上 下
1 / 34

第1話 一人目のドッペル

しおりを挟む

【Doppelgänger:1】

 
 
「ドッペル・ニコルソン。てめえは今日でこのパーティを追放だ。理由はもちろん、わかるよなぁ?」

 俺をにらみつけて、いきなりそんなことを言ってきたのは、パーティリーダーのバッカスだ。
 バッカスは体が大きく、威圧感のある大男だ。ただし、頭は悪い。
 そんなバッカスが大声で叫ぶものだから、酒場にいた全員がこっちを向いた。
 あまり注目されるのは好きじゃないんだけどな……。
 なにもこんな大勢の前で追放を言い渡さないでもいいじゃないか。
 というかそもそも、なんで俺が追放されるってことになるんだろうか。
 俺は納得がいかなくて、抗議する。
 
「ちょっと待ってくれ。理由がわからない。いきなりすぎるだろう……? 俺だって生活があるんだ。いきなり追放されるなんて困る。俺は明日からどうやって暮らしていけばいいんだ?」
「はぁ? てめえの生活なんか知ったことかよ。理由もわからないうすのろが。マジでバカだなてめぇは」

 バッカスにだけは馬鹿だと言われたくない。
 なぜなら、こいつは文字の読み書きもできなければ、計算もできない、しかも間違えて自分で自分の足を踏んだりするような間抜けだ。
 理由も説明せずに追放されるなんて、あまりにも理不尽だろう。

「理由は一つだ。お前が外れスキルしか使えねえゴミカスだからに決まってんだろうがよ!」

 バッカスが言うと、それにパーティメンバーのクローンが同調する。
 クローンは、背の高いインテリ気取りの男だ。
 実際は自分で思っているほど賢くはない。

「その通りです。バッカス様の言う通りです。この世界では、一人につき一つ、神様からスキルが与えられる――。人間が使用できるスキルは、個人ごとに決まった、その一種類のみです……」
「そんなことは知っている。それがどうしたんだ?」
「それなのに、あなたのスキルときたら……。つかえないにもほどがあります。なんですか……【投石】って……。ごみじゃないですか……」
「そのことか……」

 クローンの言う通り、この世界の人間はみな、一人一個のスキルを持っている。
 そして、スキルは新しく覚えたりすることはできず、必ず一人につき一個と決まっている。
 だからこそ、どんなスキルを持って生まれるかが非常に重要だ――とくに冒険者の場合は。
 この世界では、才能――どんなスキルを持っているかでほぼすべての人生が決まる。
 生まれつきの才能だけで判断されて、努力をしても無駄と言われてしまう。

 そして、クローンが今言ったように、俺のスキルは――【投石】

 ただ石ころを生成し、それを投げるというだけのスキルだ。
 あまり大きな石は投げることができない。
 あくまで俺の筋力で投げられるサイズのものしか生成できないのだ。
 だからまあ、ただ投げるだけのスキルで、ようはゴミスキルだ――。
 そのことについては、俺も自分でわかっている。
 確かに俺のスキルはゴミスキルだ。
 石を投げても敵は倒せない。
 ただ敵の注意をひいたりすることにしか使えない。

 だけどなぁ――。

「だが待ってくれ。俺のスキルはたしかに使い物にならない。だけど、それ以外の仕事はきっちりこなしていただろう? スキルだけで判断しないでくれ。俺は役に立ってたはずだ」

 このパーティの雑用や、荷物持ちは、全部俺の仕事だった。
 地図を用意したり、宿を用意したり……ありとあらゆる雑用をこなした。
 頭の悪いこいつらのかわりに作戦をたてたり、交渉をしたりも俺の仕事だ。
 俺はスキルに恵まれなかったから、その分努力をした。
 努力でカバーできる範囲は限られているということはわかっている。
 だけど、だからといって努力をしない理由にはならない。
 俺は才能がないから、人一倍努力したし、冒険者として必要な知識をつけた。
 毒キノコかどうかを調べたり、敵のつよさや弱点を調べるのも俺の仕事だ。
 俺はこのパーティの頭脳だった。
 そんな俺を、スキルがゴミだからって、今更追放するのかよ?

