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第29話 捨て猫

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「ショウキチィ……」
「レベッカ……!?」

 俺の家の前に、なぜかレベッカが体育座りで待っていた。
 しかも服も汚れていて、着の身着のままやってきた感じだ。
 ただごとじゃない雰囲気を感じる。

「どうしたんだ……?」
「それが、うええええええええん! ショウキチぃ……!」
「おいおい……大丈夫か……?」

 レベッカは俺に抱き着いてきた。
 彼女の特大のプリンが俺の硬い胸板に押し付けられる。

「と、とりあえず、中に入れよ」
「うん、ありがとにゃ」

 レベッカを中に入れ、風呂に入らせる。
 服も俺のものに着替えてもらった。

「どうだ? 少しぶかぶかだけど、我慢してくれ」
「うん、大丈夫にゃ。これ、ショウキチの臭いがする」
「う……」

 レベッカはぶかぶかの俺のシャツを匂って鼻をむずむずさせていた。
 別に不快というわけではなさそうだが、少し恥ずかしい。
 というか、こんなふうに女の子を家に入れて、風呂に入らせて、自分の服を着せるなんて……。
 ちょっと前の俺からしたら考えられないようなことだぞ。

 まあ、俺も童貞を卒業したわけだし、ちょっとは免疫ができたのかな。
 自然とふるまえている気がする……たぶん。
 でも、さすがに俺のシャツを着てるレベッカの姿は、こう……男心に来るものがあるな。
 とりあえず、心の中でシャッターを切ってガッツポーズを決めておいた。

「それで、なにがあった? 落ち着いて話せそうか?」
「うん、話すね……」

 それから、レベッカは事の顛末を語り始めた。

「僕、実は……あんまりお金ないんだよね……」
「ああー……そうみたいだな……」

 もともとレベッカはいくつもの仕事を掛け持ちしてたいたわけだしな。
 お金に困っていることは想像に難くない。

「一応、安い家を借りて住んでたんだけど……そこ、追い出されちゃって……」
「そっか……」
「あ、別に家賃を滞納してたわけじゃないんだよ……!」
「そうなのか?」
「えーっと、これも言いにくい話なんだけどね……」

 レベッカはここにきて口ごもった。
 でも、こんなに困っているレベッカを俺はなんとか力になってやりたいと思った。
 そのためにも、まずはきちんと状況を話してもらう必要がある。

「なんでも聞くぞ。安心して話してくれ」
「うん……僕、元は奴隷……なんだよね……」
「奴隷……」
「自分で自分を買ったんだよ。とりあえず今はお金を半分払って自由になったんだけど……本当に自由になるためにはまだあと半分の借金を返さないといけないんだよね……」
「そうだったのか……」

 だから、レベッカはいつもあんなに働いていたわけなのか。
 奴隷だったなんて、微塵も感じさせないほど気丈にふるまっていたけど……そんなことが……。
 レベッカの話をまとめると、奴隷を買うには二種類あるらしい。
 単に奴隷を奴隷として買うだけなら、半分の値段で済む。
 だけど、奴隷を奴隷から、平民にするためには、倍の値段が必要なのだそうだ。
 つまり、レベッカは自分を買って自由になったとはいえ、まだ奴隷の身分ということになる。
 
「それで、今まではうまくやってたんだけど……奴隷だってバレて、部屋を追い出されちゃって……」
「そうだったのか……」

 この街では、奴隷は禁じられている。
 それは、昨日の門前での騒ぎでも聞いたとおりだ。
 だから、いくらレベッカが自分を買ったとはいえ、この街にはいられないってことか……。

「助けてショウキチ……! 僕このままじゃ、この街にいられない! この街じゃなきゃ、また奴隷にされちゃうにゃ……!」

 他の街では、いまだに獣人差別などがある場所もあるみたらしい。
 そして治安のいい地域ほど、奴隷は厳しく取り締まられている。
 うまく法整備してあるようにみえて、獣人が奴隷から平民に自力でなろうと思うとかなり難しいのが実情みたいだ。

「もちろんだレベッカ! 俺が力になるよ……!」
「ありがとにゃ……! ショウキチ! もう大商人バッカスの館に戻るのはごめんだにゃ!」
「ん……? お前、今なんて言った……?」
「え……? 大商人バッカス」
「はぁ……マジか……」

 俺はその名前に、聞き覚えがある。
 昨日、門前で門番ともめていた商人。
 あいつが口にしていた名だ。
 きっと悪徳商人なのだろう。

「っていうか……これ……もしかしたら俺のせいかもしれん」
「え……? なんでショウキチのせい……?」

 昨日の商人が、大商人バッカスに告げ口した結果、この街が標的にされたのかもしれない。
 レベッカは大商人バッカスのところが管理していた奴隷だった……ということは、レベッカの名前やデータが残っているはずだ。
 大商人バッカスがこの街に対するいやがらせの一環として、レベッカのことを街の不動産屋とかにチクったというのも、ない話ではない。

「……ということだ」
「そんな! ショウキチはなにも悪くないにゃ!」
「まあ、そうだといいが……。でも、これは俺にも関係のある話だ。俺はその大商人バッカスとかいうやつが気にくわないしな」
「ショウキチ、優しいにゃ」
「あとは全部俺に任せておけ! 俺がレベッカのことを、その下衆野郎から守るから……!」
「うれしいにゃ……!」

 レベッカがこれまでにどんな思いをしてきたのか、想像すると胸が痛くなる。
 俺はそれに比べたら、悠々自適なものだった。
 そんな俺が、困っているレベッカを放っておくなんて、そんなの男がすたる。
 余裕のある今の俺だからこそ、レベッカを救わないと気が済まない。

「あ、ショウキチ!」
「なんだ……?」
「僕は奴隷だったけど、まだ処女だからその辺は安心してほしいにゃ?」
「はぁ……? な、なななななにを言ってんだお前……!? 安心って意味わかんねーよ!!!!」

 急にレベッカが変なことを言い出したので、俺は盛大に噴き出した。
 誰もそんなこと心配してないし、きいてもいないのだが……?
 まあ、レベッカがそういう意味でひどいめにあわされていたわけではない、というのがわかって、ある意味そこは安心……だけど……。
 なんでそんなこと、俺に話すんだ……?

「え……? 俺に任せろってことは、責任をとるってことじゃないにゃ……?」
「な、なんでそうなる……!」
「ショウキチは僕のことが嫌いかにゃ?」
「そ、そんなことないけど……」
「じゃあ、決まりだにゃ!」
「えぇ……」

 そんなこんなで、なし崩し的に、レベッカが居候することになった。
 とりあえず、今日は俺がソファで寝ることにするけど……。
 これはどこまで理性を押さえられるかが心配だ……。
 僕っ子巨乳ケモミミ娘と一つ屋根の下で、しかも向こうは乗り気だ……。
 ついこの間まで童貞だった俺に、この状況はハードすぎた。
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