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おっさんと海 1
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「あっついなぁ……」
「暑いですねぇ」
件の海岸が一部の者達の口に上るようになったのは、割と最近の事だった。
とある沿岸には常に夏というなんとも不可思議な気候の地帯が存在する。
一部の貴族達がリゾートとして利用する様なそんな場所は、元からそれなりに知られていた。
ただ、いくつもある海岸の中でも、その海岸は知名度としてはいまいちパッとしないそんな場所のはずであった。
曰く、『竜と人魚が戯れる海岸』。
特にこの「竜」の辺りが信じられない。
竜の住み着いた場所なんぞに間違っても人間が足を踏み入れたら最後、命など風前の灯だろう。
まして観光など成立するわけがなかった。
興味は惹かれるものの、竜という存在の危険度を鑑みてガセネタという意見に傾く。
こいつはそう言う類の話である。
「でも……よかったんですか? こんなガセネタに食いついちゃって?」
そして最近よく組む少年もまた、あまり信じてはいないようだが今更と言えば今更である。
俺はそんな少年の言葉にポリポリと頬をかきながら、面倒くさげに答えた。
「いいんじゃないの? 今はまだ懐に余裕あるし。たまにはバカンスとしゃれ込むのも悪かない」
「ああ、そう言う感じですか。そうですよねぇ……こんなところに竜がいるなんて、そんな馬鹿な事ないですよねぇ」
だが思っていたよりもがっかりした風でもない少年は、むしろ声が軽くなっていた。
どうやら安心を得るための質問だったらしい。
少年は好奇心は人並み以上なくせに、度胸がないのが困りものだと思う。
俺はそんな少年に深く頷くと、しかし心ばかりの補足をしておいた。
「まぁ噂自体は盛りすぎだとしてもだ。火のないところに煙は立たないとも言うだろ? 実際、竜が住み着いたって噂は本当だったみたいだし、その前は人魚が住んでいたことも確かにあったんだそうだ。あながち全部ウソでもないかもしれんぜ?」
だがそう伝えると少年はやたらびっくりしているようだった。そして俺に尋ねた。
「……ひょっとしてちゃんと調べてたんですか?」
「まぁそれなりに? 噂通りで、いくらなんでも観光名所ってことはないだろうとは思うがね」
「……」
何だか少年はまた不安げな顔をしていたが、何にしても今から行く場所がリゾートだという事に変わりはない。
俺達は町の商人の護衛を買って出ることでここまでやって来た。
まぁほとんど勘みたいなものだったが、そう悪い案でもないように思う。
馬鹿の一つ覚えに冒険者用の掲示板とにらめっこしているよりは面白い事実に到達出来ることもあるだろう。
行きの食料は向こう持ちだし、仕事料も入るのだから文句もない。
そういうわけで無事昨日の内に商人との契約も終えて、朝から目的地に乗り込むべくこうして噂の海岸を目指しているわけだ。
いい加減暑さにもうんざりしてきた頃、微かに聞きなれない海鳥の鳴き声が耳に入ってきて、俺達はお互いに顔を見合わせる。
太陽を反射し、青と白のコントラストが美しい水平線をその目に収めたその瞬間、俺達はその場に荷物を放りだして駆け出した。
「「海だー!!」」
潮騒が俺達を呼んでいたのである。
俺の事はそうだ、おっさんとでも呼んでくれ。
体格はそこそこいい方だと自負しているが、今はパッとしない布の服に身を包んでいる普通のおっさんである。
だがいつもなら鎧の一つも身に着けて、でっかい剣を振り回しているちょっとワイルドなおっさんなのだ。
冒険者と、そんな風に呼ばれている俺は今日も今日とて好奇心を満たす何かを求めてこんな海岸までやって来たのだ。
俺がやっとたどり着いた海岸をじっと眺めていると、この辺りを散策に出ていた相棒の少年が手を振って走ってくる。
ともすれば女とでも勘違いされそうな頼りない少年だが、彼もいっぱしの冒険心を胸に命を懸ける冒険者の一人である……まぁまだ見習いなんだがね。
