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第15話 魔法書

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 俺は街外れにある本屋に来ていた。
 中に入ると少し威圧感のあるつり目の女性がカウンターで肘をついて接客していた。
 赤毛の長髪で、すこし癖毛気味なお姉さんだ。
 胸も大きくて美人だなぁ……。
 ってかこっちの人はほぼ美人に見える……。

 それにしても、本が多すぎてどれが魔導書かわからないなぁ。
 ここは少し怖いが勇気を出して聞いてみよう。

「あの、魔導書を探してるんですけど」
「魔導書だぁ……? あんた、今時物好きだねぇ」
「そうなんですか?」
「あんなのは代々の魔法師の家系か貴族くらいにしか需要がないからね。学のない我々にはさっぱりだよ」

 そんなことを言いながら、女性は奥の棚に案内してくれた。
 どうやら魔導書を理解するには数学などの知識も必要らしい。
 そりゃあ、みんなが学校に行くような時代でもなければ理解できる人は少ないだろうな。
 俺は一冊の本を手に取ってみてパラパラとめくってみる。

「ん……? これ、もしかしてめちゃくちゃ簡単じゃないのか……?」

 文字は問題なく読める。
 それに、書いてあることも初歩的な数学や化学の応用にすぎない。
 あまり勉強は得意ではなかった俺だけど、これでも一応大学までいってるんだ。
 これくらい、俺にも楽に理解できた。

「よし……! これなら俺にも魔法が使えるかも……!」

 まあこれを異世界の一般人に読み解けるかはたしかに疑問だ。
 プログラミングや映像技術のない時代に、この内容を理解するのはかなりの学がいるだろうな。
 俺は幸いなことにいろんなフィクションで魔法のイメージもある。
 だがこっちの人は実際に目の前で魔法を観察とかしないと想像すら難しいのだろう。
 俺はとりあえずその本を買ってみることに決めた。
 ちらりと裏の値段を見てみる。

「って……なんだこれ、高……!?」
「まあ一応、貴族向けの商品だからねぇ」
「まじか……こんなの全然手が届かない……」

 2か月目のベーシックインカムの支給額は7千Gだった。
 しかしそれも日々の食費やらなんやらで溶けてしまう。
 多少は節制のおかげで貯金もできてきたが、これは無理だ……。

「千Gか……」

 さすがに生活費の7分の1を溜めようとすると、半年くらいはかかりそうだ。
 ほかにも使いたいものはあるし……。

「なんだったら、まけてやってもいいけど?」
「ほ、本当ですか……!?」

 見た目で怖そうなお姉さんだと思ってしまっていたけど、優しい人なのかもしれない。
 こっちの人は本当にみんな優しい人ばかりだ。

「まあ、うちにはめったに貴族なんかはきやしないからね。そもそもそういう魔導士の家系は代々受け継いでいる専門の魔導書が書庫にあるもんさ。どうせ本棚の肥やしにしておいてももったいないだろう?」
「な、なるほど……」
「そうだねぇ……100Gでどうだい?」
「そ、そんなに……!?」
「なんだい? もっとまけろってかい?」
「い、いえ……! 逆です! そんな9割引きだなんて……」

 そんな安い新品の本、ブッ〇オフでも置いてないだろう。
 もしかしていわくつきの本だったりするんじゃなかろうかと疑いそうになるくらいの値段だ。
 それなら少ない俺の所持金でも払えるぞ……!

「まあ、そうだねえ出世払いということで。残りはまた余裕のあるときになにかしらで返してくれればいいよ」
「出世払い……ですか……?」
「だってこの本を買いにきたってことは、なにかしらやろうってんだろ? 未来の魔導士さん」
「は、はい……! 必ずこの恩は返します!」
「よし……! がんばりな!」
「ありがとうございます!」

 なんていい人なんだ……。
 まるで女神のようなお姉さんだ……。
 俺は冒険者になって金を稼いだらまずこの人のところにこようと決意した。

「それじゃあありがとうございました、ミーナさん。本当に!」
「おう、応援してるよショウキチ!」

 本屋の優しいお姉さんはミーナさんという名前だそうだ。
 これでまた一人こっちの世界での知り合いが増えた。
 ホームシックにならないためにも、知り合いは大切だ。
 まあまだ今のところはその兆候はないが……。
 それにしても、俺の知り合いはどうも美人が多いな……。
 ようやく俺の運も向いて来たというところかな?

 家に帰って、俺はさっそく本を読んでみることにした。
 久しぶりに学校の教科書を読んでいるような気分だ。
 まずは実践というタイプもいるだろうが、俺はゲームの説明書は全部読み込んでからプレイするタイプだ。
 子供のころ、誕生日にゲームを買ってもらって、帰りの車の中でわくわくしながら説明書を読んだっけ。
 最近のゲームは説明書がついてなくてがっかりするんだよなぁ。

 なんて思いでにふけりながら本を読んでいるうちに、俺は寝落ちしてしまっていた。

「あれ…………?」

 ふと、夜中に目が覚める。
 なぜだか知らないが、顔のあたりがやけに暖かい。
 ってか、アツい。

「はぁ…………!?!??!?!」

 目を覚ますと、俺の指先に小さな火がともっていた――。
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