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《ランタック村》
16話 あれ!? これ……溶けてます!?
しおりを挟む「ふぅ……生き返るぜ……」
俺は一人、湯船に浸かる。
ダンジョンの中とは思えないほど快適だ。
――ドロ……ドロ……。
「あれ……?」
なんだか、意識が遠くなってきたぞ?
さっきまで透明だった湯船が、うっすら紫に見える。
「……って、これ……俺溶けてない!?」
スライムって、お湯に溶けるんか!?
俺の身体の体積が、だんだんと小さくなっている気がする。
「まじかこれ……はやくあがらないと……!」
急いで湯船を出ようとするが、スライムのぷるんとした身体が滑って、なかなか出られない。
うんしょ、うんしょ……。
「あ……これ、詰んでますわ……」
俺の意識はそこで途絶えた……。
最後に憑依を使おうと思ったが、段階的に意識が薄れる中で、俺はタイミングを逃してしまったようだ。
ゴブリンにでも憑依すればよかった。
ぶくぶくぶく……。
◇
ん……? あれ……?
なんだ? 意識があるぞ……?
だけど、身体がない気がする……?
しばらくして、俺はようやく自分の状態に気がついた。
俺は溶けて、風呂の湯と一体化していた。
厳密には、スライムの身体が湯のなかに薄く散らばった感じだな。
自分の身体が、意識が広がったような気がする。
ユノンくんが湯の中に……ってやかましいわ!
でもこれ……どうやってもとにもどるんだ……?
ぼわぼわした意識で、俺が考えに浸っていると……。
頭上から声がした。
「うわぁこれがお風呂なんですね! 私初めてです!」
イストワーリアの声だ。
……って、まさか!?
そう、風呂場にイストワーリアがやって来たのだ。
ちょ、ちょっと待て!
俺は今お湯そのものなんだぞ!?
今イストワーリアが風呂に浸かったら、大変なことになるんじゃないのか!?
「よいしょ……っと」
うわわわわわわわ!
俺は必至に声を出そうとすが、どうやら聞こえていないようだ。
今俺の脳内がどうなっているかは言うまでもない。
それはもう、とんでもない状態だ……。
「あれ……? お湯の色、ちょっと変じゃない?」
もう一人、別の女の声がする。
この声は……アンジェ!?
ま、まさかアンジェも一緒に入るのか!?
そ、それはマズイ……!
イストワーリアなら俺をマスターとして崇めているから大丈夫かもしれないが……いや、なにも大丈夫ではないのだが、それはともかく……。
アンジェが後でこのことを知ったら、どうなるかわかったもんじゃないぞ!?
俺はここにいるのに!
必死にアピールしようとするも、無駄に終わる。
「あー、いいお湯ー。すこし粘っこいけど……ま、こんなもんでしょ。ダンジョンの中でこんなお風呂に入れるだけでも最高!」
うわあああああああ湯(俺)の中にアンジェとイストワーリアがああああああ!?
どういう状況!?!?!?!?!?
「そういえばアンジェさんって、マスターのことがお好きなのですか?」
ぶー!
俺は心の中で噴出した。
イストワーリアめ、なんてこと聞くんだ。
……って、これ俺が聞いていい話じゃないだろ!
俺、ここにいるんですけど!?
「そ、そうだけど……悪い!? 私は幼馴染でずううううううっと、ユノンくんと一緒にいるんだから! あなたなんかよりもユノンくんを知ってるんだから! 絶対に負けないんだからぁああ!」
アンジェは顔を赤くして、そう叫ぶ。
そうだったのか……。
体温の上昇が、湯を通じて俺にも伝わってくる。
俺まで赤くなりそうだった。
「大丈夫ですよ。私は所詮マスターの補佐役でしかないので。マスターと対等な関係にはなれません……」
「イストワーリアさん……」
お、どうやらこれを機に二人は仲良くなれそうだな?
「まあ、性〇隷くらいにはなりますけど、いくらでも!」
ぶー!
俺はまたしても心の中で吹きだす。
なんていうことを言うんだこいつは……!?
「ねえイストワーリアさん、リアちゃんって……呼んでもいい?」
「いいですよ。なら私も、アンジェちゃんって呼びますね!
「うん! よろしくね」
なんだかよくわからんが、仲良くなってくれたみたいでよかった。
それにしても、俺はどうすればいいんだ?
「そういえば……ユノンくんはどこにいったんだろ? さっきお風呂に行くっていってたけど、いなかったし……」
「マスターなら、ここにいますよ?」
イストワーリアが自分の浸かっている湯を指さす。
こいつ……!
気づいてやがったのか!?
「……へ?」
「このお湯、マスターです」
アンジェは絶句している。
そりゃそうだよな……。
あとで滅茶苦茶謝ろう。
「いやああああああああああああ!」
アンジェは湯を飛び出して、走り去ってしまった……。
あーあ……。
イストワーリア、全部お前のせいだぞ。
「ということでマスター、これでアンジェちゃんの気持ちがわかりましたよね?」
イストワーリアが無言の俺(湯)に問いかける。
なるほどそういうことか……図ったなこの智龍め。
「あ、心配しなくてもちょっとずつお湯を抜いていって、乾かせばもとに戻れますので」
俺の心配はそこじゃないんだが……。
まあいっか。
その後、イストワーリアが俺を湯の中から救い出してくれた。
もちろん、アンジェには滅茶苦茶謝ったし怒られたし、目を合わせてもらえなかった……。
だが――。
「ユノンくん……聞いてたんだよね?」
「あ、ああ……」
「それで……?」
それで……と言われてもなぁ……。
「ま、まあ……うれしいよ? 俺も、アンジェのことは昔からその……好きだったし……」
「ほんと!? うれしい! ユノンくん大好き! もう全部許してあげる!」
「うお! バカ、離せ!」
機嫌を良くしたアンジェは、その晩、俺を抱きしめて離さなかった。
イストワーリアも今日だけは譲ってやったようだ。
俺はすっかりアンジェの抱き枕にされてしまった。
ちなみに寝室にはベッドが二つある。
一つのベッドはユキハとコハネが使っている。
ユキハは病人だから、コハネが常に看病をしている。
そしてもう一つのベッドにイストワーリアとアンジェが寝る。
俺はその間にスライム抱き枕として挟まれる感じだ。
そう思うと、スライムの身体も悪くない……。
まあ少し寝不足になるのがあれだが……。
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