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忌み子編
28.嵐の前
しおりを挟むアルとミュレットは12歳になっていた。
あれからポコット村はずっと平和だ。
アルは魔法陣をずっと研究して、独自の理論を確立していた。
もはやアルに書き記せない魔法陣はなくなっていた。
それを利用して、杖を新しく改造しているのだ。
何度も杖に改良を重ねて、ついに一つの杖で複数の魔法を繰り出せるように進化していた。
もちろんアルにはいまだに魔力がない。
だからこそ杖の改良にこの三年をつぎ込んだのだ。
そして今日、カイドの工房に行き、新しい杖を受け取ることになっている。
「ミュレット、ママ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「アル、はやく帰ってきてね」
ミュレットは以前ほどアルについて回ったりはしない。
もはやアルは自分のパートナーだという確信があるからだ。
アルは一人で街まで行き、カイドの工房を訪れた。
カイドはあのいつもの屈託のない笑顔でアルを出迎えた。
「いつもタダでこんな改造をしてもらって、カイドさんには頭が上がりませんよ」
「おいおい、アル、それを言うのは俺の方だぜ? お前のおかげで魔法陣なんていうトンデモ技術の開発を間近でお目にかかれるんだからよ、それだけでも十分な報酬だよ、俺にとっちゃ」
「ははは、そう言ってもらえると助かります」
「それじゃあ、試しに使ってみな」
「はい」
アルは工房の外に出て、新しい杖を構える。
杖はアダマンタイトでできていた。以前アルが倒した鎧の男から得た素材だ。
(ずっしりして重い……でもこの重厚感が、剣みたいで落ち着くな……)
アルが杖の水晶に手を滑らせると、怪しく光る。
水晶から魔法陣へと魔力が流れ込む。
今までなら杖につき一つの魔法、というふうになっていたが、この改良版は違う。
魔力が流れたあと、ダイヤルを回して、魔法陣を入れ替えることができるのだ。
これによって最大5種類の魔法を展開することができる。
「まずは、火炎球!!」
杖から火球が産み出される。
「続いて、水流弾!!」
それを水流ですぐさま消火する。
「さらに、風斬撃!!」
頭上に向けて垂直に風の刃を放つ!
風の刃はある程度の高度までいくと、そのまま落下してくる。
「それを……吸収盾!!」
杖の先端に青い透明の盾が出現し、刃を消し去った。
「よし、ここまでは順調だな」
「次は……いよいよ人体加速の魔法ですね」
いままでの魔法はいわば、外部に放出したりする類のものばかりだ。
だが次の魔法は人体強化、すなわち自分自身に影響を及ぼすものだ。
その複雑な魔法が、はたして魔法陣による方法で、しかも水晶に込めた魔力で、行使できるのだろうか。それはやってみなければわからない。なぜなら現代において、魔法陣なんて時代遅れの遺物を使うのは、アルたちだけだからである。いわばここが魔法陣研究の最先端だった。
「いくぞ!!」
ダイヤルを人体加速にあわせる。そして水晶の魔力を杖に流す。
瞬間、アルの世界が加速した。
「やった!! 成功だ!」
カイドがなにやら言っているが、よく聞き取れない。もはや体感スピードが違うからだ。
水晶を元の位置にもどし、魔力の流れをせき止める。
「ふぅ、なんだか一日分動いた気がしますよ」
「そりゃあそうだろう、人体の感覚を加速させるってことは、それなりに身体に負荷がかかるからな」
「これはいざというとき用ですかね……」
「とりあえずまぁ成功してよかったよ。またなにか思いついたらいつでも持ってきてくれ」
「はい、ありがとうございます。でも当分はこれでいいかな。この5種類の魔法さえあれば、どんな敵にも対応できる気がしますよ」
「ははは……それが冗談に聞こえないところが、お前さんの恐ろしいところだよ、まったく」
アルは軽くカイドに別れを告げると、工房を後にした。
せっかく街に来たのだから、買い物とかもして行きたい。それに、レミーユにも会っていきたいなぁ、などと考えながら歩いていると、突然アルの目の前に、修道服姿の女性が現れた。
「ねぇねぇそこの坊や~、お姉さんがいいことしてあげるからちょっとついて来てくれなぁい?」
女性はやけに艶のこもった声で、アルを誘惑するように言った。
身の危険を感じて、アルは無言でその女に背を向ける。
「って、ちょっとちょっと! いきなり無視するなんてひどいじゃない!」
「いやいやいや、そりゃあ無視しますよ明らかに怪しいんだもん」
言いながら、アルはいそいそと歩いて、女を振り切ろうとする。
「私のどこが怪しいっていうのよ! こんなに可愛いシスターさんが誘ってるんだよ?」
「それが怪しいってんですよ! どこに子供を誘惑して連れ去ろうとする修道女がいるっていうんですか!」
女は早歩きのアルになんなく歩調を合わせてくる。
アルは痺れを切らして、水晶を起動した。
――人体加速!
アルの世界が加速する。
どんどんどんどん人を追い越して、街を出て森へ来た。
「ふぅ……ここまでくれば大丈夫だろう……」
「なにが大丈夫なのかしら?」
後ろを振り向くと先ほどの修道女。
「!?」
アルは確信する。この女はただモノではない。
女はアルを舐めるように見回して、言う。
「ふぅん……魔力がないのに本当に魔法を使えるんだ……」
「僕についてなにを知っているんですか!?」
「まあとにかく、うちの教会に来てよ。あんたに会いたい人がいるから。あんたのその不遇の肉体や、転生についても知りたいでしょ?」
「なぜそのことを!?」
アルが前世の記憶を持っていることは、誰も知らないはずである。
とにかくアルは女についていくしかないと感じていた。
(なんだかおかしなことになったな……)
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