上 下
53 / 55
《KINGDOM》

44話 身体を取り戻したい

しおりを挟む

「さて、行ってくるか……」 

 俺はいよいよダンジョンを出ようとする。
 しかし、ある問題に思い当たる。

「おい、俺って……ここのダンジョンマスターだから、このスライムの身体のままじゃ、出られないぞ……?」

 以前ダンの身体を借りて出たときは、憑依によるものだった。
 しかし、今回ギルティアの身体を借りているのは、変身能力によるものだ。
 だから、メタモルスライムの身体自体を外に出すことはできない……。

「なんだ、そんなことか」

 しかし、魔王はなんてことないように言う。

「ダンジョンマスターの権限を、だれか別のものに移せばいい」
「うつす……? そんなことができるのか?」

 俺の記憶が確かなら、そんな機能はダンジョンメニューにはなかったはずだが……?

「我を誰だと思っている? 魔王だぞ……?」

 魔王……つまりは他のモンスターたちにダンジョンマスターの権限を与えている存在。
 ならば当然、その権限を移し替えることも可能だというわけか……。

「じゃあ、イストワーリア。頼めるか?」
「え? 私ですか……?」
「ああ、俺の留守を頼む」
「そんな、私がマスターの代わりを……!?」

 イストワーリアはすごくうれしそうだ。
 俺も彼女のことは信頼しているから、安心して任せられる。

「じゃあ、権限を移すぞ」

 ラヴィエナは俺に近づいて、そう言った。
 そして、なにやら魔法を放つ。

「もういいのか……?」
「ああ、ためしにダンジョンメニューを開いて見ろ」
「ダンジョンメニューオープン! ……出ないな……」

 これで、ダンジョンマスターの権限は俺からイストワーリアに移った訳だ。
 まあ、それは一時的なことだけど……。
 これで、俺はギルティアの姿でダンジョンを出ることが出来る。

「じゃあ、いってくるよ」





 ギルティアの肉体を借りた俺は、王都にやってきた。
 王城にいくと、あっさりと王と話すことが出来た。

 だがしかし……。
 王のようすがおかしくはないか……?
 俺は今、あの勇者ギルティアの姿だというのに。
 王は眉間にしわをよせ、俺を睨みつけている。

「ギルティア……君は今更、なにをしに私の元へ来たんだ?」
「え……?」

 まさか、王がこんな塩対応をしてくるなんて。
 ギルティアは勇者として活躍しているんじゃなかったのか?

「まあ最近は少しは頑張ってダンジョンを潰しているようだが……。だからといってあの件は許していないぞ? 君はまだ監視対象なのだからな」

 くそ……ギルティアは何をしたっていうんだ?
 王とギルティアの間になにがあったのかわからない。
 とりあえずここは謝っておこう。

「申し訳ございません。その件は、非常に反省しております」
「ほう……君が反省なんてするとはな……」
「今日はあの魔族、ユノン・ユズリィーハの遺体を確認させていただきたい」
「それはまた、なぜ?」

 俺はなるべく、ギルティアの言葉使いやしぐさを再現しようとした。

「それは……私は間違っていたからです。彼は魔族ではありませんでした」

 俺はせめて自分の名誉を回復しようと、そう言った。

「それは前に私からも言っただろう……。それで……?」
「そ、そうでしたね……。なので、私は罪を償いたいのです」
「いや、それはならん。君にはまだ勇者として働いてもらわねばならない」
「っく……で、でしたら……その、せめて、ユノンの遺体を拝ませてください」
「ふむ……まあよかろう」

 俺は自分の遺体が保管されている場所に案内された。
 どうやら俺の遺体は重要な証拠品となるため、キレイに保管されているのだそう。
 まあ、おおかたギルティアが勇者として用済みになれば、逮捕でもするつもりだったのだろう。

「では……ごゆっくり」

 俺を案内してくれた人が、そう言った。
 しかし、彼女は俺の横から立ち去ろうとしない。
 これでは変身が使えないじゃないか……。

「あの……少し一人になりたいんだ……その、いろいろあったから」
「……! こ、これは……失礼しました。気がきかず……」

 ひとこと言うと、彼女はちゃんと部屋を出ていってくれた。
 これで、部屋には俺と俺の死体だけだ。

「さあ、俺の身体! 戻ってこい!」

 俺は変身を使った。
 そして、死体の状態の俺をコピーする。

「ぐあぁ……!!!!」

 いきなり身体が死体になったから、俺自身に激痛が走る。
 そして、息ができない――!

 急いで俺は憑依を使う。
 さっきの女の人に憑依させてもらおう。

「ふぅ……。あとは、こっから出ないとだな……」

 俺はまた、自分の身体に憑依で戻る――!
 そしてすぐさま変身で、ギルティアの身体に戻る――!

「はぁ……はぁ……あぶねえ……」

 命からがら、俺は自分の肉体情報を写し取ることができた。
 これで、あとはダンジョンへと帰ればいい。
 DP消費で回復でもいいし、アンジェに回復してもらってもいい。

「では……俺はこれで」

 案内してくれた女の人に礼を言い、俺は城を出た。
 これで、俺は蘇る……!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

呪われ姫の絶唱

朝露ココア
ファンタジー
――呪われ姫には近づくな。 伯爵令嬢のエレオノーラは、他人を恐怖させてしまう呪いを持っている。 『呪われ姫』と呼ばれて恐れられる彼女は、屋敷の離れでひっそりと人目につかないように暮らしていた。 ある日、エレオノーラのもとに一人の客人が訪れる。 なぜか呪いが効かない公爵令息と出会い、エレオノーラは呪いを抑える方法を発見。 そして彼に導かれ、屋敷の外へ飛び出す。 自らの呪いを解明するため、エレオノーラは貴族が通う学園へと入学するのだった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...