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《ランタック村》

16話 あれ!? これ……溶けてます!?

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「ふぅ……生き返るぜ……」

 俺は一人、湯船に浸かる。
 ダンジョンの中とは思えないほど快適だ。

 ――ドロ……ドロ……。

「あれ……?」

 なんだか、意識が遠くなってきたぞ?
 さっきまで透明だった湯船が、うっすら紫に見える。

「……って、これ……俺溶けてない!?」

 スライムって、お湯に溶けるんか!?
 俺の身体の体積が、だんだんと小さくなっている気がする。

「まじかこれ……はやくあがらないと……!」

 急いで湯船を出ようとするが、スライムのぷるんとした身体が滑って、なかなか出られない。
 うんしょ、うんしょ……。

「あ……これ、詰んでますわ……」

 俺の意識はそこで途絶えた……。
 最後に憑依を使おうと思ったが、段階的に意識が薄れる中で、俺はタイミングを逃してしまったようだ。
 ゴブリンにでも憑依すればよかった。
 ぶくぶくぶく……。







 ん……? あれ……?
 なんだ? 意識があるぞ……?

 だけど、身体が気がする……?

 しばらくして、俺はようやく自分の状態に気がついた。
 俺は溶けて、していた。

 厳密には、スライムの身体が湯のなかに薄く散らばった感じだな。
 自分の身体が、意識が広がったような気がする。

 ユノンくんが湯の中に……ってやかましいわ!
 でもこれ……どうやってもとにもどるんだ……?

 ぼわぼわした意識で、俺が考えに浸っていると……。
 頭上から声がした。

「うわぁこれがお風呂なんですね! 私初めてです!」

 イストワーリアの声だ。
 ……って、まさか!?

 そう、風呂場にイストワーリアがやって来たのだ。
 ちょ、ちょっと待て!
 俺は今お湯そのものなんだぞ!?
 今イストワーリアが風呂に浸かったら、大変なことになるんじゃないのか!?

「よいしょ……っと」

 うわわわわわわわ!
 俺は必至に声を出そうとすが、どうやら聞こえていないようだ。
 今俺の脳内がどうなっているかは言うまでもない。
 それはもう、とんでもない状態だ……。

「あれ……? お湯の色、ちょっと変じゃない?」

 もう一人、別の女の声がする。
 この声は……アンジェ!?
 ま、まさかアンジェも一緒に入るのか!?
 そ、それはマズイ……!

 イストワーリアなら俺をマスターとして崇めているから大丈夫かもしれないが……いや、なにも大丈夫ではないのだが、それはともかく……。
 アンジェが後でこのことを知ったら、どうなるかわかったもんじゃないぞ!?

 俺はここにいるのに!
 必死にアピールしようとするも、無駄に終わる。

「あー、いいお湯ー。すこし粘っこいけど……ま、こんなもんでしょ。ダンジョンの中でこんなお風呂に入れるだけでも最高!」

 うわあああああああ湯(俺)の中にアンジェとイストワーリアがああああああ!?
 どういう状況!?!?!?!?!?

「そういえばアンジェさんって、マスターのことがお好きなのですか?」

 ぶー!
 俺は心の中で噴出した。
 イストワーリアめ、なんてこと聞くんだ。
 ……って、これ俺が聞いていい話じゃないだろ!
 俺、ここにいるんですけど!?

「そ、そうだけど……悪い!? 私は幼馴染でずううううううっと、ユノンくんと一緒にいるんだから! あなたなんかよりもユノンくんを知ってるんだから! 絶対に負けないんだからぁああ!」

 アンジェは顔を赤くして、そう叫ぶ。
 そうだったのか……。
 体温の上昇が、湯を通じて俺にも伝わってくる。
 俺まで赤くなりそうだった。

「大丈夫ですよ。私は所詮マスターの補佐役でしかないので。マスターと対等な関係にはなれません……」

「イストワーリアさん……」

 お、どうやらこれを機に二人は仲良くなれそうだな?

「まあ、性〇隷くらいにはなりますけど、いくらでも!」

 ぶー!
 俺はまたしても心の中で吹きだす。
 なんていうことを言うんだこいつは……!?

「ねえイストワーリアさん、リアちゃんって……呼んでもいい?」

「いいですよ。なら私も、アンジェちゃんって呼びますね!

「うん! よろしくね」

 なんだかよくわからんが、仲良くなってくれたみたいでよかった。
 それにしても、俺はどうすればいいんだ?

「そういえば……ユノンくんはどこにいったんだろ? さっきお風呂に行くっていってたけど、いなかったし……」

「マスターなら、ここにいますよ?」

 イストワーリアが自分の浸かっている湯を指さす。
 こいつ……!
 気づいてやがったのか!?

「……へ?」

「このお湯、マスターです」

 アンジェは絶句している。
 そりゃそうだよな……。
 あとで滅茶苦茶謝ろう。

「いやああああああああああああ!」

 アンジェは湯を飛び出して、走り去ってしまった……。
 あーあ……。
 イストワーリア、全部お前のせいだぞ。

「ということでマスター、これでアンジェちゃんの気持ちがわかりましたよね?」

 イストワーリアが無言の俺(湯)に問いかける。
 なるほどそういうことか……図ったなこの智龍め。

「あ、心配しなくてもちょっとずつお湯を抜いていって、乾かせばもとに戻れますので」

 俺の心配はそこじゃないんだが……。
 まあいっか。

 その後、イストワーリアが俺を湯の中から救い掬い出してくれた。

 もちろん、アンジェには滅茶苦茶謝ったし怒られたし、目を合わせてもらえなかった……。
 だが――。

「ユノンくん……聞いてたんだよね?」

「あ、ああ……」

「それで……?」

 それで……と言われてもなぁ……。

「ま、まあ……うれしいよ? 俺も、アンジェのことは昔からその……好きだったし……」

「ほんと!? うれしい! ユノンくん大好き! もう全部許してあげる!」

「うお! バカ、離せ!」

 機嫌を良くしたアンジェは、その晩、俺を抱きしめて離さなかった。
 イストワーリアも今日だけは譲ってやったようだ。
 俺はすっかりアンジェの抱き枕にされてしまった。

 ちなみに寝室にはベッドが二つある。
 一つのベッドはユキハとコハネが使っている。
 ユキハは病人だから、コハネが常に看病をしている。

 そしてもう一つのベッドにイストワーリアとアンジェが寝る。
 俺はその間にスライム抱き枕として挟まれる感じだ。
 そう思うと、スライムの身体も悪くない……。
 まあ少し寝不足になるのがあれだが……。
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