5 / 34
第5話 投石
しおりを挟む「よし、俺が投石で、まず奴らの気を引く」
「わかった」
俺はチーズギューの群れに向かって、投石をした。
しかし、チーズギューは素早く、それを避ける。
チーズギューは運動神経がいいし、警戒心が強いから、普通に投石をして、拡大したのだと、倒せないだろう。
だが、こちらへ気を引くことには成功した。
チーズギューの群れは俺たちのほうをにらみつける。
そして、勢いをつけて、こちらに向かって突進してきた。
「よし……!」
「グモオオオオオオオ!!!!」
――ドドドドドドドドド。
チーズギューは一度突進しだすと、急には止まれない。
俺は目の前に、投石をした。
そして――。
「今だ……! 目いっぱい大きくしろ!」
「わかった! 拡大!」
拡大が、拡大スキルを放つ。
すると、チーズギューの目の前に、いきなり超巨大な岩が出現する。
さっきまで俺たちのことを追いかけていたはずなのに、その間に大岩が出現したのだ。
チーズギューたちは、急に現れた岩に驚いて、ブレーキをかけようとする――が、止まれない。
そのまま、目の前の大岩に、チーズギューたちは突進していった。
――ドシーン!!!!
チーズギューたちは堅い大岩に、頭からぶつかって、脳震盪を起こす。
そのまま、チーズギューたちはクラクラと混乱して、倒れた。
「よし、とどめだ!」
俺は倒れたチーズギューたちの頭上に投石する。
それを拡大が拡大し、チーズギューたちの頭蓋に巨石が落下する。
――ズドーン!!!!
チーズギューたちはきゅうと鳴いて絶命した。
「よし……! チーズギュー5頭討伐完了だ!」
「すげえ! 俺たち、やったな!」
「ああ……!」
これは、自分でも驚くような成果だった。
なにせ、俺には【投石】という雑魚スキルしかなかった。
だが、どうだ? 今や、その投石が役に立ったではないか!
ハズレスキルだと思われてた投石で、俺はチーズギューを仕留めた!
ステータスにもスキルにも恵まれなかったこの俺が、自力でモンスターを仕留めたのだ。
それは、俺が二人いたから可能だったわけだ。
俺たちはハイタッチで喜んだ。
ギルドからは、クエストの報酬として、2000Gが支払われた。
よし、これだけあれば、しばらくの宿代と、食費になるぞ。
なんとか俺たちだけでも、野垂れ死には避けられそうだ。
この調子なら、俺たちだけでも冒険者としてやっていけるかもしれない。
そしてなんといっても、チーズギューだ。
ギルドにチーズギューの死体をもっていくと、解体してくれた。
チーズギューの中で、武器や防具の素材となる部位は、ギルドが持って行く。
だが、チーズギューの肉とチーズは討伐した俺たちのものだった。
俺たちはさっそく、チーズと肉をもって、最寄りの食堂に駆けこむ。
俺がよくいく食堂――ぽんぽこ堂へとやってきた。
「おい、ここにはよく来るのか?」
「ああ、そうだけど?」
拡大が俺に尋ねてきた。
「実は俺もだ……」
「なに……!? マジか……」
「どういうことなんだろうな? 俺たち、同じ街で生活していて、同じ食堂に通っていた。今まで、よく鉢合わせにならなかったな?」
「そうだな……。その辺は謎だな……。まあいいや、さっさと肉が食いたい。細かいことは腹ごしらえの後だ」
「お、そうだな」
俺はキッチンへ行くと、食堂の親父に声をかけた。
「おい親父、これを調理してくれ!」
「おお、ドッペルじゃねえか。って、ドッペルが二人……!?」
「あ…………」
拡大のやつめ、変装でもしてくれればいいのに、あくまで自分がオリジナルなつもりなのだろうか。
拡大は、決して変装したり、隠れたりすることを嫌がった。
まあ、俺だって、俺がオリジナルだと思っているから、そこはお互い様か。
「どういうことなんだ? ドッペルが二人……? お前さん、兄弟なんかいたのか?」
「あ、ああ……。こいつは俺の兄だ。最近よく会うようになってな。と、とにかく……。チーズギューを仕留めたんだ。調理してくれ」
「ああ、かまわないが……。お前さん、パーティメンバーはどうしたんだ?」
「あ、ああ……。パーティは解散したんだ。今は兄弟でやってる」
「なるほど、なにか訳ありらしいな? まあ細かいことはきかねえよ。よし、待ってな。今調理してやる」
「ああ、ありがとう。そうだ。チーズギューは5頭分ある。二人じゃ食べきれないから、せっかくだから、今日は店にいるみんなに振舞ってやってくれ。俺の奢りだ。この店にはいつもお世話になってるからな」
「おお……! そうか、それはありがてえ、俺もありがたくいただくよ。まあ、お前さんは毎日きてくれるからな。ほんと、いい常連だよ」
「毎日……?」
どういうことなのだろうか……?
