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第1話 転生したけど捨てられた

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 どこまでも真っ白な空間が広がっていた。
 ここはどこだ……?
 頭がぼーっとしていて、なにも思い出せない。
 ふと顔を上げると、そこには見たこともないような綺麗な女性が浮いていた。
 浮いている……!?
 すると女性は口を開いた。

長谷部はせべみのるさん。残念ですがあなたは死んでしまいました」

 言われて、思い出した。
 そうだ、僕は死んだんだった。
 雨の中、車に轢かれそうになっていた猫を助けようとして――僕が代わりに轢かれたんだ……。
 あの猫……無事だといいけど……。

 確かに僕は死んだ。
 ……ってことは、この女性は女神様かなにかか……?
 すると、まるで女性は僕の考えをすべて見透かしたかのように、言った。
 
「私は転生の女神セレスティア。大丈夫です、あの猫は無事ですよ」
「よかった……」
「あの猫は、あなたにものすごく感謝をしていましたよ」
「そんなこともわかるんですか……!?」
「ええ、女神ですから……一応」

 待てよ、さっき転生の女神だって言ってたか……?

「ていうことは、僕を転生させてくれるってことですか?」
「ええ、そうです。あなたは素晴らしい行いをしました。けれど、残念なことに死んでしまった。そこで、あなたには別の世界でやりなおすチャンスを与えたいと思います」
「それは……ありがとうございます。ていうことは、異世界転生っていうことですか。僕、異世界なんかでやっていけるのかな……」
「大丈夫です。転生するにあたって、なにか一つ、特別なギフトを授けてあげましょう」
「特別なギフト……?」
「ギフト……スキルと言ってもよいでしょう。異世界で生き延びるための、才能です。なにがいいですか? なにか思いつくものはありますか?」

 そう言われても、いきなりでなにも思い浮かばない……。
 僕にはこれといった特技もなく、ただ会社と一人暮らしの寂しい部屋とを行き来するだけの社畜人生だったからなぁ……。
 唯一の楽しみといえば、休日に猫カフェに行ったり、動物園に行ったりして、もふもふと戯れることだけだった。
 そうだ、それをギフトにしよう……!

「もふもふ……」
「もふもふ……?」
「もふもふと、会話がしてみたいです……! もふもふと心を通わせて、仲良くなりたいです……!」
「それだけでいいのですか……?」
「ええ、それだけで、僕は十分です!」
「ふふ、あなたらしい選択ですね。いいでしょう。ではあなたにスキル【もふもふ語】を授けます」
「ありがとうございます……!」
「ついでに、【もふもふたちに好かれるように】もしてあげようかな……と思いましたが、これはいらないでしょう」
「え…………?」

 せっかくなら、もふもふたちに好かれたかったんだけどな……。
 スキルは一人一個までということだろうか。
 僕が残念そうにしていると、女神は笑って言った。

「ふふ、あなたは元から【もふもふたちに好かれている】でしょう? だから、私がなにかする必要がないっていうことです」
「え……? 僕って、そうなんですか……?」
「もちろん。あなたはとてもやさしい人。もふもふたちにはそれがわかるのですよ。あなたに助けられた猫も、言ってました。あなたの次の世界での幸運を祈っていると……」
「そっか……。それは、うれしいですね……」
 
 僕も動物が大好きだから、そのもふもふたちから好かれていたなんて知れて、ほんとうにうれしい。
 異世界でも、たくさんのもふもふたちと仲良くできたらいいなぁ……。

「では、そろそろ準備はいいですか?」
「はい……! お願いします……!」

 女神が僕の肩に触れると、なんだか温かい空間が僕を包み込んでいく。
 こうして、僕は異世界に転生した。


 ◆


 これ以上ないほど盛大に祝福されて、僕は産まれた。
 とても気分がよかったことだけを覚えている。
 
「ついに王子さまがお生まれになったぞ!」
「これはめでたい……!」

 なにやら大勢の人の声が聞こえる。
 
「おいで、私の可愛い王子……」

 そう言って僕を抱き上げた女性は、母親だろうか……?

