来た?」
「無礼ですね……混沌から生まれし者よ。私を天の使いと知ってなおその刃を向けますか?」
「それがわからないから、尋ねているのです。誰が団子になって気絶していた者を天使だと思いますか?」
「……! それはそうかもしれませんけどぉ!」
はっきりさせたい所は容赦なく突っ込んでいくのが尋問するナイトさんのスタイルである。
触れて欲しくなかったところだったのだろう、再び真っ赤になったダンゴちゃんは声を荒げるが、すぐに腕を組んで前髪を掻き上げると余裕を演出していた。
「ふ、ふん。近頃のダークエルフはしょうがないです。いいでしょう! では私という存在を理解させてあげるとしましょう」
ダンゴちゃんはさっとナイトさんに手を翳す。
警戒していたナイトさんだったが、しかしその場から動かずにじっと動かなかった。
なんだか様子がおかしい事に気が付いて、俺は彼女に歩み寄る。
「ナイトさん?」
「無駄ですよ。この者の動きは止まっています」
どうやらダンゴちゃんは何か魔法を掛けた様だ。
俺はすぐにかけられた魔法を解析するが、一時的に相手の動きを止めるだけの魔法で、一安心だ。
「ならよかった」
「え? そこは取り乱すところじゃないんですか?」
中々珍しく強力な魔法だが、あっさり使った魔法が珍しいほど本物の天使と言う可能性は上がる。
俺は難しくなった状況に頭を痛めて尋ねた。
「うーむ。君って鳥人間とかじゃないよね? 琵琶湖辺りで飛んだことない?」
「どこですか! 何ですか鳥人間って! どう見たって天使でしょ!?」
そう思ったのだがさっそく刺激してしまったようだ。
素早く立ち上がり、見せつける様にばさりと広げた羽は確かに天使である。
「あーやっぱりそうなんだ……」
「そうですよ! それなのにあんな呪いで私を捕えるとは、どうやったかは知らないですが……天に唾吐く所業です! 失礼極まりない!」
「そうは言っても……鳥用の罠に引っかかるなんて思わないんだもんなぁ」
「お黙りなさい! アレのどこが鳥用の罠ですか! 私が手も足も出ずに拘束されるなんて、どれだけ気合いの入った鳥を捕まえる気だと言う話ですよ!」
「うっ……」
そんな風に言われると非常に痛い。
まぁ鳥用にしては気合いの入っている代物なのは否定できない。
捕まえようとしていたのが伝説の鳥なんですよーと主張したところで、信じてもらえるかは微妙である。
言葉に詰まった俺だったが、ダンゴちゃんは大きなため息を付いて、俺から視線を外した。
「まぁいいです。人間の貴方に文句を言っても仕方がありません」
よくわからないことを不愉快そうに言うダンゴちゃんだったが、俺は気がついた。
あ、これって俺がやったってばれてない?
俺はこれ幸いと黙っていることにした。
そしてこの反応を見るに、どうやら今回彼女がここにきた原因は俺じゃないらしい。
「……なんですか?うれしそうな顔をして?」
「そう? いや? なんでもないですよ?」
「そうですか? ……ウオッホン! では! 私がここに来たのはきちんとした理由があります! 私の言葉は天の意志! 謹んで拝聴なさい!」
後光も纏ってちょっと浮いたダンゴちゃんは祈りながら叫んだ。
「天の意志って……空になんかあるので?」
「そ、そうですね。上空にここと同じような異界が存在していますね……ってそう言う事はどうでもよろしい! まったく……人のくせに普通に私と口を利くなんて、貴方も止めてしまいますよ?」
「す、すんません」
素直に謝る。ダンゴちゃんは許しますとばかりに大仰に頷き、一際輝いた。
「よろしい。では神託を授けます。ここに羽の生えた少女がいますね? 」
「私・ですか?」
エルエルが自分を指さしてきょとんとダンゴちゃんを見上げた。
するとダンゴちゃんはエルエルの方に視線をずらし、にっこりと天使らしい笑みをようやく浮かべたのである。
「私は貴女を迎えに来たのです」
ただダンゴちゃんの用件は俺にとって見過ごせるものではなかった。
「いや、言ってもキングサイズだぞ? 制服に白いしみでもどうしようもないのに全身だよ?」
「やめてください・きたないです」
「ごめんなさい……」
とりあえず手を打って来た俺は、家でカワズさんに冷ややかな視線を向けられていた。
こんなにうちの食卓は大きかっただろうか?いや、たぶんこれは肩身が狭いからそう感じるのだろう。
黙々と揚げた食パンの耳を食べるエルエルが唯一の清涼剤だったのにそんな風に言われたらもはや謝るしかなかった。
