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第30話 和解
しおりを挟む【Doppelgänger:4】
俺はジャクソンに会うために、奴のよくいくカフェへとやってきた。
ジャクソン・クロスフィールド――俺が追放した、無能野郎だ。
そう、俺はジャクソンのことを、無能だと言って切り捨てた。
だけど、今になって思う、それは本当に正しかったのか?と。
たしかにあいつは大した能力を持っていなかった。
けど、だからといって、あんなふうに追い出すこともなかったんじゃないのか?
俺は昔から、カッとなって、勢いで行動してしまう癖がある。
あのときも、俺はジャクソンのちょっとした言動にムカついて、あいつを追放してしまった。
けど、ジャクソンにしてみれば、そんなのは寝耳に水だったのかもしれない。
あいつはたしかに用済みだった。
けど、それまで俺に何度も貢献してくれたこともあった。
あいつのおかげでやってこれたという部分も確かにあったのだ。
それを用済みだからって切り捨てるのは、間違っていたんじゃないのか?
ジャクソンは精一杯俺たちに尽くそうとしていた。
それを俺は、一時的な怒りの感情を抑えられずに……。
俺は、未熟なことをしてしまったと思う。
相棒に出会って、そのことをよく考えさせられた。
パーティーから追放された側の気持ちなんて、今までは考えもしなかった。
けど相棒に出会って話を聞いて、信じていたパーティーから追放されるということが、当人にとってどれほどつらいことなのか、よくわかった。
俺は他人の気持ちを推し量ることが苦手だ。
だからどうしても自分本位に考えてしまう。
けど、相棒は俺自身でもあった。
だから、相棒の気持ちだけは俺にもよくわかったし、共感できた。
自分と同じ顔の人間が傷ついて、ようやく俺にもその痛みが理解できた。
そうなるまでわからなかったなんて、俺はつくづく愚かだよな。
笑ってくれ。
俺はすぐにかっとなってしまうし、衝動的に行動してしまう。
そして、相手の気持ちがなかなかわからない。
俺は自分の欠点をよく理解していたつもりだった。
だけど、気を抜くとすぐにまたやってしまう。
俺はこの自分の特性のせいで、これまでに何度も失敗してきた。
それでもなんとかやってこれたのは、この【豪運】という恵まれたスキルのおかげだろう。
俺はこのスキルのせいで、何事も苦労せずに育ってきた。
そのせいもあって、どうにも他人の気持ちがわからないことがあるのだ。
そしてひどく傲慢で、自分勝手な行動をしてしまう。
相棒に出会って、俺はまた自分の失敗に気づかされた。
なにより決め手となったのは、メアリーの料理を食べたことだ。
相棒にはメアリーという病気の妹がいた。
相棒はメアリーのために、必死で努力して、パーティーに貢献したのに、ロックスの野郎にパーティーから追放をいいわたされた。
それは、とても悔しかっただろうし、傷ついただろう。
ジャクソンにもまた、病気の妹がいると聞いている。
俺はその事情を知っていながら、奴を追放した。
なんて非情な行為だっただろうか。
メアリーの料理を食べて、ジャクソンにも大切な家族がいるのだと、気づかされた。
誰だって、みんな自分の家族をまもるために必死で生きているんだ。
俺のやったことは消えない。
けど、一言ジャクソンに謝っておこうと思ったのだ。
そうじゃないと、俺の中でけじめがつかない。
俺は相棒を追い出したロックスに、復讐をした。
けど、俺だってジャクソンを追放しているじゃないか。
どの口が言ってんだって話になるよな?
