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はじめての……1
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「ああ、退屈だな……」
呟くことに意味はない。
ただ意識しないと自然に口にしてしまうほど、その台詞はいつでも舌の上に転がっている。
その日、トムは実家の店番をしていた。
なんの事はない、他の住人がいないから、自分がそうしているだけだ。
母さん辺りに言わせれば、この今年十三になる身体は体力を持て余しているらしい。
そのせいで退屈という状況がたまらなく鬱陶しいと感じている……ということなのだろう。
そんな思春期特有のやるせなさは、その日、その瞬間、退屈だと言う自身の口癖ごと吹き飛んだ。
「……な、なんだ?」
不意に導かれるように上げた視線の先に羽が舞う。
その光景はまさしく非現実的であり、退屈とは真逆の物だった。
その上真っ白な羽の生えた神の使いが、自分の目の前に現れたのなら、単純な言葉すら思いつきはしないだろう。
一体これから何が起こるのか?
絶対に何かとんでもない事が起こる。期待でトムの胸は膨らんでゆく。
トムは背筋を未だかつてない程に伸ばし、からからに乾いた喉で、皮肉にも店番の使命を全うする台詞を吐く。
「……どのようなご用件ですか?」
間近で見た天の使いはとても幼く、トムよりも頭一つは小さかった。
それでも彼女はありえないほどにかわいらしい。
天使はまったく曇り一つない透明な瞳でこちらに歩みよると、その驚くほど整った口元から言葉を紡ぐ。
天使はこうおっしゃった。
「すいません・お水ください」
「はぁ……」
トムと天使はこうして出会った。
呟くことに意味はない。
ただ意識しないと自然に口にしてしまうほど、その台詞はいつでも舌の上に転がっている。
その日、トムは実家の店番をしていた。
なんの事はない、他の住人がいないから、自分がそうしているだけだ。
母さん辺りに言わせれば、この今年十三になる身体は体力を持て余しているらしい。
そのせいで退屈という状況がたまらなく鬱陶しいと感じている……ということなのだろう。
そんな思春期特有のやるせなさは、その日、その瞬間、退屈だと言う自身の口癖ごと吹き飛んだ。
「……な、なんだ?」
不意に導かれるように上げた視線の先に羽が舞う。
その光景はまさしく非現実的であり、退屈とは真逆の物だった。
その上真っ白な羽の生えた神の使いが、自分の目の前に現れたのなら、単純な言葉すら思いつきはしないだろう。
一体これから何が起こるのか?
絶対に何かとんでもない事が起こる。期待でトムの胸は膨らんでゆく。
トムは背筋を未だかつてない程に伸ばし、からからに乾いた喉で、皮肉にも店番の使命を全うする台詞を吐く。
「……どのようなご用件ですか?」
間近で見た天の使いはとても幼く、トムよりも頭一つは小さかった。
それでも彼女はありえないほどにかわいらしい。
天使はまったく曇り一つない透明な瞳でこちらに歩みよると、その驚くほど整った口元から言葉を紡ぐ。
天使はこうおっしゃった。
「すいません・お水ください」
「はぁ……」
トムと天使はこうして出会った。
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