「まぁちょっと追い払えばよかったかもしんないんだけど……どうにもあのふてぶてしさを見る限りちょっとやそっとじゃ難しい」
「かわいそう・です」
「う!!」
「だ、そうじゃが?」
大ダメージの俺と、にやにやするカワズさん。
俺は慌てて付け加えた。
「い、いや! 怪我させたりはしないから大丈夫だとも! 俺もさすがにそこまで縁起の悪い事はしてないよ? ただ飛んでる奴を捕獲する即席トラップを仕掛けただけで、エルエルもツリーハウスの周りで飛ぶのは気を付けてね?」
「わかり・ました」
エルエルは一度だけ無表情のままコクリと頷き、パンの耳を揚げた奴に再び夢中である。
結局俺は鳥よけのために鳥もち状のべたべたが対象を拘束するトラップを世界樹の頭上に設置した。
最終的に弾力に優れる団子がクッションになって、下に転がると言う仕組みである。
「多分しばらくすれば捕まえられるはずだ。すぐに捕まえてやりたかったけど奴らめ、俺が本気になったことを敏感に察知して逃げだしやがった。次帰ってきたら目にものみせてくれるわ」
「みみっちいのぅ」
俺が盛り上がっているのに対して、カワズさんはドライだったが、あの怒りはやられたやつでなければわかるまい。
「いや、実際あれやられた時のいたたまれない空気は半端じゃないからね? あの、言ってもどうしようもない行き場のない感じが最悪だから」
「そりゃあ鳥に文句を言っても仕方が無かろうな」
「そうなんだよ」
さっき怒られたので、汚い言葉はNGで。
とにかくもろもろの事情で気合が入っていることは間違いない。
ナイトさんが俺を呼ぶ声が聞こえた瞬間すぐさま反応してしまったのはそんな心の現われだった。
「タロー殿。ご報告したいことがあります!」
「お! ナイトさん! 来たか!」
俺は咄嗟に腰を浮かせた。
すぐさまどたどた玄関先に走っていくと、やはりそこにはナイトさんが跪いていた。
「またそんなにかしこまって」
「必要不可欠です。実はまた対処に困る事態が起きまして、ご指示をいただきたいのですが……」
「あ、捕まった? 籠とかならもう用意してるけど? 簡単に燃えそうにない奴」
そう言って俺ががま口から取り出したのは一見すると手の平サイズのおもちゃの籠だが、中は広い系のアイテムである。
しかしこちらが準備万端だと実際に見せても、なぜかナイトさんの顔色は優れず、戸惑いが見て取れた。
「いえ、しかしもっとすごいものが」
「すごいもの? アレ以上?」
「はい、おそらく……。しばしお持ちください」
神妙な顔で玄関に戻るナイトさんに俺はキョトンとしてしまうが、ずるずるとナイトさんが表から引きずって来た巨大団子を見て頭を抱えた。
でっかい団子からは羽が生えているのはともかく、人間の頭までくっついていたのだ。
想像だにしていなかった獲物を前にして俺は咄嗟に目を逸らしてしまった。
「あーもう……なんでこうなるかなぁ」
「どうしたんじゃ?」
「なにか・あったのですか?」
するとひょいっとカワズさんとエルエルが後ろから顔を出し、エルエルは言った。
「天使・です」
「……」
指を指すエルエルがあまりにも断言するので、俺は覚悟を決めて囚われたものに視線を戻した。
ひょっとしたら鳥と人間が別々に入ってるんじゃないかと思ったが、やっぱりそう言うわけではないらしい。
「まさかそんな……マジで?」
「マジです。スキャン・完了しました」
見間違いの期待をわずかに滲ませた質問をエルエルは一刀両断する。
そうかスキャンしたのか……それは仕方がない。
俺は腕を組んでとても長く唸っていたが、やってしまったことから目を逸らしてもいられない。
「罰当たり感が半端ないな」
「じゃな、お前もう死ぬんじゃないか?」
カワズさんが不安になる事を言う。だが俺も天使をとりもちで捕獲したら、一体どんなバチが当たるのか、ちょっと想像すらできなかった。
「そ、そんな事はないだろう。天使って言ったって本物とは限らないだろう?」
「ひょっとしてエルエルと同類では?」
ナイトさんはエルエルの方を見て言う。
ナイトさんの言う通り、真っ先に天使と聞いて思い浮かぶのは、このエルエルだろう。
羽こそ伸縮自在だが、見た目は完璧に天使であるエルエル。
分析ではホムンクルス、つまり人造人間の類であると確認しているが、エルエルは誰が見ても天使にしか見えない。
ではこのでっかい団子を観察してみよう。
エルエルとは造形の類は少々違うが、やはりとても美しい顔立ちをしている。
女性だろうか?
