52 / 57
SS デュラハンの首
しおりを挟む奴隷市場を歩いていて、俺は2度見して振り返った。
「は……!??!?! ん……!?!?!? なんじゃあれ……」
店先に、一人? の少女? が座っていたのだが――。
なんと彼女には、首から先がなかった。
頭がないのだ。
首無し……どういうことだ……!?
ていうか、これ生きてるの?
振り返って、立ち止まってみる。
少女は鎖につながれていながらも、手を動かしたりしていた。
どうやら生きているらしい。
俺は店主に話しかける。
「こ、こいつは……どうなっているんだ……?」
「へっへっへ、目の付け所がいいな。うちはめずらしい奴隷を専門にあつかっているんだがな。こいつは世にもめずらしいデュラハンだ!」
「デュラハン……!?」
名前だけならきいたことがある。
だが、この世界にデュラハンが存在していたなんて。
「どういうことだ……? 首がないが、生きているのか?」
「ええまあ、ですがこいつは首がないもんで、眼も見えませんし口もきけません」
「だろうな……」
「そこまでならまあ、普通の欠損奴隷と同じなんですが、このとおり見た目が不気味なんで誰も買わねえんでさぁ。珍しいから売れると思って仕入れたんですがね」
「そうか……そりゃあ、そうだろうな」
俺は、もしかしてと考える。
デュラハンは、はじめからデュラハンだったのだろうか。
「なあ、こいつは初めからこうだったのか?」
「……? それは。どういうことでしょう?」
「この少女は、はじめから首がなかったのかときいているんだ」
生まれたときから首がなかったなんて、そんな生物が存在するだろうか。
だとしたら、そいつの親はどんなだ?
そいつの親も首がないのだろうか?
そんな種族が存在するとしたら、もっと公になっているに違いない。
「さあどうでしょうね。少なくとも、奴隷となったときにはすでにこの感じでしたが……こいつの生まれまでは知りませんねえ。なんせ、口もきけぬもんですから」
「そうか、とりあえずこいつをくれ俺が買おう」
「お! まいどお買い上げありがとうございます! おめがたかいね」
俺はそのデュラハンの少女を買って帰った。
家に帰って、デュラハンをとりあえず椅子に座らせる。
「おい、腹は空いてないか?」
たずねるも、どうやら耳もないからきこえないらしい。
とりあえず、俺は自分の疑問を試してみることにする。
デュラハンが、もしなにかの拍子に普通の人間からデュラハンになったのだとしたら……。
これはいっしゅの、呪いか病気のようなものではないか。
だとしたら当然、治療する方法もあるってことだ。
「えい! エクストラヒール!」
俺はデュラハンの首に回復魔法をかけた。
すると、
「うわあああああああああ!!?!??!?!」
デュラハンの首から、少女の顔がにょきにょきと生えてきたのだ。
あまりにも奇妙なその光景に、俺は驚いて素っ頓狂な声を上げる。
そこには、普通の女の子となんらかわりない、かわいらしい少女が座っていた。
デュラハンの首は、治療により元通りになったようだ。
「お、おい……その……大丈夫か……?」
俺が尋ねると、少女はあたりをきょろきょろと見まわした。
そして、自分の顔を不思議そうにぺたぺたと触る。
「か、かかかかか顔が……ある……!??!?!?」
そして、うれし涙を流す。
「うわああああああああん!!!! お顔がもとにもどったよおおおおおおおお!!!!」
ひとしきり泣き止んだあと、俺は元デュラハン少女から事情を聞き出す。
「それで、いったいなにがあってあんなことになっていたんだ……?」
「それが……実はかくかくしかじかで……」
「なるほどな……」
少女の話によると、彼女は冤罪で首をはねられるめにあったのだという。
だが、彼女は処刑台で首を跳ねられたのにもかかわらず、死ななかった。
死ねなかった。
なんの因果か呪いかはしらないが、彼女に死ぬことを神はゆるさなかったのだ。
それから、彼女は必死に逃げたのだという。
逃げているとちゅうで、奴隷商につかまり、今にいたる。
「ご主人様……ほんとうにありがとうございました。もういっしょうあのままかと思っていました……!」
「まあ、首が生えてきてほんとうによかったよ。あのままだと、俺も困るところだったしな」
デュラハン奴隷なんか、どう使っていいのかもわからない。
そういう性癖のやつになら、需要があるのかもしれないが、さすがに二ッチすぎるだろう。
ということで、デュラハン少女のアリーナは、俺のもとでいったん預かることになった。
そして数日後には売れていった。
アリーナは顔はよかったからな。
あんな美人が首もないまま生きるのは、もったいない気がする。
とにかく、一件落着でよかった。
それから手紙が何通か届いたが、元気でやっているそうだ。
あれから、首にも異常はなく、困ったこともないという。
34
お気に入りに追加
1,828
あなたにおすすめの小説
ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~
楠富 つかさ
ファンタジー
地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。
そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。
できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!!
第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!
異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした
せんせい
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。
その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ!
約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。
―――
異世界に転生!堪能させて頂きます
葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。
大手企業の庶務課に勤める普通のOL。
今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。
ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ!
死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。
女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。
「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」
笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉
鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉
趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。
こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。
何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m
破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。
大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。
ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。
主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。
マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。
しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。
主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。
これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!
果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。
次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった!
しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……?
「ちくしょう! 死んでたまるか!」
カイムは、殺されないために努力することを決める。
そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る!
これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。
本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています
他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる