魔力ゼロの忌み子に転生してしまった最強の元剣聖は実家を追放されたのち、魔法の杖を「改造」して成り上がります

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中

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忌み子編

15.旅立ち【視点移動あり】

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 アルが街に旅立つその日になった。

 村人たちはみな別れを惜しみ、見送るために集まった。

 そこにはもちろんミレーユとミュレットも含まれる。

「アル……心配だけど、本当に行くのね……。ほとぼりが冷めたら、知り合いの商人さんに手紙を届けてもらうわ……。それまで元気でいてね」

 ミレーユが本当の母のようにアルを抱きしめる。

「ありがとう……ミレーユさん。いや……ママ」

 アルもそれに応えるようにして、本当の親子のような抱擁を交わす。ミレーユの胸がアルの顔に当たり、あの夜 ・・・のことを思い出したことは内緒だ。

「じゃあ……そろそろ行こうかな……」

 名残惜しくも、アルが村の外へ足を向けた直後、彼は振り返る。

「……で、なんでミュレットも付いて来ようとしてるのさ……?」

「……?」

「……? じゃないよ! なんでそんなに荷物ももって準備万端なんだよ!」

 アルの後ろには、前日から周到に準備されたバックパックを持ってたたずむミュレットの姿があった。彼女は心底不思議そうな顔でアルを見つめている。まるで自分が同行するのはあたりまえだと言わんばかりに。

「だって、私とアルは家族でしょ? いつもいっしょにいるのは当然じゃない!」

「ついてくるなって言っても、無理やりついてくるんだよね……?」

「当然!」

「はぁ……」

 この一か月間いっしょに暮して、アルもミュレットの性格は熟知していた。彼女はいったん決めるととことん頑固なのだ。

 それに、ミュレットはどこに行くにもアルについてきたがった。今回も例によってそれを拒むことはできないのだろうなとアルは半ばあきらめ気味に、

「ママはそれでいいの……?」

 とミレーユに助け舟を求める。

「私はそれで構わないわよ! 村にいるよりアルといたほうが結局安全だろうし……それに親戚のおばさんのところには何度か行ったことがあるしね。ミュレットがいた方がいろいろとわかりやすくてスムーズにいくんじゃないかしら?」

 なるほど、たしかにそれもそうだ。とアルはなんだかんだで納得させられてしまう。

 ミュレットには当初、村の安全を守ってもらいたかったが、今となってはそれは他の村人たちで事足りることだ。アルとミュレットがいなくても、ナッツや他の子供たちでなんとか村に魔物を寄せ付けないでいられるだろう。

「うーん、じゃあまあ……ミュレットは僕といっしょにいたほうがいいか……」

「わぁい! やった! アルとずっといっしょに居られるわ!」

 はしゃいでアルに抱きつくミュレットを、悔しそうな目でナッツが見つめていた。アルはそれをまったく気がつかないでいるのだった。

 すると、「ちょっと……」というふうにミレーユがアルに手招きをした。

 アルが近づいていくと彼女は耳打ちをし、小声で、

「もし間違いがあっても、責任をとるなら構わないわよ……」

 と囁いた。

「ちょ、なに言ってんの!?」

「あ、でも避妊はするのよ……? まだ子供なんだからね?」

 小悪魔みたいな微笑みで冗談を飛ばすミレーユに、アルはたじたじになる。

「いや、そんなことするつもりないんだけど!? 子供っていうんならなおさら子供に何言ってんの!?」

「え、避妊しないっていうの!? まあ、なんて子! そんな風に育てた覚えはありません!」

「いやそういうことじゃなく、行為自体をするつもりないです! ていうか育てられた覚えはこっちもないわ! まだ一ヶ月しかお世話になってないからね?」

 アルとミレーユのコントみたいなやりとりに、みな別れを悲しむ気持ちを忘れて笑顔になった。もちろん二人のやり取りは小声で行われたが、その様子ははたから見ても実にほほえましいものだった。

「もう、アルとママったら、ほんとに仲がいいわね……!」

 ミュレットもどこか嫉妬したようにだが、笑ってみせる。

「アル、ミュレット……必ず戻ってくるのよ……?」

 ミレーユが再び二人を抱き寄せる。彼女がミュレットをいっしょに行かせたのは、必ずアルも戻ってくるように仕向けるためでもあった。アル一人だと、このまま村に戻ってこないこともあり得る。もしそうなれば、もちろんミレーユも寂しいし、なによりミュレットが悲しむ。

「「はい……行ってきます」」

 二人は異口同音に唱えて、森の中に消えていった。





 アルがカイべルヘルト家の使用人を始末して、数日。それに感づいた仲間たちは、一度屋敷に引き返していた。

「くそ……あいつ……とうとう戻らなかったな……。だから言ったのだ……あんな暗い森で単独行動など危険だと……」

「いや……それでもアイツほどの手練れだ、天敵となるような魔物はあそこらにはいなかったはずだぜ? ……となると……やっぱり何者かに殺された可能性が高い。死体もとうとう見つからなかったしな……」

「何者か……やはりそれは……」

「ああ、おそらくだが、アル・バーナモントだろうな……。とはいえ、あのような幼い少年がそんなことをするとも思えないのだが……」

「馬鹿言え、あやつはジーク様をぼこぼこにしたうえ、うちの使用人随一の手練れであるカリズマン式剣術使いのラドクリフをも倒したのだぞ!? かわいいなりをして、中身は悪魔のようなものだよ」

 道中でそのような会話を交わす。そしてその推測は正しかった。

 屋敷に着くやいなや、ジーク・カイべルヘルトの前に通される。

「よぉ……遅かったじゃねぇか……」

 報告を聞く前から、怒り気味の主人に、使用人たちは震え上がる。

「……は! 報告いたします! 我々の仲間の一人が、アル・バーナモント捜索の最中に姿を消しました。おそらくは……彼に殺されたものと思われます」

 それを聞き、ジークは憤慨し、激昂し、椅子から立ち上がって使用人の顔を蹴りつけた。

「やっぱり西じゃなかったじゃないか……! おい! 最初に西がどうとか言った馬鹿はどいつだった!? たしかお前だったか……?」

 部屋にいた他の使用人が適当に指を刺される。ジークにとって使用人の顔など見わけもつかないのだ。

「え! じ、じぶんは……違います! それはカリズマン式剣術使いのラドクリフです!」

 濡れ衣を着せられてはたまらない、と男は必死に否定する。

「貴様らの名前などどうでもいい! 同じような見た目をしてるから区別がつかん! いいからとりあえずそのラドクリフとかいうクソを連れてこい!」

 ジークの怒りのボルテージがさらに上がる。もはや頭から湯気でも出そうな勢いだった。

「は! 了解しました!」

 出口間際に待機していた使用人が、すぐさま部屋を出ていった。使用人たちはすぐれた連携プレーでいつもジークのわがままに答えている。今回も、効率を考えて、出口間際の彼が真っ先に行動に移った。

 呼びに行った使用人が帰ってくるまでしばらく待つ。部屋には気まずい沈黙が流れた。みなどうにか怒りの矛先が自分に向かぬよう、ジークの顔色をうかがうばかりだ。

 使用人全員が、どうにか早く帰ってきてくれと祈るうちに、ラドクリフが連れてこられた。

 まるで罪人を連行するように、乱暴に引きずり回されて、彼はジークの目の前に跪かされる。

「ジーク様! ラドクリフをお連れしました」

 普段この家の使用人に決まった呼び名は与えられないのだが、こういった場合は便宜上、本名で呼ばれることもある。

「よし、殺せ!」

 ジークは冷たく、冷酷に言い放つ。

「な!? ま、待ってください! ラドクリフはあくまで自分にわかる情報を述べたまでで、故意に嘘をついたわけではないかもしれないじゃないですか! それに、彼は使用人の中でも相当の手練れです! 殺すには惜しい人材です」

 使用人の一人が反対する。

「あ? それは関係ない。こいつのせいであのアル・バーナモントの発見が大幅に遅れることになったんだからなぁ!」

 と言うと同時に、ジークは剣を抜き、ラドクリフの肩に突き刺した。

「ぐぁあああ」

「ほぅら、これで俺の痛みがわかっただろう? 俺もあのバーナモントにここをこうやってグリグリグリグリ抉られたんだよ! それがどれほどの屈辱か! 貴様も味わって地獄で後悔するがいい!」

 そう言い終わる頃には、既に剣先がラドクリフの心臓に達し、彼は絶命していた。

「ジークさま、彼はもう絶命しております故、そのへんで……」

 近くにいた使用人が見かねて止めに入る。

(ひ、ひどい……無茶苦茶だ……。以前は横暴はすれど、ここまでのことはなかった……。どうなさってしまわれたのだ……)

 彼は内心、我が主の変貌っぷりをどう捉えればいいのか疑問だった。

「……ふん、つまらん……」

 ジークはその場に無造作に剣を放り投げると、屋敷の外へ向かって歩き出す。

「ジークさま! どこへ!?」

「使用人が行方不明になったあたりへ案内しろ……俺が直接行く」
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