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第3話 街に来た

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「とりあえず、住むところを探すか……」

 異世界に来たからと言って、浮かれてばかりはいられない。
 まずは衣食住の確保だ。
 といっても、その3つは【新世界秩序機構】とやらによって保障されているんだっけか。

「街とかはどっかにないのかぁ?」

 だだっ広い草原の中心にいる俺は、当たりを見渡した。
 するとまたあのサポートAI〈カガリ〉の声がした。

『ここから西に少し行くと【エルドール】という街がありますので、まずはそこを目指すことをお勧めいたします。佐藤正吉様』

「おお、そうか。サンキュー。って、西ってどっちだよ!」

『今ナビゲーションシステムを起動いたします』

 カガリがそういうと、なんと俺の目の前にゲームのアイコンのような目印が現れた。
 オープンワールドゲームなんかでよくある、クエストマーカーのような感じだ。
 西に向かって青い矢印が、目の前に出ている。
 さらにはご丁寧に、その下に目的地までの距離も書かれている。

「これはいい! 便利だ!」

『普段は邪魔しないようにひっそりとサポートをさせていただきます。それではあとは佐藤様のご自由に行動していただいて結構です』

「ああ、ありがとう」

 それっきり、カガリはこちらから話しかけない限りはなにも言わなくなった。
 まあ、誰かに見られているような感覚がずっとあるのも嫌だしな。
 頼れるときだけ頼ろう。
 とりあえず俺は言われた通りにそのエルドールという街を目指した。





「あんた、旅人かい?」
「まあ、そんなところだ。この街に住むつもりなんだ」
「そうかい。ここはいい街だよ」

 街の入り口で、門番らしき男とそんな会話を交わす。
 だがそれっきりで、特に身体検査などはされなかった。

「あれ……? 入っていいのか? いいのか? 俺みたいな素性の知れない人間を入れても」

 てっきり、こういう異世界の街では通行料なんかをとられるのかと思っていた。
 異世界人である俺には身分を証明できるものなんかないし、どうしようかと思っていたけど、心配はいらなかったようだ。

「ああ、かまわんよ。見たところ、あんたは身なりも綺麗で裕福そうだ。悪いことをするような奴には見えん。まあ、もしなにかしでかしたらその時は容赦なくつまみ出すけどな!」
「あはは……気を付けるよ」
「ていうかそもそも、この街じゃ大した犯罪は起きないのさ。治安もいいしな。言ったろ? いいとこだって」
「そうか。それはよかった。ありがとう」

 という感じで、街の中には難なく入ることができた。
 門番の態度からしても、なかなかいい街だと思った。
 俺の身なりがいいというのは、現代人だからだろうか。
 こっちの世界の人たちは現代人ほど清潔じゃなさそうだからな……。
 
 ともかく、何事もなく中に入れてほっとする。
 もしかしたら、そういう治安のいいところに飛ばしてくれたのかもしれないな。
 なにせ新世界秩序機構は俺をのんびり暮らさせるのが目的なんだからな。
 そりゃあ、過酷な土地にわざわざ飛ばしたりしないだろう。

「うわぁ……これがエルドールの街か……。ここなら楽しく暮らせそうだ!」

 街の中は思った以上に活気であふれていた。
 治安がいいと言っていたから田舎なのかと思っていたけど、そんなことはない。
 様々な人々にあふれていて、なかなかの賑わいだ。
 それに街並みも綺麗で、まるで理想の異世界の街って感じだ。

 レンガ造りの家と緑あふれる街の景色がなんとも美しい。
 街路には小川も流れていて、空気も澄んでいて気持ちがいい。

「さてと……家を売ってる店はどこなんだろうか……?」

 あたりを見渡して看板を探す。
 なんとも不思議なことに異世界の文字だというのに看板の文字が読めてしまう。
 さっきサポートAIに変な翻訳プログラムをインストールされたせいか?
 まあ、とりあえず便利だからいいか。

 でも、大通りに面している店はどれも雑貨店や武器屋なんかの物を売っている店ばかりだ。
 不動産屋がどれなのかよくわからない。
 ここはダメ元で人に尋ねてみるしかないか。

「あのぉ……すみません」
「はい、なんでしょう?」

 俺はなるべく優しそうな人を選んで声をかけた。
 立ち止まってくれたのは清楚そうな美しい若い女性だ。
 長い金髪にブルーの目が、なんとも異世界という感じだ。

「今日からこの街に来たんですけど……住むところを探していて……」
「ああ、そうなんですか。いい街ですよ、ここは」

 女性は優しく俺に微笑みかける。
 みんな口をそろえていい街だというから、きっと本当にいい街なんだろうな。
 それにしても、こんな綺麗な人に優しくされたのはいつぶりだろうか。
 こうして少し話しているだけで、俺のすり減った心が癒される。

「そうですねぇ。私が案内しますよ。すぐそこですので」
「本当ですか……! ありがとうございます」

 しかも直接連れていってくれるだなんて、なんと優しい女性なのだろうか。
 日本の都会では俺みたいなやつはいないも同然に扱われてきたとうのに……。
 本当に異世界の人は時間にゆとりをもって生きている感じがして、本当に親切だ。
 打算じゃなく、単に心からの優しさで接してくれているのだと感じる。
 俺たちは不動産屋まで歩きながら、自己紹介をした。

「私はジャスミンっていいます。孤児院で働いています」
「あ、俺は正吉です」
「ショウキチ……さんですか。変わったお名前ですね……。でも、素敵なお名前です!」
「はは……ありがとうございます」
「みたところ異国の方のようですけど……東の国の方ですか?」
「ええ、まあ……そんな感じです」

 もしかしたらこの世界にも、日本のような国があるのかもしれないな。
 さっきも街で何人か日本人のような顔立ちの人とともすれ違ったし。

「では、ここです」
「ありがとうございます、ジャスミンさん」
「いえいえ、ショウキチさん。素敵なおうちがみつかること、祈ってますよ。では、また」
「はい……また」

 不動産屋につくと、ジャスミンさんはそそくさと去っていってしまった。
 綺麗な人だったなぁ……。
 また会えるといいなぁと思うが、広い街だからどうだろうなぁ。
 それにしても、この街の人は本当に素敵な人ばかりだ。

「ようし、俺もこの街で素敵な第二の人生を歩むぞ!」

 俺は心機一転した気持ちで不動産屋の扉を開けた。
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