だから、俺は俺の中で一貫性を保つために、ジャクソンには謝っておかねばならないと思ったのだ。
そうじゃないと、芯がぶれる。
俺はカフェで2時間待った。
するとジャクソンがようやく現れた。
窓際の席に座ったジャクソンに、俺は話しかける。
「よう、ジャクソンじゃねえか」
「げ……そういう君は……ドッペル……なんのようだ? 僕はもう用済みなんじゃなかったのか?」
「その……お前に謝ろうと思ってな……。時間いいか?」
「は……? どういう風の吹き回し? あのドッペルが僕に謝るだなんて……」
「実は、いろいろあったんだよ。それで俺も考え直した。お前は、十分やってくれていたよ」
「そ、そうか……それはどうも……ありがとう」
「なに、今さらパーティーに戻ってこいなんて言わねえ。そんなのはお前もごめんだろう? 新しいパーティーも見つけてるだろうしな。俺のもとでやり直すのも嫌だろう。だが、これだけは言わせてくれ。俺が間違っていた。すまなかった」
「そんな……もういいよ。僕もいまはそれなりに幸せにやってる」
「そうか、それはよかった」
ジャクソンの顔色や装備を見るに、それは事実なのだろう。
やつは前よりもずいぶんと元気そうだ。
「なんだか最近、とても運がいいんだよ。君といたときはさんざんだったのにな……。実は彼女もできてね。冒険者としてもランクアップできた。はは、もしかしたら、君の【豪運】スキルに運気を吸われてたのかも」
「そういうこともあるのかもな。まあ、とにかく元気そうならそれでいい。ところで、病気の妹さんはどうなんだ?」
「妹……? ああ、そうだな……。まあ、よくはないけど、ちょっとずつましにはなってきているよ」
「これ、妹さんに渡してやってくれないか?」
「え……これは……」
俺は、アイテムボックスからエリクサーを出してジャクソンに渡した。
これが最後のエリクサーだ。
なに、俺のスキルがあれば、エリクサーくらいまた手に入る。
「エリクサーだ。これがあれば妹は助かるだろ?」
「い、いいのか? こんな高価なもの……」
「いいんだ。せめてものお詫びの印だ」
「ありがとう……ほんとに助かる。でも、以前の君なら、こんなふうに他人のために身銭を切ることはめったになかったのにな。どうしたっていうんだ、いったい」
「俺も丸くなったのさ。とある女の子の料理のおかげでな」
「そうか、その女の子には感謝しないとな」
妹ときくと、どうしてもメアリーに重ねてしまう。
前は俺には妹なんかいないからと、ジャクソンの妹なんかには興味はなかった。
けど、メアリーに出会って、妹がいるとはどういう気持ちなのかを知った。
今は、ジャクソンが妹を思う気持ちが痛いほどわかる。
「ふふ、思い出したよ。そういえば、君はそういう奴だったな」
「え……? どういうことだ?」
「出会ったころのドッペルを思い出したんだよ。君は、優しくないわけじゃないんだよな。ちょっと気は短いし乱暴だけど、根はいいやつなんだ。そういうところがあるから、僕は君のパーティーに入ったんだった」
「そうか……」
「ああ、そうだ」
そういえば、出会ったころは俺ももっとこいつに優しくできていたっけな。
それが、一緒にいるうちにだんだん甘えに変わっていって、ジャクソンを理由もなく見下して、ちょっとしたことがきっかけで苛ついて、どんどん険悪になっていったんだ。
相棒に出会って俺はいろいろわからされた。
同じ顔の人間、つまりは鏡を見ているようなものだからな。
人の振り見て我が振り直せとはよく言ったものだ。
相棒が現れて、ようやく俺は自分のことを客観視して見つめ直すことができた。
俺は、知らないあいだにひどく傲慢な人間になっていたのかもな。
相棒は俺よりもはるかに、いいやつで、あいつのほうがなんだか「ドッペル・ニコルソン」という男にふさわしい気さえした。
俺は、なれるだろうか、もっと「ドッペル・ニコルソン」としてふさわしい男に。
「じゃあ、俺はもう行くよ」
「あ、ああ……。そうか、じゃあ、元気で」
「ああ、お前もな」
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