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《SANDBOX》

23話 作戦通り【とあるパーティーの視点】

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 そのパーティーは、効率よく稼げそうなダンジョンを探していた――。

「っち……もっといいダンジョン持ってこいよォ! つかえねえな……」

「す、すみません……」

 傲慢な態度のパーティーリーダーに頭を下げているのは、【地図師】の男性だ。
 ユノンのようなマッピングスキル持ちがいれば別だが、そうでないパーティーは普通、こういった【地図作成】専門の職人を雇う。

 彼らは雇い主のパーティーのために、いろんなダンジョンの情報を集めていた。
 パーティーがどこのダンジョンに攻め入るか、それを決めるのは宝箱の数と、敵の数だ。
 正確な数まで把握できる【地図師】は少なかったが、スキルを駆使することで大体の数が得られた。

「お、これなんかよさそうだな……なになに、始まりのダンジョンか……」

「そ、それは……!」

「あ? なんだよ。文句あんのか?」

「いえ……ただ、おかしくないですか? 名前は始まりのダンジョンとなっているのに、まだ誰にも攻略されてないんですよ? 敵の数の割に、宝箱の数とレア度が異常ですし……。これは罠かもしれません」

 今回雇われた【地図師】のベインは、宝箱のだいたいのレア度までかぎわける、優秀な職人だった。
 ちなみにダンジョンの名前は、地図作成スキルをつかったときに自動で表示されるもので、変えることが出来ない。

「はぁ? なに? 俺たちが負けるとでも思ってんのかよ? C級パーティーの【古巣の牙】がよぉ!」

「い、いえ……そういうわけではありませんが。うまい話には裏があるというのが世の常といいますか……」

「馬鹿野郎! そんな臆病なこと言ってるから、お前は地図師なんだ! 冒険者さまに口出しすんじゃねえよ!」

「す、すみません……」

 ベインのような地図師は、冒険者からは嫌われ、見くびられていた。
 その実態は、地図師がいなければ冒険は成り立たないというのにだ。

 冒険者からすれば、地図師はただダンジョンの前に行って【地図作成】スキルを使うだけの簡単な仕事と思われていた。
 そのくせ高い金を払わなければならないのだから、嫌われるのも無理はない。
 だが、【地図作成】スキルには多くの魔力と集中力が必要だし、冒険者の片手間にできるようなものではなかった。
 ユノンという例外を除いては――。

「ねえリーダー、はやくダンジョンに行きましょうよ」
「そうだぜリーダー。地図師にはなんもわかんねえんだからさ」
「ああそうだな。とっとと行かねえと、こんな割のいいダンジョン、誰かにとられちまう」

 Cランクパーティー【古巣の牙】は、愚かにも【地図師】ベインの忠告を無視して、ダンジョンへと向かったのだった。
 それがユノンの罠だとも知らずに……。

「はぁ、どうなっても知りませんからね……」

 ベインもしぶしぶ後に続く。
 いざとなれば、自分だけ逃げればいいのだと言い聞かせながら……。

 地図師も、ダンジョンへの突入に参加するのが通常だ。
 外からの【地図作成】スキルでわかるのはせいぜいが、敵の数と宝の数、そしてその度合いだけで、細かな道筋や罠の位置まではわからない。
 そういった内部情報を現地にて筆記することも、また地図師の重要な仕事であった。

 なので地図師には生存能力、というか、ダンジョンで足を引っ張らないことが重要になる。
 もし中でパーティーが全滅した場合でも、地図師はそのダンジョンの情報を持って帰りさえすれば、それをまた別のパーティーに売りつけることも可能なのだ。
 そういった性質からも、地図師は冒険者からは嫌われていた。

「おい、ここが本当に例のダンジョンなのかよ。ぜんぜんお宝の気配がしねえな」

「でも、そのはずです……」

 ベインは内心、呆れていた。
 冒険者なのだからお宝の気配なんてわからなくて当然だというのに……。
 もしそれが自分でわかれば、自分のような地図師は必要ないではないか。
 そう苦言を呈したいところだが、いちおうはこの横暴なパーティーリーダーも雇い主である。
 ベインは悔しい気持ちをこらえながら、パーティー【古巣の牙】の面々に続く。

「なんだぁ? 第一階層にはなんにもねえのか……」
「これはダンジョンマスターは油断していますね。まだダンジョンの改装中なのでしょうか」
「ちょうどいいぜ。今のうちにお宝ゲットだ!」

 【古巣の牙】はどんどんとダンジョンを進む。
 そしてついに始まりのダンジョンの第二階層。
 ユノンが「宝箱」を設置した場所だ。

「おおおおお! めっちゃ宝箱あるじゃん!」
「しかもモンスターがいないわよ!」
「やったぜ! 地図師、たまには役にたつじゃねえか!」
「ラッキーだったな……! まだ誰もここに来てないなんて」

 【古巣の牙】の面々は浮かれていた。
 もはや目の前の宝箱以外に意識がいっていない。
 しかし地図師のベインだけは違った。
 これで報酬が変わるわけでもない地図師にとっては、宝の山さえも取るに足りないことなのだ。

「どれどれ……開けてみるか」

 さっそくリーダーが宝箱に手をかける。
 すると――。

「ガブガブ!」

「ぎやああああああああああああああああいってえええええええええええええ!!!!!!」

 なんと、宝箱はミミックだった!
 そしてリーダーはその腕に持っていた剣ごと、腕を噛みちぎられる。

「お、俺の剣が! 腕があああああああああああ!」
「ま、まさかこれ、ぜんぶミミックなの!?」
「おい地図師! 俺たちを騙しやがったな!?」
「い、いえ……そんなはずは!」

 そのままパーティーは戦闘モードに入るが、肝心のリーダーの武器が奪われてしまっている。
 しかも奇襲をうけた形になるので、パーティーが圧倒的に不利だ。
 ミミックたちに何度も噛まれ、血も出ている。
 さらにはアイテム袋なども噛みちぎられ、回復アイテムも失った。

「ね、ねえもうあきらめて逃げましょうよ!」
「馬鹿言え! 俺の武器やアイテムを盗られたままなんだぞ!?」
「でもこのままじゃ、命まで取られちまう!」

 そんなふうに揉めていたパーティーが、このあとどうなったかは……言うまでもないだろう。

 一方で地図師のベインだけは、判断が早かった。
 パーティーがもう助からないとわかると、一目散に逃げだしていた。
 そして必死にダンジョンの出口を目指す。

「クソ……! クソ……! だから言ったんだ!」

 だが、内心ではベインはほくそ笑んでいた。
 意地悪なクライアントがやられて、スカッとした気分を感じていた。
 しかも、このダンジョンの情報はおそらく、かなりの金になる。

「ぐお!!」

「うわ……!?」

 ついにダンジョンの出口まで差し掛かったところで、ベインは思わぬ敵に出くわした。
 超強力モンスターの、サイクロプスだ。

「ひぇっ!? こ、こんなところに……サイクロプスぅううう!?」

「オデ、お前殺す!」

「た、助けてッ!」

 ベインはダメもとで祈った。
 せっかく美味しい情報を手に入れたというのに――。
 せっかく嫌なクライアントから解放されたというのに――。
 馬鹿なパーティーリーダーのせいで、自分もここで死ぬのかと、運命を恨んだ。

「こんな運命、クソだ!」

 誰にでもなく、そう叫ぶ。
 その思いが届いたのか――。

「――ならばその運命。俺が変えてやろう」

 現れたのは――。

「す、スライム……?」
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