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第8話 閑話
しおりを挟むまたしても、天界からジャスティスのことを観察するものが二人。
例によって、神とその天使である。
「あらら……ヒロインとまで出会ってしまいおったか……」
なかばあきらめ気味に、しかしどこか楽しんでいるふうに、神は言った。
「もう神様、完全に楽しんでますよね?」
「ホッホッホ……そりゃあ天界におったらこのくらいの楽しみしかないでの」
そうやって一時の気まぐれで、転生させられる者の身にもなってほしい……というのが天使の心の内であった。
しかし、天使という立場上、そんなことも言えないので。
「それで……あの銀髪のヒロインちゃんは、本来はアランと出会うはずだったんですよね?」
「そうじゃ。アランと出会った彼女は、アランの力を引き出す。それによってアランは覚醒し、ジャスティスにざまぁをする……というのが原作での展開じゃな」
神はまたも、小説『追放勇者』のページをパラパラと開きながらそう言った。
「だったら、先にジャスティスと出会ってしまったら……」
「そうじゃ、もうすっかり主人公が入れ替わっておるわい……」
「これはアランには厳しい展開ですねぇ……」
「まあ、アランは犯罪者になってしまっておるからのう……」
ジャスティスは正規ヒロインと出会い、覚醒の道をたどる。
一方で、アランは絶望的な状況だ。
「じゃが、まだまだアランのほうも目が離せんぞ……?」
「そ、そうなんですか……?」
「なにせ、物語の本来の主人公じゃからな。多少の不利益は、いとも簡単に覆してくるかもしれん」
「なるほど……主人公補正というやつですね」
この世界には、カルマというものがある。
自分の行った行いは、自分に返ってくるというものだ。
よいことをすれば、よいことが。
悪いことをすれば、悪いことが返ってくる。
しかし、主人公という存在には、そのカルマに対して、補正が働いているのだ。
だから、多少カルマが低下したところで、もともとの数値が高いため、すぐには破滅には至らない。
「アランのカルマが、先の暴行と窃盗で、どこまで下がっておるかが問題じゃのう……。カルマがマイナスの値まで下がっておれば、この先ろくでもない目に遭い続けるじゃろうし……。まだカルマがプラスの数値であれば、主人公らしく返り咲いてくれるじゃろう」
と、神はいたずら好きな笑顔を浮かべた。
まるで神というより、悪魔ではないかと、天使は心の内で思った。
「というか神様」
「なんじゃ?」
「神様でしたら、カルマの数値も確認できるのでは?」
通常、生きている人間が、自分自身のカルマの数値を確認できる機会はない。
だが、それを天界から俯瞰している神であれば、確認することも可能であろうことは、確かだった。
「ふん……馬鹿かおぬしは」
「え……?」
「そんなもの、確認してはつまらんではないか!」
「そ、そういうものですか……」
呆れながらも、自分自身、ジャスティスとアランの行く末を楽しみにしている部分が芽生え始めている天使なのであった。
◆
だが実際のところ、カルマの数値はこうであった。
《カルマ数値》
ジャスティス -50
アラン +100
なぜ、こうなっているのか。
そもそもジャスティスは、以前からの行いで、カルマが下がり続けていた。
急に中身の人間が変わったからといって、カルマが解消されるわけではない。
一方で、アランのほうは、もともとのカルマの数値が高めに設定されていたのだ。
それに加え、パーティーを追放されたことによって、物語的な「ざまぁ」の必然性が産まれた。
それによるボーナスで、カルマの数値は高くなっている。
先の暴行と窃盗を差し引いても、まだカルマの数値は依然としてアラン有利である。
ただし、ここから先、ジャスティスの行動次第で、どうなるかはわからなかった。
なにせジャスティスは、自分自身を主人公であると思い込んでいるのだから――。
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