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《金色の刃》
3話 溺れる男【side : ギルティア】
しおりを挟む「ハッハァ! 殺してやったぞ! 魔族を! 俺はやったんだ! 復讐を! 成し遂げた!」
俺は動かなくなったユノンの死体を、宙に掲げる。
すると群衆が歓声をあげた。
だが興ざめなことに、一人だけこの状況を良しとしていない者がいる。
俺たちの幼馴染の一人である、アンジェ・ローゼだ。
こいつだけは最後までユノンの肩を持った、裏切者だ。
「おい、アンジェ。いつまで泣いている? ユノンは、あいつは魔族だったのだぞ? 俺はみんなを危険な奴から救っただけだ。それなのに、なんでそんな顔をしている?」
俺はアンジェに優しく手を差し伸べるが、振りほどかれる。
そしてアンジェは俺をキッとにらみつけた。
「ひどいよ……どうしてこんなこと……!」
嗚咽交じりに、アンジェは訴える。
だが不思議と、俺はなにも感じない。
いや、当然か。
俺は正しきことを成したのだ。
それがたとえ幼馴染であっても、容赦はいらない。
「どうしてだと? こいつが魔族で、俺が勇者だった。ただそれだけのことだ」
◇
「ほら、アンジェ。いい加減元気だしなよ。ユノンのことは私も残念だとは思うけどさ、魔族だったんだよ? あのまま《憑依》されて、全員殺されててもおかしくなかったんだから」
レイラがアンジェの肩を支え、慰めながら歩いている。
俺はその後ろを歩く。
相変わらずレイラはいい尻だ。
さすがは俺の女だ。
「みんな、どうかしてる……。どうしてユノンくんを信じてあげなかったの?」
アンジェはまだ泣いているようだ。
そういえばこいつはユノンに思いを寄せていたな。
ならばまあ、仕方のない反応なのかもしれん。
だが、俺に抱かれればそのうち忘れさせてやれるだろう。
今夜にでも抱いてやるか。
「さあ、今日はとびきりいい宿を取ろうか。せっかく勇者パーティーになったんだ。そのくらいの贅沢は許されるだろう」
「……? なにをいってるのギルティア。お金は全部ユノンくんが管理してたから、そんなことできないよ」
なかばキレ気味に、アンジェが俺に振り替える。
は……?
なん……だと……?
「ちょっと待て、あいつはなにも持っていなかったぞ?」
「あたりまえでしょ。ユノンくんのスキル《アイテムボックス》で異空間にしまってあるんだから……」
あ……?
なんだか話が妙なことになってきたぞ。
ちょっと待て、俺はなにかとんでもない見落としをしていたのか?
「ということはアレか? 俺たちの装備も、戦利品も、錬金素材もなにもかもが……ユノンと共に消滅したということか……?」
「そうだよ! まさかわかってなかったの……!?」
あああああああああああああああ!!!!????
俺は道端で叫びだしそうになった。
今までに集めたレアアイテムや、強力な装備品の数々がぁ!
だが、勇者である俺がこんなことで取り乱すわけにはいかない。
「ま、まあいいだろう……そんな物くらいくれてやる。俺は勇者だからな。宿くらい、頼めばなんとでもなるさ」
「まさか、勇者であることを利用して、タダで泊まる気? 最低だね」
グサ――!
幼馴染からの冷たい一言に、俺は傷つく。
しかもアンジェみたいな可愛い子に、そんな軽蔑した目で見られるのはどうも……。
「ふん。なんとでも言え。直にお前も俺の魅力に取りつかれ、そんな口が叩けないようにしてやるさ」
「は? なに言ってんの? 私はもうあなたたちとはいっしょに行かないけど」
「え? アンジェ、パーティーを抜けるってこと?」
「あたりまえでしょ? あなたたちがユノンくんにしたこと、どういうことかわかってないの?」
はぁ……。
またユノンか。
アンジェはどうやら魔族に取りつかれてしまっているようだ。
俺が抱いてやって、浄化してやらないと。
「アンジェ、いいか? 『動くな』」
俺は威厳を込めた重たい言霊を放つ。
するとアンジェは本当に動かなくなった。
ハッハァ!
これが勇者の特別な力だ!
弱者を従わせる、王者の力――!
「なにこれ……!? 動けない!? どういうこと……!?」
アンジェはなんとか動こうと、その場で身体をクネクネ揺らす。
そのたびにいろいろと揺れまくって、非常にいい。
「俺は勇者なんだぞ? それにユノンがいない今、俺がリーダーだ。だから俺の言葉には従うべきだよなぁ? 俺の言葉は絶対だ! それが勇者の力ァ!」
「そんな……!? 勇者にそんな力が……!? 無理やり私を縛り付けて、どうする気!? 私のこともユノンくんみたいに、魔族扱いして殺すの!?」
「はぁ? そんなことはしないさ。今から俺が抱いてやって、魔族の穢れを浄化するんだよ。勇者の力でなぁ! だから、そこを動くなよ?」
俺はゆっくりとアンジェに近づく。
だがそのたびに、アンジェの顔が恐怖と嫌悪感に歪む。
「どうしてそんな顔をするんだアンジェ! 俺たちは幼馴染じゃないか! それにユノンはもういないんだ! どうして俺を拒む? 俺は勇者だぞ?」
「そんなの知らない! ユノンくんを殺すような人、私の幼馴染なんかじゃないもん! それに……ユノンくんはまだ生きてるって、私信じてるもん! ギルティアなんか大嫌い!」
「…………は?」
おいおいおい……。
アンジェ、頭の弱い女だとは思っていたが……。
ここまでわからないバカだとは思わなかった。
ユノンが生きているだと……?
そんなはず、あるわけがないじゃないか!
俺がこの手で、きちんと殺した。
それを目の前で見ておきながら、この言葉だ。
もはや脳にまで魔族の瘴気がいっているな?
「あのなぁ、お前バカか? ユノンが生きてるはずないだろ? それに、俺に抱かれたほうがいいとは思わないのか? 俺は勇者だぞ? お前、他に行く当てなんかないだろ? ん?」
俺がそう言いながら顔を近づけた瞬間、アンジェの脚が、俺の顎を蹴り上げた。
――ドン!
「あ、が…………!?」
「ギルティア最低! 死ねバーカ! いつかユノンくんと一緒に復讐してやるんだから!」
アンジェはそう捨て台詞を吐くと、駆け足で去っていった。
そんな……!
なぜ、俺の――勇者の前で自由に動ける!?
俺があっけにとられていると、エルーナが口を開いた。
「たぶん、アンジェが《聖女》だからでしょうね。《聖女》には、呪縛や結界を破壊する力がある」
「なるほど……まんまと逃げられたわけか」
「それにしても、ユノンが生きてるわけないのにね……。ホント、バカな子……」
エルーナはアンジェと違って、利口な女だ。
俺が勇者だとわかった途端、俺の益になるような発言をしだした。
こういう頭のいい女が、俺は好きなんだ。
「……で、あのバカ女どうする?」
「おいおいレイラ。一応お前も幼馴染なんだぞ? バカ女って」
「え? だってバカでしょ。ユノンなんかほっとけばいいのに。それに、もともとなんかいけ好かない女だったのよ。私より胸大きいし……。ねえ? 私の勇者さま?」
レイラは俺に腕を絡ませてくる。
ふっふっふ……。
今夜はレイラもエルーナも、死ぬほど抱いてやろう。
俺は勇者なんだから、感謝してもらいたいね。
「まあ、アンジェは放っておいても大丈夫だろう。いくら探したところで、ユノンはもう死んでいるんだ。せいぜいに無駄に時間を過ごすといいさ」
「そうね。もうあんな幼馴染たちのことは忘れましょう。過去のことは捨てて、今を生きていくのよ」
「さあ、楽しい夜の時間の始まりだ!」
そして俺たちは、超高級なホテル街へ向かった――。
◇
俺たちは魔族との戦いで受けた心の傷を癒すため、王都一番の高級ホテルにやって来た。
だというのに……どういうことだ、コレは?
「その……勇者さま、さすがにお金がありませんと……」
「は? 俺は勇者なんだが? 俺に野宿しろと……?」
驚いたことにこのホテルの従業員は、この俺を追い返そうとしている。
「ですがその……こればかりは決まりですので」
世間知らずの若造のくせに、勇者様にたてつくとは……。
どうやらこのホテルは潰れたいらしいな。
「は? お前じゃ話にならないよ。支配人を呼んでくれ」
数秒待って、支配人らしき男がやってくる。
こいつはまともな、話のわかる大人だといいが……。
「俺は勇者なんだ。この世界を救ってやるというのだぞ? だからタダで泊めてくれるよなぁ?」
「ああそうかい。ぜひこの世界を救ってくれ。だがな、それとうちのホテルが損をしなきゃいけないのと、どう関係があるんだ?」
「……は?」
「別に明日すぐ世界が滅びるわけじゃないんだ。確かにあんたのことは応援しているがね。それとこれとは別だ。世界の命運なんかより、今月の売り上げのほうが、俺にとっては重要な案件ってだけだ。それに、うちは客には困ってないんでね。乞食を泊めたとなっちゃ、うちの格が落ちるってもんだ」
「っち……! 話のわからん奴め。勇者を乞食呼ばわりとは! このホテルが魔王軍に襲われても、助けてやらないからな」
「ああ、構わんよ。どのみち王都まで進軍されたら、ただでは済まないだろうさ。そうなる前にアンタらが止めてくれるんだろう?」
「クソ……!」
というわけで、俺たちは勇者パーティーであるにもかかわらず、またもや森の中で野宿する羽目になった。
しかも、一文無しでだ。
装備もろくなものがないし、狩をするにも道具がいる。
また明日からアイテムを集めたり、一からやり直しだ。
「すべてはあのユノンのせいだ……!」
俺は腹いせに、そのへんにあった木を殴りつける。
「まあまあ、別にいいじゃないの。明日から取り戻せばさ。ギルティアが勇者であることには変わりないんだし」
「ああ、そうだな。いずれ皆もわかるだろう。俺の価値がいかに高いかがな……!」
翌朝になって思ったのだが、なにも高級ホテルに行かなくとも、そのへんの民家なら、頼めば泊めてくれたかもしれない。
もしくは、あのまま王城で接待を受けることも可能だったかもしれない。
俺はどうやら焦っているらしい。
大丈夫だ。
俺は正真正銘の勇者なのだから――。
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