16 / 34
第16話 嘘つき
しおりを挟むシェスカ・フランティーナは嘘つきだ。
その名前すらも、偽名である。
シェスカ・フランティーナなどという人間は最初から存在しない。
なので、冒険者ギルドでパーティーメンバー登録をしても名前から足がつくことはない。
偽名を使っても、たいていの場合、冒険者ギルドはそこまで深く調べることはない。
なぜなら、たいていの冒険者が登録後半年以内に死ぬからである。
冒険者ギルドは、いちいち冒険者の素性なんか調べたりしないのだ。
彼女の本名は、クララ・フロレンツといった。
クララは嘘つきだ。
彼女は生まれながらの詐欺師だった。
クララは同様の手口で、冒険者たちから契約金をせしめる詐欺師である。
冒険者たちはみなプライドが高く、決して自分たちが騙されたことを警察に訴えたりしない。
なので、騙すのなら冒険者たちはうってつけの相手なのだった。
クララは、そうやって詐欺で生計を立てていた。
シェスカ――もといクララのスキルは【魔法】ではない。
彼女の本当のスキルは【変身】である。
それは、あらゆる人物の姿に【変身】することのできるスキルだ。
偽名を使って冒険者登録をしても、見た目が同じだと、ギルドにバレてしまうため、重複してパーティーメンバー登録することはできない。
だが、この変身スキルをつかえば、見た目さえも自由自在なのだ。
詐欺師であるクララにとって、この変身スキルほど相性のいいものはなかった。
彼女はこのスキルと持ち前の頭の良さを利用して、数々の冒険者たちから契約金をだまし取ってきたのだ。
そして今日もまた、彼女は騙すために、姿を変える。
「それにしても、さっきのバッカスとかいう男。私のお尻を舐めるように見てきて、マジでキモかったわぁ……。あんなやつ、絶対にパーティーなんか組みたくないっての」
バッカスたちを見送ったあと、クララは次のターゲットと接触する予定を入れていた。
彼女は人目を避けて、商業施設の店内へと入る。
クララはトイレの個室の中に隠れると、【変身】スキルを使った。
さきほどまで『シェスカ』と名乗っていた姿から、まったくの別人へと変身する。
これで、次にバッカスが彼女とすれ違っても、あのシェスカだとはわからないだろう。
変身しトイレから出ると、クララは再び冒険者ギルドへと引き返す。
今日はまだ数人会う予定がある。
もちろん、バッカスにやったのと同様の手口で契約金をだまし取る相手だ。
「どうも今週は新メンバー募集の張り紙が多かったのよねー。なんでかしら? まあ、私が運がいいってことね」
冒険者ギルドに戻り、クララは次なるターゲットに接触する。
「あんたが、メーデルか」
そう声をかけてきたのは、男二人組の冒険者パーティーだ。
クララは今回、メーデルという偽名を使っている。
「ええ、そうよ。あなたがマヌッケス?」
「ああ、そうだ。俺がマヌッケスだ。こっちはマルコ」
「よろしく」
クララが次に騙そうとしていたその男、彼はなんと、マヌッケスと名乗った。
そう、マヌッケスといえば、ドッペル(拡大)を追放したあの男である。
なんと奇しくも、クララのターゲットとなったのは、どちらもドッペルと関わりのある人物だった。
それもそのはず、バッカスもマヌッケスも、ほぼ同時にパーティーメンバーを追放したわけだ。
なので、彼らがほぼ同時期に新しいパーティーメンバーを募集したのも、なんらおかしなことではない。
そこにちょうど、クララが目を付けたのだ。
ドッペルのあずかり知らぬところで、なんとその元パーティーメンバーたちが、まさか詐欺にかけられていようとは……そんなこと、今はまだ知る由もない。
その後クララは、マヌッケスたちに、バッカスにしたのと同様の手口を使う。
契約金だけ先に受け取ると、買い物があるといって、いったんパーティーを離脱。
あとは変身で姿を変えれば、もはやメーデルなどという人物が存在した証拠はどこにもない。
クララは足がつくことなく、多額の契約金を手に入れるというわけだ。
そして、マヌッケスたちは、バッカスたちと同様に、嘆きの森を目指す。
もちろん、マヌッケスたちがいくら待っても、メーデルは合流しない。
クララがカモを嘆きの森へ誘導するのには、わけがあった。
嘆きの森は非常に危険な場所だからだ。
嘆きの森へのクエストを受けてしまった手前、マヌッケスたちはクララがやってこなくても、二人だけで嘆きの森へいくことになる。
そうなれば、準備不足でメンバーも足りない二人は、そのまま嘆きの森で死ぬ可能性が高い。
死んでしまえば、万が一にも訴えられることもないので、クララにとってはそれが都合がいいのだ。
もちろん、カモたちが嘆きの森のクエストを途中で辞退したり、引き返してくる可能性はある。
だが、たいていの場合、冒険者というのはプライドが高い。
そのため、クエストを途中で破棄するなど許せないという性格のものが多いのだ。
クエスト棄権は、少額ではあるが違約金をギルドに支払わなくてはならない。
金にケチな冒険者は、違約金を払うことを嫌がり、無理やりにでもクエストをクリアしようと無茶をするのだ。
