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しおりを挟む眠い…目が開けられない…こんなに泥のように眠ったのは久しぶりかもしれない。いつもと違ってシーツがスベスベしてるし、ひんやりして気持ちいい…。いつもと違って…えっ、いつもと違って…?!
ガバッ!!
勢いよく飛び起きる!!ベッドの上…?周りを確認し、今自分が置かれている状況を把握しようとする…何処?この部屋何?それに俺の着ている服…
コンコン
「失礼致します。お目覚めですか?」
タイミング良く、ドアを開けて年老いた執事が入ってきた。黒いタキシードが似合うグレーの髪。老いてはいるが、顔の彫りが深く、骨格が目立ち渋い。立ち振る舞いに隙がない…。こんな人知り合いに居たかな?俺は一度見たら、人の顔と名前は忘れない。自分の記憶を手繰り、一致する人物を探すが…やはり誰とも該当しない…。警戒心が高まる。
「執事頭のセバスと申します。主からルイ様のお世話を申しつかっております」
「主…?」
説明しながら近づいてくるセバスと名乗る男。近くで見てもやっぱり見た事ないな。
「いきなりこの様な場所で、ご警戒なさるのはご最もだと思います。とりあえずお食事をお持ち致します」
男は特に何もすることなく入ってきたドアから出ていってしまった。急いでベッドから降り、近くにあるクローゼットに自分の服が無いか確かめる。こんなに寝間着じゃ外に出れない!!だが、クローゼットは空っぽ…あるのはスリッパとタオルだけ…。靴もない。窓に近づき外を眺める。ここは…。いや!!それよりもメンル様に怒られてしまう…
*
┈┈遡る事、三年前。城の一室にて。
「だーかーらー!!何で俺なんですか?!他にもいるでしょ?!」
「お前しかおらん!!」
「嫌です!!絶対に他に適任者がいるはずです!!」
「何を言っても無駄だ。もう決まった事だ!」
くっそー!!なんで俺が囮なんかにー!!
事の発端は、メンル様の贔屓にしている洋服屋が、息子に引き継がれた事から始まる。久しぶりに訪ねると店が閉まっていた。しばらく開けていないのか、窓から店内を覗くと埃が溜まっている。周りの者に聞くと、なんと息子夫婦は借金のカタに連れていかれたと。そんな返せないほどの額を何故?不審に思い、色々と調べると、ある貴族の影が浮かんできた。その貴族は至って普通。何も問題はない。問題が無さすぎるほどだ。貴族は大なり小なり何かしら噂は立つ。だが、この貴族全くもって何もないのだ。逆に怪しい…。それが諜報部の目に付いた。事は慎重を要す。貴族に言い逃れが出来ないほどの証拠が必要だ。そこで、成功率が高い囮を使う事にした。選ばれたのが俺だ。
「借金の返済方法は、奴隷か娼館どちらかだ。お前は絶対に後者だ。なるべく多く稼がし、奴隷落ちだろう。もし身請け話が出れば、そちらに転ぶだろうが…。何、本当に客をとる必要はない」
「いやいやいやいやいやいやいやいや。俺、猫の獣人ですよ?万が一って事もあるじゃないですか?」
「ルイ!往生際が悪いぞ!俺達、諜報部はなんの為に存在する?国家の為、王族の為、そして国民の為に情報を得る。手段は選ばない。今回の件で、国民は少なからず貴族に不満を抱いている。争いの芽は早めに詰んでおくに限る。わかるな?」
こうして鬼畜上司、メンル様に命じられ、俺、ルイは囮任務に就く事となった…。
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