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学園編
18.剣聖の力
しおりを挟むクラス一同は、模擬試合会場に移動し、剣聖ララフVSアル・バーナモントの戦いが今始まろうとしていた。
グリシャは自分が先に戦うと言ってきかなかったが、結局じゃんけんでアルが勝った。
「くそう、アル君が先に戦うのか……。ま、まあいいだろう。お手並み拝見だ」
グリシャは観覧席で歯噛みする。
それをよそに、アルはさっさと舞台に上がり、構える。
「ララフさん、お手柔らかにお願いしますよ」
(さあ、僕の――剣聖エルフォ・エルドエルの娘よ。その力を見せてくれ!)
アルは内心でわくわくを抑えられない。
「アル君、君の力、見せてもらうよ!」
ララフも興奮して勢いよく剣を抜く。
と同時に、既にその剣がアルの首元まで迫っていた……!
「は、速い!?」
その速さは、さすが剣聖といったレベルで、全盛期のアルにも劣らない。
だがアルはそれと同等の速さでもって、それを受け止める。
「なに!? 今のを受け止めるのか……!?」
ララフは初撃で仕留めるつもりだったため驚いた。
(あ、しまったな……)
アルはララフの剣を受け止めたことに少し後悔していた。剣聖の剣をすんなり受け止めてしまうなど自ら正体をばらしているようなものだ。
アルが剣聖の生まれ変わりであることは、なんとしても隠したい事実だった。
特に実の娘にバレてしまっては、どう説明すればいいのか見当もつかない。
(適当なところで負けておくべきだな……)
アルはララフに勝つつもりなどはさらさらなかったのだ。
だとすれば今の一撃で負けておいてもよかった、と思わないでもない。
(だけどまあ、それもつまらないか……。数分たったところで負ければいいか……)
アルはそんなことを頭の隅で考えながら、ララフの剣撃を受け続ける。
――キンキンキンキン!
だがその考えが裏目に出る。
勝つつもりのない剣というのは、相手に自然とわかってしまうものなのだ。覇気のない剣。殺る気のない剣というのは、その所作にどうしてもにじみ出る。
手抜き――手加減、そう言った言葉が近いか……。とにかくアルのそれは勝負の剣ではなく、指導の剣さながらに、とことん上から目線だった。
剣聖ララフは動揺していた。
(おかしい……さっきから本気で剣をぶつけているのに……。この子、一回も隙を見せない……)
そもそも剣聖の剣を一学生がこれほど耐え続けるなどおかしなことなのだが。
それをさも当たり前のようにやられては、剣聖としてはもう訳が分からない。
目の前で繰り広げられる予想外の出来事に、ララフの頭は混乱していた。
(しかも、明らかに手加減されている……。あちらからは打ってこない……)
一方のアルはというと、どうやって負けようか必死に考えていた。
(うーん、下手に負けると相手が傷つくし、かといって僕が怪我してもなぁ……)
それと真逆のことをララフも考える。
――この少年に、どうやって勝とうか……。
(生徒を傷つける訳にはいかない……! だけど、彼に勝つにはもうこれしかない……!)
ララフは自分の切り札をきることを決断した。
剣聖が一学生に負けるわけにはいかないのだ。それは自信のプライド的にも、対外的にも……。
そしてこれはもちろんアルの思惑通り。
アルはララフが切り札を出してくるのを待っていた。切り札こそが、見たかったのだ。
(よし、これなら僕が負けても不自然じゃない……! さあこい、娘よ! お前の本気をみせてみろ!)
ララフは剣聖としての意地を見せるべく、必殺の構えをとる。
(こ、これは……! 昔僕が編み出した、一撃必殺の構え――一刀直撃じゃないか! さてはララーナが彼女に教えたんだな……?)
そう、ララフの剣はアルの――エルフォの剣を踏襲したものだったのだ。
来る攻撃がわかっていれば、避けることは容易い。
アルはそれに応じた回避行動に移るべく、身体をこわばらせる。
「これが剣聖の力よ! 一刀直撃!!」
ララフの刃が迫りくる!
それは剣での攻撃だが、突き――ヤリのような挙動で迫りくる攻撃。
全神経を一撃の点に込めることで、誰も避けることはできない。
だがアルは違った。
なぜならば彼こそがその技の発案者なのだから。よけ方も熟知している。
(さすがに手加減はしてるようだけど、こんなの僕じゃなきゃ死ぬぞ? 我が娘ながらめちゃくちゃだな……。心配になってきた……)
アルはララフの剣を、けがをしないように自分の剣先で受け止める。
(なに!? 私の剣が受け止められた!? バカな! そんなはず……!)
まさかの出来事にララフは一瞬ひるむ。
アルは剣を受け止めたはいいが、そのまま衝撃を殺さずに、自分の剣を放り投げた。
そう、まるでアルが剣の衝撃に耐えられずにそうなったかのように……!
(これでみんなは僕が負けたと思ってくれるだろう……)
模擬試合では特に、先に剣を地につけたほうの負けとなる場合が多い。
剣は剣士の誇りであり、命であるからだ。
「うおおおおおおおお! アル君が剣を落としたぞ! さすが剣聖さまだ!」
「やっぱアル君でも剣聖さまにはかなわないのね……」
アルの思惑通り、みなそれで納得し、疑問に思うものはいなかった。
そうただ一人を除いて……。
(そんな、私の剣が、しかも一刀直撃を剣先で受け止めることができるような人間なんてこの世には……!? そんなことができるとすれば……。いや、まさかね……。だけど、明らかに彼は手を抜いていた……。どういうこと?)
唯一剣聖ララフだけが、釈然としないようすだった。
アルは細かく詮索される前に、さっさと握手を求め、ステージを下りた。
「いやーやっぱ剣聖さまは強いなぁ。僕じゃかなわないよ」
しらじらしい棒読みでやってきたアルに、ミュレットが疑問を投げかける。
「アル、わざと負けたでしょ……」
「さあて、なんのことだか」
とにかくアルは目立つのが嫌なのだ。
「さ、次は僕の番だね。アル君の仇をとってあげよう」
アルと交代に、グリシャが意気揚々とステージへあがる。
だがララフの興味はそこにはない。
若き剣聖は、もやもやとした気持ちを抱えながら、いつまでもアルの方を睨み続けるのであった。
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