「なんだか向こうで水着って言うのをもらえましたよ!」
「なんだそりゃ?」
走って来た少年がその手に持っていたのはパンツだった。
しかしその生地は見たこともない艶々と光沢のある不思議なパンツで、エッジの効いた角度は見るからに食い込みそうだ。
俺はブーメラン型のそいつを見て思った。
「俺それ着たくないんだが」
「そうですか? なんでも水泳専用の着物なんだそうですよ。水に入っても透けないんだとか」
「うーん、そいつはいいことなのだろうか? わからんね、おっさんには」
「……そうですかね?」
「そりゃそうだろう、っと言いたい所だが……自分で履かなきゃ、悪くはないわな」
それはチョイと視線をずらせば眺めることが出来る浜のビーナス達を見ていればそう言う気分にもなるだろう。
なるほど、こいつも水着というわけだ。
波打ち際で戯れる女性達が身に着けている、大胆かつ色鮮やかな衣装はなかなか刺激的だった。
作った奴はいい趣味をしていると思う。
「いいところだ海は」
俺はそう呟いた。
少年もそれなりに少年らしいエロイ目を向けているかと思いきや、しかしどうにも質の違うキラキラした目をしていて、おっさんを怯ませた。
「僕、実は海って初めて見るんですよねー。山の生まれだったもので」
「……へぇ、そいつはよかったな。ほら見てみろよ、美人があんなにいるぞ? 若者は素直に熱い情動に身を任せりゃいいのに」
そっと俺は恥ずかしがり屋の少年の視線をビーナス達に誘導すると少年は真っ赤になっていた。
「や、やめてくださいよ! そ、それよりもです! 僕達は竜や人魚を見に来たんじゃないですか!」
「そりゃそうなんだがさぁ。でもまぁ……」
少年はまぁそんな事を言うが、それもまた彼女達の方をよく観察すればすべて解決する話である。
気合を入れる少年に、俺は穏やかな視線を浜辺の一角に向けたまま言った。
「まだ竜こそ見かけないけどよ。人魚はいるじゃん?」
「……ええ!!」
俺達の視線の先には人間に普通に混じって、下半身魚の美女達がいた。
波と戯れ遊ぶ彼女達は間違いなく人魚だった。
少年はそんな非常識な光景に自分の眼を疑っていた。
「普通にいますね……人魚ってすごく珍しいはずですよね?」
頼りなさげに聞いてくる少年だが、それは俺の方が聞きたい。
「そう思ったけどな。少なくても人間を警戒しないなんてことはない……はずだ」
深い海の底に住むという人魚達にお目にかかる機会というのはそうないはずなのだが……こうも普通に目の前にいられると、そんな感覚さえ薄らいでしまう。
悪い奴なら、人魚達を狙う馬鹿もいるだろうに。無防備すぎる。
試しにたまたま目があった人魚に手を振ってみると、手を振り返してくれさえするのだから、愛想がいいとさえ言えそうだった。
だが俺はこう思った。
「うん! これはこれで最高だな!」
「そうですね! 噂って言うのも馬鹿に出来ないです!」
同じ結論に達したらしい少年も元気で何よりだ。
しかしこうなってくると、竜の方も期待出来るかもしれない。
それともう一つ、俺は「竜」以外にも気にかかる噂も耳にしていて、そっちの検証をしてみるのもいいだろう。
俺は、若干無理やりあげたテンションを維持すべく、砂浜から腰を上げたのだった。
「そんじゃぁまぁ、いつまでもくつろいでいるわけにもいかんかね」
「……いよいよ竜探しですか!」
「いや? この海岸の噂を集めている時に、妙な話を聞いてね。先にそいつを確かめに行こうと思ってさ」
「妙な噂ですか?」
少年はこの海岸に待つある噂を知らないようで、大きな瞳に疑問の色を浮かべていた。
「そうだよ。実は竜うんぬんよりもこっちのが本命だったりすんだよな」
驚く少年に俺は笑い、俺は耳にした噂を口にする。
それは商人に聞いたある店の話だった。
竜と人魚について尋ねた俺に、面白さならそれ以上かもしれないと、そのオヤジは言った。
「なんでも、この辺に変な土産屋があるんだと」
「……なんですかそれ?」
