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学園編
終幕
しおりを挟む「おまえ、あのときおれを殺そうとしていたのか……?」
「ああ、そうだ……二度も失敗したがな」
アル――エルフォは剣を抜き、斥候に襲い掛かる。
斥候はそれを見事に受け流し、剣で応戦する。
「おまえ! 何が目的だ! なぜおれを殺そうとした!」
「さあな、いろいろと理由はある。剣聖――そんなやつがいることを、邪魔に思うやつもいるのさ」
――キンキンキンキン!
狭い通路に、剣のうちあう音が響く。
だがなかなか勝負が決まらない。
道幅が狭く、大胆な動きが出来ないせいもあるが、それにしても剣聖の剣とわたりあうほどの剣さばき――アルはたいそう驚いた。
(こいつ……マジで何者だ!?)
「なかなか強いな……だが、これで終わりだ……!」
「…………うぐっ!」
アルは一気に剣に込める力を強くする。
そのまま相手の身体ごと押しきり、狭い通路を脱する。
開けたところにくれば、こっちのものだと思った。
だが、問題は別にある。
このような見晴らしのいい場所で戦っては、人目につく恐れがある。
だがこの際もうそんなことは言ってられない。
これは命がけの戦いなのだ。
それだけの相手だと、アルも認めていた。
(こいつ、今までに戦った誰よりも強い……!)
「お父様! 私も加勢します!」
ララフも剣をとり、斥候に向かい合う。
――キンキンキンキン!
だが驚いたことに、一向に勝負がつかない。
剣聖二人を相手にして、この斥候は生きながらえているのだ。
こんなことは、人間にはあり得ない。
「ふん……剣聖二人と戦えるとは光栄だねぇ……。だが、もう終わりにしようか」
「なに!?」
斥候はそう言うと、形を変え――。
――異形の姿を現した。
「…………なっ……! 魔族……!?」
「やあ、人間」
斥候の正体は魔族であった。
それならば、この強さにも納得だ。
「……っく……万事休すか……」
いくら剣聖といえども、魔族に勝つ自信はなかった。
「フハハハハハ、死ねええ! 剣聖二人の踊り食いだぁあああ! ヒャッハー!」
魔族は大口を開けて、アルたちに襲いかかる。
アルは思わず目を閉じて、死を覚悟する。
死ぬのは2回目だ、怖くない。
――ズバ!
「…………?」
恐る恐る目を開けると、アルの身体はまだそこにあった。
死んでいない――。
なぜ?
「やあ、エルフォ・エルドエル……いや、アル・バーナモントと呼んだ方がいいかな?」
声のしたほう――上を見上げると、そこにはいかにもな「魔女」の風貌をした人物が、ほうきに乗って登場したではないか。
「危ないところだったねぇ? でも、もう安心だ。魔族は私が一瞬のうちに塵に還したから」
「あ、あなたは……?」
「わたしはアル・アルメシア。いだいな魔術師さんだよ」
「アル…………アルメシア!?」
アル――以降エルフォ――は、その名前に聞き覚えがあった。
いや、この世界に住む誰もが、その名前を知っていた。
アル・アルメシア、この世界を代表する、歴史上の偉人であり、大魔術師だ。
「ど、どういうことなんです……? あなたは、過去の偉人では?」
「……っは! 大魔術師だよ? 不老不死くらい、あたりまえさ」
だけどどうしてそんな人物が自分の目の前に?
エルフォの疑問は尽きなかった。
「不思議そうな顔だねぇ……じゃあ、順を追って説明してあげようか」
「お願いします」
大魔術師アル・アルメシアは、地面に降りてきて、エルフォに話をきかせた。
「エルフォ、君が転生したときに受けた魔法、あれは……私のものなんだ。私による転生魔法」
「えぇ!?」
「さっきの魔族、あいつが君を殺そうとしていた。だから私が助けた、そういうわけさ。やり方は少々強引だったけどね……でも、いろんな事情が重なって、あの時はあれが最善の策だったんだよ」
「そんな……」
「あのあと、魔族を逃がしてしまってね。そのあともずっと探していたんだけど、ようやく見つけたよ。君を目の前にして、魔族形態になってくれたからね。人間の姿のままだとわからなかった」
「つまり、あなたは僕を助けたと……?」
「そう、そういうことだ。2度もね」
「あ、ありがとうございます」
だがエルフォはなんとも釈然としないきもちだった。
なぜ、自分は魔族なんかに狙われたのだろう……。
「魔族はね、強力な人間を食べるとパワーアップできると思ってるんだよ。とくに剣聖のような称号を持つ者はね、狙われるんだ」
「はぁ……」
「まあ、他にもいろいろ陰謀が絡んでいそうではあるけどね。そこは私も調べているところだ」
「でもなぜ、あなたは僕を助けてくれたんです?」
「それにもまあ、いろいろ事情があってね……。今は話せない」
「そうなんですか……」
まだまだエルフォには、ききたいことがやまほどあった。
だけど、一番の疑問は――。
「僕は、アル・バーナモントはなぜ、魔法が使えないのですか?」
「うーん、それはね……私のせいなんだ」
「え!?」
「アル・バーナモント――バーナモント家は、ね、私の……アル・アルメシアの子孫なんだよ」
「えぇえ!?」
「大事にならないように、名前は変えてあるけどね」
「じゃあ、なおさらどうしてなんです!?」
「私は大昔に、悪魔と契約し、大量の魔力を得て、大魔術師になった」
「は?」
「だからまぁ……そのツケによって、君は魔力がない。そういう契約なんだ。子孫の中から一人の魔力を生贄にするっていうね」
「っていうことはアレか? 僕に魔力がないのもあんたのせいで、俺が転生させられたのもあんたのせいだと?」
エルフォの中で、怒りが湧いてくる。
なぜだかは知らないが、この大魔術師はそれを善意でやったつもりでいるらしい。
それがよけいエルフォをいらだたせた。
「えーっと、いちおう私は君の恩人なんだけど?」
「知るか! 僕は魔法が使いたかったんだぁあああああ!」
「えぇ……ご、ごめん……」
「ゆ、許せない!」
「な、なにか誤解をしているよ! もっと話し合おう! いろいろ話せないこともあるけど、とにかく、誤解だ!」
「うるせえええええええ!」
エルフォは剣を大魔術師に向ける。
そして追いかけ回し始めた。
「じゃ、じゃあ私はこれで!」
「あ、おい……! 飛んで逃げるな!」
こうして、アルは大魔術師を追い、新たな冒険が始まるのだが――。
それはまた、別のお話。
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