俺は、せいぜい、この店にくるのは、週に一度くらいなものだ。
常連ではあるけど、毎日通うほど美味くはないぞ?
俺は拡大と顔を見合わせる。
「おい、お前、そんなにこの店にきてたのか?」
「いや、俺は週一だが……? お前じゃないのか?」
「いや、俺も週一程度しかこない」
「どういうことなんだ……?」
まさか……いや、まさかな……。
俺たち二人以外にも、俺がいるのか……?
そんなことって……。
不思議に思いながらも、俺たちはとりあえず、テーブル席に座る。
キッチンの奥から、食堂の親父が、店にいるみんなに大声で話しかける。
「おいてめえら! 今日はなんとチーズギューが5頭分も手に入った! そこに座っているドッペル兄弟からの奢りだとよ! ありがたくいただこうぜええええ!!!!」
すると、食堂は歓喜の声で大盛り上がりになった。
酒飲みたちがいっせいに立ち上がって、雄たけびを上げる。
店はこれまでにないほど振動していた。
「うおおおおおおおおお! チーズだ! 肉だ! 最高だ!」
「ドッペルに感謝! ドッペル万歳!」
「FOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」
なんだか、ここまで喜んでもらえると、嬉しいな。
苦労して倒した甲斐があったというものだ。
そのときだった。
「ん……? ドッペルだと……?」
俺たちの目の前に、いきなり見知らぬ男がやってきた。
男は成人男性二人ぶんくらいある大男で、いかつい目つきをしていた。
「おい、ドッペルじゃねえか。こんなところで何してやがんだ? チーズギューなんてどこで手に入れたんだよ?」
おい、ドッペルじゃねえか。と言われても……こいつは誰だ?
俺はこんな奴知らないんだけど……?
拡大のほうを見やる。
しかし、拡大も、知らない知らないと、首を横に振る。
どうやら俺たち、どちらの知り合いでもなさそうだ。
だが、男はなぜか俺たちの名前を知っている。
「というか……? ん……? なんでドッペルが二人いるんだ……? まあ、いい。お前なぁ。あまり調子に乗るなよ? 俺様に追い出されたばかりだってのに、やけに調子よさそうじゃないか?」
追い出された……?
どういうことなんだ。
こんな奴にはあったことすらないのに……。
「おい、待ってくれ。さっきから何の話をしているんだ? よくわからないよ。確かに俺はドッペルだが。あんたのことなんか知らない……。どこかで会ったか……?」
俺がそう言うと、男は怒りをあらわにした。
まるで火がついたかのように、血管を浮き立たせ、怒鳴り散らす。
「ああん!? 俺様を憎むあまり、他人のフリしようってのか!? てめえ、ドッペルのくせにいい度胸じゃねえか。チーズギューの差し入れしたりして、てめえ調子にのってんのか!?」
「いや……本当に知らないんだ……。人違いじゃないのか……?」
「てめえええええ殺す……!!!! このノーキン様を忘れたとは言わせねえぞ!」
男はいきなり、俺たちに殴りかかろうとしてきた。
しかし――。
「おいおい、店で暴れられたら困る。これ以上なにかするなら、出ていってもらおうか?」
キッチンから親父がでてきて、男のことを止める。
それに便乗するように、店中の客たちから、ノーキンに向かって、罵声が飛ぶ。
「そうだそうだ! 喧嘩はやめろー!」
「ドッペルは肉を食わせてくれるんだぞ!」
「ドッペルの敵は俺たちの敵だ!」
「おっさん失せろ! うぜえんだよ!」
「邪魔すんじゃねー!」
さすがにここまで冒険者たちに囲まれて、文句を言われたのでは、ノーキンもたまらないようだ。
大人しく、ノーキンはこぶしをひっこめた。
そして、舌打ちをして、不満そうに店を出ていく。
「っち……。今日のところは許してやるよ……。だが次に街であったら容赦しねえからな……」
俺は拡大と顔を見合わせる。
「なんだったんだ今のは……」
「さぁ……」
「考えたくはないんだがな……。これはつまり……」
「ああ、そういうことだろうな……」
「「どうやら俺はもう一人いるらしい……」」
――――――――
♡で応援よろしくお願いします
26
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ
真輪月
ファンタジー
お気に入り登録をよろしくお願いします!
