魔力ゼロの忌み子に転生してしまった最強の元剣聖は実家を追放されたのち、魔法の杖を「改造」して成り上がります

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中

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忌み子編

22.健闘する村人たち【視点移動あり】

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 時は少し遡り、カイべルヘルト家の一行がポコット村に到着した頃……。

 村の人々は、彼らの横暴な態度にほとほと困り果てていた。

 特にジークのものの言いようときたら酷いありさまだ。

「おい! アル・バーナモントを出せ! この村にいるんだろう! 俺は分かっているんだぞ」

「ですから、先ほどから申しますようにこの村にはそのようなものはいません……」

 村長があくまで淡々と返す。嘘と悟られないように、声色を平坦にして。

 何度同じことを問うてもその一点張りの村長に、ジークはとうとう痺れを切らした。

「もういい! 俺が自分で探す。おい、この村の住居すべてを隅々までくまなく捜索しろ! 家具や家の壁も破壊していい。抵抗するものも殺せ!」

 連れてきた十人あまりの使用人にそう命じる。

「そ、それはやりすぎでは……」

「……あん?」

 さすがの暴挙に、使用人たちもどう応えていいものか、おろおろまごついている。

 ジークがそうやって村長から目を話した隙に、村の短気な若者が、村長に耳打ちした。

「ねぇ、村長……俺たちであいつらをやっちまいましょう。このままじゃ、何されるかわかりませんぜ?」

「よせ! それはいかん……相手は腐っても貴族じゃぞ? あとで何をされるかそれこそわかったもんじゃない……」

 村人たちのほうも、ジークの物言いに痺れを切らして、殺気立っている。

 そこに極めつけにジークが放った言葉がこれだ。

「まったく、あのアル・バーナモントの糞野郎をはやくこの手でぶち殺してぇのによぅ! そうだ……、村人の数人殺してさらし首にでもしておけば、あいつのほうから出てくるんじゃねぇか?」

「……くっ……」

 村人たちも我慢の限界で、それぞれに握りこぶしを作って、言葉を胸の奥にしまい込んでいる。

 ジークはそんな村人たちをざっと見渡すと、そこにひときわ綺麗な人物を見つけた――ミレーユだ。

「おい、アンタ……こっちへこいよ。アルが出てくるまでの暇つぶしだ……っくっくっく……」

 ジークは卑劣にも、村人たちが抵抗をしないのをいいことに、悪魔のような発想を次々に思いつく。ミレーユの手首を乱暴につかむと、自分のほうへ引き寄せた。

 ここで村人の一人が我慢の限界に達した――ナッツだった。

「おうおうおう! さっきから好き勝手言ってくれるじゃねぇか! アルの悪口を言ったあげく、ミレーユさんにまで手をだしちゃあ、この俺、ナッツさまが黙っちゃいねえ! ポコット村を敵に回して、タダで済むとは思うなよ? おりゃあああみんな、戦争だぜ!」

 ここでナッツをただの自制の効かない馬鹿な子供だと言うものは誰もいないだろう。彼がキレたのも当然である。

 特に、ナッツはアルに直接師事しており、さらにはミュレットにも密かに思いを寄せているのだから。

「なんだぁ!? 貴様ら、貴族に歯向かうと言うのか!?」

 まさか村人に牙を剥かれるとは思っていなかったジークは意表を突かれた。

「おい! ジーク様をお守りしろ!」

 動けないでいるジークを、使用人が護るようにして取り囲む。

「うおおおおおお!!!」

 だがナッツは構わず特攻する。

 アルから直伝された自慢の剣術を、ここぞとばかりに見せつける。

 ナッツが切りかかったのは、使用人の構える剣に対してではない。彼の剣は村で用意できる程度の質の悪い木製の剣なので、まともに打ち合うことは敵わないと考えたのだ。

 ナッツの剣が素早くとらえたのは、使用人の手元だった。

 以外にも木製武器での打撃は想像以上の威力で、使用人は思わず剣を地面に落とした。

「なに!?」

 まさか彼もただの村の少年に後れをとるとは思っていなかったのであろう。使用人一同、一瞬顔を見合わせて、驚愕の表情を浮かべた。

「何をやっている!? さっさとその生意気なガキを殺せ!」

 後ろでジークがわめく。使用人はそれではっと我に返り、再びナッツに向き直る。

 剣を落とした使用人がそれを拾おうとし、ナッツがそれを剣でさらに弾いて制止する。

 だがそれに気をとられているナッツを横から別の使用人が襲う。

「はっは! 敵は一人ではないぞ! 少年!」

 間一髪、切りかかった使用人の身体に、遠くから火球が飛んできて、彼は吹き飛ばされる。

「うおおお! なに!?」

「あいにくだがこっちも一人じゃない!」

 ナッツを窮地から救ったのは、別の村の子供たちだった。彼らもまた、アルに師事していた子供たちだ。

 そこからはもう乱闘が始まった。敵味方入り混じっての大合戦。

 だが、村人のほうにけが人はいまのところ一人もいない。

「ただの村人に何をてこずっている!? は・や・く、殺せえええ!!!」

 ジークが勢いを増してわめき散らす。まるで駄々をこねる聞き分けの無い子供のようだ。そして実際その通りなのだが。

「で、ですが、この村人たち、なぜか異常なまでに手ごわいです!」

 もはや戦況は一目瞭然。そしてこれ以上続けてもそれが覆ることなどあり得そうにもなかった。

 そのことがようやくジークにもわかるようになる頃には、使用人たちの体力も尽きていた。

「く、くそぅ……なんていう村だ……」

 使用人たちがへっぴり腰になってずりずりと引き下がり始める。

「も、もういい……! 引き返すぞ!」

 ジークがそう言うと、待ってましたとばかりに彼らは森の中へ消えていった。

「やった! 追い返したぞ! アルの敵を俺たちが追い返した! アルの役に立てたかな?」

 ナッツは大喜びで、他の子供たちもそれを分かち合った。

 頭が痛い思いをしているのは分別のある大人たちだけだった。

「ああ、どうしよう……大変なことになったぞ……」

「大丈夫だ。アル君がそれもこれも解決してくれるさ……。もうすでに旅の商人さんが置いて行った奴隷の男が、街に向かって伝言を届けてくれている。じきにアル君たちも戻ってくるじゃろう……」





 ただの村人たちに追い返されたジークは、一人憤慨していた。

「くっそ……! 役立たずどもめ……! どいつもこいつも……」

 使用人たちは怪我をしているものも多く、その足取りは重い。

 みな、怒れるジークに何も言えないまま、気まずい帰路となった。

 それでも帰路の中腹までくると、みな士気を取り戻しつつあった。

「それで……どうしましょうか、ジークさま」

「当然、次はもっと準備を整えて……アル・バーナモントごとあの村を根絶やしにするに決まっている……!」

「で、ですが、そんなことをして近隣の領地の貴族になんといわれるか……。大量虐殺じゃないですか!」

「ふん……俺の知ったことではない! それらのあおりを受けるのは父上ではないか……! はっはっは!」

 静かな森に、ジーク・カイべルヘルトの邪悪な笑いがこだました。
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