年齢は幼く中学生かもう少し上ほどに見える。
髪は長い金髪を団子にして纏めていて、うっすらと発光しているみたいだ。
これならば、エルエルと同類だとしても何ら不思議は……。
「型式番号の一致を・確認できません。おそらく・関係ないかと思われます」
……ある様だ。先回りされてしまった。
「……エルエルちゃん? どこのデータベースからその情報出てきた?」
「……なんとなく・です」
「そ、そうか。なんとなくか」
となると後は本人に確かめる他ない。
俺は慎重にその天使みたいな団子を揺すってみた。
やはり起きない。
これはひとまず、別にやるべきことをやっておくことにした。
「ひとまず彼女のあだ名、ダンゴちゃんにしよう」
「……そうか、さてはお前バチ云々はもはやあきらめたな?」
「……ダンゴw(ダンゴウイング)ってのも考えたんだけど」
「やめとけ。ダンゴを煽っているようにしか聞こえん」
「そうかー……怖い人だったらやだなぁ」
「羽の生えている人に・悪い人はいません」
「そうだといいんだけどなぁ」
エルエルのお墨付きだし、もう少し頑張ろう。
しかし随分ガッツリ気絶しているようで簡単に起きそうにない。
そこでカワズさんが進み出た。
「ふむ……わしにまかせろ」
「カワズさん? どうする気だよ?」
「だから……起こすんじゃろう? ちょいと気合いを入れてやればすぐじゃて」
そう言うとカワズさんはなにやら羽根つき団子の背後に回る。そして肩と思われる部分に両手を置いた。
俺はカワズさんが何をしようとしているのかに気が付いて、クワッと目を見開いた。
「……まさか、伝説のあれか!? 定番だけどマジ物は初めて見る……」
「いや知らんがのぅ……フン!」
「はぅ! いったい何が!」
効果あった!
かはっと呼吸を取り戻したダンゴちゃんはきょろきょろと周囲を見回していた。
いいもの見たと存分に驚きたかったが、最初にこのダンゴちゃんの正体をはっきりさせておく必要があった。
「あーあなたはどちら様?」
俺はぼんやりしているダンゴちゃんに話しかけてみる。
すると思いのほか早い段階で、ダンゴちゃんは正気を取り戻したみたいだった。
「これは! 私をすぐに開放しなさい!」
俺の顔を見るなりボヨンボヨンと跳ねまわり始めたダンゴちゃん。
考えて見れば、拘束している理由はあまりない。
「いいよ? ナイトさん、あの薬で解いてあげてよ」
「はい。わかりました」
「へ? キャン!」
すぐにナイトさんが鳥用に用意していた魔法薬を一滴団子に垂らすと、団子は光になって消えてしまった。
勢いよく跳ねていたダンゴちゃんは勢い余って尻もちをついてしまっていたが。
ダンゴちゃんはしばらく痛みに苦しんでいたが、すぐに立ち上がってお尻を払う。
そして改めて背中から生えている純白の羽を広げて、俺達に向かって言い放った。
「控えなさい。私は天よりの使い。ここには神託を授けに来ました!」
「い、今更だよな」
「シッ! 物事には体裁と言うものがあるんじゃから」
つい零してしまった俺をカワズさんが慌てて黙らせるがちょっと遅かったらしい。
「……」
若干ダンゴちゃんは顔が赤い。
だがそんな些細なことは問題にもせず、すぐさまナイトさんがダンゴちゃんに剣を突きつけ、低い声で問いただした。
「では大人しくしてもらおうか? ……お前はなんだ? なぜここに来た?」
「無礼ですね……混沌から生まれし者よ。私を天の使いと知ってなおその刃を向けますか?」
「それがわからないから、尋ねているのです。誰が団子になって気絶していた者を天使だと思いますか?」
「……! それはそうかもしれませんけどぉ!」
はっきりさせたい所は容赦なく突っ込んでいくのが尋問するナイトさんのスタイルである。
