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第1章
第15話 墓参りしてみた
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人々が本格的に動き出すよりも前、朝早くからテクテクは役場へやってきていた。
「おはようございます、朝早くから申し訳ありません。あ、これはいつものミルクです」
「いつもありがとうございます。テクテクさんであればいついらしてくださっても大丈夫ですよ。それにしても、いつもよりもミルクの本数が多いですが……」
「ええ、実は町長さんにお話がありまして……」
向かい合って真剣な表情で話し合う2人、テクテクを慕うものとして、町長はその意見に異を唱えることなどできるはずもなかった。
「本当に申し訳ありません」
「いえいえ、そもそもミルクに関しては私共の我儘な申し出でありましたので気になさらないでください。それにしても、すこし寂しくなりますね……」
町長は本当に残念そうに眉を下げ、深いため息をついた。
「それでは失礼いたしました」
「どうか、道中お気を付けください」
「ありがとうございます」
そう言って、深々とお辞儀をしたテクテクは役場を後にした。
自宅へ戻ったテクテクは、町で購入した新品の鞄に色々なものを詰め込み準備を整える。
「モーモー」
「ミノちゃん、もう少しだけ待ってて!」
外ではすでに準備を終えたミノちゃんがしっぽを揺らしながら待っていた。
「色々あったけど、この町に来てよかったね」
「モーモー」
準備を終えたテクテクたちは、町をあとにする前に今一度この光景を覚えておこうと町並みを眺めていた。
「それじゃぁ行こっか」
「モウ」
そうしてテクテクは町の外へと足を踏み出し――――。
「テクテク待って~!!」
「ティアラ!?」
踏み出そうとした足を止め、テクテクは声のする方へ体を動かした。すると、鬼の形相でティアラが眼前まで迫ってきていた。
「どどど、どうしたの!? この町を出ていくの? なんで私に言ってくれなかったの? 私を置いていくの? ねえなんで? なんでなのよ!? ねぇ!!」
「ちょ、ティアラ、おち、おちおち、おちついてぇぇぇぇ」
「モウ~」
面倒くさい女が来たと、ミノちゃんは溜息を吐くしかなかった。
「えっ? 2泊3日で墓参り?」
「うん、そうだよ?」
「あははは、そんなことだろうと思ったわ!」
テクテクは町での出来事や友人ができたことを祖父に報告しようと、以前住んでいた森へ墓参りに行こうとしていただけだ。そのため、毎朝納品していたミルクをいない間は納品できないからと、町長に多めのミルクを渡していた。
テクテクから事情をきいたティアラは、自分が物凄い勘違いをして酷い醜態を晒していたことに気が付き、顔から火が吹き出そうになったのを勢いで誤魔化した。
「それじゃぁ、今度こそ行ってくるね」
「あっ……」
墓参りと理解できても尚、テクテクと離れることが寂しかったのだろう。ティアラはその手でテクテクの裾を握っていた。
「ティアラ?」
「わた、私も墓参り一緒に行ってもいいかしら? お爺様に一度挨拶しておきたいし!」
「え? 一緒に行ってくれるの?」
「勿論よ!」
「モ~」
テクテクも友達と離れ離れになるのは内心寂しかったため、ティアラの申し出をありがたく受け入れた。ちなみに、今回セイヨウは自宅でお留守番だ。本人曰く「今、忙しいから留守番しておくわ!」とのことであった。
こうして墓参りに一人加わり、賑やかな里帰りになるなとテクテクは喜び、面倒なことにならなければよいけれどとミノちゃんは再び溜息を吐いた。
「くっくっく、魔力の濃い危険な森ね。左目が疼くわ、私の中に封印されたアレが今にも表に出てしまいそうよ!」
「あははー」
薄暗い森の中を進む彼女たち。ティアラのご機嫌は絶好調であった。
しばらく進むと、テクテクの鼻腔を懐かしい匂いが通り抜ける。すると、祖父との懐かしい生活が脳内に流れ込んできた。
