上 下
2 / 55
《金色の刃》

1話 選定式

しおりを挟む

「ユノン! とうとう俺たちも、Aランクパーティーだな!」

 パーティーメンバーのギルティア・カストールが、嬉しそうに俺の肩をぶったたく。
 トゲトゲの金髪とするどい目つきが威圧的な、いかにもないじめっ子タイプの男だ。
 少々力が強くて、若干イラっとする俺であったが、今日はめでたい日だからやめておこう。

「ああ、ここまで長かった」

 俺はしみじみと噛みしめながら応える。
 なにを隠そう、我らがパーティー【金色の刃】がAランクパーティーに昇進することが決まったのだ。
 そしてAランクになったということは、【上級職】の選定式を受けられるということだ。

 【金色の刃】は同じ村出身の幼馴染5人で立ち上げたパーティーだ。
 俺はユノン・ユズリィーハ――そこのパーティーリーダーをしている。
 だがリーダーと言っても名ばかりで、その実務はほとんど雑用ばっかだ。

 ギルドとの間を取り次いだり、宿を確保したり、素材や金銭の管理など。
 めんどくさいことは全部俺任せ。
 だが俺は文句ひとつ言わずにやってきたのだ。

 まあ、俺のスキルがそれに適しているというのもあった。
 だがそれ以上に、俺は現状に十分満足していた。
 俺が活躍しなくても、仲間の活躍をサポートできればそれなりに嬉しかった。

 それに、俺は村に病気の妹を残してきている。
 万が一俺自身が死ぬことになったら、仕送りがストップすることになる。
 それだけは避けたかった。
 だから俺は、縁の下の力持ちに徹してきた。

「今日はいよいよ、【上級職】の選定式だな。俺はこの日を、待ちわびていたぜ!」

 ギルティアが、また俺の肩をぶったたく。
 こいつにとってはスキンシップのつもりかもしれんが、正直鬱陶しい。
 力の加減をしらないのか、わざとなのかは知らないが、とにかくかんに障る。

 まあ、ギルティアは最前衛職の《狂戦士》だからな。
 このくらい元気でパワーのあるほうが、戦闘では役に立つ。
 俺はクエストが上手くいき、金がもらえればそれでいい。

「きっと私たちから勇者が出るに違いないわ!」

 《獣使い》のレイラ・イリノラがそう言う。
 金髪の化粧の濃いチャラついた女だ。
 正直俺は苦手なタイプ。
 まあこいつはギルティアとから、マジでどうでもいいんだがな……。

 だがレイラが言ったことは、決して夢物語ではない。
 本当に、今年の選定式で《勇者》の上級職が誰の手にわたるのかが決まるのだ。
 そのことは、前々から噂になっていた。

 《勇者》というのは上級職の一つで、普通の職業とはまた別らしい。
 とにかくそのスキルを手にすれば、魔王をも倒せる力に目覚めるのだとか。

 今年の始めに、新たな魔王が誕生した。
 魔王が現れたということは、勇者が現れる前兆である。
 そして俺たち新進気鋭のパーティー【金色の刃】が、勇者パーティーそれに選ばれる可能性は、かなり高い。

「ユノンくんが勇者になるって、私は信じてるから!」

 治療師ヒーラーのアンジェ・ローゼが俺に期待の目を向けてくる。
 俺がこのパーティーのリーダーだからだろうか。
 まあ、順当にいけば……そうなってもおかしくはない。

 アンジェは短く整えた茶髪に、青色の薄く柔らかいローブを着ている。
 首からぶら下げたアクセサリーは、昔俺があげたものだ。
 生地の薄いローブと、胸元のアクセサリーが、その豊満な胸を余計に強調している。
 そんな魅力的な幼馴染から期待され、俺は少し照れてしまう。

「はは、荷が重いな」

 正直俺は、どっちでもいい。
 面倒事はごめんだからな。
 俺は妹に仕送りできるだけの金を、ちゃんと稼げればそれでいい。

「さっさと選定式に行くわよ」

 二日酔いの腹黒エルフが、だるそうにそう言った。
 エルーナ・ルナアーク――我がパーティーの《魔導士》だ。
 スレンダーで褐色の美少女エルフ……。
 しかし酒癖と男癖が最悪な女だ。

 昨日も俺に「ユノンは勇者になるだろうから、今のうちにどう?」などと誘惑をしてきやがった。
 もちろん俺は断ったし、その後エルーナは何事もなかったかのように酒場へ出かけてたがな……。
 さすがに「そんなんだからいつまでも童貞なんだよ」なんて捨て台詞を言われたのは傷ついたけど。
 それにしても、いつの間に戻ってきてたんだコイツ。

「エルーナ……そうだな、もう出かけよう」







「おい見ろよ【金色の刃】だぞ!」

「ほんとうだ……! すげえ、あれが最年少Aランクパーティーか……」

 王都に着いた俺たちは、さっそく注目の的となる。
 当然だ。
 今をときめく新進気鋭のパーティーが、選定式を受けるというのだから。
 しかも、おそらく今日、勇者が決まる――!

