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第1章
第8話 定期的に購入してもらってみた
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「ん~、今日も良いミルクが出てるわ!」
「モ~」
テクテクは朝早く起き、最近のルーチンワークとなったミルク30人分を絞る。あれから、町長が代表してミルクを毎日30杯購入してくれることになった。値段も1杯1000Gと元の値段設定より10倍高い値段だ。最初は1杯1万G以上の値がつけられそうになったが、流石にそれはあまりにも高すぎると値段交渉した結果、1000Gで決着がついた。
「それにしても、あれには驚いたよね~」
「モ~モ~」
テクテクは、余分に搾ったミルクをすっかり空になった倉庫へ保管しようと扉を開けつつ、つい先日のことを思い返していた。
病人を救うために空の瓶が戻ってきては搾る。瓶では追い付かなくなれば、取り合えず容器なら何でもいいと持ち寄ってこられたコップなどにも次々注いでいく。
休憩なしにミルクを搾り続けているためか、テクテクの手は疲労で握力が弱まってきていた。また、手だけではなく、同一の姿勢でいるため体のあちこちも悲鳴を上げていた。そんな出口の見えない作業に遂に終了の鐘が告げられた。
「テクテク様、全員にこれでミルクは行き渡ります。もう大丈夫です、ありがとうございました‼」
町長から声を掛けられたテクテクは、どさっとその場に腰を下ろし安堵の息を吐いた。疲労からか町長の態度に変化にはまだ気がついていない。
「疲れた~‼」
もはや、テクテクはお箸を持つのも困難なほど手に力が入らない。立ち上がるのも暫くは無理そうだ。しかし、体の疲労とは裏腹に、その表情は晴れていた。
「全員助かって本当に良かったで――」
そのままの姿勢で頭だけ町長の方へ振り返った時、テクテクはその光景に目を疑った。
町長を先頭に、その場にいた全員がいつの間にか地に伏せていた。正確には、額を地面に擦りつけ、四つん這いの姿勢で伏せていた。そして、町長が代表してそのままの姿勢で口を開いた。
「テクテク様、この度は我々の命を救ってくださり、生まれ変わるチャンスを与えて頂き本当にありがとうございました。そして、今までの我々の度重なる失礼な態度、この場でお詫びさせて頂きます。誠に申し訳ありませんでした」
「「申し訳ありませんでした‼」」
「えぇっ‼ や、止めてください! 頭、頭をあげてください。私は大丈夫ですから‼」
このような態度に慣れていないテクテクは焦り、なんとか頭をあげてもらおうとするも、町長たちは自分たちが許せないのかなかなか頭をあげない。
このままではらちが明かないためどうしようかと考えていると、一つの妙案を思いついた。それは彼女が当初目標としていたことだ。
「分かりました、許します。けれども条件があります、今日飲んでミノちゃんのミルクが美味しいと思った人は、是非今度から100Gで購入して下さい!」
ミルクを売って生計を立てる。そして、生活の基盤が作れたら町の人たちとの交流を増やしていく。そのための第1歩をようやく達成できるとテクテクは内心喜んでいた。ミノちゃんのミルクを一度飲んだら虜にならないはずがないと。
「あのミルクを今後も100Gで購入ですか⁉」
「え? やっぱり……駄目ですか?」
テクテクとしては「ぜひ買わせて欲しい‼」という反応を期待していただけに、違う反応が返ってきたことで、少し値段が高かったのかもしれないと、勇み足を踏んでしまった自分に反省する。
「70……いや、50Gなら……」
ぶつぶつと、価格設定を練り直すテクテク。
テクテクと町長たちとでは、このミルクに対する認識が違っていた。
「いえ、テクテク様がそれでよろしいならば、是非購入させてください。ただ、少し話をさせていただいても宜しいでしょうか?」
「えっ? あっ、はい」
テクテクの表情が晴れなくなったことに気が付いた町長は、焦って大声で言いなおす。テクテクはそのあまりの剣幕と勢いに、思考の海に潜りかけていた意識を一気に現実に引き戻された。