「うるせえよ! お前はスキルがゴミのくせに、いつも偉そうで、ムカつくんだよ! 冒険者としての知識があるからかなんだか知らねえけどな、俺に指図するんじゃねえよ!」

 バッカスは酒場のテーブルを叩いて、怒りをむき出しにした。

「いや……別に俺は知識をひけらかしているつもりはない。ただ、危険を未然に知らせているだけだ」

 俺が放っておくと、こいつらは勝ち目のない敵に挑んで、すぐに全滅するだろうからな……。
 俺は実際にこのパーティで役に立っていた――それなのに追放するなんて、ただのスキルによる差別でしかない。

「しかもお前はステータスオール1のゴミだ! 戦闘では使い物にならないじゃねえか」
「確かにそうだが。だが、戦闘以外では俺なしでは立ち行かないはずだ」

 俺はステータスにも恵まれていない。
 それも確かに事実だ。
 だがそれはすでにわかったうえで、俺は他の部分で役に立とうと頑張っていた。
 ステータスやスキルは才能だから、努力ではどうしようもない。
 だから俺は、他のところで役に立とうと知識をつけたし、頭を使った。
 努力だけは誰にも負けないはずだった。
 そして実際、俺は戦闘以外ではものすごく役に立っていたはずだ。
 それなのに、この俺を追放するだなんて。
 
「いいからさっさと出ていきやがれ! お前にはもう限界なんだよ! 出て行かないってんだったら、殺すぞ?」
「本当にいいのか? 俺がいないと、お前たちはなにもできないだろう?」
「馬鹿にするんじゃねえ! お前なんかいなくても問題はない!」

 まあ、そこまでいうのなら……。
 俺も止めはしない。
 これ以上食い下がると、さすがにバッカスも手を出してきそうだからな。
 バッカスは頭はおかしいが、スキルだけは恵まれている。
 普通に戦いになったら、俺に勝ち目はない。
 この世界は、そういうことがまかり通っている。
 どんなに知能のないやつ、どんなに怠惰なやつでも、スキルさえ恵まれていれば、出世するし、他人にいうことを聞かせられる。
 だけど、俺みたいな、スキルに恵まれない人間は、いくら努力しても、いくら知識をふやしても、こうやってスキル強者の一声で解雇されてしまうのだ。
 ほんとうに理不尽だが、それがこの世界の理なのだ。
 俺はしぶしぶバッカスに従って、酒場を一人で後にすることになった。

「一応、抜ける前に伝えておく。嘆きの森にはいかないほうがいい。俺がいないと、あそこは危険だ」

 バッカスたちには一応、恩義もある。
 これまでいっしょにパーティとして活動して、食わせてもらってきたんだ。
 スキルに恵まれない俺をやとってくれるパーティは少ないからな。
 バッカスは同じ村出身ということで、これまで一緒に活動してくれた。
 だから最後に、バッカスたちのことを思って、俺は忠告をしておいた。

 しかし、俺の優しさはバッカスには伝わらないようだ。

「は? 黙れよカス。お前のいうことなんかもう二度ときかないね。お前のかわりに、さらに優秀なメンバーをすでに雇ってあるんだ。だから大丈夫だ。しかも今度のメンバーは女だからな。お前と違って、いろいろと使えるぜ」
「そうか……。まあ、俺より優秀だというのなら、大丈夫だろう……。一応、俺は伝えたからな」
「うるせえな。いつまでも偉そうな野郎だ。さっさと出ていって、野垂れ死にやがれ」
「一応、いままでありがとうな」
「きもいな。俺はそんなことちっとも思ってねえよ!」
「ふん……」

 俺は酒場をあとにした。
 さて、これからどうしようかな……。
 俺は職を失ってしまった。
 これからいくところもない。
 スキルが【投石】しかない俺を雇ってくれるようなところも、なかなか見つからないだろうしな……。

 俺はいくあてもなく街をふらふらとさまよう。
 よく考えたら、俺はなかなかピンチなのではないか?
 金もあまり多くはもらっていなかったので、すぐに底をつきるだろう。
 大人しく田舎の村に帰って農業でもするか?
 だがそのためにも、帰る旅費すらない。
 物乞いでもするしかないんじゃないだろうか……。
 普通に、困ったな……これ……。

 さすがの俺も途方に暮れてしまった。
 俺は下を向いて、とぼとぼと、夕暮れの街を歩く。
 すると、
 ――ドン。
 下を向いて歩いていたせいで、人とぶつかってしまった。
 これは申し訳ない。
 俺は頭を上げて謝罪する。

「ごめんなさい……」
「い、いえ。こちらこそ……」

 そのときだった。
 ぶつかってきた人物と目が合った。
 お互いに、まるで幽霊でも見たかのような顔をしていた。

 なぜなら、そこには俺がいた。
 ぶつかってきた相手の顔は、なんと俺にそっくりだった。
 そっくりというか、服装からなにからまで、俺そのものだった。
 俺が、その場に二人いた。
 いったいこれはどういうことなんだ。

 俺たちは声を揃えて驚いた。

「「は…………?」」
 


=============
 ドッペル・ニコルソン
 男
 17歳

 Lv   1
 HP   11
 MP   11
 攻撃力   1
 防御力   1
 魔法攻撃力 1
 魔法防御力 1
 敏捷    1
 運     1

 スキル
 ・投石
=============
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

処理中です...