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《Welcome To The Dungeon》

9話 ユノンの真価【side : ギルティア】

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「さて、さっそくランタック村に向かうとするか。勇者さまが故郷へ凱旋だ! はっはっは! しかも魔族の血を浄化してやるのだからなぁ!」

 俺たちは野宿を片付けて、旅立つ支度をする。
 故郷とはいえ、ここ王都からは遠く離れている。
 だから地図がなければ、場所がわからない。

「よし、地図を出せ」

「…………」

「どうした? 早く出せ!」

 俺はイライラした声をエルーナにぶつける。

「地図なんてないわよ? それはユノンの担当だったじゃない」

「あ……? そうだった……………………」

 クソ……。
 マッピングスキルも、アイテムボックスも、全部ユノンの仕事だった。
 なぜ魔族のあんな奴に、俺はそんな重要な役割を任せていたのだ?
 我ながら、昔の自分の行いが腹立たしい。

「じゃあ代わりの人間を雇おう」

「は? なに言ってんの? どこにそんなお金があるのよ?」

「う、うるさい……!」

 まったく……なにをするにも金か。
 ユノンのアイテムボックスに預けていたせいで、すべて持ち逃げされてしまったからな……。
 なぜ勇者であるこの俺が、英雄であるこの俺が……!
 金なんかで苦しまなければならないのだ?

 多少の金なら、城にいって王様にでも言えば恵んでもらえるだろう。
 勇者として国を守るためだと言えば、納得するはずだ。
 だが、あれだけ意気揚々と出てきて、今更戻ってそんなこといえるか!?
 いや、それだけは俺のプライドが許さねえ。
 俺は、なんといったって勇者なのだからな!

「仕方がない。金を手に入れるためだ。クエストでも受けるか」

 俺たちはギルドへと向かった――。







「その……ギルドカードはお持ちでしょうか……?」

「は…………? なんだそれ?」

 俺は一瞬、受付嬢に言われた言葉がわからなかった。
 ああ……そういえば、ギルドでクエストを受けるには、ギルドカードなるものが必要なのだったな……。
 だが、俺は自分のギルドカードなどというものを、一度たりと目にしたことはなかった。

「ギルティア……その、ギルドカードってもしかして……」

 レイラが俺に耳打ちする。

「何ぃいい……!?」

 どうやらギルドカードの管理も、ユノンがやっていたようだな……。
 クエストを受けるたび、パーティーメンバー全員分を一括で渡していたようだ。

「ギルドカードは……ない……」

「紛失ですか? でしたら、お作りしなおすこともできますが」

「ああ、頼む」

「でしたら、再登録料が500ギルガスになります」

 受付嬢は笑顔で残酷なる金額を告げた。







「クソ……どこに行っても金、金、金! この世の中は、腐っている! こんな世の中、間違っているだろう!?」

 俺はボロボロになった服を引きちぎりながら、怒りをぶちまける。
 アイテムボックスに替えの服を入れていたせいで、服がどんどん臭くなる。
 レイラもエルーナも、汗でべっとりした服を、今にも脱ぎたそうにしている。

「ほんとよ……まったく……これもぜんぶユノンのせいだわ……」

「ああ……本当に、いい迷惑よ」

 なんで勇者である俺が、こんな目に遭わなければならない!?
 いや、こんな理不尽は間違っている!

「そうだ、いいことを考えたぞ!」

 俺は、とりあえず人気のなさそうな一軒家を探し出した。







「邪魔するぜぇ」

 俺はその一軒家に、堂々と押し入る。

「な、なんだアンタらは!?」

 髭面の中年親父が、飯を床に落とし、驚いている。
 こんなモブに用はない。

「俺は勇者さまだ。お前の家の物を、ありがたく使ってやるから感謝しろ? 末代までの誇りにして、語り継ぐといい。そのくらいの特権は許してやろう」

 俺は言いながら、食卓に並んでいたパンをひとつ頂戴する。
 昨日から何も食べていなかったのだ。

「あ! これおいしー!」

 レイラもなにか適当につまみ、阿保っぽい声を上げる。
 俺はレイラのそういう素直なところが好きだった。
 アンジェは頭がよすぎて、利用価値がない。

 エルーナはエルーナで、家の中を物色し始める。
 壺を割ったり、タンスを破壊したり。
 エルーナは頭がいいが、誰に着くべきなのかをよくわきまえている。
 本当に頭のいいのはこういうやつのことかもしれんな。

 そんな俺たちのようすを見て、家主のおっさんは、なぜだかわなわな震えだす。
 そんなに光栄に思っているのだろうか?

「ふ、ふふふ……ふざけるなぁあああああ!!!!」

「…………!? なんだと!? キサマ今何を言った!」

 おっさんの意外な言葉に、俺は憤慨する。
 感謝こそされても、怒られるなんて、おかしいだろ?

「おい、そのおっさん、口を縛ってそのへんの柱にでもくくりつけておけ」

「はーい!」

 レイラがさっそく、おっさんを縛る。

「な、なにをするんだ! やめろ!? あんたら正気か!?」

「フン……正気じゃないのはお前のほうだ。俺は勇者さまだぞ!?」

 クソ……むしゃくしゃする。
 こうなったら女でも犯さないと。

「お……ラッキー!」

「や、やめろ……! 娘にだけは手を出すな!」

「うるせんだよ!!!!」

 俺は家具の隙間に隠れていた、おっさんの娘を見つけた。
 これはいい拾い物をしたな。

「はっはっは! この世のすべては俺のものだ!」

 俺が娘に触れようとしたその時だった――。
 突然、家の中に何者かが入ってきてこう叫んだ。

「勇者ギルティア! そこを動くな!」

「な、なんだお前たちは!?」

「我々は通報を受けて城から派遣された兵士だ!」

「なにぃ!? 兵士だとぉ……!?」

 よくみると、たしかに連中は王家の紋章が入った鎧を着ている。
 数はざっと15人ほどはいるだろうか……。
 全員殺してもいいが、後が面倒だな。

「わかったよ……っち……」

 大人しく、俺はその場で両手をあげる。
 一体だれが通報なんかしやがったのか……許せん。

「動くんじゃないぞ! 逮捕する! そっちのパーティーメンバー、お前たちもだ!」

 そうして、俺たちは兵士たちに捕まった。







「クソ……! 離せよ!」

 どうしてこうなった――!?
 俺は城の兵士複数人に、腕を掴まれ、連行されている。
 どうやら城へと連れていかれるようだ。

「俺が何をしたっていうんだ! 俺は勇者だぞー!」

「まるで子供だな……」

 兵士の一人がぽつりと言った。

「は……?」

 俺はそいつに向けて、殺意を飛ばす。

「ひ……!」

 するとそいつは俺の殺意だけで、頭が吹っ飛んで死んでしまった。
 くっくっく……ザコのくせに粋がるからだ。
 俺の勇者の能力値を考えれば、低レベルのザコなんか目線で殺せるね。

「貴様! クソ! 取り押さえろ!」

「うわ! なにをするんだー!」

 だがさすがの俺も、屈強な兵士たち複数人に取り押さえられると、なす術がない。
 さすがは王国最強の兵士団だ。
 さっきのはたまたまザコだっただけか?

 まあそんなこんなで俺は、気絶させられ、王城へと連行された。
 腕には魔力封じの腕輪までしてある。
 屈辱的にもほどがある……!
 俺がいったい何をしたっていうんだ!

 これでは勇者ではなく――。


 ――まるで罪人ではないか。
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