新・俺と蛙さんの異世界放浪記

くずもち

文字の大きさ
上 下
142 / 183
連載

些細なことでも腹の立つことはある 1

しおりを挟む
「お姉さんたちの前で悪いけど、正直言ってアメリアが嫌い。お金が戻ってきたとは言っても、婚約者を人質に取られ、1年間嫌がらせを受けてきた」

「改めて、妹に代わって謝罪します」

「最初から「太陽の指輪」のリスクを話してくれたら、流れが違っていたかも知れないのに。なんで嫌われることを選んだんだ・・」
「それは400年前の魔王討伐の真実を知る、妹の思い込みが、そうさせたのです」

「400年前の魔王戦といえば、勇者アンだな」
「システィーナみたいな普通の街娘が勇者の祝福を受けて始まる、成長物語だよね」

「仲間も私達みたいに同じ年の女ばかりで、若い冒険者との恋物語あり、友情物語ありの人気ナンバーワン勇者だ」

「しかし、魔王討伐後の物語はご存知でしょうか?」
「・・そういえば、ないね。他の勇者みたいに国を興したとか、故郷で再び活躍したとか」

「ウエス家だけに残された真実があり、アメリアは幼少時代から何度も読んで、恐れておりました」


◇◆勇者アンと聖女アイーシャ◆◇
 
400年前、勇者にアンという東方に住む17歳の街娘が選ばれた。拳聖ティナ、賢者ルカ、聖女アイーシャも17歳。

出身地、身分はバラバラでも、たちまち四人は仲良くなった。

しかしこのオール女子パーティーには、隠された懸念材料があった。

聖女のアイーシャが当時、聖痕を持つウエス家の女性四人の中で一番魔力量が少なかった。
恐らくアメリアよりも。

神器に「光のオーロラを放つ虹の指輪」、「魔王の闇を阻害する聖結界の指輪」を授かっていれば、また話は違っていたであろう。

しかし、よりによってアイーシャに不向きな「勇者が必殺技を撃つ魔力を聖女から搾り取る、太陽の指輪」を女神から渡された。

聖女アイーシャは、仲間に真実と嘘を織り混ぜて話した。

◇太陽の指輪は勇者アンに必殺技を使わせるための道具である。
◇太陽の指輪を使うには、自分の魔力量がほんの少し足りない。
◇使えば魔力回路が破損して、二度と魔法が使えなくなる可能性がある。

嘘である。
魔力量はまったく足りない。
使えば、高い確率で死が待っていた。

光明はあった。物語にあるように、勇者アンだけでなく拳聖、賢者も神器に高い適正があった。

勇者アンは、すでに親友となったアイーシャに神器を使わせないため、努力した。
わずか半年で神器カッティーナを覚醒させた。

さらに半年、アイーシャも魔力量を増やす訓練を重ね、勇者らもグングン力を付けていった。

しかし、ダメだった。

決戦の日、魔王に勇者アン、拳聖ティナ、賢者ルカは神器を解放し、聖女アイーシャも聖痕で闇の結界を弱めた。

アイーシャは、神器「太陽の指輪」を使わずに生き残れるかと期待した。

だが決め手がなく、戦いが長引いた。
動きが悪くなった拳聖が魔王の爪で左腕を切り裂かれた。
助けに入った賢者は魔王の火炎で左足にやけどを負った。

3人の親友を守るため、聖女アイーシャ覚悟を決めた。
そして、限りなく軽い口調でアンに向かってつぶやいた。
「アン、あなた達3人にデンスの丘を見せたかったわ」

「太陽の指輪」を発動させた。

聖女アイーシャから飛び出した光の龍が勇者アンの中に入った。

アンの体が輝き「ライトニングダスト」を魔王に撃ち込むと、たまちまち魔王は崩れた。


アンは急いでアイーシャの元に駆けようとして、背筋が冷たくなった。
遠目に見えるアイーシャが別人に見えるのだ。
まるでデンスで会ったアイーシャの母親、いやそれ以上に老けたように感じる。
ティナとルカもやってきたが、言葉をなくした。

アイーシャからアンに送られた光の残滓がまだアンに向かって飛んでいた。

アンは慌ててアイーシャの「太陽の指輪」を外した。
だか指輪は中空に浮いたまま、アイーシャから最後の命の光を搾り取り、アンに貢いだ。

アンは吐いた。



◆◆
魔王討伐後、出迎えた騎士隊の前には事切れた老婆を背負った勇者が現れた。

老婆の背中や腕さすりながら拳聖、賢者もゆっくりと近付いてきた。

異様な凱旋だった。


聖女と恋仲だった若い騎士が、涙をこぼしながら老婆を受け取った。

老婆の首には彼が贈ったネックレスがかけられていた。
 

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

俺と蛙さんの異世界放浪記~八百万ってたくさんって意味らしい~

くずもち
ファンタジー
変な爺さんに妙なものを押し付けられた。 なんでも魔法が使えるようになったらしい。 その上異世界に誘拐されるという珍事に巻き込まれてしまったのだからたまらない。 ばかばかしいとは思いつつ紅野 太郎は実際に魔法を使ってみることにした。 この魔法、自分の魔力の量がわかるらしいんだけど……ちょっとばっかり多すぎじゃないか? 異世界トリップものです。 主人公最強ものなのでご注意ください。 *絵本風ダイジェスト始めました。(現在十巻分まで差し替え中です)

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。