だが土産屋と聞いた途端さっそく少年は興味をなくしたらしい。すっと好奇心に満ちていた目に力だなくなったのがすぐにわかった。
「おいおい、興味をなくすの早いよ。」
「でもお土産屋って。なんかもう帰る気満々じゃないですか」
「そんなことはない。確かに面白がってはいるが、それだけじゃないんだぜ?」
「そうなんですか? お土産買うのに? 帰りがけでいいじゃないですか、荷物が重くなります」
「いやいや、重くなるのもいいじゃないか。旅で心が軽くなった分、土産を懐に入れるのが旅の醍醐味だよ。それに言ったろう? こっちが本命だって。なんでもその土産屋には魔法の品がごろごろ置いてあるらしいのさ」
それが本当ならものすごい話である。
魔法の品は特殊な高価を秘めていることが多く、一般流通などまずしない。
間違っても、お土産屋で売りさばかれるようなものではないだろう。
「魔法の品って……おじさんの剣みたいな奴ですか!」
とたんに少年は目を輝かせて食いついて来るのだから現金な物だ。
ちなみに俺の剣とは、昔訪れた古い遺跡で見つけたもので、斬撃と同時に爆発を起こす効果がある。
掘り出し物なだけに、少年も興味はあったらしい。
だけど所詮はお土産物屋だという事を忘れてはならないだろう。
「まぁそこまでは知らんけどだ。役に立つものはあるかもしれない。なにせ魔法の品は本気で貴重だからなぁ。俺も詳しい事は聞けなかったんだが、聞く限り共通してんのは……意味が分からないってことらしい」
「なんですかそれ?」
微妙な顔で首をかしげる少年だが無理もない。俺もこの話を初めて聞いた時は同じように首を傾げた。
「さぁ? だけどその店を見つけて入った奴は口をそろえてそう言うんだと。意味がわからないってな」
「それこそ意味が分からないですね」
「だけど、面白そうだろう? 何より竜よりも気軽に行けそうだしな」
そういうと少年は納得していた。
「……そうですね。装備を整えるのは賛成です」
実はさすがに曖昧過ぎて俺も不安を感じるが、それも含めて見てからのお楽しみというものだろう。
話を聴いただけですべてがわかるなら、実際に足を運ぶ意味はないというものだ。
「暑いですねぇ」
件の海岸が一部の者達の口に上るようになったのは、割と最近の事だった。
とある沿岸には常に夏というなんとも不可思議な気候の地帯が存在する。
一部の貴族達がリゾートとして利用する様なそんな場所は、元からそれなりに知られていた。
ただ、いくつもある海岸の中でも、その海岸は知名度としてはいまいちパッとしないそんな場所のはずであった。
曰く、『竜と人魚が戯れる海岸』。
特にこの「竜」の辺りが信じられない。
竜の住み着いた場所なんぞに間違っても人間が足を踏み入れたら最後、命など風前の灯だろう。
まして観光など成立するわけがなかった。
興味は惹かれるものの、竜という存在の危険度を鑑みてガセネタという意見に傾く。
こいつはそう言う類の話である。
「でも……よかったんですか? こんなガセネタに食いついちゃって?」
そして最近よく組む少年もまた、あまり信じてはいないようだが今更と言えば今更である。
俺はそんな少年の言葉にポリポリと頬をかきながら、面倒くさげに答えた。
「いいんじゃないの? 今はまだ懐に余裕あるし。たまにはバカンスとしゃれ込むのも悪かない」
「ああ、そう言う感じですか。そうですよねぇ……こんなところに竜がいるなんて、そんな馬鹿な事ないですよねぇ」
だが思っていたよりもがっかりした風でもない少年は、むしろ声が軽くなっていた。
どうやら安心を得るための質問だったらしい。
少年は好奇心は人並み以上なくせに、度胸がないのが困りものだと思う。
俺はそんな少年に深く頷くと、しかし心ばかりの補足をしておいた。
「まぁ噂自体は盛りすぎだとしてもだ。火のないところに煙は立たないとも言うだろ? 実際、竜が住み着いたって噂は本当だったみたいだし、その前は人魚が住んでいたことも確かにあったんだそうだ。あながち全部ウソでもないかもしれんぜ?」
だがそう伝えると少年はやたらびっくりしているようだった。そして俺に尋ねた。
「……ひょっとしてちゃんと調べてたんですか?」
「まぁそれなりに? 噂通りで、いくらなんでも観光名所ってことはないだろうとは思うがね」
「……」
何だか少年はまた不安げな顔をしていたが、何にしても今から行く場所がリゾートだという事に変わりはない。
俺達は町の商人の護衛を買って出ることでここまでやって来た。
まぁほとんど勘みたいなものだったが、そう悪い案でもないように思う。
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行きの食料は向こう持ちだし、仕事料も入るのだから文句もない。
そういうわけで無事昨日の内に商人との契約も終えて、朝から目的地に乗り込むべくこうして噂の海岸を目指しているわけだ。
いい加減暑さにもうんざりしてきた頃、微かに聞きなれない海鳥の鳴き声が耳に入ってきて、俺達はお互いに顔を見合わせる。
太陽を反射し、青と白のコントラストが美しい水平線をその目に収めたその瞬間、俺達はその場に荷物を放りだして駆け出した。
「「海だー!!」」
潮騒が俺達を呼んでいたのである。
俺の事はそうだ、おっさんとでも呼んでくれ。
体格はそこそこいい方だと自負しているが、今はパッとしない布の服に身を包んでいる普通のおっさんである。
だがいつもなら鎧の一つも身に着けて、でっかい剣を振り回しているちょっとワイルドなおっさんなのだ。
冒険者と、そんな風に呼ばれている俺は今日も今日とて好奇心を満たす何かを求めてこんな海岸までやって来たのだ。
俺がやっとたどり着いた海岸をじっと眺めていると、この辺りを散策に出ていた相棒の少年が手を振って走ってくる。
ともすれば女とでも勘違いされそうな頼りない少年だが、彼もいっぱしの冒険心を胸に命を懸ける冒険者の一人である……まぁまだ見習いなんだがね。
「なんだか向こうで水着って言うのをもらえましたよ!」
「なんだそりゃ?」
走って来た少年がその手に持っていたのはパンツだった。
しかしその生地は見たこともない艶々と光沢のある不思議なパンツで、エッジの効いた角度は見るからに食い込みそうだ。
俺はブーメラン型のそいつを見て思った。
「俺それ着たくないんだが」
「そうですか? なんでも水泳専用の着物なんだそうですよ。水に入っても透けないんだとか」
「うーん、そいつはいいことなのだろうか? わからんね、おっさんには」
「……そうですかね?」
「そりゃそうだろう、っと言いたい所だが……自分で履かなきゃ、悪くはないわな」
それはチョイと視線をずらせば眺めることが出来る浜のビーナス達を見ていればそう言う気分にもなるだろう。
なるほど、こいつも水着というわけだ。
波打ち際で戯れる女性達が身に着けている、大胆かつ色鮮やかな衣装はなかなか刺激的だった。
作った奴はいい趣味をしていると思う。
「いいところだ海は」
俺はそう呟いた。
少年もそれなりに少年らしいエロイ目を向けているかと思いきや、しかしどうにも質の違うキラキラした目をしていて、おっさんを怯ませた。
「僕、実は海って初めて見るんですよねー。山の生まれだったもので」
「……へぇ、そいつはよかったな。ほら見てみろよ、美人があんなにいるぞ? 若者は素直に熱い情動に身を任せりゃいいのに」
そっと俺は恥ずかしがり屋の少年の視線をビーナス達に誘導すると少年は真っ赤になっていた。
「や、やめてくださいよ! そ、それよりもです! 僕達は竜や人魚を見に来たんじゃないですか!」
「そりゃそうなんだがさぁ。でもまぁ……」
少年はまぁそんな事を言うが、それもまた彼女達の方をよく観察すればすべて解決する話である。
気合を入れる少年に、俺は穏やかな視線を浜辺の一角に向けたまま言った。
「まだ竜こそ見かけないけどよ。人魚はいるじゃん?」
「……ええ!!」
俺達の視線の先には人間に普通に混じって、下半身魚の美女達がいた。
波と戯れ遊ぶ彼女達は間違いなく人魚だった。
少年はそんな非常識な光景に自分の眼を疑っていた。
