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学園編
11.再会
しおりを挟むAクラスの一番の実力者となったアルは、連日クラスメイトたちから質問責めにあい、疲れ果てていた。
おまけに、家に帰ったらミュレットが鬼の形相で、他の女生徒たちとの会話の内容を問い詰めてくるので、へとへとだ。
Aクラス昇進から一週間ほどたち、そういったことがようやく収まってきたある日。
アルが教室でうたた寝をしていると、珍しく男子生徒から声をかけられた。
「やあ、アルくん……」
「や、やあ……君は……?」
声をかけてきたのは同じくAクラスの制服に身を包む、気弱な感じの目立たない男子だ。
なんとなく存在は認知していたものの、今までに喋ったことなどないし、名前もわからない。
「覚えてないかな……?」
「前にどこかで会ったかなぁ?」
アルには心当たりがなかった。どことなく見覚えがあるような気もしなくもないが、彼のような感じの男子ならそれこそどこにでもいる。
アルは観念して白状することにした。
「いやぁ、ごめん。ちょっと覚えてないなぁ……」
アルがそう言うと男子生徒は僅かに眉をひそめたような気がした。そして小さく歯噛みしたのが見えた。
だが彼はすぐに笑顔をとりつくろうと、
「そ、そりゃあそうだよね! 僕、かなり昔とは違ってしまっているから……」
「昔……?」
「ほ、ほら僕だよ。ジーク・カイベルヘルト……」
「え!? 君があのジークだっていうのか!?」
なんと驚くべきことに、目の前の気弱な少年は、あのジーク・カイベルヘルト本人だというのだ。
アルを監禁し、村を襲ったあの張本人。
彼はアルに敗れたあとどこかに消えてしまったから、それ以降会っていなかったが……。
まさか数年でここまで変わり果てた姿になっていたとは、アルにも思いがけないことだった。
アルは驚きを素直に口にする。
「ま、まあ君が驚くのも無理はないよね……。僕はあれから君に敗れたことで、心を入れなおしたんだ。今の僕はもう君を恨んでなんかいない……。それどころか僕の目を覚まさせてくれて感謝すらしてるんだ……」
「あ、そう……」
アルはなんだか複雑な気持ちだった。
(うーんなんだろう……この妙な気分は……)
ジークは握手を求めてきた。
「君はクラスの人気者だから、なかなか声をかけずらかったんだ。だけどまあ、昔のことはできれば水に流してもらえるとありがたい。これからクラスメイトとしてよろしくね」
「う、うん……」
◇
アルは帰り道、教室であったことをミュレットに話した。
ミュレットは少しだけ驚いた顔をみせ、
「ふーん、あのジークがねぇ……同じクラスなんだ……。名前が同じでもまさか同一人物とはね」
「そうなんだよ。ちょっと心配だなぁ……。……って、ミュレットはジークの存在に気づいてたの!?」
「まあね、私はアルより前からAクラスにいるわけだし」
「何事もないといいんだけど……ミュレットも一応気を付けておいてね」
アルはミュレットにもしものことがあってはと思うと気が気でない。
だがミュレットの方はそんなことも知らずに、けろっとした顔で、
「それなら心配いらないんじゃない?」
「え? なんで?」
「だって……彼、いじめられてるもの……」
「へ?」
どうもミュレット曰く、ジークは他のクラスメイトたちから軽いいじめを受けているようだった。
「まあ私が知ってるのは軽くからかわれている程度のことなんだけどね。私からは一応先生に報告はしておいたんだけど……。どうも彼、完全に昔の、アルを襲っていたころの性格とは別人みたいなのよね。だから全然気がつかなかったんだけど。まあとにかくそういうわけだから……。もうアイツのほうからなにかしてくるなんてことはないんじゃないかしら」
「うーん……だといいけど……。それにしてもいじめかぁ……それはクラスの大きな問題だねぇ……」
アル的にはいまいちあのジークと今のジークが結びつかないでいた。あんな人物がちょっとやそっとで心を入れ替えて別人になるだろうか。
だからこそ今のジークがいじめられているというのを聞いて、純粋にあの気弱な少年を心配に思ったのだ。
「アルったら、昔あんなことがあった相手なのに、いじめられてるのを心配してあげるなんて……。本当に優しいのね……。さっすが私のアルだわ!」
ミュレットはアルに近寄って頭を撫でてくる。
アルは照れくさくて顔をそむける。
「いや僕はただクラスの風紀を気にしただけだよ……。当たり前のことさ。いじめなんて、どんな理由があっても健全ではないしね……」
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