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第6話 ご主人様は神様です【サイド回】

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【sideアーデ】

 私の名はアーデ。
 エルフの奴隷として、売られています。
 とはいっても、私には手も足もありません。
 それに、顔もひどく焼けただれて、とても見れたものではありません。

 私の村は、盗賊に焼かれてしまい、仲間たちはみんな奴隷としてさらわれました。
 私も同じようにつかまって、奴隷になったのですが、村を焼かれた際に大やけどを負ったのです。
 手足もやけどで、切り落とさざるをえない重症でした。

 そんな私は、奴隷商人たちに罵られながらも、首輪をつけられたのです。
 曰く、私のような傷ものにはほとんど商品価値がないのだそうです。
 それなのにご飯代がかかったりするので、私のような欠損奴隷はひどく商人たちから嫌われていました。

 でも、泣きたいのはこっちのほうです。
 村を焼かれ、手足をもがれ、それで奴隷の身に落ち、それでもなお不要だと言われ罵られ続けなければならないなんて……。
 この運命を、呪うことしかできません。

「お前のようなのはな、性奴隷にもならねえ。まったく、いらねえんだよ」

 私には口を開いて言い返すことさえできません。喉もやけどで焼けただれてしまっていました。
 今すぐ舌を噛み切って死んでやろうかとも思いますが、それもままなりません。

 必要ないのなら殺せばいいのにとも思いますが、それもできないようです。
 奴隷商人は法律上、欠損奴隷でも勝手に処分はできないのだそうです。
 自分の奴隷としてしまえば処分することも可能だそうですが……。
 詳しいことはよくわかりません。

 こんな私でも、一応物好きな人が買って行ったりすることはあるそうです。
 ですが、待てど暮らせど、そんな日がくる気配はありません。
 それに、どうせ買われたとしても、ろくな目にはあわないでしょう。

 そう思っていたある日――。
 私を買おうという、物好きな方が現れました。

 エルドという名のそのお方は、まだ子供でした。
 ですが、なにかに燃える、はっきりとした意思を感じる目線で私をみつめてきます。

 最初、家に連れて帰られ、なにをされるか不安でした。
 ですが、その不安はすぐに吹っ飛びます。

「よし、今からお前に回復魔法をかける。これだけの傷だ。かなり時間はかかるが、じっとしていてくれよ?」

 え……?
 回復魔法……?
 それも、奴隷である私に……?
 ご主人様が自ら……?
 最初、言っている意味が分かりませんでした。

 ですが、ご主人様が回復魔法を使いだすと、すぐに心地よくなって、私の身体が癒されていきました。
 ご主人様は長い時間をかけ、汗を流しながら、私の顔と声を治療してくださいました。
 そのお姿に、私は感謝と感動で、胸がいっぱいになりました。
 奴隷のためにここまでしてくださる方がいるなんて……。
 私には、彼が神様にしか見えませんでした。

「す、すごい……! 本当に治りました……! ご主人様はすごいお人です……! ありがとうございます! 感謝してもしきれません!」
「まあな……って、おお……なんだ……めっちゃ美人じゃん」
「はわ……わ、私が美人ですか……!? ありがとうございます……」

 私は不覚にも、その言葉で恋に落ちてしまいました。
 エルド様は年頃の男性。しかも、お顔もとてもカッコいい。
 それに、私のために命がけで治療してくださいました。
 そんな男性に美人だと言われてしまって、惚れるのはそこまでチョロいでしょうか?

 これまで、私はもう女としては……いえ、人間としての自分をあきらめていました。
 こんな焼けただれた顔では、もう誰も愛してくれない。私は愛を知らずに死ぬのだと。
 しかし、その顔を元通りにして、しかもキレイだと言ってくださったのです。

 ご主人様――神様による奇跡は、それだけではありませんでした。

「じゃあ次、右手から生やしていくぞ」
「は、生やす……!? そんなことまでできるのですか……!?」
「待ってろよ……」

 なんと、ご主人様は私の手足までも生やしてくださったのです。
 ご主人様の回復魔法は、あきらかに普通のそれとは違いました。
 普通、回復魔法でここまでの効果を出す人は、エルフにもなかなかいませんでした。

 軽い傷を治すなどの回復魔法と比べ、腕を生やすなんていうのは、桁違いに難しいことでした。
 しかも、難しいだけではなく、体力、気力、魔力もそうとうに消費します。
 下手をすれば、術者の命にもかかわることです。それは、ご主人様にいくら才能があっても……。

 それなのに、自分の身をかえりみずに、私にここまで尽くしてくださった。
 奴隷である私が、この方に尽くさないでどうするか。そう思いました。
 私は奴隷として、このご主人様に一生、すべてをささげてお仕えしようと心に決めました。

「うう……」
「どうしたんだ? まだ痛むのか?」
「ぐすんぐすん、うぇっうぇっ。違うんです。私なんかのために、ご主人様がここまでしてくださったのがうれしくて……! またこうやって歩ける日が来るなんて、夢見たいです! 私、ご主人様に飼われて本当に幸せです。一生お仕えします!」
「それはよかった。俺も、アーデとずっといられたらって思うよ」

 思わず、私は子供のように泣きじゃくってしまいます。
 そんな私を、まるで恋人のように優しく抱きしめてくれるご主人様。
 奴隷である私を、ここまで大切に、人間扱いしてくださるなんて……。

 もはやすべてをあきらめていた私に、ご主人様はもう一度人生をくださいました。
 この命、すべてご主人様に捧げようと思います。
 私はその後ご主人様に抱いていただき、本当に幸せでした。
 もはや愛を知ることもあきらめていたのに、ご主人様に女として愛され……。
 こんな幸せはありません。
 こんなに幸せでいいのでしょうか。

 しかしご主人様は、決してその行為を誇ることなく、おごることなく、あくまで謙虚なお方です。きっと恥ずかしがり屋なのでしょう。

「勘違いするな。俺はただお前を奴隷としてこきつかうために治療しただけだ」

 そんなふうにおっしゃるご主人様も、また素敵です。
 私が重みに感じないように、そう言ってくださっているのでしょうね。
 本当に、すばらしい方に買っていただけたと思います。
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