「テクテク!? ちょっと、どうしたの? 大丈夫!?」
「えっ?」
テクテクが自分の頬に触れると、指先までそれが伝わってきた。
「あはは、大丈夫。ちょっと懐かしすぎて涙がでちゃっただけだよ」
「モーモー」
テクテクはミノちゃんの尻尾を借りて目元をこすった。そして、胸を張ってティアラに向かってはにかんだ。
「ティアラが初めてのお客様だよ。ようこそ、私の故郷へ!」
獣道を通り抜けると、ティアラの目の前に立派なログハウスが姿を現した。
「ここがテクテクが過した家なのね」
「うん、ちょっと古ぼけているかもしれないけどね」
「そんなことないわ、素敵な家よ」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しい。ありがとう、ティアラ」
テクテクたちはそのままログハウスの裏手へ回り、1つの墓標の前で屈んで手を合わせた。
「おじいちゃんただいま、おじいちゃんは次の世界で元気に暮らしているかな?私はあの後、町で暮らし始めたんだ。最初は大変だったけど、今では皆よくしてくれるし、友達も沢山出来たんだ。紹介するね、この子が私の友達の1人ティアラよ」
「はは、初めましてお爺様。私がご紹介に与りましたティアラです。テクテクと親友になれて私は毎日幸せです。今後も末永くお付き合いを、そして、最終的にはけけけ、けっこ……わぷっ、ちょっと、ミノちゃんまだお爺様と話している途中なのに!」
「モ~!」
「ふふ、あはははは」
ティアラからとんでもない発言が飛び出しそうになったため、ミノちゃんは息の根を止める勢いで咄嗟にティアラの口を塞いだ。そんなやり取りを見て、テクテクは先ほどとは違う意味で流れ出た涙を手で拭った。
墓参りの後は、ログハウスの中へ入りテクテクは荷解きをした。そして、ティアラに家の中を案内し、一緒に晩御飯を作り、思い出話に花を咲かせながら食事をとった。
「ふぁぁぁ、眠くなっちゃった。今日はお風呂に入って休もうかな」
「ええ、それではテクテクお先にどう――えっ、きゃぁ、ミノちゃん!?」
当然のように、テクテクの後に入ろうと思ったティアラであったが、ミノちゃんに強引に風呂場へ投げ込まれ、泣く泣く残り湯を楽しむのを諦めた。
「こここ、これは」
ティアラは入浴後、テクテクの部屋の中にいた。正確にはテクテクの部屋のベッドの前だ。
「そうだわ、お風呂の件は残念だったけれど寝る楽しみがあったわ! なんせベッドは1つ。そして、当然ミノちゃんはベッドを使わない。そうなれば、このベッドで寝るのはテクテクと私の2人。合法的に密着できるチャンス!」
隙あらば邪なことを考えるティアラ。彼女の辞書には懲りるという字は存在しなかった。
「ティアラ? ベッドの上で正座してどうしたの?」
「べべ、別に、ちょっと緊張しているだけだから気にしないで!」
入浴後、テクテクは自室の扉を開けると、そこには挙動不審なティアラが鎮座していた。
「つ、つかれたからさっそく寝ましょう!」
「そうだね。あ、そのベッドはティアラが使っていいからね! 私はおじいちゃんの部屋で寝るから」
「えっ……」
「モ~モ~」
「ん? ミノちゃんもこの部屋で寝るの? ミノちゃんは本当にティアラのことが好きなんだね。それじゃぁおやすみなさい!」
「あ……」
名残惜しさもなく、部屋を出ていくテクテク。現在のテクテクとティアラの心の壁を表すかのように閉ざされた扉。その扉を守る守護者《ミノちゃん》。ティアラの儚い夢は早くも崩れ去り、枕を涙で濡らした。
「うう……あ、でもこの布団テクテクの良い匂いがするわ」
転んでもただでは起きないティアラであった。
ホーホーとフクロウの鳴き声のみが夜の森に響き渡る。既に2人は夢の中へと旅立っており、扉の守護者も幸せそうに寝息を立てていた。
「おじ~ちゃん……私のともだちぃ……むにゃむにゃ」
「ミノちゃん……また私の邪魔を~……ぐーすー」
「モ~……ウ~……モウモウ」
この時、誰もまだ気が付いていなかった。
「ちぃ……ちぃ…………」
ログハウスから少し離れた場所で、1つの命がその役目を終えようとしていた。
「おはようございます、朝早くから申し訳ありません。あ、これはいつものミルクです」
「いつもありがとうございます。テクテクさんであればいついらしてくださっても大丈夫ですよ。それにしても、いつもよりもミルクの本数が多いですが……」
「ええ、実は町長さんにお話がありまして……」
向かい合って真剣な表情で話し合う2人、テクテクを慕うものとして、町長はその意見に異を唱えることなどできるはずもなかった。
「本当に申し訳ありません」
「いえいえ、そもそもミルクに関しては私共の我儘な申し出でありましたので気になさらないでください。それにしても、すこし寂しくなりますね……」
町長は本当に残念そうに眉を下げ、深いため息をついた。
「それでは失礼いたしました」
「どうか、道中お気を付けください」
「ありがとうございます」
そう言って、深々とお辞儀をしたテクテクは役場を後にした。
自宅へ戻ったテクテクは、町で購入した新品の鞄に色々なものを詰め込み準備を整える。
「モーモー」
「ミノちゃん、もう少しだけ待ってて!」
外ではすでに準備を終えたミノちゃんがしっぽを揺らしながら待っていた。
「色々あったけど、この町に来てよかったね」
「モーモー」
準備を終えたテクテクたちは、町をあとにする前に今一度この光景を覚えておこうと町並みを眺めていた。
「それじゃぁ行こっか」
「モウ」
そうしてテクテクは町の外へと足を踏み出し――――。
「テクテク待って~!!」
「ティアラ!?」
踏み出そうとした足を止め、テクテクは声のする方へ体を動かした。すると、鬼の形相でティアラが眼前まで迫ってきていた。
「どどど、どうしたの!? この町を出ていくの? なんで私に言ってくれなかったの? 私を置いていくの? ねえなんで? なんでなのよ!? ねぇ!!」
「ちょ、ティアラ、おち、おちおち、おちついてぇぇぇぇ」
「モウ~」
面倒くさい女が来たと、ミノちゃんは溜息を吐くしかなかった。
「えっ? 2泊3日で墓参り?」
「うん、そうだよ?」
「あははは、そんなことだろうと思ったわ!」
テクテクは町での出来事や友人ができたことを祖父に報告しようと、以前住んでいた森へ墓参りに行こうとしていただけだ。そのため、毎朝納品していたミルクをいない間は納品できないからと、町長に多めのミルクを渡していた。
テクテクから事情をきいたティアラは、自分が物凄い勘違いをして酷い醜態を晒していたことに気が付き、顔から火が吹き出そうになったのを勢いで誤魔化した。
「それじゃぁ、今度こそ行ってくるね」
「あっ……」
墓参りと理解できても尚、テクテクと離れることが寂しかったのだろう。ティアラはその手でテクテクの裾を握っていた。
「ティアラ?」
「わた、私も墓参り一緒に行ってもいいかしら? お爺様に一度挨拶しておきたいし!」
「え? 一緒に行ってくれるの?」
「勿論よ!」
「モ~」
テクテクも友達と離れ離れになるのは内心寂しかったため、ティアラの申し出をありがたく受け入れた。ちなみに、今回セイヨウは自宅でお留守番だ。本人曰く「今、忙しいから留守番しておくわ!」とのことであった。
こうして墓参りに一人加わり、賑やかな里帰りになるなとテクテクは喜び、面倒なことにならなければよいけれどとミノちゃんは再び溜息を吐いた。
「くっくっく、魔力の濃い危険な森ね。左目が疼くわ、私の中に封印されたアレが今にも表に出てしまいそうよ!」
「あははー」
薄暗い森の中を進む彼女たち。ティアラのご機嫌は絶好調であった。
しばらく進むと、テクテクの鼻腔を懐かしい匂いが通り抜ける。すると、祖父との懐かしい生活が脳内に流れ込んできた。
「テクテク!? ちょっと、どうしたの? 大丈夫!?」
「えっ?」
テクテクが自分の頬に触れると、指先までそれが伝わってきた。
「あはは、大丈夫。ちょっと懐かしすぎて涙がでちゃっただけだよ」