触れて欲しくなかったところだったのだろう、再び真っ赤になったダンゴちゃんは声を荒げるが、すぐに腕を組んで前髪を掻き上げると余裕を演出していた。
「ふ、ふん。近頃のダークエルフはしょうがないです。いいでしょう! では私という存在を理解させてあげるとしましょう」
ダンゴちゃんはさっとナイトさんに手を翳す。
警戒していたナイトさんだったが、しかしその場から動かずにじっと動かなかった。
なんだか様子がおかしい事に気が付いて、俺は彼女に歩み寄る。
「ナイトさん?」
「無駄ですよ。この者の動きは止まっています」
どうやらダンゴちゃんは何か魔法を掛けた様だ。
俺はすぐにかけられた魔法を解析するが、一時的に相手の動きを止めるだけの魔法で、一安心だ。
「ならよかった」
「え? そこは取り乱すところじゃないんですか?」
中々珍しく強力な魔法だが、あっさり使った魔法が珍しいほど本物の天使と言う可能性は上がる。
俺は難しくなった状況に頭を痛めて尋ねた。
「うーむ。君って鳥人間とかじゃないよね? 琵琶湖辺りで飛んだことない?」
「どこですか! 何ですか鳥人間って! どう見たって天使でしょ!?」
そう思ったのだがさっそく刺激してしまったようだ。
素早く立ち上がり、見せつける様にばさりと広げた羽は確かに天使である。
「あーやっぱりそうなんだ……」
「そうですよ! それなのにあんな呪いで私を捕えるとは、どうやったかは知らないですが……天に唾吐く所業です! 失礼極まりない!」
「そうは言っても……鳥用の罠に引っかかるなんて思わないんだもんなぁ」
「お黙りなさい! アレのどこが鳥用の罠ですか! 私が手も足も出ずに拘束されるなんて、どれだけ気合いの入った鳥を捕まえる気だと言う話ですよ!」
「うっ……」
そんな風に言われると非常に痛い。
まぁ鳥用にしては気合いの入っている代物なのは否定できない。
捕まえようとしていたのが伝説の鳥なんですよーと主張したところで、信じてもらえるかは微妙である。
言葉に詰まった俺だったが、ダンゴちゃんは大きなため息を付いて、俺から視線を外した。
「まぁいいです。人間の貴方に文句を言っても仕方がありません」
よくわからないことを不愉快そうに言うダンゴちゃんだったが、俺は気がついた。
あ、これって俺がやったってばれてない?
俺はこれ幸いと黙っていることにした。
そしてこの反応を見るに、どうやら今回彼女がここにきた原因は俺じゃないらしい。
「……なんですか?うれしそうな顔をして?」
「そう? いや? なんでもないですよ?」
「そうですか? ……ウオッホン! では! 私がここに来たのはきちんとした理由があります! 私の言葉は天の意志! 謹んで拝聴なさい!」
後光も纏ってちょっと浮いたダンゴちゃんは祈りながら叫んだ。
「天の意志って……空になんかあるので?」
「そ、そうですね。上空にここと同じような異界が存在していますね……ってそう言う事はどうでもよろしい! まったく……人のくせに普通に私と口を利くなんて、貴方も止めてしまいますよ?」
「す、すんません」
素直に謝る。ダンゴちゃんは許しますとばかりに大仰に頷き、一際輝いた。
「よろしい。では神託を授けます。ここに羽の生えた少女がいますね? 」
「私・ですか?」
エルエルが自分を指さしてきょとんとダンゴちゃんを見上げた。
するとダンゴちゃんはエルエルの方に視線をずらし、にっこりと天使らしい笑みをようやく浮かべたのである。
「私は貴女を迎えに来たのです」
ただダンゴちゃんの用件は俺にとって見過ごせるものではなかった。
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