「うう……緊張してきたぁ」

 王城に近づくにつれ、アンジェがそわそわし始める。
 こいつは昔から、注目されるのが苦手だったな。

「大丈夫だアンジェ。肩の力を抜け。悪いようにはならないさ」

 俺はアンジェの頭にそっと手を置いた。

「う、うん。ありがとうユノンくん」

 選定式は毎年、王城にて行われる。
 その様子は一般にも公開され、一種のエンターテイメントとなっていた。
 会場に集まった何百人もの大衆が、俺たちを取り囲み、固唾かたずをのんで見守る。

「それでは【金色の刃】のみなさん、どなたからカードを引きますか?」

 授かる《上級職》は、タロットカードの柄によって決定する。
 といってもカードは最初どれも白紙で、カードを引いた人物の魔力を読み取るだけのものにすぎないのだが。

「じゃあ俺が一番先に引かせてもらおう」

 ギルティアが威勢よく前に出る。
 こいつはこういうときには真っ先に飛び出す性格だから、なんら驚きはない。
 俺が遠慮がちなこともあり、こういった順番事で揉めたことは一度もなかった。

「では、ギルティア・カストール殿。カードを」

「よし……いくぜ!」

「では、柄をお見せください」

「えーっと、これは……うわ! マジか! やったぜ!」

 どうやらギルティアの反応を見るに、相当いい《上級職》を手に入れたようだな。
 俺もパーティーリーダーとして、嬉しいよ。
 そう思っていた俺は、次の瞬間面食らうことになる。

「俺の引いた上級職は――《勇者》だぁあああああああああ!」

 ギルティアはカードを高らかに掲げ、そう叫んだ。
 一瞬、会場全体が静まり返って、それからすぐに歓声が沸いた。

「うおおおおおおおおおおおお! 勇者の誕生だ! マジか!」

「すげえもんを見ちまったな! さすがは一流パーティーだ!」

 狂喜乱舞の群衆の中、俺だけは放心していた。

 は――?

 あいつが、ギルティアがだと?
 どう考えても、向いてないだろ……そんなの。

 みんなあいつの性格を知らないから、そうやって手放しに喜べるんだ。
 どう考えても、リーダーである俺のほうが選ばれると思っていた……。
 興味ないつもりでいたが、意外と俺は、無意識に期待をしていたようだ。

「わ、わーすごい。でも、ユノンくんもきっと、それに負けないすごい上級職だと思うよ? ほら、まだ《剣聖》とか《賢者》とか残ってるし……」

 アンジェが気まずそうに俺を慰める。
 そんなに顔に出ていただろうか?
 俺はつとめて冷静に、平静を装って応える。

「あ、ああ……そうだな。きっと俺たち全員、勇者パーティーにふさわしい上級職に決まってるさ。ありがとう、アンジェ」

「じゃあ次は私ね」

 レイラがギルティアに続き、カードへ手を伸ばす。
 勇者パーティーは勇者をサポートするのが仕事だ。
 だから俺たちにも必ず、チート級の上級職が与えられるはずだ。

「やった! 私は《神調教師》よ! どんなモンスターでもテイム可能ですって!」

 《獣使い》であるレイラにとっては、これ以上ない上級職だろう。
 どうやら俺も勇者パーティーの恩恵にあずかれそうだ。
 俺はもともと《パーティーリーダー》の職をとっているから、《軍神》の上級職なんかが出ると嬉しい。

「次は私が」

 続いて、エルーナがカードを取る。
 エルーナはカードを確認したものの、ぷるぷると震えだし、なかなか口を開かない。
 よほど嬉しいカードだったのだろうか。
 それとも――。

「みんな見て! 私は《大賢者》よ!」

「な……!? 《大賢者》だって!?」

 《大賢者》――それは超レア上級職《賢者》のさらに上に位置する職だった。
 元が魔導士のエルーナが大喜びするのも無理はない。
 エルーナはエルフの高い魔力を駆使して、あらゆる魔法を使えるようになるだろう。

「じゃ、じゃあ次は私……お先にいくね、ユノンくん」

「ああ、いい結果を祈る」

 さて、アンジェはどんな上級職を引くのだろうか。
 治療師ヒーラーであるアンジェがなにを引くのか、だいたいの見当はつく。

「そんな……!? やった……! 《聖女》だって、ユノンくん!」

 アンジェは柄にもなく、飛び跳ねて大喜びする。
 おお、そんなに跳ねるでない。
 揺れる揺れる……。

 俺は内心穏やかではなかった。
 いや、アンジェに興奮したとかではなく。
 ここで俺が変な職を引いたら、どうなる……?

 まあ万が一にもそんなことはあり得ないだろうが……。
 お願いだ神様、せめて有用な上級職を与えてくれ!
 俺は信じてもいない神にまで祈って、引いた――。

「…………っ!」

「ゆ、ユノンくん! 見せて見せて! もしかして《剣聖》かなぁ!?」

 アンジェが俺に痛いほどの期待の目を向けてくる。
 そう、残っている上級職の中で、勇者パーティーと渡り合えるような神職といえば《剣聖》あたりが第一候補になるだろう。
 だが、あいにく俺は剣など振ったこともない。

 俺は恐る恐る、手の中のカードを確認した。
 そこに書かれていたのは――――。


「《憑依者》…………?」

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

和風MMOでくノ一やってたら異世界に転移したので自重しない

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:2,219

処理中です...