13 / 86
第13話 だから、そう言ってるだろ
しおりを挟む「それで、なんのようでしょう……」
社長室に呼び出された俺は、おそるおそる尋ねる。
「君にお客さんでね」
「はぁ」
「プレデターウェアというパソコンの会社を知っているかな?」
「ええ、それはもう。うちでも何度か仕事を受けたことはありますよね」
「うむ」
プレデターウェアってのは、海外資本の巨大なパソコンブランドの企業だ。
かなりでかい会社で、最近ではエナジードリンクなんかも展開している。
e-sportsチームなんかも持っていて、エナジードリンクはそれとも絡めて売り出されている。
「こちら、プレデターウェアの茶会茶トラオさんだ」
社長は、一人のスーツ姿の男性を俺に紹介する。
茶会茶……どこかで聞いたことのある名前だなと思う。
まあ、珍しい苗字だしな……。
茶会茶と紹介された人物は、俺に名刺を手渡して、おじぎした。
「茶会茶トラオです。よろしくお願いいたします」
「あ、これはご丁寧に……どうもって……ん……!?」
茶会茶トラオの顔を見て、俺は完全に思い出した。
大学時代、同じ学部にいた、その男のことを――。
「よ! 辻風! 久しぶりだな」
「お、お前……!? 茶会茶トラオか……!?」
「だから、そう言ってるだろ」
完全に思い出したわ。
茶会茶トラオ、こいつは大学時代、同じ学部だったやつだ。
成績優秀で、スポーツマンで、きっといいところに就職するんだろうなと思っていたが、まさかプレデターウェアに就職していたとはな……なかなかやるなぁ……。
こんなクソ企業で仕事している俺とは、大違いだ。
「それで、俺になんのようなんだ……?」
「動画を見たんだよ。動画。モンスター飼ってるんだろ」
「お前もそれか……」
「それでな、うちの会社、プレデターウェアとしては、おもちちゃんとだいふくちゃんに、宣伝を頼みたいと思ったんだよ。それで、動画を見ていて気付いたんだ。動画の主がお前だっていうことにな。それで、友達づてにお前の会社をつきとめたってわけ」
「なるほどな……」
俺たちが話していると、社長が話に入ってきた。
「茶会茶さんはな、それで辻風くんに企業案件を頼みたいといっているんだよ。ついでに、うちにも大口の仕事を回してくれるといっているんだ。受けてくれるな?」
「ええ、そういうことでしたら……まあ」
「よかった」
なるほどな、社長にも益がある話ってことか。
「じゃあ、詳細はまた後日メールするから。そういうことで、よろしくな。上手く行ったらまた飲みにでもいこう。大学時代の話に華を咲かせようぜ」
「ああ、わかった」
茶会茶はそう言って颯爽と去っていった。
それにしても、さっそく企業案件かぁ……。
プレデターウェアだし、かなりの額もらえるんじゃないか?
動画も伸びているし、これはマジで会社やめれるかもな。
社長は機嫌がよくて、そのまま俺に楽な仕事を回してくれた。
おかげで、その日は久しぶりに楽だった。
俺に振られていた厄介な仕事は、クソ上司に押し付けられて、ざまぁみろって感じだ。
◇
それからしばらくして、俺の動画の収益化が通った。
ちょうど月も変わり、一気に俺のふところに、50万ほどの金が入ってきた。
ひええええ……これマジで会社やめれるんじゃないの?
月末だけの再生数でこれだけだ。
来月はもっとえぐい金になるんじゃないのか。
しかも企業案件も待っているからな。
ということで、俺はもう仕事をやめてやることにした。
正直言って、もう限界だったからな。
社長も、俺がやめることに同意してくれた。
俺のおかげでプレデターウェアとのパイプができたから、まあ、引き留められはしたんだけどな……。
でも、俺のおかげでプレデターウェアから仕事をもらったから、しばらくは安泰らしい。
ちなみに、俺の抜けた穴を、社長はクソ上司に埋めさせようとしたらしい。
今までクソ上司は俺に仕事を押し付けていたけど、押し付ける相手がいなくなって、自分でやる羽目になったんだとか。
人員が減ったことで、クソ上司は自分で手を動かさざるを得なくなった。
うちの会社に、すぐに人を補充できるほどの余裕もないしな。
プレデターウェアから受けた大口の仕事、クソ上司はとんでもないミスで台無しにしてしまったらしい。
今まで自分でろくに手を動かさず、人に押し付けていたつけがまわってきたのだ。
クソ上司は責任をとって、仕事をくびになったらしい。
正直いって、ざまぁみろって感じだ。
代わりにユウジがチーフに昇格したらしい。
ユウジはクソ上司の失敗をみごとにカバーして、プレデターウェアの仕事を上手くたてなおしたのだとか。
ユウジは俺のおかげで出世できたと、礼を言っていた。
85
お気に入りに追加
2,641
あなたにおすすめの小説

