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第74話 エリクサー
しおりを挟むあれから、ひかるんがどうしているのか、心配になってきた。
俺はひかるんのアパートへ行く。
すると、部屋の扉が開いていた。
おかしい、なにかあったのだろうか。
俺は、ひかるんの部屋の中に入る。
すると、そこにはひかるんの母がいた。
もしかして、この前のことを謝りにでもきたのかな、と思うが……違った。
なんと、ひかるんの母は、刃物を持っていた。
「な、なにをやってるんだ……!?」
俺はあわてて、ひかるんと母の間に割って入る。
「この子が、この子が全部悪いのよ……!」
ひかるんの母は、ひかるんに刃物を向け、今にも刺し殺しそうな勢いだ。
ひかるんは怯えて、俺の後ろに隠れている。
「ハヤテさん……」
「大丈夫だひかるん、俺が守るから……」
そのときだった。
ひかるんの母は、とうとう気が狂ったらしく、雄たけびをあげて、俺たちに襲い掛かってきた。
「きゃあああああああ! 死ね! 死ねええええええ!」
「いやあああああ! お母さん、やめて……!」
俺は、ひかるんをかばうようにして前に出た。
グサ――。
お腹の部分に、あたたかい感触がある。
「あ…………あ…………」
ひかるん母のもっていた刃物は、俺の腹部に刺さっていた。
「いやあああああ! ハヤテさん…………!」
ひかるん母は、俺を刺してしまったことに、放心状態だ。
悲鳴を上げて、どこかへ去ってしまった。
「いやああああ! 違う、違うのおおおおおお!」
残された俺は、地面に倒れる。
ひかるんが俺を、やさしく抱き支えてくれる。
「ハヤテさん! ハヤテさん! いやああああ! 死なないで……!」
「俺は大丈夫だ……。ひかるん、怪我はないか?」
「ハヤテさん……! ハヤテさん……!」
俺はそこで、意識を失った。
◇
目が覚めると、俺は病院だった。
なぜ、俺は生きているんだ……?
「ハヤテさん……! ハヤテさん……!」
ひかるんが、俺に泣きついてくる。
「ひかるん……なにがあったんだ……?」
病院のベッドに寝かされている俺。
あれはさすがに死んだかと思ったが、すでにどこも痛くない。
あれからどのくらい時間が経ったのだろうか。
傷口を触ってみるも、すでに傷がふさがっている。
さすがにあれは、俺の回復魔法でもどうにもならないようなレベルだった。
なぜ、俺はこんなにぴんぴんしているんだ。
すると、病院の先生――ではなく、白衣姿の美寄教授が現れた。
「美寄教授……? どうしてここに……」
「ハヤテさんがピンチだってきいてね。駆けつけたのさ」
「それは……どうも、で、俺はなんで助かったんですか……?」
どうやら、俺が助かったのには、美寄教授が関係しているらしい。
美寄教授はポケットからなにやら薬品を取り出した。
「これのおかげだよ」
「これは……?」
「これは、そうだね、エリクサーとでも名付けようか」
「エリクサー?」
「君たちが異世界から持って帰った、超級薬草を使って作ったものだよ」
「あ…………」
そういえば、あのとき超級薬草を2つとって、一つは地球に持って帰ってきてたんだっけ。
それをひかるんが、美寄教授に渡してくれたってわけだな。
まさか、あのときのがこうやって役に立つなんて。
「危ないところだったんだよ。無茶するから。超級薬草の案を考え着いたひかるんにお礼を言うんだね」
「ありがとうございます……美寄教授、ひかるん」
どうやら俺は、今回ばかりは命を助けられてしまったらしい。
俺は俺に布団に顔をうずめて泣きじゃくるひかるんの頭を、そっと撫でた。
「よかった。ハヤテさん。生きててよかったぁ」
◇
それから、ひかるんのお母さんは警察に逮捕された。
まあ、さすがにそうなるよな……。
殺人未遂ということで、調査がされるようだ。
そして、ひかるんは俺が引き取ることにした。
書類上は、俺が保護者ということになる。
まあ、もちろんこれまで通り、別々に暮らすし、なにも変わりはしないのだが。
ひかるんにもしなにかあったときは、俺が大人として面倒を見ることになっている。
俺は、これからも大人として、ひかるんを守っていこう。
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