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第1話 一人目のドッペル
しおりを挟む【Doppelgänger:1】
「ドッペル・ニコルソン。てめえは今日でこのパーティを追放だ。理由はもちろん、わかるよなぁ?」
俺をにらみつけて、いきなりそんなことを言ってきたのは、パーティリーダーのバッカスだ。
バッカスは体が大きく、威圧感のある大男だ。ただし、頭は悪い。
そんなバッカスが大声で叫ぶものだから、酒場にいた全員がこっちを向いた。
あまり注目されるのは好きじゃないんだけどな……。
なにもこんな大勢の前で追放を言い渡さないでもいいじゃないか。
というかそもそも、なんで俺が追放されるってことになるんだろうか。
俺は納得がいかなくて、抗議する。
「ちょっと待ってくれ。理由がわからない。いきなりすぎるだろう……? 俺だって生活があるんだ。いきなり追放されるなんて困る。俺は明日からどうやって暮らしていけばいいんだ?」
「はぁ? てめえの生活なんか知ったことかよ。理由もわからないうすのろが。マジでバカだなてめぇは」
バッカスにだけは馬鹿だと言われたくない。
なぜなら、こいつは文字の読み書きもできなければ、計算もできない、しかも間違えて自分で自分の足を踏んだりするような間抜けだ。
理由も説明せずに追放されるなんて、あまりにも理不尽だろう。
「理由は一つだ。お前が外れスキルしか使えねえゴミカスだからに決まってんだろうがよ!」
バッカスが言うと、それにパーティメンバーのクローンが同調する。
クローンは、背の高いインテリ気取りの男だ。
実際は自分で思っているほど賢くはない。
「その通りです。バッカス様の言う通りです。この世界では、一人につき一つ、神様からスキルが与えられる――。人間が使用できるスキルは、個人ごとに決まった、その一種類のみです……」
「そんなことは知っている。それがどうしたんだ?」
「それなのに、あなたのスキルときたら……。つかえないにもほどがあります。なんですか……【投石】って……。ごみじゃないですか……」
「そのことか……」
クローンの言う通り、この世界の人間はみな、一人一個のスキルを持っている。
そして、スキルは新しく覚えたりすることはできず、必ず一人につき一個と決まっている。
だからこそ、どんなスキルを持って生まれるかが非常に重要だ――とくに冒険者の場合は。
この世界では、才能――どんなスキルを持っているかでほぼすべての人生が決まる。
生まれつきの才能だけで判断されて、努力をしても無駄と言われてしまう。
そして、クローンが今言ったように、俺のスキルは――【投石】
ただ石ころを生成し、それを投げるというだけのスキルだ。
あまり大きな石は投げることができない。
あくまで俺の筋力で投げられるサイズのものしか生成できないのだ。
だからまあ、ただ投げるだけのスキルで、ようはゴミスキルだ――。
そのことについては、俺も自分でわかっている。
確かに俺のスキルはゴミスキルだ。
石を投げても敵は倒せない。
ただ敵の注意をひいたりすることにしか使えない。
だけどなぁ――。
「だが待ってくれ。俺のスキルはたしかに使い物にならない。だけど、それ以外の仕事はきっちりこなしていただろう? スキルだけで判断しないでくれ。俺は役に立ってたはずだ」
このパーティの雑用や、荷物持ちは、全部俺の仕事だった。
地図を用意したり、宿を用意したり……ありとあらゆる雑用をこなした。
頭の悪いこいつらのかわりに作戦をたてたり、交渉をしたりも俺の仕事だ。
俺はスキルに恵まれなかったから、その分努力をした。
努力でカバーできる範囲は限られているということはわかっている。
だけど、だからといって努力をしない理由にはならない。
俺は才能がないから、人一倍努力したし、冒険者として必要な知識をつけた。
毒キノコかどうかを調べたり、敵のつよさや弱点を調べるのも俺の仕事だ。
俺はこのパーティの頭脳だった。
そんな俺を、スキルがゴミだからって、今更追放するのかよ?