テクテクの了承を得た町長たちは全員で集まり、テクテクに聞こえないようにひそひそと会話を始めた。
「いくら支払えばいいと思う?100万Gでも安いと思うのだが」
「いや、テクテク様はどうやら沢山の人にあれを飲んでほしい様子。彼女の望みをかなえるためにも毎日購入するという形をとった方がよいだろう」
「本数は毎日数十本程度にした方が良いのでは? あまりに多ければ、テクテク様が大変だ」
「テクテク様はあのミルクの凄さを理解しておられない様子、変な奴らに目をつけられないように、あくまでも普通のミルクとして扱った方が良いと思う」
「それなら100万Gでは目立ちすぎるな、となると……」
テクテクは町長たちが話し終わるのを不安げな眼差しで見守る。願わくば、1杯でも買ってもらえることを祈って。
「お待たせいたしました。それでは、テクテク様の都合の良い日に、私が代表して20本まとめて買取させていただいても宜しいでしょうか? 値段は1本1万Gで……」
「1万G!? いやいや、高すぎますって‼ あと、様付けと敬語は辞めてください‼」
彼らの提案を聞いたテクテクはあまりの値段に驚いた。もともと予定していた金額の100倍だ。そんな大金とてもではないが受け取ることは出来ないと突っぱね、ついでに先程から何故か様付けされていること、そして年上から敬語で話されていることに対して、壁が出来たようで目的から遠ざかると、止めてもらうように懇願した。
それから何度かのやり取りを経て、1日30本、1本1000Gで決着がついた。そして、様付けは取れたが、敬語だけは取れなかった。
後に、ミルクは一月はその鮮度と効果が保たれることが分かり、数十本は役場に厳重に保存、そして残りは町民に配る順番を決め、順次配布することになった。
また、町の中ではとある事柄について話し合いが開催された。テクテクの自由と気持ちを優先し、それを害しない範囲でテクテクが他の者たちから利用されないように秘密を死守すること。いざという時は、テクテクのことは自分の命より優先して守ること。そして、命の恩人であるテクテクに対し感謝の念を忘れないこと。
この内容に不満を抱くものは誰一人おらず、満場一致で取り決められた。
体力が徐々に回復してきたテクテクは、それでも完全に回復できていないのか生まれたての仔牛のようによろよろと立ち上がる。それを見た町長はずっと疑問に思っていたことを口に出した。
「その~、テクテクさんはミルクを飲まれないのですか?」
「あっ……」
何処か抜けたテクテクの声は、雲一つない晴れた青空へよく響いた。
「そうだ、私の倉庫に実は食材が沢山ありまして、皆さんにお分け致しますね」
病気は治癒し、体力も回復したが根本的な食糧不足が解消されたわけではない。取り合えずのしのぎとして、テクテクは倉庫に貯蓄されている食材を提供することにした。勿論、あのような小さな倉庫に収まる量では、数百人を超える町民に対して圧倒的に領が足りない。しかしそれは、今までの倉庫の大きさだったらの話だ。テクテクもついこの間気が付いたばかりであったが、検証を続けた結果、いつの間にか倉庫に地下が増築されていたことに気が付いた。しかも、その大きさは丘のすべてを増築したのではないかと思うほどの広さだ。町民を支える領としては数日分の備蓄は十分にあった。
そうして一度自宅へ戻ろうと考えたテクテクを、町長は一度引き留めた。何故引き留められたのかと不思議そうな顔をしたテクテクに対し、彼らは実によい笑顔を浮かべて口を開いた。
「今までちゃんと言えていなかったので先に挨拶だけさせてください」
「「テクテクさん、ようこそ黄玉町へ‼ 町民一同、貴方様の移住を心より歓迎致します‼」」
あの出来事から、本当の町の住民として受け入れてもらえたなぁと、色々思い返しながらテクテクはその嬉しさを噛み締めていた。
そしてそんな緩み切った顔で倉庫の扉を開けると、そこには先客がいた。
ミルク瓶を抱えて堂々とイビキをかいて寝ていたそれは、扉が開いた音でその意識を覚醒させた。
「むにゃむにゃ……ほへ? ミルクのお替り?」
テクテクの手のひらほどのサイズに、背中から生えた透明でキラキラした羽。未だに寝ぼけ眼なそれと、テクテクは初めて目が合った。
「あ……」
「せいれい……さん?」
初めての出会いは劇的でも何でもない、なんとも言えない雰囲気がその場を支配していた。
「モ~」
テクテクは朝早く起き、最近のルーチンワークとなったミルク30人分を絞る。あれから、町長が代表してミルクを毎日30杯購入してくれることになった。値段も1杯1000Gと元の値段設定より10倍高い値段だ。最初は1杯1万G以上の値がつけられそうになったが、流石にそれはあまりにも高すぎると値段交渉した結果、1000Gで決着がついた。
「それにしても、あれには驚いたよね~」
「モ~モ~」
テクテクは、余分に搾ったミルクをすっかり空になった倉庫へ保管しようと扉を開けつつ、つい先日のことを思い返していた。
病人を救うために空の瓶が戻ってきては搾る。瓶では追い付かなくなれば、取り合えず容器なら何でもいいと持ち寄ってこられたコップなどにも次々注いでいく。
休憩なしにミルクを搾り続けているためか、テクテクの手は疲労で握力が弱まってきていた。また、手だけではなく、同一の姿勢でいるため体のあちこちも悲鳴を上げていた。そんな出口の見えない作業に遂に終了の鐘が告げられた。
「テクテク様、全員にこれでミルクは行き渡ります。もう大丈夫です、ありがとうございました‼」
町長から声を掛けられたテクテクは、どさっとその場に腰を下ろし安堵の息を吐いた。疲労からか町長の態度に変化にはまだ気がついていない。
「疲れた~‼」
もはや、テクテクはお箸を持つのも困難なほど手に力が入らない。立ち上がるのも暫くは無理そうだ。しかし、体の疲労とは裏腹に、その表情は晴れていた。
「全員助かって本当に良かったで――」
そのままの姿勢で頭だけ町長の方へ振り返った時、テクテクはその光景に目を疑った。
町長を先頭に、その場にいた全員がいつの間にか地に伏せていた。正確には、額を地面に擦りつけ、四つん這いの姿勢で伏せていた。そして、町長が代表してそのままの姿勢で口を開いた。
「テクテク様、この度は我々の命を救ってくださり、生まれ変わるチャンスを与えて頂き本当にありがとうございました。そして、今までの我々の度重なる失礼な態度、この場でお詫びさせて頂きます。誠に申し訳ありませんでした」
「「申し訳ありませんでした‼」」
「えぇっ‼ や、止めてください! 頭、頭をあげてください。私は大丈夫ですから‼」
このような態度に慣れていないテクテクは焦り、なんとか頭をあげてもらおうとするも、町長たちは自分たちが許せないのかなかなか頭をあげない。
このままではらちが明かないためどうしようかと考えていると、一つの妙案を思いついた。それは彼女が当初目標としていたことだ。
「分かりました、許します。けれども条件があります、今日飲んでミノちゃんのミルクが美味しいと思った人は、是非今度から100Gで購入して下さい!」
ミルクを売って生計を立てる。そして、生活の基盤が作れたら町の人たちとの交流を増やしていく。そのための第1歩をようやく達成できるとテクテクは内心喜んでいた。ミノちゃんのミルクを一度飲んだら虜にならないはずがないと。
「あのミルクを今後も100Gで購入ですか⁉」
「え? やっぱり……駄目ですか?」
テクテクとしては「ぜひ買わせて欲しい‼」という反応を期待していただけに、違う反応が返ってきたことで、少し値段が高かったのかもしれないと、勇み足を踏んでしまった自分に反省する。
「70……いや、50Gなら……」
ぶつぶつと、価格設定を練り直すテクテク。
テクテクと町長たちとでは、このミルクに対する認識が違っていた。
「いえ、テクテク様がそれでよろしいならば、是非購入させてください。ただ、少し話をさせていただいても宜しいでしょうか?」
「えっ? あっ、はい」
テクテクの表情が晴れなくなったことに気が付いた町長は、焦って大声で言いなおす。テクテクはそのあまりの剣幕と勢いに、思考の海に潜りかけていた意識を一気に現実に引き戻された。
テクテクの了承を得た町長たちは全員で集まり、テクテクに聞こえないようにひそひそと会話を始めた。
「いくら支払えばいいと思う?100万Gでも安いと思うのだが」