「この子はきっと立派な王になる……!」

 期待のまなざしを向けているこの威厳ある人物は、僕の父親……?
 そうやってまわりの音や景色を観察しているうちに、だんだんと状況がわかってきた。
 
 どうやら僕が産まれたのは、レミニスターという国の王家らしい。
 まさか異世界で王子様に転生できるなんて、思ってもみなかった。
 もしかして、これも女神の粋な計らいなのだろうか……?
 偶然だとしたら、運がいい。

 そう思ったのもつかの間。
 なにやら神官らしき人物が僕に近づいてくると、こう言った。

「王様……大変申し上げにくいのですが……このお子にはなんと、ほとんど魔力が感じられません……」

 え……?
 僕って、そうなの……?

 その言葉に、それまで歓迎ムード一色だった場の空気が、一瞬にして凍り付く。
 王様――僕の父親らしき人物は、冷酷な目線で僕を見つめると、言った。

「忌み子か……。魔力のない王子など、この世に存在してはならない。仕方ない……封印の森へ捨てるしかないな……」

 ええ……!?
 僕って、もしかしてこのまま殺されちゃうのか……!?
 そんな、せっかく転生したってのに、それだけは勘弁だ。

 王様がそう言った瞬間、周りにいた人物たちの目の色が変わる。
 そして、みんなして一斉に大合唱をし始めた。

『殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 忌み子は殺せ!』

 ひぃいいいいいい。
 この王国、さすがに恐ろしすぎない……????

「待ってください。でもこの子は、私の子です……!」

 僕の母らしき人物――王妃が、涙ながらにそう懇願する。
 しかし、その訴えもむなしく、冷酷な王様によって一蹴されてしまう。

「魔力なき者は封印の森に還すならわしだ。王たる私の子とて、それは同じ。魔力のないものなど、そもそも人間ではないのだから……。こんなもの、獣畜生と同じだ。生命ではない。気にするな」
「そんな……酷すぎます……」

 うん、ママ……。
 僕もそう思うよ……。


 ◆


 そして僕は、王国の名もなき使用人によって、『封印の森』まで連れてこられてしまう。
 使用人は木陰に俺をそっと置くと、こうつぶやいた。

「この子は……運が悪かったのだ」

 少しの罪悪感があるのだろうか、使用人はバツの悪そうな顔で僕を見た。
 さっきの非道なまでの『殺せ』の大合唱を見ているから、この人はいくらかいい人に見えてしまう。
 いや、僕を捨ててる張本人なんだけどね……。

 置いていかれてしばらくして、僕はようやくことの重大さを飲み込みはじめる。
 やばい……異世界にきて、さっそく詰んだ。
 赤子一人で、こんなところに置いていかれて、どうすることもできない。

 助けてくれ、と泣き叫んでみるが、赤子の大声をもってしても、深い森の中では誰にも届かない。
 むしろ、こんなの肉食の獣にでも見つかったら大変なことになってしまう。
 体力も消耗するし、僕は泣くのをやめた。

 雨が降ってきて、だんだん身体が冷えてくる。
 ああ、僕はまたこのまま死ぬのだろうか……。
 空からは冷たい雨が俺の頬を打ち、木々は不穏にざわめき、森の奥からは獣の気配――。

 すると、茂みの中から一匹の獣が現れたではないか……!
 現れたのは銀色のもふもふ……いや、巨大な狼のような獣だった。
 全長二メートルのしなやかな体躯に、するどい目つき。
 やばい、狼だ……食われる……!?

 しかし、僕を食うどころか、狼は、

「おお、声がしたと思ったら。人間の赤ちゃんか……」

 なんと、喋ったのである。
 人間の言葉……!?
 もしかして、異世界の獣は人間の言葉を喋るのか……!?
 そう思ったが、すぐに違うと気づく。

 そうか……!
 これ、人間の言葉じゃない。
『もふもふ語』だ……!!!!

 そういえば、僕は女神から『もふもふ語理解』のスキルをもらっていたんだった。
 いやでも、言葉がわかっても、僕は赤ちゃんだし、こっちから喋れないんじゃ意味ないよな……。
 あきらめかけていると、狼は、俺の顔を覗き込んでにっこりと笑った。

「なんだかこの人間の赤ちゃん、かわいいな……」

 えぇ……!?

「それに、銀狼ルガウル族のこの俺様のことを見ても全然怖がらねぇ。普通の人間なら、俺の威圧感で立っているのもやっとだってのにな。全然泣かないで、俺のことを見つめてる……。面白い……。連れて帰ろう」

 は…………!?

 狼はそう言って、僕の入っていた籠をやさしく咥えると、そのまま森の奥へと僕を連れていった。
 僕、どこに連れていかれるのぉおおおおお……!?



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