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第26話 名案
しおりを挟む【Doppelgänger:4】
ほんとに不思議なことになった。
俺とまったく同じ顔、名前の人間がもう一人現れた。
俺はとりあえずそいつをホテルに連れ帰って、話をすることにした。
「なあ、カレンティーナ。こいつをどう思う?」
「どう思うって……。どこからどう見ても、ドッペルにそっくり……。まさか別人とも思えない。もしかして兄弟……? いや、それもないわよね……?」
俺のことを愛しているカレンティーナの目から見ても、こいつは寸分たがわず俺と同じ見た目をしているということだ。
もう一人の俺も、この街でずっと暮らしてきたっていうのか?
だったら、これまで出会わなかったのも不思議な話だ。
俺はもう一人の俺に話しかける。
「なあ、お前はあんなところでなにをしていたんだ? みたところ連れもいないようだし、ひとりでうろついていたのか?」
「そ、それが……実は……」
もう一人の俺は事の顛末を話し始めた。
どうやらロックスという名前の男から、パーティーを追放されたらしい。
「そういうわけで、僕は一人だったんだ……」
「おいおい、お前は俺のくせに、パーティーを追放されたっていうのかよ? なっさけねえなぁ……。お前はそれでもドッペル・ニコルソンかよ」
「う……ご、ごめん……」
まったく、俺とこいつが同一人物だってのは信じがたい。
この俺様がなんでパーティーを追放されないといけないんだ……?
俺はどっちかというと、追放する側の立場だろうが。
なんだか話をきいているだけで、だんだん腹が立ってきたな。
こいつを追放したそのロックスとかいう野郎にも腹が立つが、なによりなにも言わずに追い出されたこいつにも腹が立つ。
俺と同じ見た目をしているんだから、もう少ししっかりしてもらいたいところだ。
「どうやら俺たちは、見た目と名前は同じだが、性格はかなり違うようだな」
「そ、そうみたいだね……。なんというか、君は……僕にしてはかなり乱暴だ……」
「あん? 俺がおかしいっていうのか? 単にお前のほうがなよなよしてるだけなんじゃねえのか?」
「う……ご、ゴメン……。別に批判するつもりはないよ」
「まあいい」
だが、俺様がパーティーを追放されるなんていうのはやっぱり妙な話だ。
俺のスキル【豪運】は誰が使っても最強のスキルのはずだ。
俺がなにをしなくても、ひたすらに幸運が舞い込んでくる。
そんなスキルを持っていて、追放されるとは考えにくい。
「なあ、お前はなんで追放なんかされちまったんだ? こんなにいいスキルがあるっていうのによ」
「いいスキル……? 僕のスキルはゴミスキルだけど……」
「はぁ……? お前のスキルって、【豪運】じゃないのか?」
「僕のスキルは【ドッペルゲンガー】その意味も、効果もよくわからない、謎の外れスキルさ」
「そうなのか……。たしかに、きいたこともねえ単語だな……」
話をしてみてわかったが、どうやら俺たちのスキルは全く別のものらしい。
俺たちはたしかに二人とも、ドッペル・ニコルソン。同じ人間なのだが、ところどころ違っているようだ。
所持金なんかも全然違っていた。
そして出身地なども。
さらになにより、違うのは、こいつには病気の妹がいるってことだ。
俺には、妹なんかいない。
もう一人の俺は、病気の妹がいて、そのために金や薬がいるということを、涙ながらに語った。
くそ……泣かせるじゃねえかよ。
こいつは、ずっと外れスキルしかないくせに、妹のために身体張って、必死に生きてきたんだ。
俺には家族はいないが、その気持ちはよくわかるぜ。
さすがはもう一人の俺、なかなかいいやつじゃねえか。
「なあ、ドッペルよ」
「うん」
「いや……ドッペルと呼ぶのはややこしいな。俺もドッペルだからな。よし、これからは俺のことは【豪運】とスキル名で呼んでくれ。お前のことは【ゲンガー】と呼ぶことにしよう」
「うん、わかったよ」
「よし、それじゃあ行こうか」
「え……? 行くって、ど……どこへ……?」
まったく、俺のくせに察しの悪いやつだ。
「どこって、お前の妹のところへだよ」
「え…………? それって、どういう……」
「お前の妹、病気なんだろう?」
「そ、そうだけど……」
「だったら、そこへ連れていけ。俺が治す」
「治すっていったって……どうやって……」
「言っただろ? 俺のスキルは【豪運】だって」
「あ……」
「このスキルがあれば、エリクサーなんざ余裕で手に入んだよ。俺に任せておけって」
俺はアイテムボックスから、エリクサーを取り出した。
ほんとうはこれ一本しかないけど、ここで使わないでいつ使うっていう話だ。
「い、いいの……? そんな貴重なもの……僕なんかに……」
「はぁ? 当たり前だろ。いいに決まってんだろ。お前はもう一人の俺なんだ。だから、その妹は俺の妹同然に決まってるだろ。自分の妹助けるのに躊躇する馬鹿がどこにいんだよ」
「【豪運】……君ってやつは……。口調は乱暴だけど、意外といいやつなんだね……。さすがはもう一人の僕だ……! ありがとう! ほんとうにありがとう!」
「ふん、わかったらとっとといくぞ」
こうして、俺たちは【ゲンガー】の実家を目指して旅立った。
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