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《ユノンの復讐》
32話 始まりのダンジョン【side : ギルティア】
しおりを挟む俺たちは始まりのダンジョンにやってきた。
みるからに簡単そうなダンジョンだ。
すでに何人かの冒険者が挑んでいるはずだが、なぜまだクリアされていないのだろうか。
俺は謎を感じながらも、そこへ足を踏み入れる。
「ねえギルティア、そういえばもうポーションとかアイテムの残りが少ないわよ?」
レイラが興ざめするような余計なことを言う。
俺は頭にきてレイラをぶん殴った。
「うるせえ! 俺は勇者だぞ? こんなFランクダンジョンをクリアするのにそんなもの必要ないに決まってるだろ! 馬鹿か!」
「そ、そうよね……ごめんなさい」
まったく……いまだに教育がなってないな……。
「それじゃあ、入るぞ」
「う、うん……」
◇
始まりのダンジョン第一階層。
俺は足を踏み入れたとたん、足を踏み外す。
「うわっと……! なんだこれ!?」
どうやら地面は毒でドロドロなようだ。
「気をつけろ、足が滑るぞ!」
俺がそう忠告したにもかかわらず。
「きゃあ!」
レイラとエルーナも足を滑らせてしまう。
俺は後ろから押される形になって、一気に斜面を転がり落ちた。
「うわああああああ!」
どうやら坂になっていたようだな。
俺たちは坂の下まで来てしまった。
「大丈夫か……?」
「う、うん……」
「きゃああ!」
「どうした!?」
どうやら、後ろからなにかが飛んできたようだった。
「こ、これは……!? スライム!?」
俺たちの服がドロドロに溶かされてしまう。
しかも動きが制限されて、非常に不快だ。
「っち……Fランクダンジョンのくせに妙な仕掛けがしてあるな……。そのせいであまりクリアされていないのか……?」
いったい誰がこんな姑息なトラップを……。
しかしそれだけではなかった。
「痛!」
「どうしたエルーナ!?」
「暗くてよくわからない。なにかに刺されたわ! たぶん、魔力を吸われたみたい」
「くそ……マジバットか」
あれは厄介なモンスターだ。
暗闇からチクチクと魔力を吸ってちょっかいをかけてくる。
「おい、灯りはないのか!?」
「アイテム師はもう必要ないって帰したのはギルティアじゃない!」
「そうだった……」
こんなFランクダンジョン、灯りなどいらないと思っていた。
そんなものなくても、クリア可能だと、舐めてかかっていたのだ。
しかし、マジバットがどこにいるかわからないのは厄介だ。
無視して進もうにも、かなりうざい。
「じゃあつまり、毒消しもできないわけか……」
「そうなるわね……」
これは少しまずいかもしれない。
毒は割合ダメージだから、俺たちの体力がいくら多くても致命傷になりかねない。
しかもポーションも残り少ないといっていたな……。
ここでいったん引き返すべきか……?
いや、そんなことはありえない。
勇者がFランクダンジョンから引き返したとなれば、それこそ笑いものではすまなくなる。
「急いで先に進むしかないわね……」
「だな……」
とりあえずはエルーナの魔法でなんとかなりそうだが……。
こうも足止めが念入りにされていると、どうなるかわからないぞ……。
「おい、なんだアレ!?」
暗闇でよくわからないが、なにやら黒い物体がそこにあることだけはわかった。
それは坂道の上からゴロゴロと転がってきているように見える。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
「ゴーレムだ!」
なんと丸まったゴーレムが、ものすごいスピードで坂を転がり下りてくるではないか!
「……っく!」
俺はなんとかそれを受け止める……が、しかし!
――バキ!
「なんだって!?」
俺の剣が折れてしまった。
畜生……。
「おいレイラ、まだゴーレムが迫ってくるぞ! お前のモンスターたちになんとかさせろ!」
「そ、それが……!」
なんとレイラのモンスターたちは混乱していた。
どういうことだ!?
「なぜかさっきから、言うことを聞かないのよ!」
レイラのモンスター、ワーウルフたちはあちこちを向いて適当な方向に走り回っている。
これでは使い物にならない。
それどころか、俺に噛みついてくる始末。
「おい! このクソ犬をなんとかしろ! 殺しちまうぞ!」
「やめてよ! いちおう私の犬なんだから!」
「うるせえ! 混乱するような雑魚は死んじまえ!」
俺は持っていたもう一つの武器で犬を数匹引き裂いた。
「そんな……!」
「なにをやってるの二人とも! ゴーレムはまだくるわよ!」
エルーナが呼びかける。
くそ……!
ゴーレムがどんどん坂を転がってくる。
俺たちはそれを避けるのに精一杯だ。
「おいレイラ! あのゴーレムをテイムできないのか!」
「ゴーレムは無生物だからできないわよ!」
「神調教師じゃなかったのか!? つかえねえな」
まったく……どうしてこんなFランクダンジョンなんかに苦戦しなきゃならねえ。
いったいどうしてこんなことになっているんだ!?
まるで初めから仕組まれていたことにように、上手くいかない。
「おいエルーナ! お前の魔法でどうにかならないのか!」
「さっきからやってるわよ! でも、魔力を温存したいの……!」
「なんだと!? お前の魔力は無尽蔵じゃないのかよ!」
「それが……さっきからマジバットに吸われて……」
おかしい……。
マジバットなんかに吸われたくらいでは、それほど魔力を失わないはずだ。
いくらなんでも減る量がおかしいだろ。
まさか……!
いや、それもおかしな話だ。
Fランクダンジョンなんかに、《マジックドレイン》が張ってあるなんて!
「お、俺もなんだか魔力が少なくなっている気がする……!」
「私もよ!」
ということはやはり……マジックドレインか。
「おい、気を引き締めてかかれよ?」
「どういうこと……?」
「ここは明らかにFランクダンジョンの領域を越している。誰かが意図的に、そう仕組んだんだ」
「そんな……! 一体だれが……!」
まあ、そんな舐めたことするやつは、誰であろうが許しはしない。
俺は、このダンジョンを絶対に攻略する!
「うおおおおおおおおおお!」
俺は一気に坂をかけのぼる。
ゴーレムなぞ当たらなければ、怖くはない。
それよりも一気に走り抜ければいいのだ!
まあ、すこしスタミナを消費したが、大丈夫だろう。
「ちょっとまってよギルティア!」
とまあ、なんとか第一階層を突破した俺たちだったが……。
すでにかなりの体力と魔力を消費してしまっている。
これはいったいどういうことだ!?
そしてさらなる第二階層で、あんなことになるなんて――!
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