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《Welcome To The Dungeon》
9話 ユノンの真価【side : ギルティア】
しおりを挟む「さて、さっそくランタック村に向かうとするか。勇者さまが故郷へ凱旋だ! はっはっは! しかも魔族の血を浄化してやるのだからなぁ!」
俺たちは野宿を片付けて、旅立つ支度をする。
故郷とはいえ、ここ王都からは遠く離れている。
だから地図がなければ、場所がわからない。
「よし、地図を出せ」
「…………」
「どうした? 早く出せ!」
俺はイライラした声をエルーナにぶつける。
「地図なんてないわよ? それはユノンの担当だったじゃない」
「あ……? そうだった……………………」
クソ……。
マッピングスキルも、アイテムボックスも、全部ユノンの仕事だった。
なぜ魔族のあんな奴に、俺はそんな重要な役割を任せていたのだ?
我ながら、昔の自分の行いが腹立たしい。
「じゃあ代わりの人間を雇おう」
「は? なに言ってんの? どこにそんなお金があるのよ?」
「う、うるさい……!」
まったく……なにをするにも金か。
ユノンのアイテムボックスに預けていたせいで、すべて持ち逃げされてしまったからな……。
なぜ勇者であるこの俺が、英雄であるこの俺が……!
金なんかで苦しまなければならないのだ?
多少の金なら、城にいって王様にでも言えば恵んでもらえるだろう。
勇者として国を守るためだと言えば、納得するはずだ。
だが、あれだけ意気揚々と出てきて、今更戻ってそんなこといえるか!?
いや、それだけは俺のプライドが許さねえ。
俺は、なんといったって勇者なのだからな!
「仕方がない。金を手に入れるためだ。クエストでも受けるか」
俺たちはギルドへと向かった――。
◇
「その……ギルドカードはお持ちでしょうか……?」
「は…………? なんだそれ?」
俺は一瞬、受付嬢に言われた言葉がわからなかった。
ああ……そういえば、ギルドでクエストを受けるには、ギルドカードなるものが必要なのだったな……。
だが、俺は自分のギルドカードなどというものを、一度たりと目にしたことはなかった。
「ギルティア……その、ギルドカードってもしかして……」
レイラが俺に耳打ちする。
「何ぃいい……!?」
どうやらギルドカードの管理も、ユノンがやっていたようだな……。
クエストを受けるたび、パーティーメンバー全員分を一括で渡していたようだ。
「ギルドカードは……ない……」
「紛失ですか? でしたら、お作りしなおすこともできますが」
「ああ、頼む」
「でしたら、再登録料が500Gになります」
受付嬢は笑顔で残酷なる金額を告げた。
◇
「クソ……どこに行っても金、金、金! この世の中は、腐っている! こんな世の中、間違っているだろう!?」
俺はボロボロになった服を引きちぎりながら、怒りをぶちまける。
アイテムボックスに替えの服を入れていたせいで、服がどんどん臭くなる。
レイラもエルーナも、汗でべっとりした服を、今にも脱ぎたそうにしている。
「ほんとよ……まったく……これもぜんぶユノンのせいだわ……」
「ああ……本当に、いい迷惑よ」
なんで勇者である俺が、こんな目に遭わなければならない!?
いや、こんな理不尽は間違っている!
「そうだ、いいことを考えたぞ!」
俺は、とりあえず人気のなさそうな一軒家を探し出した。
◇
「邪魔するぜぇ」
俺はその一軒家に、堂々と押し入る。
「な、なんだアンタらは!?」
髭面の中年親父が、飯を床に落とし、驚いている。
こんなモブに用はない。
「俺は勇者さまだ。お前の家の物を、ありがたく使ってやるから感謝しろ? 末代までの誇りにして、語り継ぐといい。そのくらいの特権は許してやろう」
俺は言いながら、食卓に並んでいたパンをひとつ頂戴する。
昨日から何も食べていなかったのだ。
「あ! これおいしー!」
レイラもなにか適当につまみ、阿保っぽい声を上げる。
俺はレイラのそういう素直なところが好きだった。
アンジェは頭がよすぎて、利用価値がない。
エルーナはエルーナで、家の中を物色し始める。
壺を割ったり、タンスを破壊したり。
エルーナは頭がいいが、誰に着くべきなのかをよくわきまえている。
本当に頭のいいのはこういうやつのことかもしれんな。
そんな俺たちのようすを見て、家主のおっさんは、なぜだかわなわな震えだす。
そんなに光栄に思っているのだろうか?
「ふ、ふふふ……ふざけるなぁあああああ!!!!」
「…………!? なんだと!? キサマ今何を言った!」
おっさんの意外な言葉に、俺は憤慨する。
感謝こそされても、怒られるなんて、おかしいだろ?
「おい、そのおっさん、口を縛ってそのへんの柱にでもくくりつけておけ」
「はーい!」
レイラがさっそく、おっさんを縛る。
「な、なにをするんだ! やめろ!? あんたら正気か!?」
「フン……正気じゃないのはお前のほうだ。俺は勇者さまだぞ!?」
クソ……むしゃくしゃする。
こうなったら女でも犯さないと。
「お……ラッキー!」
「や、やめろ……! 娘にだけは手を出すな!」
「うるせんだよ!!!!」
俺は家具の隙間に隠れていた、おっさんの娘を見つけた。
これはいい拾い物をしたな。
「はっはっは! この世のすべては俺のものだ!」
俺が娘に触れようとしたその時だった――。
突然、家の中に何者かが入ってきてこう叫んだ。
「勇者ギルティア! そこを動くな!」
「な、なんだお前たちは!?」
「我々は通報を受けて城から派遣された兵士だ!」
「なにぃ!? 兵士だとぉ……!?」
よくみると、たしかに連中は王家の紋章が入った鎧を着ている。
数はざっと15人ほどはいるだろうか……。
全員殺してもいいが、後が面倒だな。
「わかったよ……っち……」
大人しく、俺はその場で両手をあげる。
一体だれが通報なんかしやがったのか……許せん。
「動くんじゃないぞ! 逮捕する! そっちのパーティーメンバー、お前たちもだ!」
そうして、俺たちは兵士たちに捕まった。
◇
「クソ……! 離せよ!」
どうしてこうなった――!?
俺は城の兵士複数人に、腕を掴まれ、連行されている。
どうやら城へと連れていかれるようだ。
「俺が何をしたっていうんだ! 俺は勇者だぞー!」
「まるで子供だな……」
兵士の一人がぽつりと言った。
「は……?」
俺はそいつに向けて、殺意を飛ばす。
「ひ……!」
するとそいつは俺の殺意だけで、頭が吹っ飛んで死んでしまった。
くっくっく……ザコのくせに粋がるからだ。
俺の勇者の能力値を考えれば、低レベルのザコなんか目線で殺せるね。
「貴様! クソ! 取り押さえろ!」
「うわ! なにをするんだー!」
だがさすがの俺も、屈強な兵士たち複数人に取り押さえられると、なす術がない。
さすがは王国最強の兵士団だ。
さっきのはたまたまザコだっただけか?
まあそんなこんなで俺は、気絶させられ、王城へと連行された。
腕には魔力封じの腕輪までしてある。
屈辱的にもほどがある……!
俺がいったい何をしたっていうんだ!
これでは勇者ではなく――。
――まるで罪人ではないか。
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