「いや、テクテク様はどうやら沢山の人にあれを飲んでほしい様子。彼女の望みをかなえるためにも毎日購入するという形をとった方がよいだろう」
「本数は毎日数十本程度にした方が良いのでは? あまりに多ければ、テクテク様が大変だ」
「テクテク様はあのミルクの凄さを理解しておられない様子、変な奴らに目をつけられないように、あくまでも普通のミルクとして扱った方が良いと思う」
「それなら100万Gでは目立ちすぎるな、となると……」
テクテクは町長たちが話し終わるのを不安げな眼差しで見守る。願わくば、1杯でも買ってもらえることを祈って。
「お待たせいたしました。それでは、テクテク様の都合の良い日に、私が代表して20本まとめて買取させていただいても宜しいでしょうか? 値段は1本1万Gで……」
「1万G!? いやいや、高すぎますって‼ あと、様付けと敬語は辞めてください‼」
彼らの提案を聞いたテクテクはあまりの値段に驚いた。もともと予定していた金額の100倍だ。そんな大金とてもではないが受け取ることは出来ないと突っぱね、ついでに先程から何故か様付けされていること、そして年上から敬語で話されていることに対して、壁が出来たようで目的から遠ざかると、止めてもらうように懇願した。
それから何度かのやり取りを経て、1日30本、1本1000Gで決着がついた。そして、様付けは取れたが、敬語だけは取れなかった。
後に、ミルクは一月はその鮮度と効果が保たれることが分かり、数十本は役場に厳重に保存、そして残りは町民に配る順番を決め、順次配布することになった。
また、町の中ではとある事柄について話し合いが開催された。テクテクの自由と気持ちを優先し、それを害しない範囲でテクテクが他の者たちから利用されないように秘密を死守すること。いざという時は、テクテクのことは自分の命より優先して守ること。そして、命の恩人であるテクテクに対し感謝の念を忘れないこと。
この内容に不満を抱くものは誰一人おらず、満場一致で取り決められた。
体力が徐々に回復してきたテクテクは、それでも完全に回復できていないのか生まれたての仔牛のようによろよろと立ち上がる。それを見た町長はずっと疑問に思っていたことを口に出した。
「その~、テクテクさんはミルクを飲まれないのですか?」
「あっ……」
何処か抜けたテクテクの声は、雲一つない晴れた青空へよく響いた。
「そうだ、私の倉庫に実は食材が沢山ありまして、皆さんにお分け致しますね」
病気は治癒し、体力も回復したが根本的な食糧不足が解消されたわけではない。取り合えずのしのぎとして、テクテクは倉庫に貯蓄されている食材を提供することにした。勿論、あのような小さな倉庫に収まる量では、数百人を超える町民に対して圧倒的に領が足りない。しかしそれは、今までの倉庫の大きさだったらの話だ。テクテクもついこの間気が付いたばかりであったが、検証を続けた結果、いつの間にか倉庫に地下が増築されていたことに気が付いた。しかも、その大きさは丘のすべてを増築したのではないかと思うほどの広さだ。町民を支える領としては数日分の備蓄は十分にあった。
そうして一度自宅へ戻ろうと考えたテクテクを、町長は一度引き留めた。何故引き留められたのかと不思議そうな顔をしたテクテクに対し、彼らは実によい笑顔を浮かべて口を開いた。
「今までちゃんと言えていなかったので先に挨拶だけさせてください」
「「テクテクさん、ようこそ黄玉町へ‼ 町民一同、貴方様の移住を心より歓迎致します‼」」
あの出来事から、本当の町の住民として受け入れてもらえたなぁと、色々思い返しながらテクテクはその嬉しさを噛み締めていた。
そしてそんな緩み切った顔で倉庫の扉を開けると、そこには先客がいた。
ミルク瓶を抱えて堂々とイビキをかいて寝ていたそれは、扉が開いた音でその意識を覚醒させた。
「むにゃむにゃ……ほへ? ミルクのお替り?」
テクテクの手のひらほどのサイズに、背中から生えた透明でキラキラした羽。未だに寝ぼけ眼なそれと、テクテクは初めて目が合った。
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