私のバラ色ではない人生
野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。
だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。
そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。
ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。
だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、
既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。
ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。

王命って何ですか?
まるまる⭐️
恋愛
その日、貴族裁判所前には多くの貴族達が傍聴券を求め、所狭しと行列を作っていた。
貴族達にとって注目すべき裁判が開かれるからだ。
現国王の妹王女の嫁ぎ先である建国以来の名門侯爵家が、新興貴族である伯爵家から訴えを起こされたこの裁判。
人々の関心を集めないはずがない。
裁判の冒頭、証言台に立った伯爵家長女は涙ながらに訴えた。
「私には婚約者がいました…。
彼を愛していました。でも、私とその方の婚約は破棄され、私は意に沿わぬ男性の元へと嫁ぎ、侯爵夫人となったのです。
そう…。誰も覆す事の出来ない王命と言う理不尽な制度によって…。
ですが、理不尽な制度には理不尽な扱いが待っていました…」
裁判開始早々、王命を理不尽だと公衆の面前で公言した彼女。裁判での証言でなければ不敬罪に問われても可笑しくはない発言だ。
だが、彼女はそんな事は全て承知の上であえてこの言葉を発した。
彼女はこれより少し前、嫁ぎ先の侯爵家から彼女の有責で離縁されている。原因は彼女の不貞行為だ。彼女はそれを否定し、この裁判に於いて自身の無実を証明しようとしているのだ。
次々に積み重ねられていく証言に次第に追い込まれていく侯爵家。明らかになっていく真実を傍聴席の貴族達は息を飲んで見守る。
裁判の最後、彼女は傍聴席に向かって訴えかけた。
「王命って何ですか?」と。
✳︎不定期更新、設定ゆるゆるです。

婚約者を親友に盗られた上、獣人の国へ嫁がされることになったが、私は大の動物好きなのでその結婚先はご褒美でしかなかった
雪葉
恋愛
婚約者である第三王子を、美しい外見の親友に盗られたエリン。まぁ王子のことは好きでも何でもなかったし、政略結婚でしかなかったのでそれは良いとして。なんと彼らはエリンに「新しい縁談」を持ってきたという。その嫁ぎ先は“獣人”の住まう国、ジュード帝国だった。
人間からは野蛮で恐ろしいと蔑まれる獣人の国であるため、王子と親友の二人はほくそ笑みながらこの縁談を彼女に持ってきたのだが────。
「憧れの国に行けることになったわ!! なんて素晴らしい縁談なのかしら……!!」
エリンは嫌がるどころか、大喜びしていた。
なぜなら、彼女は無類の動物好きだったからである。
そんなこんなで憧れの帝国へ意気揚々と嫁ぎに行き、そこで暮らす獣人たちと仲良くなろうと働きかけまくるエリン。
いつも明るく元気な彼女を見た周りの獣人達や、新しい婚約者である皇弟殿下は、次第に彼女に対し好意を持つようになっていく。
動物を心底愛するが故、獣人であろうが何だろうがこよなく愛の対象になるちょっとポンコツ入ってる令嬢と、そんな彼女を見て溺愛するようになる、狼の獣人な婚約者の皇弟殿下のお話です。
※「小説家になろう」様にも投稿しております。
※R15は念の為です。
【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始

過労聖女が幸せになるまで
水空 葵
恋愛
癒しの力を持つ聖女セシルは使用人よりも酷い生活を送っていた。
わがままな貴族達の傷や病を癒し、雑用の仕事もこなす毎日。
聖女とは名ばかりの、使用人以下の扱い。
過酷な日々。病を癒しても感謝しない人達。
王国の全てが嫌になったセシルは、何もかも失う覚悟で国を出て、隣国で自由に過ごすことを決めた。
逃亡先の隣国で人々を助ける魔道具を広めながら、自由で幸せな生活を満喫するセシル。
一方で、都合の良い聖女が居なくなった王国では綻びが出始めて……。
過労死寸前だった聖女が商才を開花させ、新天地でみんなから愛され幸せになるお話。
※ファンタジー要素強めのお話です
※カクヨムでも公開しています

旦那様の性欲を満たせるのは私でした
ユユ
恋愛
「ラヴィア、おまえの結婚が決まった」
突然の話に耳を疑った。
「でも、私は」
「おまえの意見など聞く必要はない」
お父様が婚姻を決めた相手は
西の国境を治める訳ありの男だった。
お慕いする婚約者に婚約を破棄され、
淫乱令嬢という汚名を着せられたラヴィアには
従う以外なかった。
…え?待って、待って!
私、乙ゲーの中に入った!?
断罪された令嬢の身体に入るなんて!
しかも冤罪だったなんて最悪じゃない!
冷たい炎と呼ばれる侯爵と、
淫乱令嬢に仕立てられたラヴィア公女の
身体に入った女性のお話です。
* 作り話です
* R18(後半)
* 暇つぶしにどうぞ

【第3章:4月18日開始予定】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼毎週、月・水・金に投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる