中ボス魔物【メタモルスライム】に憑依して復讐を誓う

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中

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《Welcome To The Dungeon》

4話 「Welcome To The Dungeon」

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「《憑依》――――!」

 その言葉とともに、俺の魂はユノン・ユズリィーハの肉体を離れた。
 とにかく俺は、その場から離れなければならなかった。
 妹を残したまま死ぬわけにはいかない。
 それに、ギルティアに復讐しなければ、死にきれない。

「よし! なんとか成功した!」

 俺は魂の状態で空中に浮遊しながら、抜け殻となった自分の肉体を見る。
 だが問題は、この後誰に憑依するかだ。
 間違ってもこの場の誰かに憑依するわけにいかない。
 そんなことをすれば、ますます魔族扱いされかねん。

「となれば……なるべく遠くだな」

 ということで俺は、その場を離れた。
 壁をすり抜けて、どんどんどんどん離れる。
 街を出て、山の方へ。

 そうするうちに、だんだん意識が薄れてくる。
 目的が定かでなくなってくる。

 おそらく思念体のままで肉体から遠く離れすぎると、意識を保つのが難しくなる仕組みなのだろう。
 近くの生物に憑依するのは簡単だが、遠くの生物に憑依するのは難しいらしい。
 このままだと誰にも憑依できずに死んでしまうかもしれないな。
 いや、それはマズイ。

 とにかく俺は、どこかに着地しなければいけない。
 だが人間はマズイ。
 人間には元の人格者がいるから、長く憑りついてしまったら元の魂に影響があるかもしれない。
 それに、また魔族扱いを受けるのはごめんだ。

 となると、人格や意識をもっていないような、なるべく単純な生物がいい。
 そう、例えばスライムとか――。







 気がついた時、俺の身体はスライムだった。
 だが、一般的な青色のものではなく、紫色の特殊なボディ。

「これは……メタモルスライムだな」

 俺は冒険者として培った知識からそう判断する。
 念のため現状確認もかねて、スキルを発動する。

「《モンスター図鑑》――!」


■メタモルスライム

 あらゆるものに姿を変え、擬態する。
 変身コピー能力を持っているスライム。
 見た目だけでなく、能力までトレースする。


「ほう……憑依しても、前の身体のスキルを使えるのか。これは便利だな」

 それならば、アイテムボックスなどのスキルも問題なく使えるといわけだ。
 俺がユノン・ユズリィーハとして集めてきた様々な物が、そのまま引き継げる。
 生きてきたことが無駄にならなくて、少しホッとする。
 そうだ、俺の元の身体は……死んだのだ。

 俺がしばし物思いにふけっていると――。


「そんなところでぼーっとして、どうされたのですか? マスター。お体の調子でも崩されたのでしょうか。私がマッサージをして差し上げますね」


「は……?」

 俺の見間違いでなければだが――。
 そこには真っ白な肌に真っ白な髪、神々しいまでに清楚な女の子がいた。

 胸はそこそこ控えめだが、スタイルがこの世のものとは思えないくらいに整っている。
 顔もそうだ……どの人種とも似つかないが、間違いなく今までに見たどの女性よりも整っている。
 ただ整っているだけじゃなく、どこか幼げで庇護欲を掻き立てられる。そんな顔だ。

 しかも身に着けている衣装は、下着なんじゃないかというくらいに薄い生地でできていた。
 白銀のドレスとも下着ともわからないは、レースの飾りで彼女をさらに美しく見せている。
 それにしても肌の露出が多すぎて、見てもいいのか不安になる。後で大金を請求されたりしないのだろうか?

 なんて、一瞬のうちに思考が加速するほど、彼女の見た目は筆舌に尽くしがたく……。
 俺はあっけにとられ、見とれてしまった。

「ああ、マスターおかわいそうに」

「はい?」

「また私のことをお忘れになってしまわれたのですね? スライムの小さな脳では、それも仕方のないことです」

「んんん?」

 なんだかさらっと馬鹿にされたような気がするが。
 まあいい。馬鹿にされたのはスライムであって、俺ではないのだ。
 とにかく知らない顔をして聞いていれば、いろいろ情報が得られそうだぞ。

「では、一から説明しますね? マスター」

「う、うむ……」

 そもそもマスターってのはなんなんだ。
 そしてそもそも、俺のこの声はちゃんと聞こえているのだろうか?
 スライムの発声器官の仕組みとか、いまいちよくわからん。

「聞こえていますよ? マスター」

 彼女は俺に満面の笑みを返す。

「う……」

 ――ドキ!

 それだけで、思わず惚れてしまいそうになる。
 だが、とりあえず意思の疎通は可能みたいでよかった。

「まず私の名前は、イストワーリアです。リアとお呼びください」

「わ、わかったよリア」

「それから、あなたはこのダンジョンのマスターです。私はマスター補佐で、副監理者です。マスターに尽くし、すべてのサポートを仕事としています」

「……ん? ちょちょちょ、ちょっと待って!」

「はい……? なにか問題がありましたでしょうか!?」

 リアは俺の前で前かがみになって、心配そうに慌てる。
 やめろそんな体勢になるんじゃない、そんな服で!
 俺の言葉にいちいち大げさに反応するあたり、ここでの上下関係の重要性がよくわかる。

「いや、リアに問題はないんだが……。今、ダンジョンと言ったか?」

「はい、ここ『始まりのダンジョン』のダンジョンマスターが、あなたです! マスター」

「…………」

 つまりあれか……俺は、のボスキャラに憑依してしまったというわけか……。
 ヤバい……。
 このままだと確実に殺される。
 しかも、勇者ギルティアの手によって……!

「逃げる……!」

 俺は急いでその場を離れようとする。
 スライムの身体だから、ぷるんと跳ねて移動する。
 だが、慣れない動きのせいで、あっという間にイストワーリアに捕まってしまう。

「ダメですよマスター! マスターは魔王様から、ここの防衛を任されているんですから! お疲れのようでしたら、私がいくらでも癒して差し上げますからっ! 逃げないでください」

「わー! わあああ!」

 俺が大声で暴れているのは、なにも捕まえられたのが悔しくて鳴いているのではない。
 イストワーリアに全身を羽交い絞めにされているからだ。
 スライムの身体は全部がぷるんぷるんの皮膚でできている。
 その俺のぷるんぷるんが、イストワーリアに抱きしめられて、イストワーリアの別のぷるんぷるんとぷるんぷるんで……もう大変な感触がぷるんぷるんでぷるんぷるんなのだ!

「暴れないでください、マスター! 今日はどうしたんですか! もうすぐ人間が攻めてくるからって、ナーバスになってるんですか!?」

「いや違う! お前がそんなにキツく抱きしめるからだああああ!」

「…………? なにを言ってるんですか! ぎゅーっとしてないと逃げるんでしょう?」

「いやもう逃げない! 逃げないからぁ! 放してくれお願いだ!」

「もう……本当ですか? 約束ですよ?」

 そしてようやく俺は解放される。
 ダメだ……。
 あのままだと精神が持たない。
 危ないところだった……。

「とにかく、あらためて……ダンジョンにようこそ! マスター?」

「お、おう……」

 まあまだ、俺はここに骨を埋める気になったわけじゃないがな。
 隙を見て《憑依》を発動させて逃げてやる。

「じゃあ他にも説明することがありますので、DMダンジョンメニューを開いてもらえますか?」

「あ、ああ……」

 なぜだか俺は、その言葉に聞き馴染みがあった。

DMダンジョンメニュー・オープン!」

 そこにはダンジョンの管理に必要な、さまざまな項目がずらっと並べられていた。
 ぱっと見た感じだと、DPダンジョンポイントと呼ばれるポイントを消費して管理していくシステムのようだ。

「あれ……? これって……」

「どうされたのですか、マスター」


「俺はこれを、ぞ……」


 そう、そのDMダンジョンメニューのレイアウトや、システムは――。

 ――俺の大好きなゲーム【ダンジョンズ】のシステムそっくりだったのだ。


 ダンジョンズ――あるダンジョンの戦利品で、魔力で動くよくできたボードゲームだ。
 魔王になりきって、モンスターを増やして、勇者を返り討ちにするボードゲームなのだが……。
 ボードゲームといっても、この世界で広く流通しているとは、まったくの別物だ。
 だが、他に形容しようがないので、俺はそう呼んでいる。
 俺の見立てでは、それはきっと異世界から流れ着いたものだろう。
 明らかにこの世界にはないような技術が使われていた。

 俺はその【ダンジョンズ】が妙に気に入っていた。
 戦利品として手に入れたものだが、自費で買い取って遊んでいたんだ。
 冒険の間に暇な時間を見つけては、何度も何度もクリアしたし、今でもはっきりと覚えている。
 DMダンジョンメニューの見た目は、なにからなにまでダンジョンズとそっくりだ。

「はは……まさかな……」

 そう思って、とりあえず適当な項目をタップする。
 操作感も、【ダンジョンズ】そのままだ。

 俺は『ダンジョン管理』の項目を開いた。

 すると、メッセージが大きく表示される。
 そのメッセージの書体も、ゲームで見たのとまったく同じだった。

「うっわ……マジかよ……」








――――【Welcome To The Dungeon!】
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