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第20話 嘆きの森

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 バッカスとクローンは二人だけで嘆きの森へとやってきた。
 クエストの目標は、嘆きの森でフトンベアを討伐することだ。
 フトンベアはまるで布団を背負っているかのような大きな毛皮を持つ巨大な獣。
 その毛皮は高級な布団を作る素材として重宝されている。
 まず二人は嘆きの森の中をあてもなく歩いていた。

「しかし、フトンベアってやつはいったいどこにいるんだ?」
「それは……わかりません。この森の中のどこかにはいるんでしょうけど……」
「っち、めんどうだな。お前、事前に調べたりはしてこなかったのかよ」
「そんなの……言われてないからしてませんよ……」
「はぁ? 無能だな。きがきかねえ……ドッペルでもそのくらいはやってたぞ。くそ」

 バッカスの言う通り、ドッペル(投石)はクエストにおいてあらゆる雑用をこなしていた。
 それはクエスト目標のよくあらわれる場所などをあらかじめリサーチしておくことなども、そうだ。
 ドッペルがいれば、いつも簡単にクエスト目標を見つけることができていた。
 しかし、今回バッカスはドッペルを追放してしまっているから、そうはいかない。
 
「おい、喉がかわいたな。水もってねえか?」
「水ですか……。すみません、持ってません」
「マジでつかえねえなぁ、おい。くそが。地図はねえのか? 森の中に川や泉くらいはあるだろう?」
「すみません、地図ももってません……」
「はぁ……? お前マジで無能だな。そのくらい、あのクソ無能のドッペルでさえやってたことだぞ?」
「す、すみません……」

 バッカスの言う通り、ドッペルは毎回地図の準備も万全だった。
 そのくらいは言われなくても当たり前にこなすのが、ドッペルだった。
 しかし、これまでその当たり前に甘えて、なにもしてこなかったのがバッカスとクローンだ。
 当然、バッカスは自分でそんなことはしない。
 クローンも、ドッペルを追い出しておきながら、今度は自分がそれをやる順番になったとは考えもしなかったのだ。
 どこまでも他人まかせな二人である。
 本来他のパーティーであれば、このくらいの雑用はみんなで手分けしてやるのが当たり前だ。
 それを今までドッペル一人に押し付けてきたツケがきた。
 
 二人が地図もなくただ当てもなく歩いていると……目の前にいきなりモンスターが現れた。
 現れたのは、カブレスネークという蛇の魔物だ。
 カブレスネークはその名の通り、毒をもっていて、噛まれるとその部分の肌がかぶれてしまうという厄介な敵だ。
 だがカブレスネーク程度なら、バッカスたちにも倒せる、ほどほどの敵だった。

「よし、俺に任せろ……!」

 バッカスは大きな斧を手に持って、戦闘のかまえに入った。

「うおおおおおおおお!!!!」

 カブレスネークに向かって大きく斧を振りかぶるバッカス。
 そしてバッカスは斧を振りかぶったまま、カブレスネークへと走って向かっていく。
 そのときだった。
 バッカスの踏んだ地面が、バッカスの足を絡めとる。
 なんと、そこには罠が仕掛けられていたのだった。
 バッカスの足にはつるが巻き付いて、バッカスは思わず盛大にこけてしまう。
 嘆きの森には、このように無数の罠が仕掛けられており、非常に危険だ。

 それゆえ、ドッペルも追放されるときにバッカスたちに忠告をしていた。
 嘆きの森にはいたずら好きのトラップゴブリンというモンスターが住んでおり、かれらがこのような罠をしかけているのだ。
 それをいつもはドッペルがあらかじめ見破り、解除していた。
 だがしかし、今回はドッペルがいないために、バッカスは思い切り罠にひっかかってしまったのである。

「いってえええええ……! くそ! 誰だよ、こんなところに罠しかけたやつは!」

 バッカスは斧を持ったまますっころんでしまい、身体を大きく擦りむいた。

「大丈夫ですか!? バッカスさん!」

 クローンが心配してそれに駆け寄る。
 しかし、バッカスはあろうことかクローンに罵声を浴びせた。

「うるせえ! てめえが罠みやぶらねえからこうなったんだろうが! 反省しろタコ! 俺様が罠にかからないようにするのもてめえの役目だろうが!」
「す、すみません……」

 怒られて、クローンは委縮してしまう。
 そのときだった。
 倒れたバッカスに、カブレスネークがここぞとばかりに近寄ってきた。
 そして、バッカスのふとももを一撃、がぶり。
 カブレスネークは噛みついた。
 バッカスの身体に激痛がはしる。

「ぎえええええええええええええええええええ!!!?」
「バッカスさん……!?」

 あまりの痛みに、倒れていたバッカスもあわてて起き上がる。
 そしてバッカスは怒りにまかせて、カブレスネークを斧で一刀両断。

「このくそがああ! 俺様になんてことしやがんだ! 死ねえええええ!」

 ――ズバ!

 カブレスネークはあっけなく散った。
 痛みに耐えながらも、なんとか罠を振りほどいて立ち直るバッカス。
 しかし、カブレスネークに咬まれた部分が、しだいにかぶれてくる。

「くそ……いてえしかゆい……。なんだこれ……」
「バッカスさん、すぐに解毒しないと……!」
「おう、解毒草はどこだ……?」
「そ、それが……持ってません……」
「は…………?」

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