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《ランタック村》

19話 決別【side : ギルティア】

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 村長の家を去った俺たちは、ユノンの実家を訪れた。
 ここにはユノンの病気の妹がいるはずだ。

 勇者凱旋計画が失敗したので、せめてもう一つの目的だけは遂げよう。
 薄汚い魔族の血を根絶やしにしてやるのだ!

「くっくっく……善行は気持ちがいいなぁ……」

 この世の悪を正すのが、勇者である俺の仕事だ。
 家に押し入る前から、笑いが止まらない。

 それにだ、ユノンの妹が魔族である証拠を突きつければ、村の奴らも納得するだろう。
 妹もユノンと同じく、魔族固有の闇スキルを持っているに違いない。
 これは村人たちを見返す最後のチャンス!
 痛めつけて、拷問して、犯して、白状させてやる!

「……ん? 家に明かりがついていないな……?」

 もう夕方だというのに、ユノンの実家には人の気配がない。

「まあ、病人の小娘一人と、その世話人だけの家だ。就寝時間がやたら早くても不思議はないな……」

 俺は勢いよく玄関のドアをぶち壊した。
 家に押し入るのには慣れている。
 前にもやったからな。
 それに、ド田舎の村の木製ドアなんぞ、ないのも同じだ。

「ね、ねえギルティア……さすがに、やめとかない? ユノンが魔族だってのは、勘違いかもしんないんだし……」

 後ろから、レイラが興ざめなことを言う。
 これはあとでお仕置きが必要だな。

「は……? 俺を否定するのか? お前まで俺を嘘つきだと?」

「そ、そうじゃないけど……妹さんなんだし……」

「だからどうした? 俺は女子供にも容赦はしない勇者だ。それが真の正義というものだ」

「う、うん……そうだよね! ご、ごめんねギルティア」

「わかればいいのだ」

 レイラは昔から、こういう馬鹿なところがある。
 だから俺が代わりに考えてやっているのだ。
 こいつは俺の言う通りにしておけばいいのだ。

「エルーナはなにか異論があるか?」

 ねんのため、エルーナにも確認をとる。

「ぜんぜーん! 私はギルティアさまに全部賛成~!」

「そうかそうか。可愛い奴め」

 その点エルーナは俺を全肯定してくれる。
 こいつは誰が偉いのかわかっている、賢い奴だ。
 まあ俺が勇者であるとわかった途端にすり寄って来たから、そういうやつなのだろう。
 だがその分、俺が勇者であるうちはとことん尽くしてくれる。
 腹黒だが、むしろそこが誰よりも信用できるな。

「よし、中を探せ。俺は二階を見てくる」

「はーい」

 俺たちは手分けしてユノンの実家を探る。
 だが、不思議だ……。
 妙に生活感が薄い。

 少女の2人暮らしだとしても、もっと食料の備蓄などあってもいいはずだ。
 それに、ユノンが置いていったものもあったはず。
 それなのに、家のなかはほぼ物がない。

「どういうことだ……?」

 俺はベッドルームもくまなく探す。
 だが、物だけでなく、誰もいない。
 もぬけの殻だ。

「クソ……やられた……!」

「どういうこと……?」

 レイラが状況を飲み込めてないようで、首をかしげた。
 悔しさのあまり言葉を失っている俺の代わりに、エルーナがそれに答える。

「アンジェね……。あの子、どんな手を使ったのかは知らないけど、私たちよりも先にきて、ユノンの妹をどこかに隠したのね。ま、ユノンのことを愛していたあの子らしいわね。こざかしい女」

「くそおおおおおおおお!」

 やはりあのとき、アンジェをなんとしてでも止めるべきだったか?
 いや、あのときはまだ、村人が俺を信じないなんて思ってもみなかったのだ。
 過去のことを言っても仕方がない。

「ま、まあいい……病気の小娘一人くらい。どうせユノンからの仕送りが止まって、そう長生きはできないさ。放っておけばそのうち死ぬ」

「そうね。もうユノンなんかのことは忘れましょう」

 だが、村人たちを見返せないことだけは心残りだな。
 このままランタック村を去るのは、少し悔しい。
 まるで俺が嗤われるために戻って来たみたいじゃないか。
 俺は過去を払拭し、過去と決別するために戻って来たのだ!

