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はじめての……2
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トンボが突然太郎に呼び止められたのは、その日の早朝の事だった。
「ふむ…………実は俺はあることを計画中なんだが」
「……何さ? 改まっちゃってさ?」
いつものどこか間の抜けた表情とは違う、引き締まった顔にトンボは身構える。
そして太郎はそのあることとやらをもったいぶって話し始めた。
「ふむ、実はエルエルの事なんだけど……そろそろあのイベントを発動させてみようかと」
ちなみにエルエルとは太郎が蘇えらせた、天使型のホムンクルスの事だった。
ひどく怪我をしていたエルエルは治療を施されるが、そこは太郎である。
元の状態からの改良はもちろんの事、そもそも入ってさえいなかった魂まで創り出し、与えることで、彼女は生まれ変わった。
しかし魂を入れたばかりの彼女は、機械的な思考こそ出来るモノのまだ中身は赤ん坊と変わりがないのである。
「……あのイベントって、なに?」
ごくりと唾を飲み、何か嫌な予感がしたトンボは太郎の言葉を持つ。
すると太郎はそのイベントとやらを切り出した。
「初めての……お使いだ!」
「!……正気! まだ早すぎる!」
トンボは激しく動揺し、太郎を止めようとした。
しかし決意は固いのか、太郎は苦しげに首を振ると喉の奥から絞り出すように言う。
「……俺もそう思う。だが、だがだ! 今でも十分コミュニケーションはとれる! それに、最近の成長速度はとうにそれを実現出来るだけの物になっているんじゃないのか!?」
「でも完璧じゃない! いいの!? 道行く人が蜂の巣になったり、ミンチになったり、蒸発したとしても!」
エルエルの戦闘能力は天使と呼ぶには凶悪すぎるモノを備えている。
流石のトンボもこれがやばいのはわかった。
「……だが、誰にでも初めはある。危険は常に付きまとう。そこで君の出番だトンボ様!」
「様づけなんてしないで! そんなので喜んだのは昔の話なんだから!」
「そんなこと言わないで! 頼めるのはトンボ様しかいないんだ!」
「なんで! タロが連れて行けばいいじゃん!」
「……初めてのお使いに保護者は着いて行っちゃダメだろう」
「わたしはいいの?」
「……マスコットはセーフなんじゃない?」
「マスコットいうな」
抗議するトンボを太郎は手を翳して止め、もちろんタダじゃないと懐から包み紙を出す。
そこからは何とも上品な甘い香りが漂ってくる。
トンボはハッとして口元を抑えるが、溢れ出す涎を押さえられるものではなかった。
「そ、それは!」
「ふっふっふ。そう、向こうの菓子だよ。こないだセーラー戦士が持ってきたやつだ。こいつを十個ばかり複製してトンボちゃんにあげようじゃないか。人気店のおすすめらしいぜ? 依頼内容は、エルエルが暴走し始めた場合の手助け。そしてそれだけじゃぁない。万一……エルエルの身に何か良くないことが起こったとしたら……アレの使用を許可する」
「……まさかそれって!」
ぼりぼりとクッキーを食べながら、トンボは息を呑む。
お互いに条件を出し合い、人差し指と手の平で固い握手が交わされるまで話し合いは続いた。
こうして、初のお使いミッションは始まったのである。
「ふむ…………実は俺はあることを計画中なんだが」
「……何さ? 改まっちゃってさ?」
いつものどこか間の抜けた表情とは違う、引き締まった顔にトンボは身構える。
そして太郎はそのあることとやらをもったいぶって話し始めた。
「ふむ、実はエルエルの事なんだけど……そろそろあのイベントを発動させてみようかと」
ちなみにエルエルとは太郎が蘇えらせた、天使型のホムンクルスの事だった。
ひどく怪我をしていたエルエルは治療を施されるが、そこは太郎である。
元の状態からの改良はもちろんの事、そもそも入ってさえいなかった魂まで創り出し、与えることで、彼女は生まれ変わった。
しかし魂を入れたばかりの彼女は、機械的な思考こそ出来るモノのまだ中身は赤ん坊と変わりがないのである。
「……あのイベントって、なに?」
ごくりと唾を飲み、何か嫌な予感がしたトンボは太郎の言葉を持つ。
すると太郎はそのイベントとやらを切り出した。
「初めての……お使いだ!」
「!……正気! まだ早すぎる!」
トンボは激しく動揺し、太郎を止めようとした。
しかし決意は固いのか、太郎は苦しげに首を振ると喉の奥から絞り出すように言う。
「……俺もそう思う。だが、だがだ! 今でも十分コミュニケーションはとれる! それに、最近の成長速度はとうにそれを実現出来るだけの物になっているんじゃないのか!?」
「でも完璧じゃない! いいの!? 道行く人が蜂の巣になったり、ミンチになったり、蒸発したとしても!」
エルエルの戦闘能力は天使と呼ぶには凶悪すぎるモノを備えている。
流石のトンボもこれがやばいのはわかった。
「……だが、誰にでも初めはある。危険は常に付きまとう。そこで君の出番だトンボ様!」
「様づけなんてしないで! そんなので喜んだのは昔の話なんだから!」
「そんなこと言わないで! 頼めるのはトンボ様しかいないんだ!」
「なんで! タロが連れて行けばいいじゃん!」
「……初めてのお使いに保護者は着いて行っちゃダメだろう」
「わたしはいいの?」
「……マスコットはセーフなんじゃない?」
「マスコットいうな」
抗議するトンボを太郎は手を翳して止め、もちろんタダじゃないと懐から包み紙を出す。
そこからは何とも上品な甘い香りが漂ってくる。
トンボはハッとして口元を抑えるが、溢れ出す涎を押さえられるものではなかった。
「そ、それは!」
「ふっふっふ。そう、向こうの菓子だよ。こないだセーラー戦士が持ってきたやつだ。こいつを十個ばかり複製してトンボちゃんにあげようじゃないか。人気店のおすすめらしいぜ? 依頼内容は、エルエルが暴走し始めた場合の手助け。そしてそれだけじゃぁない。万一……エルエルの身に何か良くないことが起こったとしたら……アレの使用を許可する」
「……まさかそれって!」
ぼりぼりとクッキーを食べながら、トンボは息を呑む。
お互いに条件を出し合い、人差し指と手の平で固い握手が交わされるまで話し合いは続いた。
こうして、初のお使いミッションは始まったのである。
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