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第32話 さすがに勝てないだろ……
しおりを挟むカレンはオーガの攻撃に吹き飛ばされてしまった。
ダンジョンの壁に、打ち付けられるカレン。
俺はそこに駆け寄る。
「大丈夫か……! カレン!」
「先輩……大丈夫ですか……?」
「馬鹿野郎。俺の心配はいいから! 自分のことを心配しろ!」
近くによってみると、カレンがけがをしていることがわかった。
カレンはお腹のあたりをオーガに斬り裂かれ、かなり出血している。
「っく……どうすれば……」
このままだと、カレンが死んでしまう。
傷はかなり深く、出血も大量だ。
俺の回復魔法では、ここまでの傷は治せない……。
『やばいって……』
『出血やばい……』
『カレンさん……』
『大丈夫……?』
『逃げよう……!』
『逃げて!』
今すぐに病院に連れていかないと。
しかし、目の前にはオーガが迫ってきている。
「オガアアアアアア!!!!」
「っく…………」
カレンのもとにしゃがみ込む俺に、オーガがここぞとばかりに突進してくる。
俺にはオーガは倒せない。
万事休すか……。
そのときだった。
オーガの目の前に、おもちとだいふくが立ちはだかった。
まるで、俺たちを守るように、巨大なオーガに立ち向かう二匹。
『おおおおお……!』
『胸熱』
『えらい!』
『ご主人様をまもろうとしてる!』
『でも大丈夫か……!?』
『さすがに勝てないだろ……』
『おもちとだいふくが……! やられちゃう』
『逃げてえええええ』
『おもち……! だいふく……!』
そうだ、おもちとだいふくでは、オーガになんかかないっこない。
スライムと子狼では、どうやっても勝てないだろう。
「お前たち……! 逃げるんだ……!」
そのときだった。
おもちの身体が、ぐんと大きくなる……!
「おもち……!?」
おもちはただのスライムの形から、どんどんおおきくなって……。
まさに、キングスライムといわんばかりの大きさに変身した。
そして、だいふくも、どんどん身体が大きくなっていく。
「だいふく……!? ど、どうなってんだ……?」
だいふくは子狼から、巨大な大人の狼に変身した。
二匹は、オーガにも負けない大きな体で、立ちはだかる。
「オガ……!?」
オーガも急に二匹が大きくなったことで、びっくりしてひるんでいるようだ。
いったいどうなっているんだ……?
『おおおお……???』
『すげえ!』
『でっかくなった!』
『いいぞ! いっけえええええ!』
『これで勝てる!』
『さすがはおもちとだいふくだ!』
『進化した……!?』
『だいふく、これフェンリルじゃね……?』
『これフェンリルだよ』
『だいふく、フェンリルの子どもだったのか』
これが、進化っていう奴なのか……?
とりあえず、仕組みはわからないけど、なんとかなりそうだ。
しかも、だいふくがフェンリルだって……!?
気づかなかった……だいふくがフェンリルだったなんて……。
だいふくは俺に振り向くと、なにかを訴えかけてきた。
「がうがう……!!!!」
「俺に、治療しろって言うのか……?」
「がう!」
「よし……! 任せたぞ……!」
だいふくは、オーガは自分に任せろと、そう言っているような気がした。
そして、はやくカレンを治せと、俺に言っているような気がした。
なぜだかはわからないが、これまで以上にだいふくと心がつながっている気がした。
俺は言われたとおり、カレンの傷口に、回復魔法を当てる。
すると――。
「うおおおおおおお……!?!?!?」
俺の回復魔法が、いつもより巨大な光を帯びて……。
そして、みるみるうちにカレンの怪我が治っていく。
俺の回復魔法に、ここまでの効果があったなんて……!
「いっけえええええええ!!!!」
俺はどんどん魔力を込める。
そして、あっというまにカレンの傷は完治した。
「す、すごい……!」
『すっげええええええ!!!!』
『おおおおお……』
『さすがは辻おじ』
『おじさんナイス!』
『カレンさんを救ってくれてありがとう!』
カレンは、静かに目を覚ます。
「先輩……ありがとうございます……」
「カレン……よかった」
とりあえず、どういうわけかわからないが、なんとかカレンを救うことができた。
なぜ俺の回復魔法がパワーアップしていたのかは、謎だけど……。
そして、オーガとだいふくが対峙している。
オーガとだいふくの力は、ほぼ互角のようだった。
だいふくはオーガの腕を噛んで、はなさない。
「オガアアアアアア!!!!」
「がるるるるる……!!!!」
すると、おもちがなにやら身体をぷるぷると震わせはじめた。
そしておもちの身体がどんどん変形していく。
おもちは、だいふくをコピーして、みるみるうちに狼のような姿になった。
狼スライムといえばいいのだろうか。
質感はスライムのまま、狼の形に変形した。
「おもち……!?」
「ぴきゅいいいいいいい!!!!」
『おもち変身した……!?』
『だいふくの真似したんだね!』
『狼おもち!』
『おもちいっけえええええ!!!!』
そして、おもちはオーガの、だいふくが噛んでいる反対側の腕を、噛む。
そしておもちとだいふく、二匹で、いっせいに、オーガの腕を――。
――そのままガブリと噛み千切った!
「オガアアアアアア!!!!」
そこからはあっという間だ。
おもちとだいふく、二匹でオーガにのしかかり、息の根を止める。
「がうがう!」
「ぴきゅいいいいいい!!!!」
「オガアアアアアア!!!!」
あっというまに、オーガを倒すことができた。
『すげえええええ!!!!』
『ナイスおもち!だいふく!』
『オーガ倒した……!』
おもちとだいふくに、まさかこんな力が眠っていたなんて……。
今回は、二匹に命を助けられてしまったな。
オーガを倒したことを確認すると、おもちもだいふくも、元の姿にもどった。
そして、俺のもとへと駆け寄ってくる。
俺は二匹のことをこれでもかと撫でてやる。
「おもち! だいふく! よくやってくれたぞ! すごいな。ありがとうな」
「がうがうー!」「ぴきゅいー!」
なぜ二匹が巨大に進化したのか、なぜ俺の回復魔法があそこまで強化されていたのか。
謎は尽きないが、なんとか生き残ることができた。
俺たちは配信を終了させ、ダンジョンを出ることにした。
今日は、さんざんな目にあった。
「先輩、今日はたすけてくれてありがとうございました。もちろん、おもちちゃんとだいふくちゃんも」
カレンはそういって、二匹を撫でる。
「カレン、身体はもう大丈夫か?」
「ええ、先輩のおかげで、傷一つないです」
「そうか、よかった。気を付けて帰るんだぞ」
「はい。先輩も」
今日は怖い思いをした。
俺たちはふわふわした気持ちのまま、家に帰るのだった。
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