「モーモー」
テクテクはミノちゃんの尻尾を借りて目元をこすった。そして、胸を張ってティアラに向かってはにかんだ。
「ティアラが初めてのお客様だよ。ようこそ、私の故郷へ!」
獣道を通り抜けると、ティアラの目の前に立派なログハウスが姿を現した。
「ここがテクテクが過した家なのね」
「うん、ちょっと古ぼけているかもしれないけどね」
「そんなことないわ、素敵な家よ」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しい。ありがとう、ティアラ」
テクテクたちはそのままログハウスの裏手へ回り、1つの墓標の前で屈んで手を合わせた。
「おじいちゃんただいま、おじいちゃんは次の世界で元気に暮らしているかな?私はあの後、町で暮らし始めたんだ。最初は大変だったけど、今では皆よくしてくれるし、友達も沢山出来たんだ。紹介するね、この子が私の友達の1人ティアラよ」
「はは、初めましてお爺様。私がご紹介に与りましたティアラです。テクテクと親友になれて私は毎日幸せです。今後も末永くお付き合いを、そして、最終的にはけけけ、けっこ……わぷっ、ちょっと、ミノちゃんまだお爺様と話している途中なのに!」
「モ~!」
「ふふ、あはははは」
ティアラからとんでもない発言が飛び出しそうになったため、ミノちゃんは息の根を止める勢いで咄嗟にティアラの口を塞いだ。そんなやり取りを見て、テクテクは先ほどとは違う意味で流れ出た涙を手で拭った。
墓参りの後は、ログハウスの中へ入りテクテクは荷解きをした。そして、ティアラに家の中を案内し、一緒に晩御飯を作り、思い出話に花を咲かせながら食事をとった。
「ふぁぁぁ、眠くなっちゃった。今日はお風呂に入って休もうかな」
「ええ、それではテクテクお先にどう――えっ、きゃぁ、ミノちゃん!?」
当然のように、テクテクの後に入ろうと思ったティアラであったが、ミノちゃんに強引に風呂場へ投げ込まれ、泣く泣く残り湯を楽しむのを諦めた。
「こここ、これは」
ティアラは入浴後、テクテクの部屋の中にいた。正確にはテクテクの部屋のベッドの前だ。
「そうだわ、お風呂の件は残念だったけれど寝る楽しみがあったわ! なんせベッドは1つ。そして、当然ミノちゃんはベッドを使わない。そうなれば、このベッドで寝るのはテクテクと私の2人。合法的に密着できるチャンス!」
隙あらば邪なことを考えるティアラ。彼女の辞書には懲りるという字は存在しなかった。
「ティアラ? ベッドの上で正座してどうしたの?」
「べべ、別に、ちょっと緊張しているだけだから気にしないで!」
入浴後、テクテクは自室の扉を開けると、そこには挙動不審なティアラが鎮座していた。
「つ、つかれたからさっそく寝ましょう!」
「そうだね。あ、そのベッドはティアラが使っていいからね! 私はおじいちゃんの部屋で寝るから」
「えっ……」
「モ~モ~」
「ん? ミノちゃんもこの部屋で寝るの? ミノちゃんは本当にティアラのことが好きなんだね。それじゃぁおやすみなさい!」
「あ……」
名残惜しさもなく、部屋を出ていくテクテク。現在のテクテクとティアラの心の壁を表すかのように閉ざされた扉。その扉を守る守護者《ミノちゃん》。ティアラの儚い夢は早くも崩れ去り、枕を涙で濡らした。
「うう……あ、でもこの布団テクテクの良い匂いがするわ」
転んでもただでは起きないティアラであった。
ホーホーとフクロウの鳴き声のみが夜の森に響き渡る。既に2人は夢の中へと旅立っており、扉の守護者も幸せそうに寝息を立てていた。
「おじ~ちゃん……私のともだちぃ……むにゃむにゃ」
「ミノちゃん……また私の邪魔を~……ぐーすー」
「モ~……ウ~……モウモウ」
この時、誰もまだ気が付いていなかった。
「ちぃ……ちぃ…………」
ログハウスから少し離れた場所で、1つの命がその役目を終えようとしていた。
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