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第12話 奴隷狩り【サイド回】

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【サイド:オットー】

 僕の名前はオットー。
 小さいころから、弓を射るのが大の得意だった。
 ムラノセ村に住んでいる。
 普段は狩りをしたりして過ごしているのだ。

 僕は弓を射て、獲物を狩るのが本当に好きだった。
 矢が獲物に当たる瞬間、なんとも言えない気分になるのだ。

「オットーの弓は村一番……いや、この世界で一番だな!」

 父もそう褒めてくれた。
 今日も、いつものように僕は森で狩りをする。
 ただ、今日は僕も狩られる側になってしまった、それだけだ。

「はぁ……はぁ……」

 僕は森の中を逃げ走っていた。
 追われているのだ。

「くそ……こんなところまで奴隷狩りが……」

 奴隷狩り、最近多いときく。
 なんの罪もない村人を攫い、奴隷として売るのだ。
 それだけ、世の中で奴隷の需要は上がっていた。
 貴族たちは奴隷をゴミのように使い捨て、次から次へと所望した。
 そんな需要にこたえるように、奴隷商人たちは奴隷狩りの範囲を拡大していった。

「そっちにいったぞ! 逃がすな!」
「っく……」

 森へ一人で入ってしまったのは迂闊だった。
 僕は複数の奴隷狩りに囲まれていた。
 こちらは弓一本では太刀打ちできない。
 村のほうはどうなっているのだろう。
 僕はふと気になった。
 反撃しつつ、村のほうを目指す。

「くらえ……!」
「ぐわ……!?」

 さすがは僕の弓だ。
 人に向けて矢を射るのは初めてだったけど、そこそこ戦える。
 だが相手はかなりの人数いる。
 距離をつめられてはどうしようもない。
 僕は持ち前の逃げ足で、じりじり距離をとりながら、村を目指す。

「そんな……」

 しかし、僕が村に帰りつくと、そこには信じられない光景が待ち受けていた。
 村には火が放たれ、見る影もない。
 ほとんどの村人は、奴隷狩りにつかまってしまったようだった。
 何人か、抵抗したものたちが殺されている。

「う……くそ……」

 僕は思わず吐き気とめまいに襲われる。
 その瞬間、僕の後ろから刃物を持った男が現れた。

「へっへっへ……捕まえたぜ……!」
「はなせ……!」
「この! あばれるな……!」

 僕は必死に抵抗する。
 矢を手にもって、男の腕にぶっ刺す。

「くそ……! おとなしくしろ……!」
「がぁ……!」

 男は刃物を振り上げると、僕の腕を斬りつけた。
 僕の腕はあっけなく地面に切り落とされてしまう。

「そんな……僕の腕が……! があああああああああ!!!!」
「このクソガキ! 大人しくしねえからだ」

 そして、僕は奴隷狩りにつかまってしまった、というわけだ。
 僕は絶望していた。
 奴隷にされてしまうことにではない。
 もう二度と、弓を射て野山を駆け巡ることができないからだ――。







 僕は奴隷市場の、欠損奴隷ばかりが売られている店に並べられた。
 正直、僕は売れ残り品だった。
 そりゃあ、得意の弓も撃てないんじゃね……。
 くそ、せめて腕が残っていればな。
 奴隷の身分だとしても、弓の腕を買われて、弓を撃つ仕事ができたかもしれないのに。
 もう人生に投げやりになっていた。
 暗いかおをしているし、誰も僕なんか買おうとしない。
 このままじゃ、近いうちに廃棄処分だ。

「彼をもらおうか」

 そんな中、僕を購入する人物が現れた。
 名をエルド・シュマーケン。まだ僕より年下の子供だった。
 なにを考えてるんだ?
 そう思いながら、僕はエルド様のお屋敷に連れていかれる。

「じゃあ、治療するから」
「はい……?」

 そういうと、エルド様は僕の腕に回復魔法をかけはじめた。

「あ、あの……なにを……?」
「なにって、腕を生やすんだけど」
「う、腕を生やす!? そ、そんなこと、回復魔法では無理ですよ!」
「いや、無理じゃないけど……」

 僕はわけがわからなかった。
 この人はいったいなにを言っているのだろうか。
 回復魔法といえば、村にも使えるお爺さんはいた。
 だけど、せいぜい風邪を治したり、擦り傷を治療するくらいなもんだ。

「って……本当に生えてきてる……!?」
「だから言っただろ」

 そのまま大人しくしていると、本当に僕の腕は復活してしまった。

「すごいです……! エルド様、本当にありがとうございます!」

 僕は涙が出る思いだった。
 もう二度と弓は撃てないものと思っていたのに、再び腕をもらえるなんて。
 本当に僕は運がいい。
 なんていい人に買ってもらったんだ。
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