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学園編
3.剣術の授業
しおりを挟むアルのクラス、Fクラスの担任はやる気のない教師だった。
「はい、俺は剣術担当のハリヤマ・ハリネズミだ。魔法はぜんぜん教えられないからよろしくな」
魔法敵性の乏しいFクラスには、魔法が苦手な彼がお似合いだというのが教頭の狙いだった。
とはいっても彼も王立魔剣学院の教師であることに変わりはない。
魔法が苦手な分、彼は剣術に置いては学校随一の実力者だ。
「それじゃあおまえらの実力をみたいから一人づつ前に出てこい。相手してやる」
教室を出て、演習ホールにやって来た彼は、Fクラスに向けてそう言った。
「ようし、俺がいってやるぜ。俺は魔法はまだ勉強してないが、剣術なら村一番の実力者だったんだ。大人にも負けたことねえぜ」
太った小汚い生徒が、前に出た。いかにもなガキ大将といった手合いの人物で、こういった輩は決まって自分の実力を誇示したがる。
「ほう、生きのいい奴がいるな」
「先生、新入生に負けて恥をかくことになりますよ!」
太った生徒は、訓練用の木刀を構えて一直線に教師めがけて突っ込んだ。
だがその数秒後には彼は宙を舞っている。
「は?」
その場にいた誰もが、いや、アル以外の生徒は何が起こったのか全く分からなかった。
(ほう……あのハリヤマとかいう教師、やるなぁ……)
アルだけが唯一、なにが行われたのか正確に理解していた。
ようはハリヤマはとんでもない馬鹿力で太っちょ生徒の身体を投げ飛ばしたのだ。
それも、直接身体に触れることなく、剣での衝撃のみで。
「ふん、口ほどにもないな……。次、他にはだれかいないのか? 全員でかかってきてもいいぞ?」
ハリヤマがそう口にしたとたん、アル以外のほとんどの生徒がハリヤマに向かっていった。
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」
「そりゃっ!」
だが生徒たちの猛攻もむなしく、みないちように投げ飛ばされていく。
「おい、あの教師、容赦ねえ……。バケモンだ……」
みなリタイアして、床にへたり込んでいる。中には意識を失って保健室へ運ばれる生徒もいた。
「おい、お前はかかってこないのか……?」
唯一まだ攻撃を仕掛けてこないアルを見て、教師は言った。
「いやぁ……僕がやっても結果は見えてますんで……」
「そんなこと言わずにかかってこい!」
「では、僕が勝ったら、剣術の授業を免除していただけますか……?」
「は……?」
「僕は一刻も早くAクラスに追いつきたいのです。そのためには退屈な剣術の授業などやっている暇はないのです」
「はっ! 言うねぇ……。まあ勝てたらいいだろ。まあもし本当にそんなことになったら、それこそ俺が教えることなんかないわけだしなぁ……。だがな、勝てたらの話だ。そういうからには剣に少しは覚えがあるみたいだが、俺をそこらの伊達の剣士とみくびってもらっちゃあ困るぜ?」
ハリヤマの目つきがかわる。アルの発言に、明らかに怒っているようだ。
(ふぅん……。相対しても僕の実力がわからないのか……。そりゃあ並みの剣士ではないな……。ポンコツ剣士ってとこだ……)
「じゃあ行きますよ!」
「おう、来い!」
次の瞬間、ハリヤマは宙にいた。
「は?」
アルは剣を抜きさえしなかった。
いや、抜くところが見えなかったのだ。
「どういう……ことだよ……」
そのまま地面にぶつかりハリヤマは意識を失った。
「あらら……やりすぎちゃったか……。でもあれくらいで気を失われてもなぁ……。手加減したつもりなんだけど……」
そう、この数年でアルは剣の腕もさらに磨いていたのだ。
「おいおいなんだよアイツ。なんであんなやつがFクラスなんだ……?」
必然、アルはクラスメイトたちからの注目を一身に集めることとなる。
以降クラスではアルの話題で持ちきりだった。
女生徒たちがよってたかってアルをもみくちゃにする。
剣の腕もさることながら、アルはいまではすっかり美少年だ。
「ねぇバーナモントくんって、どこで剣を習ったの?」
「いやぁ……しいて言うなら独学で……」
まさか前世でというわけにはいかない。
「私にも剣を教えて!」
「まあまたこんどね……」
(はぁ……はやくミュレットに会いたい……)
アルは女生徒たちのテンションとは裏腹に、上の空なのであった。
そして男子生徒たちからの視線が痛い。
「っは! あいつ魔力がないからFクラスなんだぜ。いくら剣の腕がいいからってFクラスのおちこぼれじゃあねぇ……。なんであんなキショいやつがモテるんだ?」
男子たちがやっかみの声を漏らす。
そこに女生徒たちがすかさずかみつく。
「ちょっとー男子! そんな言い方ないじゃない! 嫉妬なんてみっともないわよ。あんたたちだっておんなじFクラスじゃない。剣ができるだけバーナモントくんのほうが上よ。それにあんたたちみたいな無骨な男、モテないに決まってるじゃない! バーナモントくんみたいな美少年がここにいるんだもの!」
「な! 嫉妬じゃねえよ!」
クラスメイトたちはアルの扱いについて必至だ。
だが当の本人はというと。
(はぁ……帰りたい……)
アルは深くため息をついた。
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