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第19話 プライド
しおりを挟む【三人称】
ドッペル(豪運)にボコボコにされたバッカスは、相方のクローンに連れられて村の宿に戻っていた。
バッカスの傷はそこまで深くはなく、クローンが薬草やポーションで治療すれば問題ない程度だった。
しかし、あのバカにしていたドッペルからあんな仕打ちを受けたということで、バッカスには精神的なダメージのほうが大きかった。
「くそ……いったいなんなんだ、ドッペルのやつ……。あんなに強いはずがないんだ、あのドッペルが……。なんだか性格も違っていたし、まるで別人だった……。どういうことだ? 他人の空似か? いや、それにしては見た目がまったくの一緒だし……」
まだ痛む身体を、ベッドで休めながら、バッカスはうなだれる。
クローンがそれに同意する。
「そうですね……あれはどう見てもドッペルでした……。それだけに、不思議だ……。なんで【投石】のクソスキルしかもってないドッペルがあんなに強くなってるんですかねぇ? 意味がわからないです……」
「おかしいよなぁ、この俺様があのドッペルに負けるだなんて。ありえねえ、ゆるせねえ。これはなにかの間違いだ。あいつはスキルだけじゃなく、ステータスだってゴミの無能なはずだ。絶対になにか裏があるに違いねえ」
「裏といっても……急にスキルが増えたり変わることはありえないんですし。どういう仕組みなんですかねぇ……?」
「さあな。とにかく、次にあったらマジであいつは殺す。それだけは確かだ。このバッカス様が、ドッペルなんかに土をつけられたままで終われるかよ」
ずっと無能だと馬鹿にしてきたドッペルにボコボコにされた、という事実は、バッカスにとってはこれ以上ない屈辱だった。
「でも、やり返すにしても、どうするんです? あいつ、めちゃくちゃ強かったですよ?」
「ふん、大丈夫だ。こっちにも強い仲間ならいる。シェスカがな」
「ああ、確かに。彼女なら【魔法】のスキルもありますからね。支援魔法なんかで助けてもらえれば……」
「そういうことだ。とりあえず、身体を休めながらシェスカを待とう。ちくしょう、まだ殴られたところが痛いぜ……」
とりあえずその日は、バッカスたちは宿でそのまま寝ることにした。
そして翌日、夕方になっても、もちろんシェスカは訪れなかった。
なぜならシェスカなどという人間ははじめから存在しないし、すべてはクララの手のひらの上だからだ。
「おいクローン、これはどういうことだ? シェスカはなんでまだ来ねえんだ? いろいろ準備があるにしても、さすがに長すぎるだろ……」
「確かに……おかしいですね……。もしかして、すっぽかされた……?」
「くそ……! おい……いったいどういうことなんだよ。どうなっちまったんだこの世界は! 俺様がドッペルなんかにボコられるだけじゃなく、シェスカまで来ないだと……!?」
「僕たち、騙されたみたいですね……」
「くそが……! おかしなことばかり続きやがる。なんでこの俺様がこんな目にあわないといけないんだ! 高額な契約金まで支払ったってのによぅ!」
怒りにまかせて、バッカスは宿屋のぼろい壁を蹴りつけた。
「もしかしたら、最初から契約金目当てで僕たちを騙したのかもしれませんね……」
「くそが、あの女……。シェスカめ。あいつも次会ったら絶対に殺す」
「っていっても……シェスカも【魔法】の使い手ですよ? どうやってやり返すんですか……?」
「うるせえ! こんだけ舐めたまねされて、黙ってられるかってんだ! とにかく殺すったら殺す! 方法なんざそのとき考えりゃいいんだ! 俺様に不可能はねえ! くそ、どいつもこいつも俺様を馬鹿にしやがって……」
バッカスはこれまでに味わったことないほどの屈辱を受け、怒りに燃えていた。
ドッペルに殴られ、おまけにシェスカから待ちぼうけを喰らった。
もともとあまり賢いとは言えないバッカスだったが、怒りがさらにその判断を狂わせる。
「おいクローン、もういい。シェスカはどうせ来ない。俺たち二人で嘆きの森へいくぞ」
「えぇ……!? ちょっと待ってくださいバッカスさん。さすがに二人で嘆きの森はむりですよ……! あきらめて、ギルドにクエストは棄権すると言いましょう」
「うるせえ! こんだけ舐めたことされて、おとなしく引き下がれるかよ。俺はいまめちゃくちゃ腹が立ってんだ。モンスターでも殴らねえとどうにかなりそうだ。それに、シェスカに契約金だまし取られたうえに、ギルドにまでクエスト違約金を払えってか? そんなの絶対にごめんだぜ」
「えぇ……で、でもぉ……。それとこれとは関係ないですってぇ……。冷静になりましょう。嘆きの森は危険です」
「うるせえ! てめえ俺に指図するってのか?」
「ご、ごめんなさい……そういうつもりじゃ……」
「わかったら、とっとと行くぞ。俺様が最強だってことを証明してやるよ」
冒険者というのはもともとみんなプライドの高い連中だ。
とくにバッカスという男はまっすぐで単純な男だ。
一度決めたらなかなか自分を曲げない、頑固な男。
ドッペルに負けて、女に騙されて、その上クエストにも挑戦せずに街に逃げ帰るなど、バッカスのプライドが許さないのだ。
たとえそこにどれほどの危険があろうとも、自分の実力を過信して突き進むのがこの男。
まさにクララの策略通り、手のひらで見事に踊っているのだ。
クララとしては、これでバッカスたちが嘆きの森で死んでくれれば証拠隠滅にもなる。
さらにおかしなことに、マヌッケス、ノーキン、ワルビルたちもまた、同じような状況にあった。
彼らもまた、バッカスと同じくドッペル(豪運)にボコボコにされ、クララに騙された男たちだ。
そして彼らもバッカス同様に単細胞で怒りっぽく、プライドが高い性格だ。
そんな三人がどのような行動をとったかは想像に難くない。
彼らもまた、バッカスたちと同じようにして、二人だけのパーティーメンバーで嘆きの森へ向かおうとしていた。
こうして今、馬鹿4人(クローンら相方を入れれば合計8人か)が一斉に嘆きの森へと向かおうとしていた。
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