「お、おい……お前たち何やってるんだ!?」

 突然、村人の声がする。
 俺たちはユノンの実家の前で、座り込んでいただけだ。

「何……って、なんでもいいだろ! もう放っておいてくれ!」

 これ以上嘘つきだなんだと言われるのはごめんだ。

「おい、みんなぁああ! 来てくれ! ギルティアを見つけたぞ!」

「は……?」

 すると後ろから、他の村人たちが松明を持って、ぞろぞろとやって来た。
 薄暗くなり始めていたころだから、一気に周りが明るくなる。
 ユノンの家は小高い丘に位置していて、そのせいでさっきまでこいつらの存在に気がつけなかった。

「ど、どういうことだ……!?」

「どういうことだ? それはこっちの台詞だ! ここはユノンの家だぞ! こんなところでなにやってるんだ!」

「…………っく!」

 もしかして俺は嵌められたのか!?
 これはまた、何をいい訳しても嘘つきだと言われるパターン!?

「お、俺はユノンの妹を心配してだな……」

「嘘をつけ! さっきは魔族だなんだと言ってたくせに! ユキハちゃんはどこなんだ!」

「は? そんなの俺が知りたいくらだが? ユノンの家には誰もいなかったぞ? もぬけの殻だ」

 俺は嘘は言っていない。

「この嘘つきめ! ユキハちゃんとコハネちゃんをどこにやった!」

「お、俺たちはなにも知らない!」

「どうせユノンとアンジェもお前たちが殺したんだろ!」

 クソ……村人たちはどんどんヒートアップしていく。
 俺たちに石を投げつけてくる奴もいた。
 まあ、冒険者として鍛えてあるから石なんて痛くもないが。

 村人たちは、俺たちを追いやるように迫って来た。
 そしてこんなことまで言いだした。

「さっきお前が村長さんの家を去ったあと、みんなで話し合ったんだ。お前はうそつきの人殺しだ! この村を出ていけ! そして二度と帰ってくるな! それがランタック村の総意だ!」

「ほんとうは村人全員でユノンたちの仇を取ってやりたいが……まだ確証がないからな! 今なら追放で許してやろう! さあ消え失せてくれ!」

「お前の悪行は念のため、町の警察に報告しておくからな!」

 などと言いながら、石を投げつけてくる。
 クソが。
 俺が本気をだせば、こんな糞ども皆殺しなのに!
 まあ、さすがに俺も故郷の村を焼き討ちにしてやるつもりはない。

 だが、いずれ魔王に焼かれてしまえばいい! そう思うのだった。

「……俺は魔王を倒すぜ!? そのときになって謝っても遅いからな! 俺の名を轟かせて、認めさせてやる!」

 俺が勇者として活躍をすれば、勇者ギルティアの名が国中を駆け巡ることになる。
 そうすればこのド田舎の村までもそれが伝わり、俺を真の勇者だと認めざるを得ないだろう。
 だから、俺は今ここに決意した!
 俺は勇者としてちゃんと戦い、魔王を討つ!
 それなのに……。

「うるせぇえ! 嘘つきめ! やれるもんならやってみろ!」

 村人たちはどんどん俺たちに石を投げてくる。

「クソ……いくぞ、お前ら!」

「う、うん……ギルティア!」

「こんなクソ田舎のサルたちは忘れて、行きましょう? 私の勇者さま」

 そうだ、俺には可愛いパーティーメンバーが二人もいるのだ。
 こんな村、知ったことじゃない。

 こうして俺は、改めて勇者としての決意を固め、故郷を再び旅立った――。
 まずは手始めに、近場のダンジョンをすべて攻略してやろうかな。
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