感想待ってます!
まずは一読だけでも!!
───────
なんてことない普通の中学校に通っていた、普通のモブAオレこと、澄川蓮。……のだが……。
しかし、そんなオレの平凡もここまで。
ある日の授業中、神を名乗る存在に異世界転生させられてしまった。しかも、クラスメート全員(先生はいない)。受験勉強が水の泡だ。
そして、そこで手にしたのは、水晶魔法。そして、『不可知の書』という、便利なメモ帳も手に入れた。
使えるものは全て使う。
こうして、澄川蓮こと、ライン・ルルクスは強くなっていった。
そして、ラインは戦闘を楽しみだしてしまった。
そしていつの日か、彼は……。
カクヨムにも連載中
小説家になろうにも連載中
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
エデンワールド〜退屈を紛らわせるために戦っていたら、勝手に英雄視されていた件〜
ラリックマ
ファンタジー
「簡単なあらすじ」
死んだら本当に死ぬ仮想世界で戦闘狂の主人公がもてはやされる話です。
「ちゃんとしたあらすじ」
西暦2022年。科学力の進歩により、人々は新たなるステージである仮想現実の世界に身を移していた。食事も必要ない。怪我や病気にもかからない。めんどくさいことは全てAIがやってくれる。
そんな楽園のような世界に生きる人々は、いつしか働くことを放棄し、怠け者ばかりになってしまっていた。
本作の主人公である三木彼方は、そんな仮想世界に嫌気がさしていた。AIが管理してくれる世界で、ただ何もせず娯楽のみに興じる人類はなぜ生きているのだろうと、自らの生きる意味を考えるようになる。
退屈な世界、何か生きがいは見つからないものかと考えていたそんなある日のこと。楽園であったはずの仮想世界は、始めて感情と自我を手に入れたAIによって支配されてしまう。
まるでゲームのような世界に形を変えられ、クリアしなくては元に戻さないとまで言われた人類は、恐怖し、絶望した。
しかし彼方だけは違った。崩れる退屈に高揚感を抱き、AIに世界を壊してくれたことを感謝をすると、彼は自らの退屈を紛らわせるため攻略を開始する。
ーーー
評価や感想をもらえると大変嬉しいです!
導きの暗黒魔導師
根上真気
ファンタジー
【地道に3サイト計70000PV達成!】ブラック企業勤めに疲れ果て退職し、起業したはいいものの失敗。公園で一人絶望する主人公、須夜埼行路(スヤザキユキミチ)。そんな彼の前に謎の女が現れ「承諾」を求める。うっかりその言葉を口走った須夜崎は、突如謎の光に包まれ異世界に転移されてしまう。そして異世界で暗黒魔導師となった須夜埼行路。一体なぜ異世界に飛ばされたのか?元の世界には戻れるのか?暗黒魔導師とは?勇者とは?魔王とは?さらに世界を取り巻く底知れぬ陰謀......果たして彼を待つ運命や如何に!?壮大な異世界ファンタジーが今ここに幕を開ける!
本作品は、別世界を舞台にした、魔法や勇者や魔物が出てくる、長編異世界ファンタジーです。
是非とも、気長にお付き合いくだされば幸いです。
そして、読んでくださった方が少しでも楽しんでいただけたなら、作者として幸甚の極みです。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
討たれた魔王の息子は、自らの出生を知らずに、すくすく育つ
あさぼらけex
ファンタジー
魔界の存在が、人間に知られて50年が過ぎた。
平和に暮らす魔族達であったが、勇者を名乗る人間達から、迫害を受ける。
そして魔族の王、魔王が討たれる。
魔王は我が子達に、平和に暮らす事を望む
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる