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⒁
しおりを挟む上陸して暫くは順調に進んでいた。だが、森の奥に進むに連れて不穏な空気か立ち込めた。耳をピンッと立ててわすがな音を拾う。
やけに多い足音、ガチャガチャと金属がぶつかる音が聞こえた。気のせいか…迷わずこちらに向かってきているようにも思う。俺の存在がバレている?まさか…。段々と大きくなる足音に本能が危険を察知し、ここから逃げろと訴えてかけてくる。
一瞬の出来事だった。無数に放たれる矢を避け続け、応戦しようと構えたと同時に、いつの間にか距離を詰めた男が、俺の腕に首輪を嵌めた。
首輪が光り出す。光が消えたらお終いだ。首輪を見た瞬間、隷属の首輪だと理解した俺はなんの躊躇いもなく自分の腕を引きちぎった。
ただ闇雲に、がむしゃらに森を走り進む。手負いと言えど獣人だ。人間が俺の速さに叶うはずもない。耳を澄まし、音を探る。足音は聞こえない。どれぐらい走ったのだろうか。滴る血を眺めながらとぼとぼと歩く。このまま何もしなければ死ぬ。それも良いかもしれない。ほら、段々と足に力が入らなくなってきた。血を流しすぎたな。よろめきながらも足は前に動かす。
突然視界にキラキラと輝く何かが入った。なんだ?霞む目を擦り、近づこうと一歩大きく踏み出した。が、直ぐに足を一際大きな木の根っこに絡み取られてしまった。ぐっ…小さな呻きを上げ何とか身体を起こそうと、太い根を押してみるが全然力が入らない。この腕じゃ無理か。無様なのもだな、なんともあっけない最後だ。大した感傷に浸ることも無くゆっくりと瞼を閉じた。
✱
うっ、眩しい。意識が浮上し薄らと開いた隙間から痛いぐらいに視界に光がはしる。もう一度、ゆっくりと瞼を上げ、何度も瞬き繰り返すと、ぼんやりとした景色が徐々に鮮明に見えてきた。
太い木の根に手を付き身体を起こそうとした時、違和感に気づいた。えっ、手…。失ったはずの手が…。唖然としてマジマジと自分の手を眺め、もう片方の手で撫でるように触り存在を実感した。どうして…。驚き過ぎて開いた口が塞がらない。もう一度、腕の存在を確かめようとした時、
スースー。
何とも場に似つかない寝息が耳に入った。その正体に俺は息をするのも忘れるぐらい凝視した。綺麗だ…。なんて綺麗なんだ…。吸い寄せられるようにふらふらと近づき、無意識の独占欲のせいか、こんな森の奥に誰もいるはずもないのに、自分以外に見せたくないと思いが湧き上がり、覆いかぶさってしまった。俺は今何を思った…訳が分からない。こんな感情…どうして…。
自分の行動に戸惑いつつも、瞬きもせずに彼を眺め入る。俺は何がしたいんだ。自問自答を心の中で繰り返していると、押さえ込んでいる彼が少し震え、ゆっくりと目を開けた。視線が絡み合った瞬間、熱い何かが胸を突き上げ、そして全身を駆け巡った。
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面白くて一気に読んでしまいました!早く続きが読みたいです!頑張ってください!