「普通にいますね……人魚ってすごく珍しいはずですよね?」
頼りなさげに聞いてくる少年だが、それは俺の方が聞きたい。
「そう思ったけどな。少なくても人間を警戒しないなんてことはない……はずだ」
深い海の底に住むという人魚達にお目にかかる機会というのはそうないはずなのだが……こうも普通に目の前にいられると、そんな感覚さえ薄らいでしまう。
悪い奴なら、人魚達を狙う馬鹿もいるだろうに。無防備すぎる。
試しにたまたま目があった人魚に手を振ってみると、手を振り返してくれさえするのだから、愛想がいいとさえ言えそうだった。
だが俺はこう思った。
「うん! これはこれで最高だな!」
「そうですね! 噂って言うのも馬鹿に出来ないです!」
同じ結論に達したらしい少年も元気で何よりだ。
しかしこうなってくると、竜の方も期待出来るかもしれない。
それともう一つ、俺は「竜」以外にも気にかかる噂も耳にしていて、そっちの検証をしてみるのもいいだろう。
俺は、若干無理やりあげたテンションを維持すべく、砂浜から腰を上げたのだった。
「そんじゃぁまぁ、いつまでもくつろいでいるわけにもいかんかね」
「……いよいよ竜探しですか!」
「いや? この海岸の噂を集めている時に、妙な話を聞いてね。先にそいつを確かめに行こうと思ってさ」
「妙な噂ですか?」
少年はこの海岸に待つある噂を知らないようで、大きな瞳に疑問の色を浮かべていた。
「そうだよ。実は竜うんぬんよりもこっちのが本命だったりすんだよな」
驚く少年に俺は笑い、俺は耳にした噂を口にする。
それは商人に聞いたある店の話だった。
竜と人魚について尋ねた俺に、面白さならそれ以上かもしれないと、そのオヤジは言った。
「なんでも、この辺に変な土産屋があるんだと」
「……なんですかそれ?」
だが土産屋と聞いた途端さっそく少年は興味をなくしたらしい。すっと好奇心に満ちていた目に力だなくなったのがすぐにわかった。
「おいおい、興味をなくすの早いよ。」
「でもお土産屋って。なんかもう帰る気満々じゃないですか」
「そんなことはない。確かに面白がってはいるが、それだけじゃないんだぜ?」
「そうなんですか? お土産買うのに? 帰りがけでいいじゃないですか、荷物が重くなります」
「いやいや、重くなるのもいいじゃないか。旅で心が軽くなった分、土産を懐に入れるのが旅の醍醐味だよ。それに言ったろう? こっちが本命だって。なんでもその土産屋には魔法の品がごろごろ置いてあるらしいのさ」
それが本当ならものすごい話である。
魔法の品は特殊な高価を秘めていることが多く、一般流通などまずしない。
間違っても、お土産屋で売りさばかれるようなものではないだろう。
「魔法の品って……おじさんの剣みたいな奴ですか!」
とたんに少年は目を輝かせて食いついて来るのだから現金な物だ。
ちなみに俺の剣とは、昔訪れた古い遺跡で見つけたもので、斬撃と同時に爆発を起こす効果がある。
掘り出し物なだけに、少年も興味はあったらしい。
だけど所詮はお土産物屋だという事を忘れてはならないだろう。
「まぁそこまでは知らんけどだ。役に立つものはあるかもしれない。なにせ魔法の品は本気で貴重だからなぁ。俺も詳しい事は聞けなかったんだが、聞く限り共通してんのは……意味が分からないってことらしい」
「なんですかそれ?」
微妙な顔で首をかしげる少年だが無理もない。俺もこの話を初めて聞いた時は同じように首を傾げた。
「さぁ? だけどその店を見つけて入った奴は口をそろえてそう言うんだと。意味がわからないってな」
「それこそ意味が分からないですね」
「だけど、面白そうだろう? 何より竜よりも気軽に行けそうだしな」
そういうと少年は納得していた。
「……そうですね。装備を整えるのは賛成です」
実はさすがに曖昧過ぎて俺も不安を感じるが、それも含めて見てからのお楽しみというものだろう。
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