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第44話 おまけ閑話:大魔境の洗礼【ざまぁ!】

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 レルギアの両親を名乗った夫婦は、ドラゴンにのせられ、大魔境へ降ろされた。

「な、なんだここは……!?」
「本当に大魔境なの……?」

 二人が降り立った場所は、ちょうど大魔境の真ん中あたり。
 大魔境を抜け出そうにも、一筋縄ではいかない。
 あたりの状況がわからないまま、二人はその場に立ち尽くしていた。
 動くとなにが起こるかもわからない。まるでマグマの上にいる気分だった。

「ど、どどどどどうしよう……」
「知らないわよ……! こんなところ……」

 二人は恐る恐る、歩きだす。
 お腹も減ってきたし、いつまでもここでこうしているわけにもいかないと思ったからだ。

「なんだ、大魔境と言っても、案外普通の森じゃないか……」
「そ、そうね……」
「あ……! こ、これは……!」

 しばらく歩いて、彼らが発見したのは、神秘茸というキノコだった。
 ギルドではSSS級にレアとされている食材だ。
 大魔境には、この手の食材がゴロゴロ自生している。

「ははは! 捨てる神あれば拾う神ありだな……!」
「そうね……! これなら、なんとかここでも生きていけるかも……!」

 そう思い、二人がきのこに手を伸ばした瞬間――。
 二人の足元がぐらついた。そして、隆起する。

「わ……! なんだ!?」

 なんとキノコが生えていたのは、大きな亀の背中だった。
 茸餌亀――背中にエサを置いて、獲物をおびき寄せる肉食の動物だ。

「うわあああああ! 逃げろおおおおお!!!!」

 間一髪、二人は逃げおおせることができた。しかし、目の前でレア食材をとり逃してしまった絶望たるや……。

「くそ……なんなんだここは……」
「ここが大魔境……」

 ひといきついたのもつかの間。
 今の騒ぎをききつけたのか、大型の熊の魔物が二人の前に現れた。
 キラーグリズリー――肉食のSランク魔物だ。
 そんなキラーグリズリーでさえも、この大魔境では食物連鎖ピラミッドの下のほうにある。
 久々に見つけた獲物に、グリズリーは襲い掛かる。

「うわあああああああああああ!!!!」
「グオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 間一髪で、二人は洞窟の中に逃げ込んだ。

「はぁ……はぁ……なんてところだ、大魔境ってのは……」

 洞窟の中は、真っ暗でなにも見えない。
 そんな中、小さな明かりが近づいてくるのが見えた。

「おや、なんだこれは……」

 それに触れると、がぶり――。

「ぎやああああああああ!!!!」

 暗闇から姿を現したのは、幻影魚という宙魚だった。
 幻影魚――普段は空中を泳ぐ、肉食の魚。

「な、なんだこれはあああああああ!!!!」
「いやあああああああああああああ!!!!」

 二人は逃げようとするも、洞窟の外にはまだグリズリーがいる。
 幻影魚はそんな二人を数匹で絡めとると、がぶがぶかじりだした。

「く、食われてる!!!!」
「いやああああ!!!!」

 しかし、不思議なことに、二人は体を食われているのに、血一つ流さなかった。
 それどころか、食われている感触は確かにあるのに、痛みがないのだ。

「な、なんだこれ……気色悪い……!」

 それこそがこの幻影魚の特徴の一つでもあった。
 幻影魚に食われた体の部位は、そのまま消える・・・
 そこには痛みもなく、血も流れない。
 ただ、その場から消えるのみである。
 二人の身体はどんどん幻影魚によって食われて無くなっていく。

「な、なんだこれは……なんで俺はまだ生きてるんだ……!?」
「いやあああああ!!!!」

 ひどい目にあいながら、二人はなぜこうなってしまったのかを考える。
 死を悟りながらも、お互いに恨み節をぶつけるのだった。

「なんでこんなことに……! 俺は金が欲しかっただけなのに……!」
「あなたが大賢者に会おうだなんていうからよ!」
「お前が赤子のときに捨てるとかいいだしたからだろ!」
「なによ……!」

 食われて体のほとんどがなくなるまで二人はお互いのことを恨み続けた。
 そんな二人が反省することは、最後までなかった。
 ようやく、頭以外の全部が食われたころ――。
 洞窟内に、突如として光が差した。
 朝になったのだ。
 すると――。

 ――ブシャアアアアアアアアアアアア!!!!

 なんとさっきまで血を流さなかった二人だったが、首から一気に大量出血した。

「ぎえええええええええええ!!!!」
「ぐえええええええええええ!!!!」

 痛覚も、戻ってきたのか、さっきまでの痛みが、一気に襲い掛かる。
 二人は断末魔の悲鳴を上げながら絶命した。
 幻影魚に食われた肉体が、日の光を浴びると、一気に痛みが襲い掛かるのだ。
 幻影魚は別名、拷問魚とも呼ばれた。
 二人は人間が得ることのできる一番痛い死に方で、絶命した。






――つづく。


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