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第25話 入学式
しおりを挟むいよいよ俺は16歳になった。そして、16歳になったということは、ハインリヒ貴族学園への入学が決まっている。
まあ、別に俺は学校になど興味はないのだが……。このまま金はいくらでも稼げるしな。だが、貴族は決まって、この学校に通うのだ。それは奴隷商の家も例外ではない。奴隷商ではあるが、うちも一応貴族のはしくれなのだ。
学園に行けば、他の貴族ともいろいろコネをつくれるから、絶対にいけと父が言っていた。主人公に出会いたくないが、まあ、普通にしていれば大丈夫だろう。
エゴイスティック・ファンタジーの主人公、アルト・フランシフォン、やつにだけは絶対に関わらないようにしよう。そのためにも、なるべく目立たずに平穏に暮らしたい。
せっかく学園に通うのだから、女生徒とのキャッキャウフフも楽しみたいが、それ以外は目立たないように、地味な生徒を演じよう。
だが、俺ことエルド・シュマーケンは、けっこうな剣と魔法の才能を持っている。それはこの異常なまでの回復魔法の素質からしても、明らかだろう。
なんといったって、エルドはエゴイスティック・ファンタジーの中でも、かなり強いボスとして知られているからな。
ラスボスの一歩手前のボスとして、エルドは主人公アルトの前に立ちはだかる。
そんなこの俺が、目立たずに学園生活をおくれるのか、そこは少し不安だった。
「この回復魔法はなるべく隠しておかなくちゃな……」
だが、問題は剣や魔法の授業だ。ハインリヒ貴族学園では、剣や魔法の授業がある。といっても、本来それらは奴隷にでもやらせればいいことだ。なので貴族のたしなみとして程度、なのだが。
俺が本気を出すと、どうなるかわからないからな……。力はなるべく隠しておこう。
しかし、そんな俺の計画は、入学式そうそう打ち砕かれることになる――。
◆
学園には、アーデとドミンゴを護衛として連れていくことにした。学園に通う貴族は、みんなそうやって奴隷を連れているものだ。
アーデは身の回りの世話をさせるため、ドミンゴはいざというときの護衛だ。
貴族はみんな、そうやって最低二人の奴隷を連れて歩く。
今日は、ハインリヒ貴族学園の入学式だった。
入学式はつつがなく進行していった。
問題は、入学式の中のあるイベントで起こった。
「さて、次は新入生のレベル測定を行います。名前を呼ばれた方は、前に出てきてください」
進行役の司会が、そんなことを言う。
そこで、俺はあることを思い出す。
そういえば、エゴイスティック・ファンタジーの世界では、レベルというものが存在したな……。
だが、これまで16年生きてきて、レベルなんてものは気にしたことがなかった。
冒険者にでもなれば別だろうが、家で奴隷商をしていただけだしな……。
測るような機会がなかったのだ。
俺のレベル……いったいどのくらいなんだ……?
「ま、家で回復魔法しか使ってこなかったし、たいしたことないだろ……」
レベルってのは、モンスターとか倒さないとなかなか上がらないものだろ?
まあ、エゴイスティック・ファンタジーでは、戦闘以外でもレベルは上がったけど、やっぱり戦闘で得られる経験値ほどではなかったはずだ。
俺は楽観的に考えていた。
俺がそんなことを考えていると、どんどん生徒たちの名前が呼ばれていく。
そしてついに、あの名前が呼ばれた。
「次! アルト・フランシフォン」
おお、あれがアルトか……。絶対に関わらないようにしよう。
俺は遠目にその姿を確認する。
アルトは平民の出という設定だ。ひょんなことから、このハインリヒ貴族学園に通うことになった。
そんなアルトのレベルは当然――。
「アルト・フランシフォン。レベル1!」
ゲームと同じく、レベルは1からだ。
本編開始時のアルトのレベルは1。本編はこの入学式から始まるからな。
だが、ゲーム通りならあいつはどんどんレベルを上げていって、ボスである俺を倒しにくる。それだけは避けないとな……。
しばらくして、今度は俺の名前が呼ばれる。
「次! エルド・シュマーケン!」
「は、はい」
俺は前に出ていって、レベル測定の水晶玉に触った。
すると――。
驚くべき結果がそこに表示される。
「え、エルド・シュマーケン……レベルは……9999……です」
「はぁ……?」
俺は自分の耳を疑った。わけがわからない。
いったいどういうことなんだ……。
「あ、あの……機械の故障でしょうか……? おかしいですね……。レベル9999なんて、到底到達不可能なレべルのはずですが……。エルドさん、なにか心当たりはありますか? 例えば、幼少期から難しい回復魔法を死ぬほど繰り返し使用したとか」
レベルを測定するお姉さんが、俺にそんなことを訪ねる。
やばい……心当たりしかない。
まさか、回復魔法だけでそんなことになるのか……????
だが確かに、あり得ない話ではないよな……。
才能のあるエルドが、本気で回復魔法を努力しまくったら、そうなるのか……?
いやいやいや……目立ちたくなかったのに、いきなりなんだこれは……。
全校生徒の注目が、俺に集まっている。その中には当然、あのアルトもいる。これは、顔を覚えられたな……。
そうだ。そういえば、エゴイスティック・ファンタジーの世界では、魔法を使えば使うほどレベルも上がっていったっけ。
戦闘をしなくても、あれだけ回復魔法をきわめていればそうなるのか……。
くそ、前世の記憶がもうだいぶ薄れているな。
6歳のころにエルドに転生して、もう10年も経っている。10年前にプレイしていたゲームなんて、ほとんど忘れているよな。
これからいったい、俺はどうなるんだ……???
俺は、誰にでもなくこころの中で叫んだ。
「さようなら……俺の平穏な学園生活……」
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