なにもかもが、クララの策略なのだった。
マヌッケスたちを見送ったクララは、再び物陰に隠れると、【変身】を使った。
「さて、次のカモはどんな間抜け面なのかしらね」
次にクララが待ち合わせたのは、ノーキンという男だった。
そうこのノーキンという男もまた、ドッペル(爆発)を追放した男だ。
なんの因果か、クララのカモとなるのはどれもドッペルと関わりのある人間ばかりだった。
「お前がハルナか」
「ええ、あなたがノーキンね?」
「ああ、よろしくな」
クララはまたしても偽名と変身を使い、ノーキンから契約金をだまし取る。
そしてノーキンが嘆きの森へと向かったあと、クララはまた別の姿に変身した。
次にクララが待ち合わせたのは、ワルビルという男。
ワルビルもまた、ドッペル(融合)を追放した男だった。
クララはワルビルからも同じ手口で契約金をむしり取ると、また変身して姿を変えた。
ワルビル相手には、クララはジェシカという偽名を使った。
今日だけで、クララは4人から契約金をだまし取ったことになる。
「みんな馬鹿よねぇ。それにしても、今日は大量収穫ね。4人も騙せちゃった。さーて、あと1人残ってるのよねぇ」
この日、クララはまだもう一人と待ち合わせをしていた。
クララが変身して冒険者ギルドへ戻ると、その男は既に待機していた。
「あなたがドッペルさん?」
「そういうお前は、掲示板で約束したミシェルか」
「ええ、そうよ。よろしくね」
「ああ、ドッペル・ニコルソンだ。よろしくな。こっちはカレンティーナだ」
クララと待ち合わせていたその男は、ドッペルと名乗った。
そう、このドッペルは【豪運】のスキルを持ち、ジャクソンを追放したあのドッペルである。
酒場から出てくるところを見た1~3人目のドッペルたちが「見なかったことにしよう」と言った、あの4人目のドッペルだった。
23
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【R18】聖女は生贄として魔王に捧げられました。 勝手に救われた気になっていますが大丈夫ですか?
迷い人
ファンタジー
『半端者』『混ざり者』『廃棄者』と呼ばれる獣交じりとして生まれた私ラフィだが、その体液に妙薬としての効果が偶然にも発見された。 ソレを知った領主の息子『ザレア』は、自らが聖人として存在するために私を道具とする。
それから2年に渡って私は監禁され、道具とされていた。
そこにいるのに見ることも触れることも出来ない都市。
そんな都市に、魔物を統べる王からの来訪予告が届いた。
そして、私は魔王への貢物として捧げられる。
「どうか、貴重なその女を捧げますから、この都市の民はお助け下さい」
自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜
ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。
その一員であるケイド。
スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。
戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。
それでも彼はこのパーティでやって来ていた。
彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。
ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。
途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。
だが、彼自身が気付いていない能力があった。
ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。
その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。
自分は戦闘もできる。
もう荷物持ちだけではないのだと。
見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。
むしろもう自分を卑下する必要もない。
我慢しなくていいのだ。
ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。
※小説家になろう様でも連載中
異世界帰りの勇者は現代社会に戦いを挑む
大沢 雅紀
ファンタジー
ブラック企業に勤めている山田太郎は、自らの境遇に腐ることなく働いて金をためていた。しかし、やっと挙げた結婚式で裏切られてしまう。失意の太郎だったが、異世界に勇者として召喚されてしまった。
一年後、魔王を倒した太郎は、異世界で身に着けた力とアイテムをもって帰還する。そして自らを嵌めたクラスメイトと、彼らを育んた日本に対して戦いを挑むのだった。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる