辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

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第77話 カレン

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 異世界から帰ってきて、亜人症の人々の治療を終えた。
 ひかるんの母親との件も無事に片付いたし、ようやく落ち着ける。
 まあ、ひかるんの母親が行方不明になってしまったのは、残念だが……。
 ひかるんがショックを受けていないといいんだがな……。
 まあ、あんな母親だったから、ショックも少ないだろう。

 異世界に行っていたあいだ、こっちの人とは会っていなかった。
 帰ってきてからもバタバタしていて、全然誰とも会えていない。
 そのせいで、LINEがものすごい数溜まっていた。
 特に、カレンからのLINEが溜まっていた。

【先輩、いつ会えるんですか……!】
【先輩、心配です】
【先輩、今どこにいるんですか】
【先輩、連絡返してください】
【先輩、ちゃんと食べてますか?】

 あれ、カレンってこんなに俺のこと気にかけてくれてたっけ?
 まあ、遊び相手がいなくて暇しているのだろう。
 ということで、久しぶりにカレンに会うことになった。

 さすがに俺もカレンも有名人になりすぎているので、お互いに変装して会うことに。
 俺はマスクとカツラとグラサンをして、待ち合わせの居酒屋に向かった。
 元職場近くの居酒屋で、昔はよくここで飲んだものだ。

「先輩……! やっと会えましたね……」
「おう、久しぶりだな」

 とりあえず席に座って、ビールを注文する。

「もう、異世界にいきなりいっちゃうんですから。心配しましたよ」
「悪い悪い。そんなに俺と遊びたかったのか? お前友達は……?」
「もう、そういうことじゃなくって……!」
「……? まあ、いいや。とりあえずのもう」

 俺たちは再会を喜んで乾杯した。
 しばらく、最近あったことなどをお互いに話した。

「先輩は……最近ひかるんとはどうなんですか? 異世界にいた間、ずっと一緒にいたんでしょう……?」
「あー、ひかるん? ひかるんなぁ、俺が引き取ることになったわ」
「えぇ……!? ど、どういうことなんですか……!?」
「ひかるん母は行方不明だし、父親も異世界から帰ってきたらどっかに失踪してたみたいでさ」
「そんな……そうなんですか……じゃあ、一緒に住んで……?」
「いや、さすがに一緒には住まないけどな。書類上だ」
「そうなんですね。って、そうじゃなくて……。ひかるんに手は出しちゃだめですよ。相手は高校生なんですからね……!」

 カレンは頬をふくらませ、眉をひそめて俺にくぎを刺す。
 
「そんなのわかってるよ。当たり前だろ。相手は子供だ」
「そ、それならいいんですけど……」

 しばらく適当に料理をつついたあと、店を出る。
 支払いは俺が適当に済ませておいた。
 まあ、今となっては金は余るほどある。
 そっから、しばらく繁華街を歩く。

「このあとどうしよっか」
「え……? ま、まさか先輩……誘ってくれてるんですか……?」

 カレンは少し顔を赤らめて、上目遣いでそうきいてくる。
 なにを当たり前のことを言ってるんだ……?
 誘ってるに決まってるじゃないか。

「おう、カラオケでもどうだ?」
「って……はぁ……先輩に期待した自分が馬鹿でした……」
「は……? カラオケいやなの……?」
「いや、行きますけど……」

 二人でカラオケに向かって歩き出した途中。
 向こうからチャラついた男たちの集団があるいて来る。
 男たちは道の真ん中に広がり、なにやら騒ぎながら歩いている。
 マナーが悪いな。
 よほど酔っ払っているのか、足取りもちぐはぐだ。
 そして通りすがりざまに、カレンにぶつかってきやがった。
 その瞬間、カレンの変装していた帽子とサングラスが、地面に落ちる。

「あ、すみません……って……あれ? もしかして、ダンチューバーのカレンさんですか……?」

 ぶつかってきた男が、カレンの顔を見て正気に戻る。
 まずい……!
 これは、バレてしまったか……?
 すると、隣にいた別の男が、俺のことにも気づいたようで、俺の顔を指さしながら、大声で言った。

「あれ……!? もしかしてこの人、辻おじじゃね……!?」
「え……!? うわ、ほんとだ……! マジじゃん! 超有名人じゃん!」

 やばい、これは大変なことになるぞ……!
 男たちが騒ぎ出すと、しだいに周りの通行人たちも俺たちに視線を集めた。
 そして、だんだん周りに騒ぎが波及していく。
 みんな俺たちを取り囲むようにして、サインやら写真やらを求めてくる。
 まるでゾンビのように群がってきて、このままじゃドミノ倒しになるぞ……!

「カレン、逃げるぞ……!」
「あ、先輩……!」

 俺はカレンの腕をひいて、その場から逃げ出した。


 ◇


「はぁ……はぁ……大変な目にあったな……」
「おちおち食事もできませんね……」

 とりあえず、人目のないところに避難する。

「このあとどうします……?」
「どうしますって、帰るしかないだろ……。また見つかったら騒ぎになる」
「ですよね……」
「とりあえずタクシー呼ぶか」

 俺はスマホアプリでタクシーを呼んで、二人で乗り込んだ。
 すると、当然のように、運転手にも気づかれた。

「あれ、お客さん、どこかで見たことあると思ったら、辻おじさんだね」
「あは……どうも……」
「まあ、安心して、誰にも言わないから」
「どうも」

 まあ、タクシーの中なら安全だ。
 タクシー運転手に気づかれるくらいは大丈夫だろう。
 しかし、これは困ったな……。
 俺の思っていた以上に、世間は俺のことを認知している。
 まあ、それも当然か、なんたっていまや俺はノーベル賞の候補にもなってるんだしな……。
 これはちょっと、本格的に対策を立てる必要があるぞ……。 

 
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