「うるせえよ! お前はスキルがゴミのくせに、いつも偉そうで、ムカつくんだよ! 冒険者としての知識があるからかなんだか知らねえけどな、俺に指図するんじゃねえよ!」
バッカスは酒場のテーブルを叩いて、怒りをむき出しにした。
「いや……別に俺は知識をひけらかしているつもりはない。ただ、危険を未然に知らせているだけだ」
俺が放っておくと、こいつらは勝ち目のない敵に挑んで、すぐに全滅するだろうからな……。
俺は実際にこのパーティで役に立っていた――それなのに追放するなんて、ただのスキルによる差別でしかない。
「しかもお前はステータスオール1のゴミだ! 戦闘では使い物にならないじゃねえか」
「確かにそうだが。だが、戦闘以外では俺なしでは立ち行かないはずだ」
俺はステータスにも恵まれていない。
それも確かに事実だ。
だがそれはすでにわかったうえで、俺は他の部分で役に立とうと頑張っていた。
ステータスやスキルは才能だから、努力ではどうしようもない。
だから俺は、他のところで役に立とうと知識をつけたし、頭を使った。
努力だけは誰にも負けないはずだった。
そして実際、俺は戦闘以外ではものすごく役に立っていたはずだ。
それなのに、この俺を追放するだなんて。
「いいからさっさと出ていきやがれ! お前にはもう限界なんだよ! 出て行かないってんだったら、殺すぞ?」
「本当にいいのか? 俺がいないと、お前たちはなにもできないだろう?」
「馬鹿にするんじゃねえ! お前なんかいなくても問題はない!」
まあ、そこまでいうのなら……。
俺も止めはしない。
これ以上食い下がると、さすがにバッカスも手を出してきそうだからな。
バッカスは頭はおかしいが、スキルだけは恵まれている。
普通に戦いになったら、俺に勝ち目はない。
この世界は、そういうことがまかり通っている。
どんなに知能のないやつ、どんなに怠惰なやつでも、スキルさえ恵まれていれば、出世するし、他人にいうことを聞かせられる。
だけど、俺みたいな、スキルに恵まれない人間は、いくら努力しても、いくら知識をふやしても、こうやってスキル強者の一声で解雇されてしまうのだ。
ほんとうに理不尽だが、それがこの世界の理なのだ。
俺はしぶしぶバッカスに従って、酒場を一人で後にすることになった。
「一応、抜ける前に伝えておく。嘆きの森にはいかないほうがいい。俺がいないと、あそこは危険だ」
バッカスたちには一応、恩義もある。
これまでいっしょにパーティとして活動して、食わせてもらってきたんだ。
スキルに恵まれない俺をやとってくれるパーティは少ないからな。
バッカスは同じ村出身ということで、これまで一緒に活動してくれた。
だから最後に、バッカスたちのことを思って、俺は忠告をしておいた。
しかし、俺の優しさはバッカスには伝わらないようだ。
「は? 黙れよカス。お前のいうことなんかもう二度ときかないね。お前のかわりに、さらに優秀なメンバーをすでに雇ってあるんだ。だから大丈夫だ。しかも今度のメンバーは女だからな。お前と違って、いろいろと使えるぜ」
「そうか……。まあ、俺より優秀だというのなら、大丈夫だろう……。一応、俺は伝えたからな」
「うるせえな。いつまでも偉そうな野郎だ。さっさと出ていって、野垂れ死にやがれ」
「一応、いままでありがとうな」
「きもいな。俺はそんなことちっとも思ってねえよ!」
「ふん……」
俺は酒場をあとにした。
さて、これからどうしようかな……。
俺は職を失ってしまった。
これからいくところもない。
スキルが【投石】しかない俺を雇ってくれるようなところも、なかなか見つからないだろうしな……。
俺はいくあてもなく街をふらふらとさまよう。
よく考えたら、俺はなかなかピンチなのではないか?
金もあまり多くはもらっていなかったので、すぐに底をつきるだろう。
大人しく田舎の村に帰って農業でもするか?
だがそのためにも、帰る旅費すらない。
物乞いでもするしかないんじゃないだろうか……。
普通に、困ったな……これ……。
さすがの俺も途方に暮れてしまった。
俺は下を向いて、とぼとぼと、夕暮れの街を歩く。
すると、
――ドン。
下を向いて歩いていたせいで、人とぶつかってしまった。
これは申し訳ない。
俺は頭を上げて謝罪する。
「ごめんなさい……」
「い、いえ。こちらこそ……」
そのときだった。
ぶつかってきた人物と目が合った。
お互いに、まるで幽霊でも見たかのような顔をしていた。
なぜなら、そこには俺がいた。
ぶつかってきた相手の顔は、なんと俺にそっくりだった。
そっくりというか、服装からなにからまで、俺そのものだった。
俺が、その場に二人いた。
いったいこれはどういうことなんだ。
俺たちは声を揃えて驚いた。
「「は…………?」」
=============
ドッペル・ニコルソン
男
17歳
Lv 1
HP 11
MP 11
攻撃力 1
防御力 1
魔法攻撃力 1
魔法防御力 1
敏捷 1
運 1
スキル
・投石
=============
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